24裏
祭囃子の中を真と手を繋いで進む。
今いるのは石段を通り抜け、境内の中に入ったところだ。
「本当に、すごい人」
「……そうだね」
周囲は右を見ても左を見ても人ばかりで、あまり前に進めない。
少し油断したらすれ違った人と肩がぶつかってしまいそうだった。
「やっぱり、手を繋いでてよかったね」
「あ、ああ、うん」
真は身長が高いほうだけど、私の身長だと簡単に周囲に埋もれてしまう。
もし手を繋いでなかったらとっくに私たちははぐれていただろう。
……いや、それは少し違うか。
多分、手を繋いだだけでも、もう私たちはお互いを見失っていたと思う。
今、私たちがこうして一緒にいられるのは、もう一つ理由があった。
「……その、ごめんね?暑いよね」
「……いや、その、そんなことは」
謝った私にそう言って返した真の目線は、私の顔からは少しずれている。
真が見ているのは顔の少し下、私の胸の辺りだ。
……仕方ないとはわかっているけれど、そうまじまじと見られると少し恥ずかしい。
真はこれまでそういう視線を私に向けてきたことがないので、決して嫌ではないけれど、その、少し、困る。
「……」
今、私と真は腕を組んで歩いている状態だ。
もっと正確に言うと、私が真の右手を胸に抱きかかえるようになっているところになる。
こうなったのは石段を登る途中、人とぶつかりそうになることが多かったからだ。
それを避けていると、気が付いたらこうなっていた。
……真の視線を感じる。
出来る限り見ないようにしているみたいだけど、それでも、全く見ないというのは出来ないようだった。
「……その、一度人が少ないところに行かない?」
恥ずかしいような、でも少し嬉しいような、そんな感情に耐えられなくてそう提案する。
先程から見ている限りだと、出店が並ぶ参道から少し外れた辺りは人がそこまで多くないようだった。
「……そうだね」
真が同意してくれたので、人の流れに乗りながら少しづつ移動する。
境内の端に近づくにつれて人も出店も少なくなっていった。
「……あ」
その道すがら、一つの出店が目に入った。
その店の前にはりんごやイチゴなどの果物が串に刺さって並んでいる。
「あれは……」
「……りんご飴の屋台みたいだね」
……りんご飴、かあ。
昔、これにあこがれていた時期があった。
異世界に行くよりもずっと前、小さい頃の事だ。
私の両親は私を祭りに連れて行ってくれたことはなかったので、こういう、祭りでしか食べられないものを食べたいと思っていた。
少し成長して自分で祭りにいけるようになってから初めて食べたときは、本当に嬉しかったのを今でも覚えている。
それからは後は祭りに行くたびに必ず買っていた。
「……食べる?」
真が優しい顔でそう言った。
……そんなに物欲しそうな顔をしていただろうか。少し恥ずかしい。
「えっと……いいの?」
「もちろん」
真が出店でりんご飴を二つ買ってくれる。
そして、それを持って少し離れたところにある石段へと歩いた。
石段に座り、りんご飴の袋を開ける。
ふわりと、甘い香りがした。
「……美味しい」
久しぶりに食べるけど、やっぱり美味しい。
きっと、思い出の味というやつなんだろうと思う。
ふと横を見ると、真もりんご飴にかぶりついていた。
いつものように勢いよくかぶりついているので顔に赤い跡がついている。
「……くふふ」
手に持った巾着からウェットティシュを出す。
準備していてよかった。
「真」
「何?」
手を伸ばし、真の顔を拭く。
ついたばかりの跡だからすぐに綺麗になった。
「くふふ」
「あ、えっと」
真が慌てている。
少し、大胆なことをしてしまったかもしれない。
今更少し恥ずかしくなる。
さっき腕を抱きかかえた事といい、今日は恥ずかしいことが多い。
……でも、恥ずかしいけど、悪い気は全くしない。
逆に嬉しくて仕方なかった。
……やっぱり、来てよかった。
元々、この祭りに来ようと思ったのは、もうすぐ真の夏休みが終わるからだった。
大学の夏休みは長いけれど、それでも終わりはやってくる。
最初は長いと思ったのに、気が付いたらもう一週間もなかった。
……この一ヵ月半、私と真はかなりの時間を一緒に過ごしてきた。
一度も会わなかった日なんて一日もない。
食事のときは常に一緒に食べていたし、お互い何もすることがない時は、だいたい同じ部屋にいた。
でも、それも学校が始まればそういうわけにはいかなくなる。
昼はずっと一人になるし、課題が出れば家に居るときも真はそれにかかりきりになるだろう。
もしかしたら夕飯を一緒に食べることが出来ない日もあるかもしれない。
実際に夏休み前にそういうこともあった。
……私はそれが寂しくて仕方なかった。
でもどうしようもない事だという事もわかっていた。
だから、せめて最後に何か一緒に楽しみたかった。
それで、何かないかと探していたときに目に付いたのがこの祭りだ。
近くの祭りで、手軽に行くことが出来る。
準備も要らないし、お金もかからない。
今まで祭りに一緒に行ったことがないから、思い出にだって残るだろう。
……それに、以前映画で見たある場面が記憶に残っていたことも理由の一つだ。
はぐれないようにと手を繋ぐ主人公とヒロインの姿ははっきりと記憶に残っている。
だから、私も同じように出来ないかな、と思った。
結果的には、それは大成功だったことになる。
「……美味しいね」
「……そうだね、美味しかった」
考え事をしているうちに私のりんご飴はほとんど無くなっていた。
最後の一口をかじる。甘酸っぱい味が口に広がった。
「くふふ」
真を見ると左手で頬をかいている。
そして真の右手は私の左手と重なっていた。
「真」
「……なんだい?」
呼ぶと、真がこちらを向く、少し恥ずかしそうにしていた。
「そろそろ行こう?」
「……そうだね」
りんご飴はもう食べきったので、そろそろ祭の方に行ってもいいだろう。
二人で立ち上がって、境内の方に向かう。
まだまだ祭りは始まったばかりだ。まだまだ真と一緒に楽しもう。そう思った。




