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常在戦場の壁魔法師  作者: 腹黒の。
第1章 異世界召喚〜王都脱出編
3/18

第3話 葛藤、そして対面

 篝火のみが照らす薄暗い土の洞窟の中に大勢の人間が歩く音が響き渡る。

 ぴしゃっと顔に降って来た水滴を拭い、改めて今の状況を整理する事にした。


 まず、何時ものように学校に通ったら教室にクラスメイト全員が閉じ込められ、魔法陣らしき謎の光に包まれたと思えば拷問のような痛みに襲われ気絶。

 目が覚めたら洞窟の中で黒ローブと西洋甲冑の集団に囲まれていて、混乱していたら俺達は召喚された勇者でここは日本とは違い異世界だと説明される。

 さらに俺達には何かしらの力がいつの間にか与えられていたらしく、現在それを判別する為に玉座に連行されている最中っと。


 いやいやいや、確かに最近は刺激が無くて退屈していたが、その矢先に異世界に召喚って、超展開にも限度ってものがあるだろ!

 しかも異世界だぞ、地球上じゃないうえに頼れる仲間が慶一人で他の奴らは俺を嫌っているなんて冗談にも程がある。

 おまけにいつ日本の故郷に帰ることができるかは不明で、そもそも帰る方法すら見当たらない。

 俺が今まで生きてきた中でも生命の危機は幾度かあったがこれは格が違う。地球上で生きる知識の幾つかが使い物にならなくなるだけでも致命的だ。


「茜、今度は俺達とんでもない事に巻き込まれちゃったな」


 ゲーテルが話を終え、歩き始めるとクラスメイト達はお互いに会話を始めていた。

 慶もこの現状に嫌気がさしているような呆れた声で話しかけてくる。


「全くだ……慶、お前はこの状況をどう見る?」

「かなりヤバめだよな。茜の祖父じいさんや母さん、菫の力も借りれないし……大きな声じゃ言えないが、この集団に身を置き続けるのは危険だ」

「目下の課題は早期脱出か」

「そこが問題なんだよなぁ、茜の案だと顔はほとんど覚えられない状態で脱出できたとしてもその後が右も左も分からない状態が暫く続くし、暫く知識を得る為に身を置いていたら必然的に俺達を覚えられるから脱出後の追っ手の存在が枷になる」


 囲んでいる奴らに聞こえないように集団の内側に入り小声で会話を続けるが、互いの意見はほぼ一致しているようで、さらに慶は俺の考えにさらに意見を加える。

 慶は俺と本気で真っ向勝負をすれば俺のほうが僅差で勝つが、頭は慶のほうがキレる。

 一つの考えに縛られず、現状を論理的に素早く判断し、幾つかの可能性を視野に入れる能力に長けている。

 多くの事を一度に考えるのが苦手な俺からすると少々嫉妬してしまうが、大事の時には慶ほど信頼出来る奴はいないとつくづく思う。


「それに……俺達二人なら比較的簡単に逃げれるかもしれない。でもそれにも二つリスクがある」

「まだあるのか、詳しく」

「こいつらの存在だよ、本当にこいつらをこの国に残してもいいと思ってんの?」


 慶の言葉に俺は口を噤んだ。きっと俺は今、苦虫を噛み潰したような顔をしているに違いない。


「まず出来るだけ多くを説得して一緒に脱出させないと、この国の奴らと違ってこいつらは俺達が逃げ出した時、追手として使われた場合の危険度は上がる。もう一つ、こいつらは味方にさえなれば利用価値が非常に高い……茜は嫌だろうけどさ」


 慶の言いたい事は嫌でも分かった。要約すると、クラスメイト達を説得してこの国から脱出させないと後々敵に回さなければならなくなる可能性が高くなる。

 そして彼らには利用価値がある。それは俺達が通っていた学校が特異な物であった事による。


 私立繚乱高校、全国から特出した才能を持つ少年少女を集めその才覚をより高め、あらゆる分野のスペシャリストを養成する学校で、俺達はそこに通っていた。

 入学条件はその才能を証明するか学力試験で特に優秀な成績を取るかの二つで、俺達のクラスのほとんどは前者で入学している。

 彼らを敵に回すということはその分野のスペシャリストを敵に回すのと同義であり、俺の知る限りでは異世界でも通用する才能を持つ奴は多い。

 しかし最大の問題がある。それは俺の事をクラスの殆どが嫌う、もしくは恐れている事だ。

 

「嫌に決まってる、俺はこいつらを助けたくないし敵対しても良い。どうせこいつらも慶はともかく俺と協力したいと思うはずが無いだろ」


 周りの人間に聞こえない静かな声で喋っていた筈なのだが、怒気を強く含んだその声は周囲のクラスメイトに聞こえていたらしく、その肩がびくりと震える。

 幸いにも囲んでいる連中は特に気にしていないようだが、慶はため息を吐き、目頭を手で覆った。


「あー……お前って奴は。説得は俺が人を選んでやっておくし、茜は実行する時に動いてくれたら良い、説得した奴に文句は俺が言わせない。これでも駄目か?」

「……分かったよ」


 口では渋々了承したが、本当は奴らを助ける事なんてしたいとは思わない。むしろ見捨てておきたいぐらいだ。

 慶は本来は自由奔放な性格で、自分の意見を押し通そうとする事は滅多になく、今のように必死になって頼むのはそれこそ稀だ。

 さらには有事の際に俺ばかりが協力を頼んでいる分断り難く、了承する他なかった。

 

「そろそろ出口です。もう少しで玉座の間へと着きますので、もう暫し歩いて頂きます」


 ゲーテルが声を張った地点は洞窟の壁の突き当たりだが、幅の広いの石の螺旋階段が顔を出していた。

 もう少しで着くということは城の敷地内の地下なのか。だとしたら一本とはいえここまで巨大なトンネル状の洞窟が下にあったら地盤が緩んだ時に大惨事になりそうだ。

 階段を上り始めると洞窟の土臭さが消えたが、人が滅多に入り込まず手入れが行き届いていないのか埃っぽく、独特なカビ臭さが鼻を突いた。

 それからさらに5分ほど長い階段を登り続けると体育館の半分程度の広さの半円形のドーム状の天井の部屋に辿り着く。

 その部屋の奥には天井の高さほどもある鉄のような材質でできた両開きの大扉が構えられて、その表面には幾何学模様に似ているがバラツキのある不思議な模様が浮き出ていた。


「今からこの扉を開きます。こちら側に開きますので危険ですからお下がり下さい」


 ゲーテルに注意を促され、前に出過ぎていた一団が後退する。

 しかしこれだけ巨大で重量のありそうな扉を、服の上からでも筋肉の付きが悪そうな痩せ気味の男がどうやって開けるのかと見ていると、ゲーテルは扉に手を触れる。

 すると、触れた場所から水色の淡い光が扉全体の模様に沿って走り、さらにこの部屋の壁や天井にまで光の筋が描かれる。

 クラスメイト達がそのファンタジーな光景に感嘆している間に扉から離れ、一団の辺りまで後退すると、その鉄塊は重厚感のある地響きの音を立ててゆっくりと開き始めた。


「さて、続けて参りましょうか。この扉は私のような一部権限の与えられた人間でしか開けないので取り残されることの無いよう、速やかにお通り下さい」


 ここで扉の裏側に残って洞窟の中を今一度探索しようとも考えたが、どうやらこの大層な仕掛けを施した部屋を一人で出る事は無理らしい。

 なんとなくだが扉の横側の石レンガを壊して脱出するのも魔法的要素が働いてそうで無理な気がするし、このままついていくしかないようだ。


 扉を潜った先の部屋はその前の部屋と左右対象で、階段があった位置には狭い通路が一本繋がっていた。

 さらにその先を進むが途中から道が途切れていて、行き止まりかと思いきや、ゲーテルが壁の石レンガの一つを押した。

 するとガチャガチャと機械が作動したような音が聞こえた後、行き止まりだった壁が横に開き光が差し込む。

 仕掛け扉が開いた先の床にはレッドカーペットが敷かていて、等間隔に壺や絵画などの調度品が置かれていることから、おそらく城の廊下に出たのだろう。


「ふぅ、ようやく汚い場所から城に戻れました……改めまして、ようやくハーメリラス城へ。本来ならざ正門から歓迎したかったのですが、今は勇者様の存在は極秘となっておりますのでご了承下さい」


 へぇ、まだ国民とかには極秘の扱いなのか。大々的に宣伝しといて召喚が失敗でもしたら拙いからとかそんなとこだろうが。ていうか、ハーメリラス城って名前なんだな。

 隠し扉が閉じた場所を確認しつつ、入り組んだ城の内部をさらに10分ほど歩き続けるとようやく玉座の間の前らしき空間に到着した。

 そこにはさっき見た光る鉄扉よりやや小さいが、それでも天井の高さまである木製の大扉があり、その両脇には扉を開けるためだけにいるような兵士が立っている。


「この扉の先に王が皆様をお待ちしていらっしゃいます。くれぐれも粗相の無いようにお願いします……開けろ」


 粗相の無いように、ねぇ。要するに勇者よりと王は上の立場にある事を強調させたいのか。

 敬語や仕草で誤魔化しているようだが、誘拐しといて服従しろってのも中々理不尽な要求をするもんだ。

 ゲーテルの命令に従って二人の兵士が重そうな扉を開け、完全に開ききったところでゲーテルを先頭にぞろぞろと入っていく。

 玉座の間の天井は見上げるほどに高く、体育館より一回り大きいぐらいの広さがあり、白を基調ととした装飾が柱、壁、天井に至るまでに張り巡らされている。

 床には入り口から向こうの端まで広く長いレッドカーペットが続いていて、その先には数段の階段の上に玉座が鎮座していた。


「宮廷魔道師団団長、ゲーテル=フォン=バリス。勇者召喚に成功しましたので、勇者様方をここに連れてまいりました!」


 ゲーテルが部屋に響き渡る声量で報告するのは玉座に座る白髪で彫りの深い顔の紅い法衣を纏った男。

 奴こそがこの国のトップ、ハーメリラス国王なのだろう。

 

「ほう、彼らが勇者か……随分と多いが過去の勇者召喚もこのような大人数だったのか?」

「いえ! 過去の勇者召喚では、このような人数が召喚されたという事例は無く、今回は特例中の特例でございます!」

 

 過去のってことは、やっぱり昔に勇者を召喚もとい拉致してたんだな。しかも会話から察するにその時は一人もしくは少人数だったのか。

 

「これだけ数多くの勇者が居れば魔族共を一掃することも叶うやもしれぬな……異世界の勇者達よ、余の名はレオンハート=エーゲンシュタイン=ハーメリラス、この国の王である」

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