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1裏



 あの男、真が家から出て行く。

 学校に行くためらしい。真は大学生で、この家から歩いていける距離の大学に通っているそうだ。


「じゃあそろそろ大学に行ってくるよ」

「はい。行ってらっしゃい」


 笑顔でそう言ってきた真に、笑顔を顔に貼り付けて返す。

 すると真はニヤリとだらしなく笑って歩いていった。

 

 目の前で音を立てて扉が閉まる。


「……行ったか」


 表情に貼り付けていた笑顔を消す。

 やれやれ、ずっと笑っているのも疲れる。あの男を騙すためとはいえ、面倒なことだ。


 ……しかし、騙すといえばあの男。


「くっふふふふふ」

 

 思わず笑いが漏れる。

 本当に馬鹿な奴だ。


 こんなに簡単にだまされて、私にいいように使われてしまっている。

 まさかこんなに上手くもぐりこめるなんて考えてなかった。


 真と私は当然、親友なんかじゃない。

 それどころか赤の他人もいいとこだ。初めて会ったのは数日前である。 


 数日前、私はこの世界に何とか帰ってきたはいいが、行く場所がなく困っていた。

 金もなく、男から女に代わってしまっているので身分を証明することも出来ない。

 あちらの世界に行く前に住んでいた家には別の家族が住んでいた。


 どうすることもできず、途方に暮れ、公園のブランコに乗っているときに丁度目に入ってきたのがあの男だったのだ。


 地味だが、仕立てのよさそうなしっかりとした服を着た若い男。

 金をもってそうだと思ってつけてみると、どうやら一人暮らしだったので魔法で洗脳して操ることにした。


 結果的に言えばそれは大正解で、この数日、快適に生活させてもらっている。

 


 因みに、何で親友だと洗脳したのかというと、それ以外だと面倒になるからだ。


 ただの友達だと同居するのには弱いし、家族にすると同居には問題ないが、距離が近すぎて洗脳上の問題が起こる。


 私の使う洗脳というのは一度かけて終わりじゃない。漫画の洗脳のように強力なものではなく、洗脳なんて言ってはいても、どちらかというと暗示が近い。違和感や不快感が大きくなると解けてしまう弱いものだ。


 なので、何で俺は家族がいなくなってたのに探さなかったんだ?

 なんて疑問を抱かれてしまうとあっさり解けてしまう可能性があるのである。

 

 また、友人と家族以外で同居していて不自然でないものというと恋人だがそれは私が嫌だ。

 私はこんななりでも数年前までは男であり、精神的には男なのである。

 同性愛は勘弁してもらいたい。


 ……まあ何はともあれ、そんな感じの事情があって私は真の親友としてこの家に住み着いたのだった。

 

 罪悪感?そんなものはない。


 異世界は地獄だった。

 私はわざわざ女にされてまで聖女として召喚されたけれど、聖女なんてのは名だけだった。


 実際はただの兵器。朝から晩まで戦わされて、食べ物もまともに与えられない。

 休日もほとんどなく、その上呪いで縛られていたので反逆することも出来なかった。


 仮にも使っている力が宗教上の聖女のものだったから、性的な被害だけはなかったがそれ以外は最悪の扱いだった。


 この世界に帰ってこれたのだって運がよかっただけだ。


 一瞬の隙を突いて召喚用の魔方陣がある部屋に侵入出来たから帰ってこれた。

 あれがなかったら今も私は酷い扱いを受けていただろう。

 人権なんてかけらも存在しない奴隷としての扱いを。


 そして、そんな数年間を地獄で過ごした私にとってあの男は平和ボケした都合のいい存在でしかない。

 

 だから……せいぜい利用させてもらう事にしよう。

 

「くっふふふふ」


 もれ出てくる笑いをこらえながら私は部屋の中へと戻っていった。





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