10裏
家を出たときから変だな、とは思っていた。
動きが硬いし、話しかけてもあまり返事が返ってこない。
普段から真はあまり喋る方じゃない。
家でも黙ってパソコンを見ていたり、本を読んでいる時間の方が圧倒的に長い。
でも話しかければ返事はちゃんとしていた。
だから朝のおかしな行動もあるし、もしかしたら体調でも悪いのかもしれないと思った。
今日は止めて帰るように提案しようかとも考えていた。
でも今、それは間違いだったことがわかった。
「こんなものじゃない?」
「そんなわけないよ……」
その会話をしたとき、真の顔が強張った。
その顔には見覚えがあった。異世界では何度も何度も見た顔だ。
それは恐怖に怯えている顔。
戦争が始まる直前に新兵がよく浮かべていたものだ。
真がそんな顔をする理由はわからない。
私には何の心当たりもなかった。
……でも、なぜかそんな顔を見ていると浮かんでくる感情があった。
……嫌だ。私はそう思った。
真のそんな顔は見たくない、と。
何故そんな思いが出てきたのかはわからない。
でも、私は真のその表情を見ているのが嫌だった。
「……こっちにきて」
真の手を取り、ここに来る途中に見えたベンチまで行く。
そこに座らせて顔を見ると、少し驚いているようだが強張ったままだった。
鞄から水筒を取り出し、コップにお茶を注ぐ。
異世界では怯えている新兵には酒を少し飲ませたりしていた。
今ここに酒はないのでお茶で代用する。
「はい、これ飲んで」
お茶を真に渡す。
何故真が怯えているのかはわからない。
でも、これで少しは落ち着いてくれたら、と思った。
真がゆっくりとお茶を飲む。
すると強張った顔が少しづつ戻っていった。
「落ち着いた?」
「……ああ、うん」
少しの時間が経って、いつもの間の抜けた顔に戻っていた。
安心する。
「あのね、服は欲しいけどもっと安いものでいいから。あんな高いもの悪くて、申し訳なくてもらえないよ」
「……そうだね」
落ち着いたようなので、言うべき事を言う。
先程はなぜか怯えていた真も、今度は冷静だった。
「ごめん」
真が冷静な表情で言う。
どうやら完全に落ち着いたようだ。
「うん、じゃあ行こうか」
私が立ち上がりながら言った。
そのときには真の顔には笑顔が浮かんでいた。
いつもの、間の抜けた能天気な笑顔。
うん、やっぱり真はこうでないと。さっきみたいな顔はよくないと思う。
◆
落ち着いた真と一緒にデパートを見て回った。
色々な店を冷やかしたり、食べ物や酒を買ったりだ。
少し面白かったのは最初に行った服屋だろうか。
一緒に入ろうとすると断固拒否された。
女性服売り場に入るなんて絶対無理らしい。
かつてないほどに必死な形相で抵抗された。
……ああ、考えてみればあれも真の初めて見る顔か。
今日は初めてみる顔によく遭遇する日だ。あれは最初のものと違って嫌だとは思わなかったけれど。
そして、そんなことをしているうちにあっさりと時間が過ぎ、両手に買い物袋を提げて店を出る頃にはもう夕方だった。
「ユウ、ありがとう」
帰り道、突然真が言う。
「え?お礼を言うのは私だよ。服を買ってくれてありがとう」
真が持っている紙袋を指差して言う。
何故真が持っているのかというと、真がどうしてもと言ったからだ。
だから私の両手には軽いものしかぶら下がっていない。
どうやらお茶のお礼らしい。
そんなこと別に大したことじゃないのに、と思う。
「さ、家に入ろう?」
家に着き、扉を開ける。
振り返ると真がいつもの能天気な顔をしていた。




