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ユウが来てから一週間が経った。
最初は『親友』とはいえ、同居なんて大丈夫だろうかと思っていたが、全くの杞憂だった。
毎日の美味しい食事と完璧な家事。
あまりに快適すぎて、今となってはもうユウがいない生活なんて考えられないくらいだ。
ユウには感謝してもしきれない。
できることならいつまでもいて欲しいくらいだ。
大切な『親友』がいる満たされた生活。不満なんて無い。
でも、だからこそ生まれる悩みというものもあった。
「……うーん」
通販サイトが表示された画面から顔を上げる。
かいがいしく窓を拭いているユウの姿が目に映った。
時刻は休日の昼下がり。
窓から入ってくる光に髪が反射して輝いていて、綺麗だと思った。
「……どうしようか」
何を悩んでいるのかと言えば、ユウに対するお礼だ。
どんな御礼をすればいいのかわからないのである。
家事に対するお礼にふさわしい物というのがわからない。
これが家政婦などの雇った人に対するお礼なら簡単だった。
お金を渡せばいい。働いた時間に見合うだけの金額を渡せば問題ないだろう。
しかし、ユウは『親友』だ。
お礼がお金というのは少し生々しすぎる気がした。
「……いや、案外そうでもないのかな。映画で引越しの手伝いをした友達に、お金を渡すシーンがあった気がする」
普通はどんなものを友達への御礼にしているのだろうか。
友達がいなくて、その辺りの人生経験が少ないからちょうどいいお礼というものがわからなかった。
何か手頃なものでもプレゼントしようかと思って通販サイトを見ていたけれど、考えてみれば欲しくもないものをもらっても困る。
……やっぱりここは本人に聞いた方がいいのかな。
お礼なら本人が欲しがるものを渡すべきだ。それがお金だと言うのならそれでもいい。
「ユウ、ちょっといいかな」
「ん?なに?」
ユウが手を止め、笑顔でこちらに向いた。
つい見とれそうになるのを抑える。
「ユウは今なにか欲しいものはない?」
「え?欲しいもの?」
目を丸くして驚くユウ。
少し突然すぎたか。それに欲しいものって漠然としすぎたかもしれない。
もっと具体的に言ったほうがいいだろう。
「ほら、今日でユウが来て一週間経ったからさ。なにか必要なものとか無いかなって」
「必要なもの?うーん…………特にないかなあ」
何もないのか……ユウは欲が無いなあ。
しかしそうなると後は……不便なこととか?
「じゃあ不便に思ったこととか無い?」
「不便に思うことなんて無いよ」
ユウが口に手を当て、くすくすと笑う。
これも無いらしい。それ以外は何かあるだろうか。
「うーん」
「あの、私今の生活に満足してるよ?」
他を考えていると、ユウがそう言う。
本当に欲が無い。いや遠慮しているのか?
考えてみればユウは不便なところが無いといったが、そんなはずは無い。
例えば今ユウが寝ている場所は、親などが客として来た時のために用意してあった部屋だ。
一日二日寝泊りする分には問題ないだけの家具があるが、それ以上のものは何も置いてない。
家具も悪いものではないが、ユウのような女性が使うには無骨な外見のものだ。色合いもシックなものが多い。
……あ、いやユウは元男なんだっけ。そう考えるとあの部屋で丁度いいのか?
外見が女性だからユウが元男だということをつい忘れそうになる。
……なにはともあれ、ユウが遠慮しているのは間違いないだろう。
正直、そういうのはしないでもらいたいが……でも無理に強制することでもないしなあ。
「……わかった。不満が無いならいいんだ。でも何かあったら言って欲しい」
「うん……わかった」
どうすることも出来ないので、とりあえずそう言っておくことにする。
ユウは悩んでいるのか首をひねりながら一度頷いて掃除に戻っていった。
どうやら僕が今のユウに出来ることは無いようだ。
家事のお礼はしたいけど、欲しいものができるまで待ったほうがいいだろう。
とりあえず、今はそのときに向けての準備をしておくか。
パソコンを操作して株取引のサイトを開く。
いくつか売却して資金を作っておこう。
ユウに欲しいものができたらいいものを買ってあげたいしね?




