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25裏


 きっかけは少し前から私が読んでいた漫画だった。


 ありがちなラブコメ物の漫画だ。 

 少しテンプレから外れている部分もあるが、基本的には王道とも言える作品だった。


 その漫画のとある一場面の、ヒロインが主人公のベッドにもぐりこんで匂いを嗅いだり、昼寝をしたりしていたシーン。

 それが今回の一件の原因になる。


 ……最初、私はそれを読んだ時、少しやってみたいと思った。

 作中のヒロインがすごく楽しそうにしていたからだ。

 主人公の布団に包まれてニヤニヤと笑顔を浮かべているのが少し、ほんの少しだけど、うらやましかった。


 でも、同時にそんな事は出来るはずがないとも思った。

 だって、好きな人の布団で興奮してるなんて、そんなのまるで変態みたいだ。

 もしばれたらと思うと、とてもじゃないけど出来なかった。


 ……なのに、そう思っていたはずなのに、今日の朝、魔が差した。

 真が朝から学校に行くことがわかっていたこと、そして、今日はいい天気で布団を外に干す予定だったことが原因だ。


 あと、最近学校が始まって真が少し忙しかったことも原因かもしれない。

 前々からそうなる事はわかっていたけれど、寂しくてついやってしまった。


 それで、布団の中に入ってみると、漫画で読んだように真の匂いがしてつい楽しくなった。

 どうせ洗うんだから大丈夫と、枕に顔をうずめてみたり、ゴロゴロ転がってみたりもした。

 最後にはいっそこのまま少し昼寝でもしようかとも思った。


 そして、真の声が聞こえたのは、ちょうどそんなときだった。





 ◆





 目の前で真が困った顔をしていた。

 

 普段なら安心するはずその顔が、今は見ているだけで心臓がうるさくなる。

 今だけは、絶対に見たくないと思っていた顔がそこにあった。


 ……なんでいるの?


 学校に行ったはずじゃなかったんだろうか。

 今朝だってちゃんと玄関で見送ったはずなのに。


「……ぁ、え?」


 意味のない言葉が口から漏れる。

 頭の中がぐちゃぐちゃで上手く物を考えられない。


 だって、見られたのだ。私が真の布団の中で興奮……はしてないけれど、笑っているところを。

 一体どうすればいいんだろう。何をすればいい?


「……ぁ、あの」


 強張った口を動かして、真に声をかける。

 何でもいいから何か言わなければならないと思った。


 真が顔を上げる。

 その表情は普段と同じ、考え事をしているときの顔だ。


 ……でも、今の私には、真が私のことを布団で興奮している変態だと考えているかのように見えた。


「ち、違うの!違うんだよ!」

「……そ、そうなんだ」


 必死に否定する。


 絶対に違う。私は変態じゃない。

 ただちょっと好奇心にかられてしまっただけなのだ。

 

 ……そうだ、言い訳しないと。

 何か真の布団に入っていてもおかしくない理由を言わなくては。


「その……そう!私と真の布団で寝ごこちが違うのかなって思って!」

「……あ、ああ、なるほど」


 必死に搾り出した言い訳を言う。

 真は口では納得してくれていたけれど、目はあさっての方を向いていた。


 だめだ。これ、絶対信じてくれてない。


「……ぅぅ」


 恥ずかしくて、真に顔を見られたくなくて、胸に抱えていた枕で顔を隠す。

 違う。本当に違うのだ。私は変態じゃない。


 どうしたら信じてもらえるだろう。

 頭を全力で回転させた。


 ……そして、真が動き出したのはちょうどそんなときだった。


「そうだ、僕は忘れ物を取りに来たんだ」


 真がわざとらしくそう言って、机から教科書を取り、鞄に入れた。

 そして、あっという間に部屋の扉まで歩く。


「じゃあ、もう一度学校に行ってくるよ」

「え?う、うん。いってらっしゃい……」


 いつもの癖でそう返すと、真はさっさと部屋から出て行った。

 遠くで玄関の閉まる音がする。どうやら真は家から出たようだ。


「……え?」


 真が外に出た。

 まだちゃんと言い訳してないのに。

 

 ……あれ?


 これってもしかして、もう説明する機会がないってこと?

 ということはつまり、これから真は私のことを変態だと思うことになるんじゃ……。


「……ぁぁぁ」


 体が燃えるように熱い。血が頭に上ってくらくらする。

 体の中から湧き上がってくる衝動に耐えられない。


 とっさにもう一度枕で顔を抑えた。


「あああああああああ」


 もう嫌だ。

 絶対に夢だよこれ。


 私は近くにあった布団を被り、夢から覚めるべく目を瞑った。


 


 ◆



 

 そしてその晩。

 私は布団の上で首をかしげていた。


 ……何か忘れている気がする。


 何かしなければならないことがあったと思うのだけど、何も思い出せない。

 朝の事件が衝撃的過ぎて色々吹き飛んでしまったようだ。


 結局、あれから必要最低限の家事以外を放り出して色々考えたけど、布団に入っていた言い訳は浮かばなかった。

 なので、今は、真にあの時の話をされないよう、話を逸らす作戦に変更している。


 ……まあ、思い出せないなら仕方ないかな。

 どんな事を忘れているかはわからないけど、朝の一件以上の事なんてあるわけがないのだ。


 そう考えると大抵のことがどうでもよくなってくる。


「寝よう」


 布団の中に潜り、目を瞑る。

 睡魔はあっさりとやってきた。




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