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27表


 それは十月も終わりに近づいてきた頃。

 気温も下がり、冬の足音が聞こえ始めてきた日の事だった。


「……あれ、綿棒もうないのかな」


 少し耳に違和感を覚えたので、いつものように綿棒を探すと、一本も残っていなかった。

 すぐにクローゼットを開けて替えを探すけれど、それも見つからない。


「ユウ、綿棒がないんだけど新しいのってなかったっけ?」

「綿棒?そこに無いならないと思うけど……」


 ユウに他のものがないか聞くと、そんな返事が返ってくる。

 家中の掃除をしているユウが知らないのなら、もう残ってないのだろう。

 どうやら気が付かないうちに使い切ってしまったようだ。


 ……どうしようかな。

 諦めてもいいんだけど、やっぱり耳に違和感がある。


 僕はこういうのに一度気が付くと、原因が解消されるまで気になるほうなので、少し辛い。

 いっそ今からでも、近所のドラッグストアに買いに行こうかとさえ思う。


「……あ、そうだ、ちょっと待ってて」

「ユウ?」


 僕が悩んでいると、ユウが手を合わせてそう言った。

 そしてユウの部屋の扉を開け、中に入っていく。


「……あった。これこれ」


 部屋から帰ってきたユウの手には棒状のものが握られていた。

 その棒の先にはふさふさとした毛の玉がついている。


 ……あれは、耳かき?


 最後に見たのは祖父の家だっただろうか。

 ずいぶんと久しぶりに見たので少し懐かしい。


「どうしたの、それ?」

「覚えてない?夏に旅行に行ったときに買ったんだけど」


 ……そうだっただろうか?

 あの時は色々なものを買い込んでいたので、その中に紛れ込んでいたのかもしれない。


 まあ、なんにせよ渡りに船というやつだろう。

 今はこの違和感が解消できるのなら何でもいい。


「じゃあ、ありがたく使わせてもらおうかな。貸してくれる?」


 そう言って手を差し出す。

 すると、ユウは何かを考えるような顔をし、いたずらっぽい笑顔を浮かべた。


「んー……だめ」

「え?」


 まさか断られるとは思わなかったので困惑する。

 ユウは驚きの表情を浮かべる僕を尻目に、ソファへと向かい、座った。


「くっふふふ……私がやってあげる。こっちに来て?」

「……え?」


 片手で自分の太ももを軽く叩きつつ、ユウが言った。


 ……それは、まさかそこに頭を乗せろという事なのだろうか。

 きっと膝枕の体勢で耳掃除をするという事なんだと思う。

 僕も昔、小さい頃に母さんがやってくれた記憶があった。

 

「いや、それはちょっと……」

「え?嫌なの?」


 とっさに断ると、ユウが悲しそうな顔をした。

 嫌だなんてことは決してない。単純に恥ずかしいだけだ。


「そ、そういうわけじゃないけれど」

「じゃあ、こっち来て?」


 一転して、先程と同じいたずらっぽい笑顔に戻った。

 もしかしたら演技だったのかもしれない。


 ……しかし、本当にやるんだろうか。

 目を向けると、ひざ下くらいの丈のスカートに包まれたユウの足が目に入った。


 別に生地が厚いということもないスカートだ。

 部屋着だからだろう。むしろ薄めの生地に見える。

 

 ……あそこに頭を乗せる?本当に?

 それって、なんというか……いいんだろうか。


「真、はやくはやく」

「あ、えっと……うん」


 混乱している暇もなく、ユウに急かされるようにして、ソファの前に歩いた。

 そのまま、手を引かれるようにして寝転び、ユウの太ももに頭を預ける。


 ユウの手が僕の首と頭に添えられた。


「……」


 頭と頬に感じる太ももの感触は、思ったよりも硬い。

 でも、スカート越しにユウの体温が伝わって、心臓がうるさかった。


 少し前に記憶に刻まれたユウの匂いがする。


「くっふふふ……じゃあ、始めるね……?」

「……っ」


 すぐそばで、ささやくような声が聞こえる。

 耳に息が当たって背筋がぞくぞくするような感覚がした。


 耳の中に耳かきが入ってくる。

 そうやって、耳かきが始まった。





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