16裏
「ユウちゃん。この服はどうかしら」
そういって真のお母さんが新しい服を持ってくる。
落ち着いた色合いの服だ。
女になってから六年。
色々な服を着てきたし、もう最初の頃のようにスカートに抵抗を感じることは無いが、今でもあんまり可愛いデザインの服は着るのが少し恥ずかしい。
だから今、真のお母さんが持っているおとなしめの服は私好みだった。
「いいですね」
「そう?じゃあさっそく試着してみて?」
昨日、真の話を聞いたときから真のお母さんとの距離が近づいた気がする。
夕飯の後片付けをしている時は壁があったけど、今はあまり感じられない。
今もこうして一緒に服を選んでくれてるくらいだ。
……本当に、何で私にここまで好意的なのか分からない。
昨日の夕食以降は私の身の上話だって聞いてこないし。
「ささ、こっちこっち」
真のお母さんに誘導されて試着室に入る。
次から次へと服を持ってくるので少し大変だが、こういう風に誰かと一緒に服を選ぶのは初めてだったので少し新鮮に思う。
異世界では服は基本的に支給されるものを着ていただけだったし、自分で買った事もあったけど一人だった。
異世界に行く前は……小さい頃は母親が親戚のお古をもらってきて、それを着ているだけだったっけ。大きくなってからも母親が適当に買ってきたものを着ていた。
「着てみました」
「ユウちゃんは何を着ても似合うわね……」
渡された服を着てカーテンを開けると真のお母さんが笑顔でそう言った。
その表情は穏やかで、いやな気配を全く感じない。
それを見ていると、なんとなくお母さんみたいだな、と思った。
いや、真のお母さんなんだから当然そうではあるけれど、何というかお母さんと言えばこんな感じ、というイメージ通りというか、そういう意味だ。
きっと私の思う理想のお母さんと真のお母さんが近いのだろう。
私の母親は真のお母さんとは違っていつもカリカリしている人だったので、なおさらそう思うのかもしれない。
「せっかくだしこれも買っちゃいましょう」
「え、でもお金が……」
真のお母さんが今試着した服をたたんで買い物籠に入れたので慌てて止める。
いくらなんでも少し買いすぎじゃないだろうか。
もうこれで籠に入っている服は五着を越えている。
「大丈夫。今日は私が出すから」
「え、いや」
「いいのいいの」
真のお母さんはそういうが、それは流石に申し訳ないと思う。
別にこの店の服は安くない。籠の中の服を合わせればかなりの金額になると思う。
「真のお母さん。それは流石に……」
「うーん……」
やっぱり止めようとして真のお母さんに声をかける。
すると真のお母さんが突然困ったような顔をした。
「あの、どうしたんですか?」
「呼び方が……真のお母さんっていうのはちょっと」
駄目だっただろうか。
名前にさん付けとかの方がよかったのかもしれない。
「そうね、もういっそお義母さんとかでいいんじゃないかしら。義理の母と書いてお義母さん、で」
「……へ!?」
少し悩んでいると真のお母さんからそんな言葉が飛び出てくる。
そ、それはいくらなんでも問題が無いだろうか。
「い、いえ、そういうわけには」
真のお母さんの事をそう呼ぶなんてまるで真と結婚してるみたいだ。
私と真はあくまで『親友』なのでそういうのとは違う。
「駄目かしら」
「だ、駄目ですよ。その、私と真はあくまで『親友』、ですし」
昨日も親しくさせてもらってるとは言ったけど、別に婚約者とか恋人とかじゃない。
「……親友?でもそれにしては……」
真のお母さんが首をかしげて考え込む。
そして何かに気が付いたように両手を合わせた。
「ボーイフレンド?」
「え?」
ボーイフレンド……男の友達?
……うん、なんで英語にしたのかは分からないけど、それで正しいと思う。
「そうです」
「そうよね」
真のお母さんが笑顔になって何度か頷いた。
どうやら納得してもらえたようだ。
「じゃあ次の服を探しましょうか」
「え、まだ探すんですか?」
それからしばらく真のお母さんと一緒に服を見て回った。
服を試着するのは疲れたけど、少し楽しかったと思う。
真母「ユウちゃんボーイフレンドを親友って訳してるみたいなのよ」
真父「見た目からして外国人みたいだしな……いくら日本語が上手くても完璧じゃないんだろう」
真母「最近まで日本にいなかったって言ってたしねえ」
異世界に行っていたからね。日常で使わない言葉なら意味を忘れてもしかたないね。




