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14表



 家から駅まで歩き、電車に乗って一時間、そこから新幹線でさらに一時間。

 新幹線を降りると今度は在来線に乗り換えて三十分。

 そうすると僕の実家がある町にたどり着く。


「……着いたか」


 改札口から出ると、見慣れた光景が目に入ってきた。

 地元の駅だ。

 大学に行くまでは毎日のようにここから電車に乗っていた。


「……ふう」


 無事に到着し、少し安心する。

 大学に行って三年目、実家に帰ってきた回数も十回を超えている。

 普段なら何の心配もないが、今日は少し事情が違っていた。


「ここに真の実家があるの?」


 後ろからかけられた声に振り向くと、ユウが物珍しげに周囲を見回していた。


 思わずそんなユウの姿に目を奪われる。

 涼しげな色のワンピースに、つばの広い帽子、そして手に持ったキャリーバック。

 その姿は綺麗な金色の髪と合わさって、異国から観光に来たお嬢様のようだと思った。


「真?」

「……あ、ああごめん。少しぼう(・・)っとしてた。

 うん、そうだね。ここに僕の家がある」


 夏休みに入って三日目。

 僕とユウは僕の実家に行くためにこの駅に来ていた。


 最初の予定だとここまで早く帰省するつもりはなかった。

 でもいまこの駅にいるのは、夏休み初日の一昨日、母からの電話があったことが原因だ。


 母曰く、僕が例年のように夏休み初日に帰ってくるものだと思っていたので、そう準備をしていた、とのことだ。

 このままだと買った食材等が無駄になると呟いていた。

 まあ、それでも相談してユウが嫌だと言うようなら帰らないつもりだったけど、ユウもこの日程で一緒に来てくれると言ったのでこうなった。


 ……しかし、特に連絡していなかった僕が悪いが、この悪い方向の信頼感は少し悲しい。

 それってつまり僕に友達が出来て、夏休みに帰ってこない可能性なんて考えていなかったということだろう。


 ……いやまあ、これまでのことを考えたら当然なのかもしれないけど。


「結構長い間電車に乗ってたけどユウは疲れてない?」

「大丈夫。疲れてないよ」


 笑顔でそう言うユウに少し安心する。

 大丈夫そうでよかった。

 今回の帰省はかなりの強行軍だったので疲れていても全くおかしくない。 


「その、今回はごめん。こんなに急で」

「あはは……確かに急だったけど大丈夫だよ。ついて来るって言ったのは私だし」


 今回の帰省が決まったのは一昨日の夜だ。


 電話がかかってきたのが一昨日の夕方で、それからユウに帰省しても大丈夫か相談したのが夜。そして母に帰省する旨を伝えたのがその後だった。

 ユウが準備を始めたのはそれからだ。


 僕は実家に帰るだけなので大して準備は必要ないが、ユウはそうはいかない。

 昨日はかなり忙しそうに走り回っていた。

 準備が終わった時には深夜零時を過ぎていたと思う。


 これに関しては僕のミスだ。ユウの準備がそこまで大変だと思っていなかったので、一日あれば大丈夫だと思い、母に二日後に帰ると言ってしまった。

 失敗に気付いた時、もう一日か二日後にずらそうかとも思ったけど、ユウが大丈夫だと言ったのでそれに甘える形になった。


 ……今回の帰省は、帰省について相談したのも急だし、ユウが一緒に来るかを聞いたのも急で、準備をするのも急だった。

 自分の無計画さが情けない。

 これまで人と一緒にどこかに行ったことがなかったから、事前に予定を話し合うという当然のことができていなかった。


 ……本当に僕はユウにお世話になりっぱなしだ。

 何時になったら返す事ができるんだろうか。

 

「ありがとう。それと一緒に来てくれて嬉しいよ。母さんも連れていきたい人がいるっていったら大喜びしてたし」


 一昨日の電話の時、友達がいるからあまり長い間は帰省しないと言うと、母は本当に喜んでいた。

 そしてさらに、今回の帰省で連れて帰りたい人がいると言うと、それはもう大喜びしていた。


「そう、かな」

「ユウ?」


 母が喜んでいると言うとユウはなぜか浮かない顔をした。

 どうしたんだろうか。理由が思い当たらない。

 緊張している、というのとは少し違う気がするし。 


「あの、大丈夫かな。私みたいなのが一緒にいて」

「……なんで?」


 ユウが一緒にいて大丈夫じゃない理由がわからない。

 むしろユウが大丈夫じゃなかったら誰が大丈夫なのかと思う。


「えっと……なんでもない。変な事を言ってごめんなさい」

「いや、謝るようなことじゃないけど……」

 

 ユウが意味もなくこんな顔をするとは思えないし、何か意味があるんだろう。

 でも僕には全く想像できなかった。

 何か不安なことがあるなら言ってほしいとも思う。できる事ならなんでもするつもりだ。


「行こう?」

「え、あ、ああ、うん」


 しかし、ユウに話を聞こうとすると、ユウは話を打ち切るように僕の手を握って歩き出した。

 手に感じる柔らかい感触に驚いて、言葉にするタイミングを失う。


「真の家はどっち?」

「……えっと、そこの角を右だよ」


 それから、ユウと一緒に僕の家に向かう。

 その途中のユウの顔は少し浮かないように見えた。

 

 ……よくわからないけど、少し注意したほうがいいかもしれない。

 そう思った。


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