32裏
洗脳を解いた後、真は気絶した。
倒れこむ真をソファまで連れて行き、膝枕をする。
「……」
どれ位で起きるのかはわからない。
もしかしたら明日まで眠ったままの可能性もあるだろう。
その間、真が解除後、私のことをどう思っているかわからないまま待ち続けることになる。
……でも、それなのに不思議なくらい怖くなかった。
私の性格だと、一度は安心して洗脳を解いたのに、待っている間にまた怖くなった……なんてことがあってもおかしくないのにだ。
全く怖くないといえば嘘になるし、少しは不安にもなるけれど、ほとんど怖くない。
「……くふふ」
それはやっぱり、真が私に大切だと言ってくれたからなのだろう。
あの時の言葉が嬉しくて、思い出すだけで不安が消えていく。
手を伸ばし、真の手を握る。
真の右手がお腹の上に置かれていて、手の届く位置にあったのでつい手を繋いでしまった。
真の手は暖かくて、大きくて、触れているだけで安心する。
「くふふふふ」
私は、手と太ももで真の体温を感じながら、真が起きるのを待ち続けた。
◆
「真?」
それから、真が目を覚ましたのは二時間ほど過ぎた時の事だった。
「真、起きたの?」
「……ああ、うん」
声をかけると、少しぼんやりした返事が返ってくる。
目が色々なところに向いて、周囲を確認しているように見えた。
「……真、大丈夫?」
「大丈夫」
真が体を起こして、軽く頭を振った。
その際に、繋いでいた手が離れてしまったのが少し寂しい。
「……ユウ?」
だから、思わず真の腕を握ってしまった。
目が覚めたばかりだからか、さっきから少しだけ真が少しそっけない気がする。
……もう少し私を見て欲しい。
そうしてくれないと、不安になってしまう。
「……」
そう思いながら下から真を見上げると、真と目が合った。
すると、真はいつもと同じ優しい目で私を見ているのがわかる。
それは、私を嫌っている人が出来る表情じゃなくて、不安があっさりと消えた。
……胸が温かい。真はやっぱり私のことを嫌わなかった。
本当に、私のことを大切に思ってくれていたのだ。
「……くふふ」
……でも、不安はあんまりないけど、一応確認しておこうかな。
こういうことは口で言ってもらえた方が嬉しいし。
「ねえ、真、その、私のこと……」
「嫌いじゃないよ。絶対に」
すると、私が言葉を言い切る前に真がそう言った。
聞きたかった事を、真が自分から言ってくれた。
「くふふ、くふふふふふ!」
嬉しくて、嬉しくて、思わず真の腕に抱きつく。
少し上を見ると、すぐ近くに真の顔があった。
こんなに真を近くで見るのは久しぶりで胸がドキドキする。
……でも、本当は腕じゃなくて、体に抱きつきたいんだけど。
今はまだ恋人じゃないので、我慢しないといけないのが少し残念だった。
「……ユウ。ユウに言いたいことが、あるんだ」
「なあに?」
そんな、真のそばにいられる幸せを感じていると、真が改まった口調で言いたいことがあると言ってきた。
「ユウ、僕は……」
「うん」
何だろう。今の私ならたいていの事は受け入れる自信がある。
何でも言ってほしい。
「……僕は、ユウのことが好きだ。僕の恋人になって欲しい」
「………………え?」
私のことが好きって、恋人になって欲しいって。
……もしかして告白?
「…………え?夢?」
「夢じゃない」
すぐさま真が否定する。
いやでも、都合がよすぎないだろうか。
洗脳を許してくれて、私を嫌わないでいてくれて、その上告白までしてくれるなんて。
いくらなんでも私に優しすぎる気がする。
手を頬に伸ばして引っ張る。
普通に痛かった。
……ということは、これは現実だという事だ。
「あの、えっと」
改めて理解すると、胸から嬉しさが、幸せが溢れて来る。
視界がにじんで、叫びたくなるくらい、胸が熱かった。
「あの、いいの?私酷いことをしたよ?」
「気にしてない」
湧き上がってくる熱さに耐えられなくて、ついそんなことを言ってしまう。
すると、真はあっさりとそう返答した。
「……私、元男だし」
「何も問題ないよ」
真が私の目を正面から見ている。
真剣な顔で私を見ていて、嘘をついているようには全く見えない。
「……本当に、私でいいの?」
「ユウじゃないと駄目なんだ」
……なんで真はこんなに嬉しい事ばかり言ってくれるんだろう。
そんなことを言われたら、幸せで頭がどうにかなってしまいそうだ。
「……ぁうう」
胸を押さえて、正面を見る。すると、真は私のことをじっと見ていた。
きっと私の返事を待っているんだろう。
……ちゃんと、真に返事をしないと。
胸を押さえ、覚悟を決めて真に向き直る。
「……真」
「うん」
一度深呼吸をして、口を開く。
……返事なんて考えるまでもない。最初から、私のそんなものは決まっていた。
「……私も、真のことが好きです。私を真の恋人にして下さい」
そう言って、真に手を伸ばし、抱きついた。
今度は腕じゃなくて体に、正面から。
「……ありがとう」
「……くふふ」
私が真の背中に手を回すと、真も抱き返してくれる。
少し強く抱きしめられて、肺から空気が抜けた。
そしてそれが、真に求められているようで、嬉しかった。
「くふふ、くふ……ぅぅ、ぐすっ……ぅぅううう」
……ああ、駄目だ。
嬉しくて、安心して、耐えられない。
「真、好き、ひっく、大好きなの」
「僕もだよ」
次から次へと涙が溢れてきて止まらない。
真の腕の中は、ただただ暖かかくて、幸せだった。
……それから、私はどうしても泣き止むことが出来なかった。
私は泣き疲れて眠るまで、ずっと真の腕の中で泣き続けた。
これで4章は終わりです。
次が最終話エピローグになります




