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23表


 実家への帰省や旅行など、様々な事があった八月も終わり、九月がやってきた。


 まだまだ暑い日が続いていて、クーラーを消す事はできないけれど、そろそろ秋が近づいてきている時期になる。

 長い大学の夏休みも半分が過ぎ、終わりが見えてきた。


 今年の夏休みはこれまでの人生で一番楽しかったので、少し名残惜しい。

 でも、秋には秋の楽しみがあるため、それをユウと体験するのも楽しみだと思う。


 食欲の秋、スポーツの秋、芸術の秋。

 秋といえば様々な楽しみがある。


 例えば、今見ているこれも、秋の楽しみになるのだろう。


『来て、下さったのですね……』

『すまない、遅くなった』


 映画鑑賞。

 先程挙げたものに分類するならば、これは芸術の秋にあたるだろうか。


 僕は映画は映画館ではなく、借りてきたDVDを家のテレビでで見るのも好きだ

 特にくつろぎながらゆっくりと見ることが出来る点が気に入っている。


『これからは、私と、一緒にいてくれますか……?』

『……ああ』


 テレビの中では物語がクライマックスを迎え、主人公の男とヒロインの女性が寄り添っている。長年の思いを告げた女性とそれを受け入れた男性が抱き合っている感動的な場面だ。


 横目で隣に座っているユウを見ると、真剣な表情で画面を見ている。

 両目には涙を浮かべ、手にはハンカチを握り締めているのできっとこの映画に感動しているのだろう。


 この映画は事前の情報でも評判がよかったし、こうして見ていても良い物だと思う。

 ユウが泣いているのも頷ける出来だ。


「……」


 ……でも、残念な事に僕はこの映画に集中することが出来ていなかった。


 物語に集中しようとテレビの画面を見ていても、すぐに意識がそれてしまう。

 別に気になって仕方ないものがあるため、そちらに注意が向いてしまっていた。

 

「……ふう」


 軽く息を吐きながら、もう一度横目で隣を見る。

 先程と同じように隣に座っているユウが見えた。涙がついに溢れてしまったのか、ハンカチで顔を抑えている。


 ……僕が今気になっているのは、それ以外の何者でもない、ユウの事だ。


 二人で並んで映画を見る。この事は問題ない。

 夕飯後の時間に、ユウと一緒にテレビを見たり本を読む事は、これまでの四ヶ月間で何度も繰り返してきた事だ。


 今回のように映画を見たことも何度もあるし、それは今更気にする事じゃない。

 今見ているような恋愛映画は僕はあまり見ないけれど、それだってそこまで気にすることじゃない。


 ……問題は、距離だ。

 ……近いのだ。いつもよりずっと。


 映画を見始めたときからずっと思っていたけれど、今日のユウは、いつもよりもかなり近くに座っている。


 足と足の間の間隔は恐らく拳一つ分もないだろう。

 少し身じろぎをしたら肩が当たってしまいそうだった。

 ユウが体を動かすたびにユウの匂いがして、それがさらに僕を落ち着かない気分にさせる。


 ……どうしたんだろう。


 実は、こんな風にユウが僕の近くに座るのは初めてじゃない。

 今日ほど近くに座るのは初めてだけど、昨日までも本を読んでいるときに少し近くに座ることがあった。

 

 ……多分、あの旅行に行ったときからだろうか。

 思い返してみると、あの頃から段々近づいて来ている気がする。


「……」


 横目でまたユウを見る。

 すると、今度は僕の視線に気が付いたのか、ユウがこちらを向いた。


 赤くなったユウの目と僕の目が合う。

 泣いていたからだろう。頬も少し赤く染まっていた。


 ユウは僕の顔を見て少しきょとんとした顔をし、

 ……そしてはにかむように控えめに笑った。


「……っ」


 突然、僕の心臓が跳ねた。

 

 なぜだろう、ユウの顔を見ていることが出来ない。

 慌てて正面を向いた。それでも心臓はうるさく鳴り続けている。


 ……本当に何なんだろう。僕にはよくわからなかった。


 


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