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1表


 人生、何があるかわからない。


 突然、転んで怪我をすることがあれば、突然、事故にあうこともある。

 突然、病気が発覚して入院することもあるだろう。

 もしかしたら、突然知らない女の人に告白されることも……まあ、ゼロではないと思う。


 人生と言うものは、そんな、ほんの一時間前までは考えもしなかったことが当たり前のように起こったりする。


 一寸先は闇なんてことわざもあったか。

 先のことなんて誰にも分からない。人間には漫画で見るような予知能力なんてないのだから当然だ。


 人は、何かが突然起こったとき、それを受け入れることしか出来ないのだろう。


 ……そのことは、分かっていたつもりだった。

 僕自身これまでの二十年の人生で予想外の出来事に見舞われたことは多くあったのだから。

 

 ……しかし、だ

 ……これはちょっと予想外すぎやしないだろうか。



 ◆


 

 目を覚ますと、いい匂いがした。


 味噌汁と、後は焼き魚だろうか。

 寝起きの空いた腹を刺激する美味しそうな匂いだ。


 欠伸をしながら体を起こし、時計を見る。

 時計の針はいつもの起床時刻の五分前を指していた。

 

 ベッドから抜け出し、部屋を出て洗面所で顔を洗う。

 そして、顔を拭いた後リビングの扉を開けると、ここ最近でおなじみとなった光景が目に入ってきた。


 リビングの中央、食卓では一人の少女が机に食事を並べていた。

 とても美しい少女だ。

 その整った顔と金色の髪はフランス人形を彷彿(ほうふつ)とさせた。


 彼女、ユウはここ数日この家に居候している僕の『親友』だ。


「あ、おはよう」


 ユウが僕に気が付き、振り向いて挨拶する。

 その笑顔がとても可愛らしく見えて、少し照れそうになった。


「おはよう」


 動揺でどもりそうになるのを何とか押さえ、挨拶を返す。


 ……まったく、何をしているのやら。

 彼女が一緒に住むようになってもう何日か経つのに、僕はまだ彼女に慣れることが出来ていなかった。


 我ながら情けない。外見が美しい少女だろうが、彼女は僕の『親友』なのだ。

 さっさと慣れなければ彼女に失礼というものだろう。


「ご飯、もう出来てるよ」

「ああ、ありがとう。今日も美味そうだ」


 食卓の上ではユウが用意してくれた朝食が湯気を立てていた。

 白米に味噌汁、焼いた鮭に豆腐、ほうれん草のおひたし、日本の古き良き朝食という感じだ。


 これは冷めないうちに食べないともったいない。

 僕はさっそく食卓に着くと、食べ始めた。


 



 

 食後、ユウが入れてくれたお茶を飲む。

 安心する味だ。僕にはお茶の味はわからないが、このお茶を飲んでいると安らぐことはわかる。

 だからきっとこのお茶は美味いのだろう。


 顔を上げ、向かいを見ると、ユウも同じようにお茶を飲んでいた。

 猫舌なのだろうか、お茶に息を吹きかけている。



 ……しかし、不思議だ。

 ここ数日、何度も思ったことだが、今も思う。 


 なぜか、どうしてなのかはわからないが、ユウを見ていると、少し不思議な気持ちになるのだ。

 何がとは言わないし、言えないが、どこか違和感があった。


 ……これはやはり、初めて会ったときの状況が不思議だったからなのだろうか。


 ユウがこの家に住むことになったのはほんの数日前のことだ。

 大学の授業が終わり、家に帰ってくると、ユウが玄関の前で待っていた。


 見たことがない美しい少女だったので、最初は人違いかとも思ったのだが、話をするとすぐにそうではないことがわかった。


 驚いたことに、その少女はかつて僕の『親友』だった男だった。


 彼女曰く、異世界に召喚され、その際に性転換したらしい。

 そして、その世界で聖女として過ごし、この度なんとかこの世界に返ってきたのだと彼女は言った。


 正直に言うと信じがたい話ではあった。

 異世界だの、聖女だのと、いくらなんでも僕の常識から離れすぎている。

 同じような話なら小説としていくらでも転がっているが、あれはあくまで小説の話だ。


 だとは思うのだが……なぜか、不思議と信じてしまった。

 正直、今でも不思議だが……まあ、ユウは僕の幼い頃からの『親友』だから仕方ないのかもしれない。

 いくらとんでもない話であろうとも、『親友の言うことを信じるのは当然』なのだから。


 ……あれ、そういえば幼い頃っていってもユウと初めて会ったのはいつだっけ?


 ――――――ザザ――


 ……ん?

 今、何を考えていたんだっけ?

 ぼうっとしていたのか思い出せない。


 ……まあ、いいか。

 忘れるって事はそんなに大事なことじゃないんだろう。

 

 気を取り直して時計を見ると、もう大学に行く時間だった。


「じゃあそろそろ大学に行ってくるよ」

「はい。行ってらっしゃい」


 ユウが笑顔で送り出してくれる。

 僕は行ってらっしゃいって、なんかいいよなあ、何て思いながら玄関の扉をくぐった。


 


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