第1章 2話 頼みごとの返事
「私をあなたの......弟子にしてください!」
私は史上最高に頭を深々と下げ、私の人生が決まる大きな頼みごとをした。
「えっ、あなたが俺の弟子に?」
「はい。あなたのもとで剣を学ばせてください!」
「いやいや、俺は人の師匠になるほどすごいやつじゃないんですよ?剣を学ぶんなら俺じゃなくでもいいんじゃ......」
「いやっ!あの強盗に向けた刀!鞘から取り出すまでの短い時間!相当な剣豪だと見えました!お願いです!弟子にしてください!」
「うーん......」
相当悩んでいる。まあ、そりゃそうだよな......本屋のバイトに剣を教えるなんて......
「やっぱり......ダメでしょうか......」
「......あの、1つ聞きたいんですけど、なんで剣を習いんたいんですか?」
「えっ、それは......」
まさか動機を聞かれるとは思わなかったのですぐには思い出せなかった。でも次第に思い出してきた。私が剣士に憧れる理由、それは10年ほど前のこと......
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「おーい!兄ぃ、ご飯だよ!」
「おっ、もう飯か。りょーかい、すぐ帰る」
私には10年ほど前の第一次異世界大戦真っ只中、兄と母親と父親の3人でのどかな田舎の一軒家に住んでいた。村人のみんなはとても優しく、都会から引っ越してきた私たちにたくさん教えてくれた。
母親はいわゆる専業主婦で私をよく見てくれた優しい親だ。父親は発足したばかりのOCPに勤めていて私の自慢だ。まあ単身赴任でいつもはいないんだけど......兄はいつも剣を振っていた。学生であったのに近所の森の中で1日中。時々私にも剣を貸してくれて一緒に素振りをすることもあった。でも、私が剣に憧れる理由は親が市民を守るOCPだからでも、小さい頃から剣を振っていたからでもない。
「ねぇ兄ぃ。なんで毎日剣ばっかり振ってるの?もっと楽しいことはたくさんあるのに......」
「そうか?剣を振るの楽しいぞ?それに剣を学べば大切なものを守ることができるしな」
「大切なもの?例えば?」
「例えば......アリスとか母さんとかかな」
「えへへ〜、照れるな〜」
「たまにはいいことを言うようになったなー。でも父さんも大切なものに入れてくれない?」
「父さんは自分で守れるだろ」
そんなことを夜ご飯を食べながらいつものように話していた。その日の夜のことだった。
私は突然目が覚めた。普段寝ている途中に起きることがなかったのでびっくりしたが、それよりも驚いたことがあった。
部屋が燃えていた。家が燃えていた。いや、村一帯が燃えていた。私は急いで窓から家の外に出た。
外に出て始めに目に映ったものは見覚えのある人の死体。そこらじゅうに転がっている。そして遠くには仮面をつけ、血が付いた刀を構えている人たちが......
「......あ......ぁ......」
怖い。足がすくんで動かない。この場に立ち止まったままではすぐにでも殺されてしまうだろう。
「おいっ、アリス!こっちへ来い!」
「兄ぃ!よかった。死んでなかったんだね!母さんと父さんは?」
「人を勝手に殺すな。父さんも母さんもちゃんと生きてるよ。あとアリス、お前にお願いがある」
「何?今じゃないとダメ?早くここから逃げよ?」
「そう、お前は母さんを連れて逃げてくれ。母さんは森の奥で待たせてるから」
「えっ、父さんは?兄ぃも逃げるよ......ね?」
「俺と父さんは村やお前たちを追ってから逃がすためにここに残る」
「言ってる意味がわかんない!逃げよ?だって私たちを逃がすために残るんだったら一緒に逃げながら守ってくれればいいじゃん。村だって......その......見捨てろってことじゃないけど、生きてないと意味ないし、住む場所はまた見つければいいじゃん。だから......」
すると私の心配を溶かしてくれるように、優しく鍛えられた力強い腕で包み込んでくれた。
「大丈夫。俺も父さんも死なないから。絶対にアリスたちのところに戻ってくるから」
「......ほんとに?」
「あぁ、当たり前だろ?俺たちは家族なんだから。死んでも戻ってくるよ」
「ほんとに死んじゃダメだよ?」
「おう!絶対父さんと戻るからそれまで母さんをよろしく頼むぞ」
「うん!」
私は兄ぃが言っていた森を探し母さんを見つけた。幸い村人の何人かが固まっていたので、みんなで協力して森を抜け街へ出た。
すぐに近くの交番に行き、救助を求めた。私の父がOCPだったこともあり、すぐに救助隊を派遣してくれた。
村一帯が燃えたこともあり近くの町の住人も山火事かと思い、通報していたので一足先に救助隊が向かっていたので、最悪の事態は避けられるだろうと安心した。
だが、それでも一足遅かった
OCPの人によれば、村は壊滅。跡形もなく全て燃え尽きていたようだ。そして、村人だけでなく山火事の通報で派遣された捜査兵も殺されていたようだ。
しかし死体の3分の2以上が身元が不明らしい。近くに身分証明書が残っていたりしていたものは、わからないこともなかったようだが、身体が黒ずみになっていてDNAすら検出できなかったようだ。それが火事のせいなのか、そんなことはどうでもよかった。
その亡くなってしまった人の中にも当然のように私の家族も含まれていた。父さんと思われる死体の近くには父さんが愛用していた刀が地面に刺さっていたようだ。それだけは綺麗に形が残っていたことから最後まで戦い、守ろうとしたんだろう。兄さんは身元を示すものがなかったものの多分......
私は酷く後悔した。私があの時無理矢理でも一緒に逃げるように説得すれば......
でも私が凹んでいては仕方ないのだ。母さんの方がもっと辛いだろうから。父も兄もいないのなら、大切なものを守れるのは私しかいない。
「そうか?剣を振るの楽しいぞ?それに剣を学べば大切なものを守ることができるしな」
ふと、兄ぃの言葉を思い出した。そうだ、剣を極めて守られる側から守る側へ変わろう。そう思ったのだ。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「そんなことがあったんですか......わざわざ辛い話をさせてしまいすいません」
わたしが話し終えるとそんな優しい言葉をかけてくれた。
「いえ大丈夫です。それにわたしも忘れかけてたんです。いわゆる......平和ボケってとこですかね。母さんを守ろうって思ってから何年かは頑張っていたんですが、受験があり一人暮らしをして。
なのでこの前の事件でハッとしました。何年も訓練をしていなかったから全く動けなかった......これじゃあ大切なものを守れないって思って。だから剣を習って人を助けたいんです」
「......わかりました。それじゃあもう一度言っておきますけど俺はそこまですごいやつじゃないですよ?」
「私から見れば十二分にすごいですそれにあなたみたいに優しい人に習いたいです」
「私が......優しい?」
「はい!だって普通は強盗の現場を見ても警察にはいうかもしれないけど直接助けるような度胸と優しさがある人はそういないと思います!」
私がそう言うと、何か言いたげな顔になりました。あれ?私そんな失礼なこと言ったかな?
「......わかりました。では、さっきの頼みごとの返事なんですけど、私の中で考えたんですが......」
「はい」
あっ、これは、私の中で考えたんですがやっぱり弟子にする気はありません、って断られるやつだ......
「私からも、ぜひ弟子になってください」
「やっぱりだめ......って、え?いいんですか?」
「はい。あなたの強い思いを聞いたらさすがに断るどころか俺の方が学ぶところがあるっていうか......それに俺もあなたが思うような人になれるいい機会かなとも思いますから」
「やった!ありがとうございますっ!えっと......あれ?まだ名前言ってませんでしたね」
「そうでしたっけ?じゃあ自己紹介しましょうか」
「はい!じゃあ先に私から。広瀬 有栖、大学2年生です。これから長い間お世話になります!」
「よろしくお願いします、清宮 風雅、25歳です!あなたの良い師匠になれるよう俺も頑張ります!」
「ちなみになんて呼んだらいいですか?」
「特にこだわりはないですけど......」
「んー、じゃあ私は風雅さんって呼びますね!」
「思いの外普通の呼び方ですね!じゃあ俺も有栖さんって呼びます!」
「じゃあ改めて......よろしくお願いします!風雅さん!」
こうして私の忘れられない大切な日になり、私と風雅さんの師弟生活が始まった。