怠惰
更新が遅くなってしまいすみません。
「なあに、そう身構える必要はありませんよ、私はただ挨拶をしに来ただけですよ」
嘘つけ、さっきから感じるこの濃厚な殺気は本物だろう。オレはあいつが何者か知るために心眼を使った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
名前:□▲◇△◉▷
◥◣◉◦☛◦◥□▤▷△◇▲◌▶◉
Wtg
Wyrjn
Dgh
Kr
Zcvzcv、j
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
は?ステータスの文字が化けてる!?こんなこと今までなかったぞ!?こいつは何者なんだ。おそらくオレより遥かに強いのは確かだろう・・・。
オレはフェリスをオレの影に隠す、せめてフェリスだけでも守らなきゃいけない。
男は再び口を開く。
「おそらく私が誰なのか、きっと気になっていることでしょう。では名乗らせていただきましょう。私こそ封じられし邪神様の眷属の1人、怠惰を司る者スリムレスと申します以後お見知りおきを」
スリムレスはそういうとオレの方を向く。
「いや本当、雑魚とはいえ邪神様の加護を受けた狼をこうも容易く倒してしまうとは・・・。恐れ入りましたよ、しかしその力からは良くないものを感じますね。貴方はおそらく勇者ですね、体をジリジリと焼かれるような光のエネルギーを発している。そこのお嬢さんもおそらく勇者ですね、貴方からも光のエネルギーが発せられているのがわかる」
そう言うとスリムレスは優雅に笑いだした。しかし、不気味さも感じる声だ。
「ホッホッホ、私の話はここまでにしておきましょうか。次に貴方達っのことを教えていただきましょうか」
オレは話すことを躊躇ったがここで喋らないと殺されるという恐怖が体を支配していて、逆らうことができなかった。オレは重い口を開いた。
「オレの名前はカイト、昔冒険者をしていたがいまはこの村で農民をしている。そしてこの子はフェリス、オレと一緒に暮らしている仲間だ」
「ほう、冒険者から農民になったということははじめからその力はなかったわけですな。ではその力はどこで手にいれたのですかな?」
スリムレスはそう聞くと何処からか机とティーポットを取り出した。
「あ、今使ったのは空間魔法です。おきになさらず」
そういうと、カップを唇へ傾ける。その姿はとても優雅であったが殺気から感じる恐怖はいまだに消えることはない。オレは再び重くなった口を開く。
「オレがこの力を手にいれることが出来たのは、あんた達の狼に追われて森に逃げ込んだお陰だ。そこに運よく穴があってそこに落ちたオレは九死に一生を得た。落ちた先は大きな空洞があった。そこで宝石のついたベルトをみつけ、身に付けたらこの力を得ることができた。フェリスもこの宝石のお陰だ」
もはや尋問のようだった。少しでも偽りの話をしようとするとこちらの心のなかを見ているように目を見つめ、無言で殺気を放ってくる。体中から汗が吹き出てくる、1秒1秒が長く感じる・・・速く終わってくれ!
「ふむ、これはまた面白い情報が手に入りましたね。これで邪神様にも良い報告が出来そうです。いやはや、これでは私が得をしてばかりですね。それではこうしましょ貴方達に1つだけ質問をさせてあげましょう。ええ、勿論必ずお答えするので安心してください」
そういうとスリムレスはピタリと殺気を放出するのを止めた。オレとフェリス、村人達は強張らせていた体を緩める。勿論、警戒は続けている。
「じゃあ、1つ質問を指せてくれ。もし邪神が復活したらこの世界はどうなる?」
「ホホホ、そのようなことであればいくらでもお答えして差し上げましょう。まずはじめに、邪神様は確かに封印をされていますがそれは完璧なものではありません。長い年月を過ごしていくうちに、勇者にかけられた封印は次第に弱まっていきました。なので今は半分は覚醒されている状態です」
スリムレスは再び語りだした。
「それでは、本題に入りましょう。邪神様が復活なされると世界は滅亡します、それほどまでに邪神様のお力は強いのです。ちなみに貴方達が邪神様と戦ったとしても一瞬のうちに殺されてしまうでしょう。まあ、どっちみち殺されてしまうのならその選択も無駄ではないと思いますけどね」
オレはオレの中から湧いてくる怒りを止めることは出来なかった。ふざけるな!そんな運命なんてあってはならないだろ!くそっ、オレに力があれば邪神を止めることができるのに・・・。いまだってこうだ、ただ怯えるだけで何も出来ない!無力な自分からやっと抜け出せたと思えたのに・・・。悔しい、悔しい。殺してやる、いつか絶対殺してやる・・。
視界が黒く染まっていく、自分の感情がコントロール出来ない。どす黒い感情がオレを支配していくのがわかった。
「スリムレス、お前を殺す!!絶対に殺す!」
オレは無意味な事だとわかっていても叫ばずにはいられなかった。こんな運命許せるわけないだろ!運命なんてオレが変えてやる、そのための力を手にいれたんだろ!!
オレは剣を構え、スリムレスを睨み付ける。フェリスがなにか言っているが耳に声が入ってこない。そんなことより、今はこいつを始末することが先だ。
「ホッホッホ、これはこれは。威勢が良くて実によろしい。しかし、まだまだ青いですね。貴方は自分の力を過信し過ぎている。折角の命です、冷静になり相手との力量差を見分けないと早死にしますよ。あなたは、そのお嬢さんを残して死ねないはずでしょう」
スリムレスはそう言うと、また空に穴を開け始めた。
「私としてもまだ若い芽も摘んでしまうのは実に心苦しい。それに、始めにお伝えしましたが私は挨拶に来ただけです。今日はこのまま帰らせて頂きますよ。」
スリムレスは顎に拳をそっと置きなにやら考え始めた。
「・・・ふむ、私としては今の貴方達では心もとない。そこで1つ、プレゼントを差し上げましょう」
そういうとおもむろに魔方陣を地面に浮かび上がらせる。そのサイズは大きくかなり高等な技術がかかった魔方陣だと見てとれる。しばらくすると魔方陣が輝きだし幾つもの文字が浮かび上がる。そして莫大な魔力が溢れだしてくると、空の色が変わり始めた。青空は次第に赤みを帯びていく、そして空は雲が覆ってゆく。
「気に入って頂けたら嬉しいですね、貴方達っlがこの戦いを乗り越えられたらさらなる高みへ行けるでしょう。いずれまた会うとき、成長した姿をみせて下さいね」
スリムレスは仕上げにかなりの量の魔力を魔方陣に注ぐと、大声をあげた。
「いでよ、冥界の門を守りし魔獣ケルベロス。その姿を顕現せよ!・・・それでは皆さん、幸運を祈りますよ」
そう告げるとスリムレスは空間の裂け目に消えていく。
魔方陣から獣の片腕が飛び出す、その腕は大人2人ほどの長さと太さを持っていた。次に頭が出てきた、その頭は犬の顔をしており1つだけではなかった。首が3つついているのだ。その体からは腐臭が発せられ、見るものすべてを怯えさせる存在感をはなっていた。
その姿は見るものに恐れを抱かせるほどの威圧感を放っていた。
3つの犬の頭を持つ冥界の魔獣ケルベロス。こいつは、誰もが知る伝説上の魔獣だ。冥界の門を守り、来るものは歓迎し去るものには襲いかかる。そんな言い伝えがあったはずだ。
ケルベロスの全長は15メートルはありそうだった。腕は大人1人分よりも一回り大きく、爪はそこらの剣よりも鋭く長かった。からだは黒い毛で覆われており闇夜を連想させるようだった。ケルベロスは辺りの獲物を観察する。その狂気の目を見てしまった村人の一部が意識を飛ばしてしまった。かろうじて意識をたもっている村人も狂気によって手足を震わせ、失禁をしてしまったものもいた。オレの後ろにかくれているフェリスも怖そうに震えていた。
オレは戦えるのが自分だけしかいないと覚悟をきめる。村人は戦力的に無理があるし、いられるだけ邪魔だ。避けた先に村人がいて傷を受けてしまったらたまったもんじゃない。それに女子供がいるんだ、戦わせることなんて絶対にできない。
フェリスも勿論戦わせることはできない。
フェリスが戦えない理由の1つはステータスの低さだ。圧倒的な勇者の力を手に入れたところで、結局のところスキルや称号を手に入れただけだ。根本的なステータスはレベル1の少女と変わりなく、仮初めの刃を手に入れたのにすぎないのだ。
オレはケルベロスが動き出さないことを確認しつつ声をあげる。
「みんな!ここはオレに任せて速く逃げろ!!」
ケルベロスはいつ動き出すかわからない、はやく逃げてくれ。
「カイトさん、でも・・・」
貴方が残るじゃないですか。そう言おうとしてるのがナタリーちゃんの不安そうな顔から読み取れる。他の村人も同じようにオレを心配して足を止めていた。この村人達はいい人ばっかだな・・・。オレは胸の中が温かくなっていくのがわかった。だが今はそんな感情にひたっている場合ではない、オレは微笑みだから声をあげた。
「みんなありがとう、でも大丈夫だ。スリムレスが話をしたがオレは実は勇者になったんだ。だから負けることなんてない、だから安心して逃げてくれ!」
村人達はこれ以上とどまるつもりはなかった。カイトの説得に応じたのもそうだが、自分達がここにいるとカイトの邪魔になってしまうと感じたからだ。
「カイトさん、生きて帰ってきてくださいね!」
そうナタリーちゃんが告げると村人達は走って逃げていった。倒れている者は他の村人に支えられて運ばれていく。それを見届けるとオレはフェリスに大事な事を伝えた。
「フェリス、恐らくだがオレの力ではケルベロスに止めを刺すことが出来ないと思う。だから、フェリスはこれから隠れてスタンバイしてとどめを刺してくれないか?合図はだすからさ」
心眼を使わなくても、あいつが滅茶苦茶強いことはすぐにわかった。おそらく決定的なとどめを刺すことも難しいだろう。そこでフェリスのスキル断罪だ。何故かは分からないがオレはそいつが凄い威力のあるころがなんとなくわかった。自分のスキルがなんとなく解るのと同じ感じだった。ラストアタックはフェリスにしてもらう。
「はい、わかりました!カイト、頑張って!」
「おう!」
フェリスは急いでオレから離れていった。フェリスから可愛い応援をもらったオレは正直いうと無敵だ。いまならなんでも出来る、そう感じるほど体は高揚していた。恐らくだが世の中のお父さん達はみんなこれを体験しているはずだ。
オレはケルベロスに剣を向ける。
「またせたな、ケルベロス。待てが出来る犬でよかったよ」
ケルベロスはオレがそういうと唸り声をあげ、戦闘体勢になる。オレ達は互いに殺気をぶつけ合う、オレはこいつを倒してさらなる強さを手にいれる。それだけだ。
「ハアアアアアアアアア」
オレはケルベロスに向けて一気に踏み込んだ。それを合図にケルベロスも走り出す。オレは真正面からケルベロスに斬りかかった。しかし、顔面を叩ききる瞬間に当然だがケルベロスが右の爪で防御してしまった。少し剣を払われただけだがオレは衝撃を受け止めきれず、そのまま後ろへ飛ばされてしまう。
「光壁ッ」
オレは空中で体勢を整えると、足場を作りそれを踏み台にケルベロスに上から斬りかかる。ケルベロスは1歩うしろに下がるとオレが落ちてくる瞬間を狙って前転し、尻尾を鞭のように叩きつける。オレはとっさにガードしたがまたしても後ろへ飛ばされる。ケルベロスはそのまま飛ばされたオレを追いかけてくると右腕を振り上げオレ目掛けて叩き落としてきた。オレは光壁をつかって空中で後ろに飛んで避ける。しかし、ケルベロスは休む暇もオレに与えず執拗に腕を叩きつけてきた。オレは必死に避ける、あんなのくらったら一瞬でミンチだ。
オレは体勢を整えるとケルベロスの右腕を斬りつける。しかし、わずかな切り傷しかケルベロスにつけることが出来なかった。ケルベロスがかたすぎてろくに攻撃が通らない。ケルベロスは腕をふってオレを切り裂こうとする。オレは何度も地面を転がり必死になって転げ回ることしかできなかった。オレは一瞬ケルベロスの攻撃が止まった瞬間で後ろへ距離をとる。
「このままじゃ埒が明かないな、今度はオレの番だ!!」
オレはスキルを発動させる。
「光剣ッ」
オレの持つ剣が輝きだす、するとその輝きは形を形成しオレの剣を二倍ほどの長さにした。オレは真正面からケルベロスに向かって走っていく。ケルベロスもオレに向かって走ってきた。そしてケルベロスが先にオレに拳を振り落とす。
「そこっ!!」
その瞬間オレは体勢を落とし地面に足から滑り込む、ケルベロスが上を過ぎていくのを狙ったのだ。オレは無防備にさらされたケルベロスの腹に剣をあてるとそのまま線を引くように切り裂く。ケルベロスが上を過ぎていくのを確認するとすぐさま起き上がった。よし、深い傷とまではいかなかったがかなりのダメージを与えることができた。
ケルベロスはその瞳を怒りで染め上げる。ケルベロスは体から突如黒い霧を出し始めた。
あれはなんだ?オレはケルベロスを警戒し大きく距離をとった。そしてケルベロスの出した霧が晴れていく、するとそこにいたのは3つ首のケルベロスではなかった。そこには首が1つのケルベロスが3体いたのだった。
おいおいっ、勘弁してくれよ!3体同時なんて無理があるだろ!
3体のケルベロスはオレに向かって走ってくる、これケルベロスって呼ぶのも無理があるんじゃね!?
3体のケルベロスがオレに爪を振り落とす。1体の腕を弾き返すともう2体のケルベロスが死角からオレを切り裂き、その2体を相手しようとするとまたもや死角から1体が切り裂いてくる。オレの体には切り傷が次第に増えていく、血がどんどん流れていき攻撃をさばくスピードは落ちていった。意識が遠くなっていくのが感じられる、体が重い。
もうあきらめてしまおうか・・・オレは沈んでいく意識の中で1つのスキルを発動した。
「限界・・・突破ッ」
体から力が溢れてくるのが感じた、体の重さが嘘のように消えていく。あきらめる?・・・ふざけるな!運命を変えるにはあきらめるわけにはいかないんだよ!壁があったらぶち壊していく、それがオレなんだよ!
想いが強くなれば強くなるほどその力は増していく。
オレは剣を力任せに振り回し、ケルベロス共を遠くまで吹き飛ばした。
「ステータスオープン!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
名前:カイト 20歳 レベル:40
種族:人間
天職:勇者
筋力:1028(+630)
体力:1011(+500)
耐性:1023(+543)
敏捷:1015(+620)
魔力:1004(+580)
魔耐:1020(+520)
スキル:心眼LvMAX 千里眼LvMAX 剣技LvMAX 光壁Lv2 光剣Lv2
限界突破Lv1 武器召喚LvMAX
称号:破魔 邪神を倒すもの 運命を変える者 鋼の意思 女神の加護
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
オレのステータスは2倍近くなっていた。これなら・・・勝てる!
吹き飛ばされた3体のケルベロスはまた黒い霧をだし、1体に戻っていた。
いくぞケルベロス、二回戦目の突入だ!
魔力量は2倍になったとはいえぐんぐん魔力が減っていくから光壁は使えない。一気に攻めこむ!!
オレはケルベロスに斬りかかる、腕でガードされようがオレの攻撃力の前では無意味だ。切り裂く、何度も切り裂く。反撃の時間なんてあたえない。
「ウオオオオオオオオオオオオッ」
ケルベロスのかたかった体は簡単に切り裂かれる。どんなにかたかろうが圧倒的なステータスの前には雑魚のようなもんだ。
ここで一気に勝負に出る。オレは地面に剣を突き刺し残りの魔力をすべて叩き込む。すると、光剣によって長くなっていた剣は魔力をつぎ込んだことによってさらに大きさを増していく。
魔力をすべて叩き込むと、その大きさは15メートルを越える巨大な剣になっていた。オレが持てる大きさじゃないが、それでいい。
オレは怯んでいるケルベロスに走りよるとケルベロスの真上を飛び越えて尻尾につかみかかる。
「こんなこともできるんだぜ?」
オレはケルベロスを振り回し始める。次第に回転力を増していくと風をきる音は鋭くなっていきその姿は嵐のように激しくなっていく。じりじりとオレは突き刺した剣に近づいていく。ここらで十分だろう。オレはケルベロスを突き刺した剣にブチ当てる。ブチリと肉が裂ける嫌な音がした。
ケルベロスの首は2つ叩ききられていた。かろうじて首1つ残り生きているがもはや虫の息だ。しかし、それと同時にオレは膝から地面に崩れ落ちた。限界突破の代償がここで現れたのだ、オレの体は指1本ですら動かせなくなっていた。しかし、オレは根性で叫び声をあげる。
「フェリスッ トドメをさせ!!」
物陰に隠れていたフェリスはスキルを発動する。
「わかりましたっ、断罪!」
突如ケルベロスの首が道具に固定される。固定している道具にはギロチンがつけられていた。そう、これは処刑台だ、悪を裁く聖なる刃。
ケルベロスは必死に抵抗するが、無慈悲にもそのギロチンは落とされる。処刑完了だ。
おわった・・・。
『レベルが上がりました』
『スキルのレベルが上がりました』
『称号を獲得しました』
そこでオレの意識は暗闇に沈んでいった。
最後にフェリスが駆け寄ってくるのが見えた気がした・・・。