2裏
皿洗い、洗濯、掃除、アイロンかけ、料理。
細かく言えばもっと多くなるけれど、大まかに言うとこんなところだろうか。
家事、それが真が大学に行っている間の私の仕事だ。
「皿洗いは終わり。次は洗濯物を干すかな」
手を抜いたりはしない。
私が家事をやるのは、不快感を取り除くのが目的だ。
不快感は洗脳が解けるトリガーになるので、それを防ぐためにしている。
「……しかし、いい設備だなぁ」
洗濯物を洗濯機から出しながら思う。
目の前にある洗濯機にはボタンが山ほどついていた。説明書を読んだ限りだと洗濯物に合わせた細かいコースが売りらしい。
そして当たり前のように乾燥機がついていて、容量も多い。ついでに音も静かだ。
記憶に微かに残る生家にあった洗濯機とは比べ物にならないハイテクさである。
「やっぱり金持ちだよな」
設備が優れているのは洗濯機だけじゃない。
この家の設備は基本的に全て高そうなもので固められている。
14歳で異世界に呼ばれ、6年間をあちらで過ごした私はこちらのことに詳しくない。
だがこういう設備のある部屋に住むだけでかなり金が掛かることはわかる。
「くっふふふふふ」
いい気分だ。それを、高価なものを私は無料で使っているのである。
特に無料というところがいい。つまるところ、これは私が真から搾取しているということではないだろうか。
洗脳という不当な方法であいつのものを勝手に使っているのだから。
異世界では最初から最後まで搾取される立場だったので、搾取する立場というのは新鮮で楽しい。
やっぱり真を洗脳したのは正解だった。
「~~~~~♪」
鼻歌交じりに家事をし、それが終わったらこの数年間の情報収集がてらテレビを見る。
ソファに寝転び、菓子をつまみながらテレビを見るのはとても贅沢な感じがしていい。
「くっふふふふふ」
家事はやらないといけないので、するべきことはそれなりにあるが、こちらでの生活は異世界と比べると、とてつもなく楽だ。
満足な食事もなく、地べたを這いずって魔物と戦うことはない。戦いが終わった後、そこ等中に散らばる仲間の死体を集めて埋める必要もない。
この世界は何といいところなのだろうか。異世界と比べれば天国だ。
籠に入った菓子に手を伸ばす。
咥えるとパキリといういい音がした。
◆
「……おっと、そろそろ帰ってくる時間か」
一つ番組が終わり、顔を上げて時計を見ると料理を始めた方がいい時間だった。
台所に向かい、食材を出す。
もちろん、買ってきたのは真だ。つまりタダ飯である。
冷蔵庫の食材を組み合わせて料理を作る。
料理は得意だ。
親が忙しい家で育ったのであちらに行く前も作っていたし、あちらに行ってからは作らないと死んでいた。
他人のために作ることが少なかったので味付けが少し不安だったが、真もニヤニヤしながら食べているので 問題ないだろう。
「ただいまー」
扉が開く音がして、間抜けな声が聞こえてくる。
どうやら帰ってきたようだ。
火を止め、タオルで手を拭き、玄関へ向かう。
挨拶をして、ついでに洗脳の様子を確認しなければ。
声を聞く限り問題なさそうだが、こういうのは日ごろのチェックが大事なのである。
「お帰りなさい」
笑みを貼り付けてそういうと真はにやりとだらしなく笑う。
こちらを疑う気なんてかけらもなさそうだ。
もちろん洗脳にも異常は無し。
全く、簡単に騙されて本当にアホな奴だ
「ふふ」
「ん?なんか楽しそうだね」
真の前だからと声を潜めて笑うと、真がそんなことを言ってきた。
ええ、おかげさまで。
真に適当に返事を返し、台所に向かう。
さて、いい洗脳のためにも美味しい料理を作らなくては。