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24表


「ねえ、真、これを見て」


 ユウがそう言ってチラシを持ってきたのは九月も中旬になり、夏休みの終わりが見えてきた頃だった。


「秋祭り?」

「そう。近くであるみたいなの」


 チラシには中心に大きく“秋祭り”と書かれている。

 その下に書かれた案内によると、どうやら近所の神社で秋祭りが行われるらしい。


「……ああ、あそこか」

 

 ……そういえばあったな。神社。


 学校に行く道から少し外れた場所にある神社だ。

 一度も参拝したことは無いけれど、毎日その近くを通っているので場所は知っている。


 思い返してみると、数日前に学校に顔を出したとき、道にちょうちんがぶら下がっていた。

 多分あれはこの祭りの準備だったんだろう。


「うん。それでね、行ってみたいんだけど……だめかな?」


 ユウが上目遣いで僕を伺うように言う。


「……っ」


 その姿がひどく可愛らしく見えて、心臓が跳ねた。


 ……冷静になれ。どうしたんだ、一体。

 ユウに気付かれないように深呼吸をする。


「……真?」

「あ、ああ、うん」


 ユウが不思議そうにこちらを見ている。

 まずい、早く落ち着かないと。


 ……最近、どうもおかしい。

 何故かはわからないけれど、たまにユウがとても魅力的に見えることがある。 


「……ふう」

 

 何度か深呼吸して、やっと心臓が落ち着いてくれた。

 最後に大きく息を吐いて、意識をチラシに戻す。

 

 ……祭りか。行くのはもちろんかまわないと思う。

 これまでに家族以外と祭りに行った事なんてないし、少し楽しみだ。


「いいよ、行こうか」

「うん!ありがとう真」

 

 僕がそう言うと、ユウは嬉しそうな顔で笑った。

 そこまで喜んでくれると僕も嬉しい。


 祭りがあるのは今週の土曜日、つまり明後日の夕方だ。

 学校が始まるのはその次の週なので、これが夏休み最後の思い出になるのかもしれない。


 楽しかったこの夏休みの最後だ。

 ユウと一緒に楽しみたい。そう思った。


 


 ◆


 


 そして祭り当日。

 僕とユウは祭りの会場である神社の近くに来ていた。


「その、えっと、すごい人だね」

「……そうだね、驚いたな」


 ユウが言ったように、神社の周辺は人で埋まっていた。

 まだ神社に入ってすらいないのにこれだと、中はどうなっているんだろうか。


 今僕達がいるのは通りから少し離れたわき道なので、人は少ない。

 でも一歩通りに踏み出したら人の波に流されそうだ。


 ……これはちょっと大変かもしれない。

 横を見ると、そこには浴衣姿のユウがいた。


 その浴衣は今日家を出るときに初めて見たものだ。

 ここに来る道すがら聞いた話だと、どうやら母さんが昔着ていたものを譲り受けたらしい。

 

 ……この格好でこんな人の中を歩くのか。


 ユウが来ている浴衣は、可愛らしいとは思うけれど動きにくそうだ。

 ……大丈夫なんだろうか、これ。

 はぐれるんじゃないかと思う。

 

「その、これだけ人がいると迷子になるかもしれないね」

「……うん、どうしようか」


 どうやらユウも同じことを考えていたらしい。

 ……とりあえず、いざという時の合流場所は決めるべきだろう。

 後は、二人ともお金を持っておくべきかな。

 

「だから、その、手を繋ぎたいなって」

「……え?」


 そんなことを考えていると、ユウがこちらに手を差し出して、そう言った。


 驚いてユウの顔を見ると、耳まで赤くなっている。

 少し僕から逸らされた目は涙で潤んでいるように見えた。


 予想してなかった状況に呆然とする。


「……だめ?」

「……い、いや、その」


 固まりそうな口を何とか動かす。

 手を繋ぐ?それってその……いいのか?

 

 ……いやでも、そうだ、手を繋ぐのは、はぐれるのを防止するためには有効な対策だ。

 別にユウはおかしい事は言ってない。


 おかしいのはこうして慌てている僕だろう。

 僕達は『親友』だし、必要に応じて手を繋ぐ事くらいあると思う。……多分。


 ……とにかく、手を繋いでも大丈夫なんじゃないだろうか。

 混乱した頭でそう結論を出す。

 

「そう、だね。そうしようか」

「……うん」


 そう返事をし、僕も手を差し出す。

 僕とユウの手が重なった。

 

「……」

 

 男とは違う、女性の手の感触がする。

 ユウの手は小さくて、とても暖かかった。


「くふふ」


 ユウが目の前で恥ずかしそうに、でも本当に嬉しそうに笑う。

 その笑顔に思わず見とれた。 


 ……心臓の音がうるさい。

 

「……行こう?」

「……ああ、うん」


 ユウが僕の手を握り、軽く引く。

 それにつられて、僕も足を前に出した。

 



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