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2表



 大学へ行き、いつものように授業を受ける。


「つまり、体内に吸収されたグルコースは……」


 ここは教室だ。教壇から段状に生徒の席が並んでいる、大学によくある形のもの。


 周囲には同じように大学に通っている生徒がいて、隣の友人とささやくようにして話す声が聞こえてきていた。

 

 僕が座っているのはその部屋の真ん中辺り。授業を真面目に受けている生徒が座る前の席でも、不真面目な生徒が集まる後ろの席でもない、中途半端なところだ。


 僕は今、そんな微妙な位置取りの席に、一人で座っている。

 友達はいない。

 昔から友人を作るのは苦手だ。

 

 人の輪に混じるのがどうにも苦手で、中学校でも高校でもいつも一人だった。

 自分でもまずいとわかっているが、雑談というものが苦手で、その上運動も苦手だったため部活に入ることも出来ず、結果としてこうなってしまった。


 自然と一人で大丈夫な読書を好むようになり、今日に至るまで一人で過ごしている。


 ……ん?


 あれ、おかしくないか?何か違和感がある。

 ……そう、ユウだ。そこがおかしい。

 ユウは昔からの親友だ。なのに昔から一人でいたって?あれ?


 ユウがいなくなってから一人になったんだっけ?いや、それにしてはおかしいような。


 ……――――――ザザ――……


 ……まあ、いいか。

 なんだかどうでもいい気がしてきた。


 灰色の中高生活なんてあまり楽しいものではないし、考えないようにしよう。


「では今日の授業はここまでです」


 そんなこんなを考えているうちに教授が授業の終わりを告げ、チャイムが鳴った。

 この教授はチャイムがなると同時に講義をやめることで生徒に人気がある人だ。

 この授業があるのが一日の最後の授業だということもあり、その評判はうなぎのぼりである。

 


 ◆



 授業が終わったので荷物をまとめ、大学を出た。

 

 夕焼けに照らされた家路を歩く。

 ここは大学生をターゲットにした食べ物屋が軒を連ねている商店街だ。

 周りには別れの挨拶をする人や飲み会に繰り出そうとする人たちがいた。


 僕に挨拶をする人はいない。

 友達がいないのだから当然だ。


 ……僕は昔から、それこそ小学校の頃から帰り道が嫌いだった。

 友達がいないのは自業自得だとわかっていても寂しくないわけじゃない。

 それを一際思い出させるのがこの帰り道だからだ。


 一人でこの賑やかな中を歩いていると自分の惨めさが際立つような気がした。

 僕はこれからもずっとこうなのだと思い知らされている気さえもしていた。


 ……ほんの、数日前まで。


 そう、今は違う。今の僕はそんな風に感じてはいない。


 道を行く足が軽くなった。

 家に帰るのが少し楽しみになった。

 

 なぜかというと、他の何でもない、ユウのおかげだ。

 ユウが、親友が家で待ってくれている。そう考えただけでなんというか、心が温かくなる。


 ……ユウには本当に世話になっている。

 家に帰ったら夕飯が出来ているし、家事だってやってくれている。


 一人暮らしをする前はわからなかったけれど家事は結構大変だ。

 掃除、洗濯、アイロンかけなど、電化製品があるので一つ一つにかかる時間はそうでもないし難しくはないが、それもやることが多くなると話は別だ。

 真面目にやれば一日の中で使える時間がガリガリと削られていく。

 

 それがユウが来てからはなくなったので生活がとても楽になった。


 ……ユウには何かお礼をしなくてはいけないなあ。

 

「ただいま」

 

 家に着き、扉を開けてそういうと家の中からパタパタという音が聞こえてくる。


「お帰りなさい」


 顔を出したユウがそう笑顔で言った。

 その顔を見ていると、今幸せだなあという気持ちがわきあがってきた。





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