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61*幸せなこの時を

遅くなりましたが待って下さいありがとうございます……!

今回のお話で完結です。

 ルベリカは窓に顔を向ける。

 実際は椅子に腰かけて顔だけ動かしている状態だ。


 肘をついて顎を手で支えている。微妙に顔を斜めにしていた。そのせいで、三つ編みになっている銀髪は下にぶらぶら揺れている。その目に映っているのは、たくさんの魔女から花束を受け取っているロゼフィアの姿。驚いて戸惑っていたが、やがて笑顔になった。一番近くで見守っていたミキアは泣いており、ロゼフィアが慌ててハンカチを差し出す。


 そっと机の上に飲み物を置いたエマーシャルは、静かに言う。


「せっかくの旅立ちの日、挨拶だけでもされたらよかったのに」

「そんな事したら帰したくなくなるからねぇ」


 エマーシャルはちらっと相手の顔を見る。


「よくおっしゃる」


 それ以上何も言わない。

 おそらくこちらの事を分かった上でだろう。


 もちろん帰す。ちゃんと二年で立派になったのだから。

 ……だから、帰したくなくなる。


 思わず息を吐く。


「愛する者がいれば強くなれるって事かねぇ」

「むしろ、頑張れるのでしょう。ずっと待ってくれていると信じているから、余計に」


 おや、とルベリカはやっとエマーシャルの顔を見た。

 すると彼女には珍しく、口元が緩んでいる。


「……お前さんも、変わったようだね」

「ええ。ありがたいことに」


 相変わらず彼女は騎士と共にあちこちを移動しているようだ。今日はわざわざロゼフィアのために戻ってきてくれた。騎士も一緒かと思えば「別にいつでも会える」と言って来なかったらしい。そこらへんはいかんも彼らしい。少しは関係が変わったようだが、エマーシャルはそれ以上何も言わない。そこは徹底している。これはヒューゴが来た時は問い詰めないといけない。


 最も、何も聞かされていないのでおそらく少し前進した程度だろうが。

 知らぬ間に自分の周りも色々と変わっているらしい。


 ルベリカは思わず小さく笑った。







 深呼吸する。やっぱり空気が違う。美味しい。


 ロゼフィアは森に来ていた。ずっと森に暮らしていたようなものだが、それでもやはり故郷の森が一番落ち着く。風や自然を感じつつ、ロゼフィアは森の中を歩く。そして自分の家を目指した。


 帰ってすぐに森に行く理由は約束したからだ。


 あの日以来、手紙のやり取りをするようになった。ルベリカに言われたのだ。あまりに徹底して会わないのもあれだから少しは手紙を送り合え、と。それでもお互いに最小限の事だけを書いた。やり取りが増えるとやっぱり寂しく感じてしまうから。それでも、たまに来る手紙に嬉しく思っていたものだ。


 帰る日が決定した事を手紙で伝えれば、すぐに返事が来た。




『森で会おう』




 その時はなぜ森なんだろうと思ったが、今思えばありがたい。森は一番落ち着ける場所だ。人もいない。だからこそ彼に会ったら、真っ直ぐ自分の思いを伝えられる気がする。……素直に、なれる気がする。


 と、家の近くに人影が見えた。

 ロゼフィアはいつの間にか走り出した。


 途中足がもつれそうになったが、相手の腕の中に飛び込む。するとジノルグも力強く抱きしめてくれる。互いの息遣いを感じつつ、いい香りがする。変わらない、彼の香り。ロゼフィアが一番安心する香り。


「おかえり」


 耳元で呟かれる。


「ただいま……!」


 二人は抱き合っていたが、しばらくしてから腕を緩める。改めて互いの顔を見た。二十八になったジノルグはより精悍な顔つきになり、とても頼もしく見えた。サンドラが言っていた通り、かっこよくなっていた。そして、雰囲気も柔らかい。前はあまりに真面目すぎて固く感じていたのだが。


「……綺麗になったな」

「えっ」


 いきなり褒められて照れてしまう。


 確かに身なりに気を遣うようになったし、化粧も自然にできるくらいになった。むしろ何もしてなかった三年前の自分が少し恥ずかしい。顔を赤くして下を向いていれば、「いやちがうな」とジノルグが小さく笑う。


 そしてそっと頬に手を添える。


「前から綺麗だったのが、さらに綺麗になった」

「ジ、ジノルグだって。……その、もっとかっこよくなった」


 すると目を丸くされる。


 こういう時、もっと上手く言葉が出ればいいのに。

 当たり障りのない言葉しか出てこなくて歯がゆいと思ったが、ジノルグは少し照れくさそうな表情になる。そして「ありがとう」と言ってくれる。


(……本当に、変わった)


 こんな表情あまり見た事ない。素直に照れてくれるなんて。そして、素直にお礼を言ってくれるなんて。意地っ張りになって言い合いする事も多かったが、お互いに少しは大人になったのかもしれない。


 そんな事を思っていれば名前を呼ばれた。

 顔を上げて目線を合わせる。彼はただ微笑むだけだ。


 ロゼフィアも同じ表情になった。

 そしてそっと二人の影は重なった。







「ほんと、月日が経つのは早いものだねぇ」


 サンドラはぼんやりした顔のままで言う。

 目線は皆に囲まれているロゼフィアとジノルグだ。


 友人ということもあって皆に会う前にたくさん話した。なので今は皆に二人を譲っている。ロゼフィアは白を基調とした少し青っぽいドレスだ。髪も結ってより美しくなっている。ちなみにジノルグは真っ黒のタキシード。シャツは白であるものの、髪や瞳も真っ黒なので全身黒っぽく見える。


 だが、いかにも二人を象徴している格好だなと思った。


 しみじみとしているサンドラの傍にいたクリストファーは、持っていたグラスを動かしながら平然とする。特に何も返答がないのはどうでもいいからだろうか。サンドラはむっとして肘で相手の脇をつつく。


「痛いっ」

「なんでそんなに平然なんだよ~」

「別に、こうなる事くらい予想できただろ」

「だからって今日はロゼフィアの結婚式なんだよ? もっと喜ぶなり悲しむなり」

「別に俺はあいつに対してそこまでの執着はない」

「……婚約者の大事な友人なんだから、もっと大事にしてもいいんじゃないかい?」


 クリストファーはぎょっとする。

 そしてみるみるうちに顔が赤くなる。

 

「それはっ……悪かった」


 するとサンドラはにやっと笑う。

 どことなく嬉しそうな表情だった。


 そんな二人のやり取りを見ていたリオネはそっと隣の先輩に耳打ちする。


「え、あの二人結婚するんすか?」


 出された飲み物を一気飲みしたレオナルドは頷く。


「色々一悶着あったらしい」

「えー! 最後までくっつかないと思ったんすけど」

「同感だな」

「そういえばアンドレア殿下も嫁ぐ話出てますよね?」

「ああ」

「王位とかどうするんすかね?」

「いとこのファナル様が継ぐだろ」


 ロゼフィアが戻ってくる前にアンドレアはオグニスと結婚した。


 結婚したのにまだここにいるのはロゼフィアを待っていたからだ。レビバンス王国はこの国よりずっと北。帰ってくるのも容易ではない。だからこそ今日を区切りにアンドレアも準備を進めるだろうと言われている。


 ちなみにアンドレアのいとこであるファナルが王位を継ぐ予定だ。ファナルはアンドレアよりも三つ下。まだまだ若いし、現国王であるチャールズも元気である。教育を進めつつ、来る日に備えるだろう。


「にしてもやっとくっついたなぁ」


 いきなり現れたヴァイズにぎょっとする。


 彼女も今日はちゃんとした格好だ。少し黄色っぽいワンピースに白髪を一つにしている。いつもまるでぼさぼさになっている白髪もまとめ、綺麗な格好をしているとちゃんと女性になる。が、性格はかなりお茶目なので下手なことは言えない。


「そういやそっちは? いい人おらんの?」


 この人は何気にストレートに聞いてくる。


「残念ながら」

「じゃあうちのお菓子買いにおいでや。色々あるで」

「お菓子に頼るくらいなら告白してフラれた方がましだな」

「そう言えるうちは大丈夫そうやな」


 にひひ、と笑ってくる。

 そして少し真面目な声色を出す。


「この世に生を受けた時から、運命の人っていうのは決まっとるらしいで。皆、一人ずつおるんやと。それに気付いてないか会ってないかだけの話なんやって」

「へぇ……」

「うちは本当やと思うんよ。あの二人を見ても分かる。あの二人は絶対お互いが必要な存在なんやなって、見て分かるもん」


(確かに)


 レオナルドは心の中で即答する。


 何があっても喧嘩をしてもお互いが必要な存在で、愛し合っているのが見て分かる。お互いがお互いしか見ていない場面を、自分は何度も見た。だからこそ羨ましく思うのだ。二人のような関係を。


「見つかるとええね」


 優しく微笑まれる。

 レオナルドは苦々しい顔になりながら頷いた。




「ジノルグ! ほら! ほら!!」


 クラウスがしきりに自分の腕の中で眠る幼子を見せてくる。

 すやすやと寝ている顔は天使そのものだ。


「すみません……ちょっとクラウスさん。今回は二人の晴れ舞台なんだから」

「いいのよ。サラも参加してくれてありがとう」


 ロゼフィアは苦笑しながらもそう言った。


 お祝いの言葉をくれたらすぐに自分の子供を自慢したいらしい。サラはそんな夫に頭を抱えつつも、笑ってくれた。こちらが色々あった後、恋人になり、そしてロゼフィアが離れている間に結婚をし、出産したようだ。子供ができてからサラは仕事を休んでいるようだが、いつでも復帰したい気持ちがあるらしい。さすがサラ。しっかり者の彼女なら、仕事と家庭の両立ができそうだ。


「そういえばロゼ、店を出すのよね?」


 美しい少女だったのが美しい女性になったアンドレアにそう聞かれる。結婚をした事もあって少しは落ち着いたようだ。数日後にはすぐレビバンス王国に行くらしい。忙しないが疲れを見せないところはさすがは王女。ロゼフィアは頷き、隣にいるジノルグを見れば、彼も微笑んでくれた。


 そう、自分の店を持ち、薬を作ったり売る事に決めた。


 色々と勉強して知識も増えた。だからこそ、自分のできる事をしたい、と考えた時、自分の店を持つのはどうだろうと考えた。森にある家は今でもディミアが見てくれている。森で薬の配達等も行っていたが、今までより数を減らし、ロゼフィアが始める店が配達なども中心に行う。


「帰った時は、必ず寄るから」


 ウインクをしながらアンドレアが言ってくれる。

 離れていてもずっと待っていてくれた。今度はこちらが待つ番だ。


「おージノルグ。似合うな」


 はっはっは、と大声を出しながら近付いたのはキイルだ。

 その後ろには少し神経質そうな顔をしたナダヤもいた。


「この度はありがとうございます」


 ジノルグがそう言えば、キイルは頷く。


「やっと結ばれたな。幸せになれ」

「もったいない言葉です」

「ふん。これで貴様も落ち着けばいいがな」

「ナダヤ殿のようになれるよう、今後も精進します」


 あっさりそう言ったジノルグに、ナダヤは目が点になった。

 何か皮肉でもくると思ったのだろうか。慌てて咳払いし、その場を移動する。


「二人共! おめでとうー!」


 入れ違いにディミアがやってきて抱きしめてくる。

 そしてちらっと後ろを見た。


 ロゼフィアは自然と口元が緩んだ。


「ロゼ。おめでとう」


 優しくそう言ったのは父であるミンスだ。


 丸い眼鏡をかけ、口元は髭で覆われている。考古学者で旅をしており、滅多に帰ってくる事はない。それでも帰ってきたら一番に愛情を注いでくれる。仕事が忙しく父の愛情に触れる機会はそこまで多くなかったものの、大事な日には帰ってくれるいい父である。久しぶりの再会に、思わず涙が溢れそうになった。


「お初にお目にかかります」

「ああ。君の事はよく聞いているよ。娘をよろしくね」

「はい。絶対に幸せにします」


 固く握手を交わす二人に、ロゼフィアはディミアと一緒に笑った。


「あらあら、到着が遅れて申し訳ないわ」


 優雅な声にすぐにピンをきた。

 見ればジノルグの祖母であるキャロラインである。


 後ろにいるジノルグの父と母より目立つきらきらとした格好だ。なにより登場しているだけで目立ち、周りの人たちもなにやら興味深そうに見ている。


「ロゼフィアさん、ジノルグ、この度はおめでとう」


 控えめに言ってくれたフヅキ、そしてぎこちなく挨拶をしてくれたジノルグの父であるレノンも揃い、よりその場は賑やかになった。そしてゆっくりとこちらに近付く二人組を見てあ、と声を漏らす。


「久しぶりですね。ロゼフィア様」


 微笑を浮かべたのはエマーシャルだ。

 髪は伸び、今や肩を超している。


 傍にいるヒューゴは髪を切ったらしい。

 短くさっぱりし、表情は前に会った時と変わらず若干むっとしている。


「この度はおめでとう。俺の許可もなくよく結婚したな」

「許可がいるの?」

「当たり前だろう」

「そんなものはいらない。ヒューゴ、勝手な事を言うな」


 ジノルグは呆れたような顔になる。

 相変わらずジノルグが大好きなようだ。


 と、二人がお互い指輪をつけているのに気付く。

 ロゼフィアはそれを見て思わず「もしかして」と言うが、口を塞がれた。


「何も言うな」

「ただの指輪です。深い意味はありませんよ」


 二人共それ以上は何も言わない。


 変わらず一緒のようだが、果たしてどこまで関係が進んでいるのか気になるものだ。だがおそらく二人共何も言わないだろう。分かっている。二人はいつまで経ってもこのままだ。だからこそ、お似合いだとも思う。




 誓いの言葉や結婚式で行われる内容が進み、最後にブーケトスになる。花は紫陽花だ。最後まで何の花か迷ったのだが、ジノルグと話してやっぱりこれがいいという事になった。ドレスに合わせて青い紫陽花の花が綺麗に咲いている。女性陣達がロゼフィアから少し離れたところで様子を見守る。ロゼフィアは花姫の事を思い出しながら、投げた。


 ブーケは思ったより後ろに飛ぶ。

 そして、手にしたのは…………レオナルドだった。


「え」


 女性陣の中には残念がる人もいたが、大体は拍手をしていた。

 その笑みは温かい。レオナルドは何とも言えない顔になりつつ、頭を下げていた。


「まさかレオンが受け取るとはな」

「ほんとね。でも幸せになってほしい人の一人だから、嬉しい」

「ああ」


 ジノルグも嬉しそうに笑っていた。

 彼こそが一番、レオナルドの幸せを願っているのだろう。




 ――――後日。記者であるディーンが記事を出した。

 「人々の幸せを願う紫陽花の魔女」というタイトルで。


 そこには今までロゼフィアがしてきたこと、これから行う事、そして、周りの人達の優しさが詰まった内容だった。ロゼフィアはその記事を見ながら微笑む。最初は「紫陽花の魔女」なんて二つ名、あまり好きじゃなかった。でも、今ではそれが自分の事だとすぐ分かる。すぐ分かってもらえる。


 お店を出した事も記事に書いているので、各国から薬を求めてやってくる人が多い。これを通して魔女の事、そしてシュツラーゼの事も人々に知られるようになった。たまにルベリカから手紙が来る。「魔女のために色々とありがとう」と。


「ロゼー! お客さんだよー!」


 たまに仕事を手伝ってくれるサンドラから呼ばれる。


「はーい!」


 ロゼフィアは笑顔でそちらに向かう。

 今日も一日走り回る。


 自分を変えてくれた周りの人達、そして……最愛の人に感謝を込めて。

完結になります。

ここまで読んで下さり、本当にありがとうございました!


後半忙しくてなかなか執筆できてませんでしたが、こうして完結することができて本当に嬉しく、よかったなと思っています。なかなか一話が長いですが、読んで下さる方がいるおかげで完結できました。次回また新作を書く時に学んだことを活かしたいです! また、できれば番外編も書きたいと思っています。時間はかかると思いますが、のんびりお待ちいただけると嬉しいです。


本当にありがとうございました!

2019/04/16 葉月透李

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