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8裏


 クーラーがコーという音を立てて冷気を吐き出した。

 冷気がソファで寝ている私に届く。


 涼しい。天国のようだと思う。


 私が思うに、涼しい部屋にいるときの幸福度は外の暑さに比例する。

 外が暑ければ暑いほど、涼しい部屋にいるとき幸せになれるのだ。


 ふと窓を見ると汗まみれになりながら歩いている人がいる。

 その姿は外の環境がどれほど苛酷なのかを語っているようだった。


 たしか天気予報では今日は35度まで上がるんだったか。

 今朝真がそれを見てげんなりした顔をしていた。

 家を出るときなんか、外に出た瞬間“うわあ”とか言ってたし。


 ……全く、こんな暑い中外に出てご苦労なことだ。

 二時に帰るといってたし、その頃にはそれはもうひどいことになっているだろう。


「……くふふ」


 いい気分だ。家主が外で地獄を見ているのにわたしはこうしてクーラーの下でだらだらしている。

 これが正しい搾取生活という奴だと思う。


「……」


 そもそも、真も真だ。せっかくの土曜日なのに学校なんかに行くからそうなるのだ。

 授業なら仕方ないけどただの調べ物だとか言ってたし。


 時計を見ると午後一時くらいだった。

 真が帰ってくるまで、まだ時間があるようだ。


 軽く頭を振り、体を起こしてキッチンへと向かう。

 コーヒーでも飲もうかな。


 冷蔵庫からコーヒーを取り出してコップへ注ぐ。

 ソファに戻って一口飲んだ。


「……ふう」


 静かな部屋にクーラーの音が響く。


 ……しかし平和だなあ。

 去年とは大違いだ。


 確か、去年の今頃は砂漠で魔物の討伐をやらされてたんだっけ。

 あの時は砂漠に何日間も泊り込んだんだった。


 砂の中に潜っている魔物が出てくるまで待たなければならなかったので、何日もの間一日中魔法で作った岩の影に潜み続けるはめになった。

 

 しかも何が腹が立つって、仕留めた魔物を何に使うのかと聞いたら、王妃の化粧品だとか言われたことだ。

 これがまだ、魔物が街を襲う疫病の原因だ、とかだったら諦めもつくのに、なんだ化粧品って。

 ふざけるなと怒鳴りつけてやりたかった。呪いのせいでできなかったけど。


「……はあ」


 頭に血が上りそうだったのでクールダウンのためにため息をつく。


 ……冷静になろう。今はもうそんな事はないんだし。

 コーヒーを一口飲む。

 

 ふと顔を上げて時計を見ると二時過ぎだった。

 そろそろ真が帰ってきてもおかしくない時間になっている。

 

 昔のことを思い出しているうちに時間が過ぎていたようだ。


「ただいまー」


 丁度、声が玄関から聞こえた。

 冷蔵庫からタオルを出し玄関に向かう。


「お帰りなさい」


 見ると汗まみれで間抜け面をさらしている真がいた。

 やっぱり酷い事になっている。


 これだから休みの日くらい家でゆっくりしていればよかったのに。

 

 濡れタオルを渡し、脱衣所へと押し込んだ。

 あんな汗まみれでうろつかれて風邪でも引かれたら困る。まったく、誰が看病すると思っているのだ。


 



 ◆





 しばらくして、服を着替えてきた真の前にアイスとコーヒーを置く。


 アイスは手作り、しかも今回はコーヒーにも凝ってみた。


 調べたところによると、美味しいアイスコーヒーの淹れ方は、濃い目に入れたコーヒーを急速に冷やすことらしい。

 コップに氷を入れてそこに淹れたコーヒーを一気に入れるといいそうだ。

 せっかくなので試してみようと思い、今日のアイスと一緒に出すコーヒーはそのやり方で入れてみた。


 その結果は……目の前に座る真に視線を向けてみると特に気にせずごくごくと飲んでいた。


 うん、わかってた。

 

 真は何を食べても美味しそうにしているだけだ。

 作りがいがあるのやら、ないのやら。


「うん、本当に美味しい」


 真がアイスを食べて満足そうに言った。

 本当に能天気な顔だ。


 その顔を見ていると私まで悩むのが馬鹿らしくなってくる。

 気が付くと真が帰ってくるまで考えていたこと、異世界のことなんて忘れていた。

 



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