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9裏


「ついにきちゃったか……」


 前々から恐れてはいたけれど、ついにこの時が来てしまった。

 

 手に持った服を見る。

 大きめの穴が肩のところに開いていた。 

 繕えないこともなさそうだが、それをやると目立ちそうでもある。

 それに穴が開いただけあって着古されていて、全体的にくたびれていた。


「いつかは来ると思っていたけれど……」


 もともと服は多くは持っていなかった。

 私がこれまで着ていた服はこちらの世界に帰ってくるときに持っていた服だ。


 そのため、もともと持っていたのはバック一つ分だった。

 それを何とかやりくりしていたので一つでも駄目になると厳しくなる。


「こちらだとボロボロの服を着てると目立つからなあ……」


 あちらの世界ならこれくらいの穴ならあまり問題はないし、繕っておけば何一つ問題ない。

 でもこの世界でそれをやると悪目立ちするだろう。


 私が悪く言われるだけならいいが、もしかしたら一緒に住んでいる真も悪く言われるかもしれない。それは避けたかった。


「買ってもらうしかないか……」


 私はお金を持ってないので、新しい服が欲しいと思ったら買ってもらうしかない。

 気は引けるがそれ以外の選択肢はなかった。


「真なら多分買ってくれるとは思うけど……」


 一ヶ月前、真は欲しいものがあったら言って欲しい、と言っていた。

 だから要求すればその通りにしてくれるだろう。


 ……でもやっぱり気が引けるのだ。


 いくら家事をやっているからって、養ってもらっている上に服まで買ってもらうというのはちょっともらいすぎな気がする。


 もし私が真の妻や恋人だと言うのならそれもいいだろう。異世界でも男が妻や愛人を養うのは一般的だった。


 でも、私は妻でも恋人でもない。

 そんな人間を養うのは異世界では一般的ではなかった。

 

 この世界でそれが一般的なのかは今の私にはわからない。でも私の価値観は六年間を過ごしたあの異世界が基本になっている。だから気が引けるのだ。


「いっそ恋人にでもなってみる?……なんてね」


 自分で言って笑ってしまう。それはちょっと。

 私はこれでも元男だ。いくら真でも男と恋愛は難しかった。


「……仕方ないか。後で頼もう」


 いくら気が引けても必要なんだから仕方ない。

 後ほど真に服を買ってもらえるようにお願いすることを決める。


 ひとまず、私はまだ終わってない家事をするためにリビングへと向かった。






 ◆





 ……なんなんだろう、あれ。


 それはリビングで家事を始めてからしばらく経った時のことだ。

 なにやら不思議な状況になってきた。

 手を動かしながら視界の端で気付かれないようにその方向を見る。


 真がこちらを見ていた。

 微妙に扉に隠れるようにしてこちらを見つめている。

 おまけに深呼吸したり頭を抱えたりとせわしない。


 ……何かあったんだろうか?


 今朝までは普通だったから何かあったとしたらこの数時間だろう。

 その間に何かなかったか思い返す。


 ……だめだ。何もわからない。

 特に心当たりもなかった。


 首を傾げながら布巾を洗うために台所に戻る。

 その途中、なぜか私を真が呆然とした顔で見ていたのが印象的だった。


 その後、布巾を片付けて真のところへ向かい、状況を説明する。

 

「ちょっと相談があって……あの、服がね、あまりなくて」

「服?」

「うん、それで、買ってもらえないかなあ、って」


 最初、なぜかひどく慌てていたが、服を買って欲しいと言ったら、幸いなことに真はあっさり頷いてくれた。


「わかった。じゃあ今日の午後から行こうか」

「うん、ありがとう」 

 

 問題がなくてよかった。

 大丈夫だろうとわかっていても優しい顔をしてくれると安心する。


「昼からか……準備しないと」


 私は外出の準備をするために部屋へと戻った。


 ……因みに、その後あの挙動不審について聞いたら言葉を濁された。

 一体なんだったんだろう、あれ。


 


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