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16表



 次の日。昼前にリビングに行くとユウと母さんが一緒に手元を覗き込んでいた。


 朝食の時から思っていたけれど、ユウと母さんが妙に仲がいい。

 昨日は母さんはともかく、ユウは緊張していたように見えたのに、今朝には全くその気配が無かった。


 昨日の夜遅くまで何かやっていたようだから、きっとその時に何かあったんだとは思うけれど、何があったんだろうか。


「……が……んで……」

「…………よね」


 何を見ているのか少し気になって近づいてみる。

 遠めに見る限り、アルバムを見ているように見えた。


「これがあの子の中学校の頃の写真なの」

「わー。今とは全然違いますね」


 ……ちょっと待って欲しい。え、見てるアルバムって僕のアルバム?

 思わぬ言葉に足が止まる。

 

「この写真も一人で写ってるんですね」

「あの子、友達いないから……」


 いやいやいや。

 本当にちょっと待って欲しい。


「か、母さん」

「あ、あら、真いたの?」


 いたの?じゃなくて。気まずそうに目を逸らさずにこちらを見て欲しい。

 人のいない間に何をユウに吹き込んでいるのか。


「ごめんなさい。つい……」


 母さんが謝る。

 反省して欲しい。というかついってなんだ。


 僕の昔の話なんて黒歴史だらけだ。正直に言って思い出すのも辛い。

 そんな話をユウに知られるなんて恥ずかしくて仕方がなかった。


 恐る恐るユウを見ると、こちらも気まずそうな顔をしていた。

 

「その、ご、ごめんなさい。私が真の昔のことを知りたいって言ったの」

「そ、そうなんだ……」

 

 ユウが申し訳なさそうな顔をして言う。

 ……そう言われると文句を言い辛い。


 そういえばこれまでに何度か昔のことを聞かれたことがあった。

 それを情けない話になるからと、言葉を濁していたのは僕だ。


「だ、大丈夫だよ、真。

 私も日本にいなかった頃は一人ぼっちだったから!」


 僕が微妙な顔をしていたからか、ユウがそんなフォローを入れてくれる。

 気遣いは嬉しいけれど、情けない過去を知られた恥ずかしさは消えない。


 というかそれって異世界にいた頃の話だよね?

 化け物扱いされてたとか言ってたし、それは違う話になっている気がする。


「あら、そういえばそろそろ出かける時間じゃないかしら」


 母さんが時計を見てわざとらしく言った。

 見ると時計の針は午前十一時を指している。朝に決めた買い物に出かける時間だ。


 今僕がリビングに来たのもそれが理由だった。

 朝食の時に皆で近所のショッピングモールに買い物に行こうという話になったのだ。


「……はあ。行こうか」


 言いたい事はあるけれど、飲み込んでおく。

 もとを正せばユウに聞かれて何も言わなかった僕も悪いんだし。


「ごめんなさい、真」

「ごめんね、真」

「……いや、もういいよ」


 申し訳なさそうにしている二人に、気にしないように言う。

 もう謝ってくれたし済んだことをいつまでも言っていても仕方ない。

 

 二人を促して準備をする。

 父さんと合流してショッピングモールへ向かった。





 ◆




 

 それから少しして、僕達はショッピングモールに来ていた。

 今は父さんと一緒にユウと母さんを待っているところだ。

 

 あの二人はいま店の中で服を選んでいる。

 最初は僕も中に連行されていたけれど、女性服のエリアにいるのが辛くて逃げてきた。


「……」

「……」


 父さんと二人で待つ。会話は無いが別に問題は無い。

 父さんは寡黙な人だ。こういうことは珍しくなかった。


「……父さん、コーヒーを買ってこようか?」

「……頼む」


 三十分ほどして、ユウと母さんはまだ時間がかかりそうだったのでコーヒーを買いにいく。

 近くの自販機で買って父さんに渡した。


「はい」

「ありがとう」


 二人で並んでコーヒーを飲む。


「……真」

「何?」


 そして、コーヒーを飲んでさらにしばらく時間が経ったとき、父さんが話しかけてきた。


「あちらでの生活は楽しいか?」

「……そうだね。最近は楽しいよ」


 昔は楽しくなかったけれど、最近は本当に楽しいと思う。

 それこそ、夏休みに実家に帰る期間が短くなるくらいに。


「それは、ユウさんのおかげか?」

「うん」

「……そうか」


 父さんは笑って何度か頷いた。

 そしてその言葉を最後にまた会話が途切れる。

 そのままユウと母さんを二人で待った。


 二人の買い物が終わったのはそれから一時間後だった。

 



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