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常在戦場の壁魔法師  作者: 腹黒の。
第1章 異世界召喚〜王都脱出編
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第5話 扇動、そして投獄

 何だと……? 殆ど全て慶に劣っているステータス、そして『壁魔法』とかいう謎のスキルに『壁魔法以外魔法使用不能』と『壁魔法以外アクティブスキル使用不能』という、何にも制限を掛けるためであろう奇妙なスキル、そして他の奴らには無いであろう『逆らいし者』という称号。

 明らかにおかしい、一体何が起こってる?


「これは……何故でしょうね? 他の勇者様方にはある協力なステータスは無く、辛うじて常人よりは少し高い程度、おまけに壁魔法というスキル以外はほぼ全く使えないだなんて」


 困惑を口にするローブの男。そしてその声は俺が最後の鑑定であったこともあり、辺りによく響いた。

 一瞬の静寂。それを打ち破ったのは他でも無い高原の嘲笑だった。


「はははっ! 何てザマだ、俺はこれほどまでの力を与えられ、お前は殆ど一般人。やっぱり神様は日頃の行いを見ているみたいだ、それで悪人には力を与えなかったようだな!」

「……止めろ、その口を今すぐ閉じろ」


 高原にいくら罵詈雑言を浴びせられたところで多少不快になる程度だ。しかし、この場において強い影響を持っているこいつに悪人呼ばわりされるのは拙い。

 喋りたがりの口を閉じるように促すも、全く意味を成さない。それどころか状況はさらに悪化する。


「リュウセイ殿、彼が悪人というのはどういうことだ?」

「止めろ高原! いくらステータスに差があっても同じ勇者だろ!」


 心底不快な表情を顔に貼り付けながら高原に止めるように強要するのは慶だ。

 しかし、同じ勇者だなんて慶は微塵たりとも思っていないだろう。


「五月蝿いな、伊藤君。王様が聞いているんだ、俺には話す義務がある」


 ここに来てこの場の権威の傘を借りるか、小賢しい奴だ。そしてその口は止まらない。


「王様、彼の性格は産まれながらの悪人そのものです。彼は11歳の時に突如としてクラスメイトのか弱い少女達を無残にも殴り倒し、それを止めようとした先生達にも反撃し、怪我を負わせた過去があります」


 止めろ、それ以上話すな。


「その結果、彼は少年院……悪意を持つ子供達を入れる牢屋のような施設に入れられました」

「何、牢に?」


 止めろ。


「はい、そして彼には一人の妹がいました。彼の妹であるその少女は彼のような悪人の兄がいる事で周りから避けられ、虐げられ、肩身の狭い思いをさせられ続けました」


 ……止めろ。


「俺が彼とその妹に会ったのは同じ高校に進学してからというもの。彼は牢屋から解放されましたが、その後の彼は何と、彼女を洗脳し、束縛していました」


 ……違う、違う。


「俺は不幸で不憫な彼女を束縛から解放し、救うためにこの男に勝負を挑みましたが、凶暴な彼を止めることは出来ず、彼は--」

「違うッ!」


 我慢の限界だった。身体は考えるよりも速く動き、一瞬で高原との間合いを詰め、首をへし折り殺す気でその頭に蹴りを入れた。


「……え?」

「……ッ!」


 しかし、蹴りの直撃する乾いた音と共に俺の脚は高原の頭の横で止まっていた。なぜならその一撃は高原の手のひらで受け止められていたから。

 しかし高原の表情は何故か恐怖と困惑が入り混じった複雑なものだった。まるで、何故自分が蹴りを受け止められ、衝撃さえも耐えて立っているのか疑問に思っているかのように。

 俺が危うい体勢を整えるため、高原と距離を素早く取り、暫くすると正気を取り戻したようで、ニヤリと笑みを浮かべた。


「見てください、彼は事実を受け止めるばかりか否定した挙句、感情的に『同じ勇者である仲間』に危害を加えるような悪人、いえ大悪人です。そのうえ力も殆ど持ち合わせていない。皆さんに問います、彼は果たして俺たちと同じ勇者でしょうか?」


 ああ成る程、俺はまんまと嵌められたということか。この端正な顔の下に醜い面を持っているコイツに。

 高原の扇動は効果的だったようで、俺を見る目は召喚された勇者ではなく、はみ出し者の大悪人へと移り変わっていく。


「ふざけんな……茜?」

「……俺はお前を信頼している」


 高原の扇動に憤慨しているであろう慶の肩に触れ、耳元で囁く。そして慶の背中を強く叩き、前のめりに倒す。


「お前はもう用済みだ」


 高原を始めとする多くの人間の耳に届く声量で慶を突き放す。これで慶のここでの立場はある程度守れるはずだ。

 慶は俺へと振り返り、一瞬怒りを露わにするが、それは徐々に熱を失い、哀しそうな苦しそうな複雑な表情へと変わり、最後には諦めに変わった。


「王よ、いかがなされますか?」

「……今現時点を持ってこの者を投獄の身とする。決して外に出すな」

「はっ!」


 王の命令に従い、ローブでは無く、甲冑に身を包んだ兵士が俺の身体を拘束しようとする。

 兵士の動きは早いが捉えられる。やろうと思えば反撃も可能だろう。

 しかしこれ以上俺の立場を悪くしたら最悪極刑に処されるかもしれないため、兵士に脇を固められた後に少しだけ抵抗する素振りを見せて、大人しくしろ、と言われてから観念したように止めた。


 こうして俺の異世界召喚は大悪人として投獄されるところから始まったのだった。

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