第1章 3話 稽古より雑談
「ふふっ、ふふふっ」
「何お前さっきから笑ってんの?」
「だって〜、これから初稽古ですよ?そりゃ楽しみに決まってるじゃないですか〜」
「そりゃよかったな」
私は今、本屋で隼人さんとラノベの立ち読みをしています。電車が来るまで本屋で待っとこうと思って入ったら、隼人さんも読んでました......この人ほんとに社会人か?
「名前は風雅さんって言うんですけど、優しくてかっこいいんですよ!」
「......風雅......か。今度合わせてくれよ」
「ぜひ!多分私の友達にOCPの人がいるって知ったらびっくりしますよ!」
「だろうな......」
「私も強くなったら隼人さんを負かしてやるんですから!」
「もしそうなったらOCPに就職させてやるよ......
っていうか、お前はお金関連のことは大丈夫なのか?」
「......まあ、そこの辺はチョチョっとやって、チョチョイのちょーいみたいな?」
「適当だな......バイトも弟子入りと同時にやめたらんだろ?」
「まぁそうですけど......」
「たく......ほんとに困ればちゃんと相談しろよ?俺じゃなくても、その師匠にでもいいし」
「......ほんと、隼人さんは優しいですよね」
「まぁお前とは昔から知り合いだしな。まあ、約束したしな」
「約束?誰との約束なんですか?」
「まじか......いや、まあ近いうちに教えてやるよ」
「なんなんですかー?そこまで言ったら教えるでしょ!大人なんですから!」
「......そういえばお前、時間大丈夫か?」
「ん?......あーー!電車の時間過ぎてる!」
「お前......初稽古遅れるとか......ないわー」
「......そういう隼人さんこそ市民を守るOCPなのにこんなとこでラノベ立ち読みとかいいんですか?」
「別にいいだろ?!捜査兵も休みが欲しいんだよ!」
「......まあ、次のバスまで立ち読みしますか」
「そうだな......そういえばこの本なんだけど......」
そんなしょうもない話を隼人さんとしていたらあっという間に時間は過ぎ、結局私が乗った電車は予定の2本後だった。
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「だぁー、もう遅刻だ......」
私は走りながら憂鬱な気分になっていた。さっきまでの初稽古楽しみ〜って言っていたのが嘘みたいだ。
「......やっとついた」
見渡すけど、風雅さんは見当たらない。
「ふっ、やはり風雅さんも遅刻か」
「な訳ないでしょ」
「風雅さん!?ななな、なんでここに?」
「待ち合わせ時間に間に合わないことは何となく察してだけど、まさか30分遅れとは......」
「いえ、これには深い事情がありまして......」
「どんな事情ですか?」
「えっと......知り合いと喋って本屋で立ち読みしてました」
「全然深くないですね!?......まあ素直に話してくれただけまだいいですよ。さあ行きましょ」
くそっ、優しすぎる......そんな優しくされると次も遅刻しちゃいますよ?
「......次にもし遅刻したら勘当しますからね」
「そんな〜、まだ弟子入り2日目じゃないですか!」
「遅刻しなければいいだけじゃないですか」
「......そういえば風雅さんの家ってどこなんですか?私の稽古場所って風雅さんの家?」
「まあ、半分合ってて半分間違いっていうか......」
「どういうことですか?」
「ついたらわかります。それより有栖さんは何年か剣を振っていたって言ってましたけど、自分の木刀とか持ってます?」
「捨てました!」
「未練がなくていいと思いますよ!でも、だとしたら
何か剣を貸さないと......特にこだわりとかないですよね?」
「当然!ないですよ!」
「ですよね、っと着きましたよ」
「へー、ここが......思ってたより普通の家で良かったですけど」
「ただいまー、ばあさん!」
ばあさん?おばあちゃんと二人暮らしなのかな?
「おかえりなさい。あぁ、あなたが風雅のお弟子さんかい?」
そして玄関まで出てきたおばあちゃんを見て私はびっくりした。
「あなたは......四宿天皇の織部 ヨシさん?!」
「そんな大層なものではないですよ。所詮はもうただの老いぼれですから」
ヨシさんはこういうが四宿天皇はかなり凄い人なのだ。
江戸時代に江戸と各地域とを結ぶ五街道の最初の宿場町である千住宿・板橋宿・内藤新宿・品川宿の4つのことを四宿と呼んだ。
四宿は江戸の出入り口として人や物資が行き来したり、情報や文化などが広まったりする重要な場所であり、周辺の町とは違った街並みや文化が栄えていた。
その名残として東京の23区を守っている者を四宿天皇と呼ばれている。
そして風雅さんが住んでいる町である20区を拠点として、18区からわたしの住んでいる町の23区までを守っている四宿天皇が織部 ヨシさんという人だ。
ヨシさんは四宿天皇の中でも穏健派で、周りの町も一緒に守ってもらっているので、私の町も守ってもらっているはずだが......
「そんな偉い人が風雅さんのおばあちゃんなんですか?!だとしたら私はとんでもなくすごい人に弟子入りしてしまったんじゃ......」
「ちがいますよ。訳あって俺はばあさんの家に居候させてもらっているんです」
「そうなんです。風雅には居候させてあげてる代わりに、私の代人として町を守ってもらっているんですよ」
「どっちみちすごい人じゃないですか!つまり私は未来の四宿天皇の弟子になったんですよね?!」
「だから俺はそんなにすごくないですよ!というか今日は稽古をしにきたんですよ?早くやりましょう!」
「えー......」
私はもっとヨシさんと話たかったのに......まあ本来の目的を忘れても仕方ないかな。
「早くきてください!」
そう言われて、稽古場へ向かう風雅さんに少し早足でついて行くのだった。
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「さて、有栖さんの剣は......これでいいですか?」
渡されたのはなんの変哲も無い木刀だ。まあ、別にこだわりがないって行ったのは私だけど......
「フツーだなー。本物の剣じゃないんですね」
「なんでもいいって言ったじゃないですか!しかも、本物の剣は扱うのが難しくて危ないですから、まずは木刀です!」
「わかりました。そりゃそうですよね」
「じゃあ、まずは有栖さんの身体能力を見るために俺とひと勝負しましょう」
「はぁっ?!無理ですよ!勝てる訳ないじゃないですか!」
「勝てるとは思ってません!あくまで元々の身体能力を確認するだけです。別にタコ殴りにはしません。俺も有栖さんと同じ木刀でやりますし」
タコ殴りって、言い回しが可愛いな.....
「そうですか?なら......いきますよ」
「いつでもどうぞ」
なんなんでしょう、確かに私の方が下手なのは当然なんですけど何か余裕かましてる。一発でいいから剣を当てたい。
私は強く地を蹴って加速する。これでも何年か剣を習っていたのだ。一気に風雅さんとの距離を縮める。
「うおぉぉぉ、りゃっ!」
私は木刀を強く振った。さっき持った感覚から中々軽かった。だから素早く振れる、そう踏んでいた。なのに......
「あれ......?」
いない......どこに?
「確かに普通の女性より何倍も身体能力は高いですね。でも、さすがにいきなり剣を教える者が負ける訳にはいかないですよ」
「なっ!」
後ろを振り向くと、私には木刀の先が向けられていた。これが......私が風雅さんに初めて会ったときみたいに本物の剣だったら......そう思うと冷や汗が出てくる。
「......さすがです。一回でも剣を当ててやろうと思ってたんですけど無理でしたね......」
「でも、中々素早い動きでしたよ。その上しっかりと獲物を狙っている目でした。でも、一発に思いを込めすぎですね。避けられたらどうするつもりだった?」
「......当てるつもりだったんで、特に考えてませんでしたけど......」
「では、そこのへんをこれからの稽古でやっていきましょう!剣術に限らず人と戦う時は2手3手先を読んで攻撃をするのがコツです!身体能力的には全然悪くないですし、早速素振りからしましょう」
「えーっ!休ませてくれないんですか?」
「はい!じゃあ基礎体力をつけるためにも素振り100回を3セットしましょう!さあ、強くなるためには基礎を極めることも重要ですからね!」
「いや〜!休憩させて〜!」
私はこの時悟った。この初稽古、終わった時には腕が筋肉痛は不可避だろう。