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13裏


「夏休み、か」


 カレンダーを見ると、今日、七月三十一日が赤い丸で囲まれている。


 これは三週間前に真が書き込んだもので、学期末試験の最終日を指しているらしい。

 この日の試験が終われば夏休みなんだと真は言っていた。

 

 つまり、今日から夏休みが始まるということでもある。

 そして、それは真が今日からずっと学校に行くこともなく、ずっと勉強してるなんてこともなく、一緒に家に居るということだ。


 ……あの、三週間前までと同じ、いや、それ以上に一緒にいることになるということだ。


「……」


 顔が少し熱い。

 クーラーの設定温度を上げすぎただろうか。

 それとも夏風邪の初期症状かもしれない。注意しないと。


「……」


 ……別に、真が一緒にいることになるから照れているわけじゃない。絶対にない。


 ……確かに三週間前のあの日以来、私は少しおかしかった。

 しばらくは撫でられるんじゃないかと真が近づくだけで少し緊張してしまったり、あんなことがあったのに何事もなくのんきな顔をしている真に少し腹が立って睨めつけてしまったりもした。

 

 でも、それももう過去の話だ。

 あれから三週間。私は既に元に戻っている。


 いまさら蒸し返されたところで何かを思ったりはしない。

 たとえ膝枕した時の事や頭をなでられたときの事を思い出しても、なんとも思ったりはしないのだ。


「……暑いなあ。クーラーの温度下げよう」


 リモコンを操作して設定温度を下げる。

 ほんとに暑い。エアコンが壊れてるんじゃないだろうか。

 おかげで顔が熱くて仕方ない。


 顔を冷やすためにソファに寝転んで顔を押し付ける。

 エアコンで冷えた表面が気持ちよかった。


 ……あれ、ソファのここってあの時真に膝枕されたところじゃなかったっけ。


「……そうだ、なにか飲もう!」


 暑いときは冷たいものだ。ずっと昔からそれは決まっている。

 ソファから体を起こし、立ち上がった。


 ほんとに暑い。まったく何か飲まないとやってられないよ。


 私は顔を手で仰ぎながらキッチンへと向かった。





 ◆





 

 冷蔵庫から出した麦茶を手に持ちながらリビングの机に座る。

 ソファはしばらく禁止だ。

 考えてみたら昼間からソファに寝転がってるなんてよくないと思う。

 健康的な人間はちゃんと椅子に座るべきなのだ。


「……そういえば夏休みに色々したいって言ってたっけ」


 そういうわけで椅子に座ってお茶を飲んでいると、今朝真が言っていた事を思い出した。

 夏休みだし旅行とか海とか色々なところに行ってみたいそうだ。

 

 私が行きたい所とか、したいことがあったら言って欲しいといっていた。


「行きたいところ、ねえ」


 正直に言ってよくわからない。

 旅行とか小学校の修学旅行しか経験がないし、もう何年も前で記憶もほとんど無い。

 海に関しては行ったことがないし、プールにだったら入った事はあるけどそれだって学校のものだ。

 私の親はいつも仕事で忙しくしていたので、その辺りの行楽はしたことがなかった。


 あ、いや海は一度行ったか、異世界で。ただの魔物討伐だったけど。


 ……まあ何にせよ私にはわからないと言う事だ。

 経験のないことだから、どこかに行きたいとかそういうのはない。


 …………それに、どうせ色々やると言うのなら、この前のようにお酒を一緒に飲んで頭を撫でられたりとか――

 ――って違う!


 慌てて頭を振る。

 何を考えているんだ私は。


 別に酒なんて飲みたくないし頭だって撫でられたくない。

 ただ、そう、そういえばこの前は真のことを聞き出す事ができなかったから、酒に関してはそれが引っ掛かっているだけだ。


「……はあ」


 手に持ったコップを頬に当てる。

 表面が結露したコップは冷たくて、熱くなった頬を冷やしてくれた。


「……家事でもしよう」


 コップを手に立ち上がる。

 このまま座っていたらまた心にもないことを考えてしまいそうだ。


 時計を見ると後一、二時間もしたら真が帰ってきそうな時間だった。

 そろそろ夕飯の準備をしてもいいかもしれない。


「今日は試験が終わったわけだし、いつもより手の込んだものをつくろうかな」


 私は冷蔵庫の中身を考えながらキッチンへと向かった。

 


これで二章は終了です。

次からは三章八月編に入ります。

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