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11裏


 きっかけはデパートに行った時のことだった。


 五日前のあの時、真は何かに怯えていた。

 これまでに見たことのない顔で。

 大量に汗を流し顔を強張らせていた。


 でも、私にはあの時、何があったのかわからなかった。

 真が何に怯えているのかわからなくて、だから場当たり的に異世界での経験を元に飲み物を飲ませた。


 すると真は幸いなことにそれで落ち着いていつもの顔に戻ってくれた。

 だからあの時はそのまま安心して一緒に店を回って終わった。


 でも、それから数日たった今、私はあの時のことを思い返してこう思う。


 私は真のことを何も知らないな、と。


 私は出会う前の真のことを何も知らない。株をやっていることは知っている。近所の大学に通っていることも知っている。離れたところで両親が暮らしていることも知っている。


 でも、それだけだ。

 その他は食事の趣味だとか細々としたことは知っているけれど、それ以上のことは知らない。


 それ以外のこと、真がどんな学校に通っていて、どんな部活に参加していて、どんな友達がいるのか、それともいたのか。

 つまり、真がどんな人生を送ってきたのか。私は何も知らなかった。


 私が真について知っているのは表面的なことだけだ。

 少し親しい人なら誰でも知っているようなこと。


 だから、知りたいと思った。


 ……でも、そうは思っていてもそう簡単にはいかない。

 何度か昔の事を聞いてみても、何もなかったよ、などと誤魔化されてしまう。


 異世界で学んだ誘導尋問のようなことをしても駄目だった。

 何もない、という答えが返ってきた。

 

 そこで私が思いついたのがお酒だった。

 私は暗殺に備えるためにお酒は飲んだことがないが、それでも周りの兵士は皆が飲んでいた。なにせ、酒と博打くらいしか娯楽がない世界だ。

 そのため、どのようなものかは知っている。


 酒を飲むと、人は口が軽くなるのだ。

 機密保持の面でも、酒を飲むと口が滑りやすくなり、情報を抜き取られやすいということはよく知っている。


 だからそれを試してみようと思った。

 幸いなことにこの前のデパートでお酒はすでに買ってあるし、私が飲んだことがないという、お酒に誘ういいわけもある。


 状況は完璧だ。

 私はさっそく真に話を持ちかけることにした。




 ◆




「じゃあ、この前買ったお酒を飲まない?」

「お酒?」


 明日から勉強を始めるという真を予定通り誘う。

 危ないところだった。試験については考えてなかった。お酒のことを決めるのがあと一日遅ければ、二週間は駄目になるところだ。


「じゃあ、今日夕飯のときに飲もうか」

「うん」


 真が笑顔で肯定した。

 そして軽い足取りで去っていく。


 その様子に、これから自分にどんなことが待ち受けているのかがわかっている様子はない。


「くふふ……」


 間抜けな奴だ。これから自分がどんなことをされるのかも知らないで。


 幸いなことに明日は土曜日だ。

 真も勉強以外の予定はない様だし、徹底的に酔わせて色々聞き出そうと思う。


 例えばどんな学校に行っていたのか、とか。

 私以外にどんな知り合いがいるのか、とか。

 私のことをどう思っているのか、とか。

 ついでに恥ずかしい秘密はないか、とか。


 知っていても絶対に損はない。

 すごく興味がある。


 無理に聞き出すことに対して少し真に悪いかな、と思う気持ちはないわけではないが、仕方のないことだ。前にも言ったように情報はとても大事なのである。

 情報がないとやっとの思いでたどり着いた井戸が枯れていたりするのだ。

 

 あの時の絶望感といったら……ちょっと思い出したくない。


 ……話がそれた。とにかく今晩は楽しみだ。

 一体どんな返答が帰ってくるのだろうか。


 私は今晩する質問の内容を考えながら家事に戻った。

 


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