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それからあっという間に時間が過ぎて、八月の下旬。
ついに旅行に行く日がやってきた。
「良い天気だ」
窓の鍵を確認しつつ外を見ると、雲ひとつない空が見えた。
天気予報でも今日明日は快晴らしい。
窓から離れ、戸締りの確認を再開する。
最後にガスを確認して、玄関へと向かった。
「ユウ、鍵とかガスは大丈夫だったよ」
「確認ありがとう」
玄関の扉を開けると、ユウが外で待っていた。
金色の髪が夏の日差しに照らされて輝いていて、思わず見とれそうになる。
ずっと見ていそうになるのを何とか抑えて振り向き、鍵を閉めた。
何度かドアノブを捻って鍵がかかっているか確認する。
「大丈夫みたいだ。忘れ物はないかな?」
「えっと……大丈夫」
ユウが荷物を確認する。
見ると、肩掛け鞄とトランクケースを持っているようだ。
やっぱり女性は荷物が多くなるのだろう。
それに比べると僕の荷物は少ない
一泊の予定だし大き目のリュックサック一つだけだ。
「ユウ」
右手をユウの方に差し出す。
僕は両手が開いてるんだし、トランクケースは僕が持ったほうがいいだろう。
「……え?え?」
すると、ユウが何故か少し顔を赤くしながら戸惑っていた。
……ああ、説明が足りなかったかもしれない。
「荷物、持つよ」
「……え?荷物?」
ユウが信じられないものを見るかのような顔をする。
何かおかしなところでもあっただろうか。
「あ、あははははは……お願いします」
「……?」
突然笑いしだしたユウに首をかしげながら、差し出されたトランクを受け取る。
「行こうか」
「う、うん」
そろそろ駅に向かった方がいい時間だ。
トランクを引きながら歩き出す。
何故か、ユウは少し動きが硬かった。
◆
駅に着き、電車に揺られる事二時間。
目的地に到達した。
改札を出て、駅の外に出る。
その途中、顔だけくりぬかれたパネルがあった。こういうのを見ると観光地だなあ、という気がする。
「わあ。すごいね」
「確かにすごいなあ」
写真で見てはいたけど実際に見ると驚く。
駅の外はちょっとした別世界のようになっていた。
現代風なのは駅の周りのロータリーだけで、その奥には和風の町並みが並んでいる。
道にも浴衣姿の人が沢山歩いていて、昔の町に来たみたいだった。
「まずは旅館に行って荷物を置こうか」
「うん」
地図を見ながら旅館への道を歩く。
その途中、僕達と同じような観光客らしき人と大勢すれ違った。
皆楽しそうにしていて、賑やかだ。
今回の旅行は観光できるところがあるといいだろうと思って、近くに温泉街があるところを選んだのだけど、正解だったようだ。
軽く見ただけでも色々興味を引かれるものがある。
カキ氷やアイスのような夏定番の物をはじめ、地元の川でとれた鮎の塩焼きや出来立ての饅頭など、多くの名物料理が見えた。
雰囲気の良い土産物屋もあり、見て回るのが楽しみになってくる。
ユウも興味深そうに周囲を見ていた。
「……ここ?」
「うん。名前もあってるしここで正しいはずだよ」
温泉街をしばらく歩いて今日止まる予定の旅館に着いた。
中に入って手続きをし、仲居さんに案内されて部屋へと向かう。
「わあ」
扉を開けて中に入ると、ユウが感嘆の声を上げた。
僕も中に入って中の様子を見る。
中は広くて伸び伸び出来そうだった。少しお高めの部屋にしただけはある。
「これ、露天風呂?部屋にあるの?」
「うん、ゆっくりできるかなと思って」
今回借りた部屋は個室に露天風呂がついているものだ。
大浴場もあるので大きい風呂がよければそっちもある。
「へーこうなってるんだ」
ユウが襖開けたり、ポットを開けてみたりと部屋の中を見て回っている。
旅行に来るのが初めてだといっていたし、物珍しいんだろう。
「ねえ、このお菓子って食べていいの?お金取られたりしない?」
「無料だから大丈夫だよ」
ここまで楽しそうにされると連れて来てよかったと思う。
喜んでもらえたようで何よりだ。
「ねえ、これを食べたら外を見て回ろうよ」
「そうだね」
しばらく部屋を確認して落ち着いたのか、お菓子を食べながらユウが言った。
時計を見るとまだ昼過ぎだ。ゆっくり散策できるだろう。
ああ、そうだ。せっかくだし旅館の人に浴衣で外を歩けないか聞いてみようかな。
許可が出ればユウの浴衣姿が見られるだろう。少し楽しみだった。




