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15表


 玄関の扉を開けると、実家の匂いがした。

 懐かしいような、安心するようなそんな匂いだ。


「……ふう」


 家を出て最初に帰ってきた時、実家には特有の匂いがあることに気付いた。

 実家に居た頃は匂いを感じていなかったのに、それが実家のものだとわかるのは不思議だと思う。


「ただいま」


 挨拶をし、中に入る。

 すると中からパタパタという足音とゆっくりとした足音が聞こえてきた。


「真、お帰りなさい」

「真、お帰り」


 廊下に母さんと父さんが顔を出した。

 二人とも笑顔で元気そうに見える。


 会話は昨日もしたけど、こうして顔を合わせるのは久しぶりだ。

 健康そうで少し安心した。


「ただいま」


 一度言ったのにもう一度言ったのは、何と言うか、我が家のルールのようなものか。

 我が家では帰ってきたときに一度、そして“お帰り”と言われるたびにさらにもう一度挨拶をするというよくわからない決まりがあった。

 

 ずっと昔からあった決まりなので、些細ではあるがこのやり取りをすると実家に帰ってきたんだという実感が強く湧いてくる。


「それで真?後ろの方が一昨日言っていた方なの?」


 後ろの方?

 母の言葉で振り向くと、ユウが僕の陰に隠れるようにして立っていた。

 どうやら僕が邪魔になっていたらしい。横によけて二人からもユウが見えるようにする。


「ああ、うん、彼女が一昨日言っていた人だよ」

「あら、はじめまして。私は真、の…………」


 言葉の途中で母さんが言葉を止める。

 疑問に思い母さんを見ると、呆然とした表情をしていた。

 ……いや、呆然とした表情をしているのは父さんもだ。

 いつも寡黙で落ち着いた父さんが口を開けて驚いている。二十年息子をやっているけど、父さんがあんな風に口を開けているところなんて初めて見た。


「は、はじめまして。真、さんと親しくさせていただいているユウと申します」


 何故か止まっている両親とは対照的に、ユウが一歩前にでてお辞儀をし、挨拶した。

 緊張しているのだろうか、表情が硬い。


「……」

「……」


 しかし、二人はどうしたんだろうか。さっきから全く動いてない。


「……あら、あら、あら」

「……驚いたな」


 しばらくして、やっと動き出した二人はそんな事を言った。

 驚いたって何にだろう。ユウにだろうか。それとも僕が本当に人を連れてきた事だろうか。


 ……流石に前者か。

 いくらなんでも僕が見栄を張って友達を連れて帰ると言ったなんて思ってないだろう。


 ……思ってないよね?

 いやでも、僕が必ず初日に帰省するって思ってたみたいだしなあ。


「ユウさんっていうの?」

「は、はい」


 僕が自分の信用について少し悩んでいると母さんがユウに話しかけていた。


「私は真の母です。……ユウさん、これからよろしくお願いしますね?」

「は、はい」


 母さんがユウに近づき、そう言った。

 次いで父が一歩前に出る。


「ユウさん、私が真の父です。今日はよく来てくれました。ぜひ寛いでいって下さい」

「あ、ありがとうございます」


 こうして両親とユウの顔合わせは終わった。

 ……何事もなくて少し安心した。ユウが不安そうにしていたから少し心配だったのだ。




 ◆




 それから少しして、僕は父さんとリビングでソファに座っていた。

 ユウはキッチンで母さんと一緒に料理をしている。


 どうやら手伝いを自分から申し出たようだ。

 母さんは移動で疲れているから大丈夫だと言ったが、ユウが手伝わせてほしいと言ったらしい。


 家でいつも思っているけど、ユウは本当に働き者だと思う。

 いつも暇があれば家事をしているし。


「真」

「なに?」


 そんなことを考えていると父が話しかけてきた。

 

「ユウさんは、どんな人なんだ?」


 どんな人かと言われると難しい。

 僕の『親友』で、一緒に住んでいて、家事が上手で、異世界にいたことがあって、と色々ある。 


 でもまあ、あえて挙げるならそれは一つだ。


「いい子だよ」


 ユウを一言で言うなら、こうなると思う。


「本当に、いい子だ」

「……そうか」


 ユウのおかげでどれだけ助かっているかなんて言うまでもない。

 ユウがいてくれてよかったと本当に思う。

 

「わかった」


 父さんはそういうと嬉しそうに笑った。

 ちょうどその時、キッチンから料理が出来たという声が聞こえてくる。


「行こうか」

「うん」


 二人で立ち上がり、机へと向かった。


「因みに真、ユウさんはお酒は……」

「それはやめよう」


 その途中、父さんが危ない事を言いそうになったので途中で止める。

 残念だけど父さん、それは駄目だ。



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