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51*手繰り寄せて出会う

お久しぶりです! やっと更新できました! 少し落ち着きましたがまだちょっと忙しいので更新遅れそうです。でももう少ししたらまた定期的に更新できるかなと! 楽しんでいただけると幸いです。そしていつも読んで下さりありがとうございます……!

「なんだ君はっ……ぐはっ!」


 強がるディミトリスの胸元にジノルグの膝が入る。

 鈍い音が響き、それを見て思わずびくついた。


 怒っている。

 それだけはロゼフィアでも分かった。


 思わず固まっていると、急に後ろの方から強い光が発した。驚いて振り返れば、エレナが魔法を発動させている。今の間に呪文を言い終わったのだろう。魔法陣から光が溢れ、徐々にその光は部屋全体を真っ白にさせるほど強い力を出していた。


「行って!」


 力が入らないのか、身体を倒しながらエレナが叫ぶ。


 ロゼフィアは無我夢中で魔法陣の上に立った。

 するとジノルグも気付いたのか、こちらを見る。


 目が合った気がしたが、ロゼフィアはすぐに逸らした。

 これは自分がすべき事。その思いで、あえてジノルグを見なかった。


 徐々に光が身体を包んでいくのを感じる。ロゼフィアは思い切り目を閉じ、自分の一番よく知る場所を祈るように思い浮かべた。







 ロゼフィアは完全に光に包まれた。そして気付いた時には、優しく風がなびいている場所についた。いつの間にか身体は倒れており、ゆっくりと上半身を起こす。何度か瞬きをすれば、そこは自分の見知った場所、森にある自分の家の前だった。ロゼフィアは無事についた事にほっとしつつ、立ち上がろうとする。


 と、隣に誰かが倒れていた事に気付く。

 見ればそれは、ジノルグだった。


「え……」


 ロゼフィアは思わず声を漏らした。


 確かあの場所で別れたはず。

 それなのになぜ。


 考えて右腕に違和感がある事に気付く。

 光に完全に包まれようとした時、思い切り腕を掴まれた感覚があった。


 小さい呻きと共に、ジノルグの身体がゆっくり起き上がる。

 綺麗な黒曜石のような瞳と視線が合う。


 間近にジノルグがいる。

 それだけで、一気に身体に熱が走った。


 と同時に、クレチジアに残されたエレナの事を思い出した。ジノルグがこちらにいるという事は、エレナはディミトリスと共にいる事になる。つまり、危険な状態だ。すぐにでも知らせて応援を呼ばないといけない。


 火照った身体は一気に冷め、焦りが出る。


 ロゼフィアはすぐに立ち上がって走り出した。

 すぐに知らせないと。誰でもいいから、知らせないといけない。


 思えばなんで森にしたのだろう。手っ取り早く城をイメージしていたら時間だってかからないのに。一番自分の中で思い浮かべやすい場所だったからという理由で選んだ事を悔やむ。しかも移動魔法で身体に負担がかかったのか、少し足元がふらふらとした。早く進みたいのに、足が言う事を聞いてくれない。


 走っていると小石につまずき、バランスを崩す。

 「あ」と言う前に倒れたが、腕を引っ張られる。ジノルグが助けてくれた。


「あ……ありがとう」


 お礼を言うものの、顔は上げられない。

 ロゼフィアはまた走り出そうとする。が、腕を掴まれ動けない。


「ジ……」


 名前を呼ぼうとすると、急に抱きしめられた。

 大きい身体に自分の身体がすっぽり隠される。


 思ったより強い力で、正直痛い。

 戸惑いつつ何もできなくなっていると、耳元でささやかれる。


「落ち着け」

「え……」

「室長は拘束している。あの女性に危害を加える事はない。……だから、一旦落ち着け。何も考えず、深呼吸してみろ」


 言われるままに、ロゼフィアは目を閉じて深呼吸をする。

 木々の爽やかな香りがした。ジノルグの香りだ。少しだけ心が落ち着く。


 するとジノルグはゆっくり身体を離す。

 顔を近付けて、確認するようにこちらを見る。


「……落ち着いたか」


 優しい声色だった。

 いつものジノルグだ。

 

「うん」

「よかった」


 ジノルグは安心するように息を吐く。

 ロゼフィアも落ち着いたからか、相手の顔をちゃんと見る事ができた。


 そして思わず目をぱちくりさせる。


 目の前にいる相手はジノルグだ。だがその格好はいつもの軍服ではない。いや軍服ではあるが、こちらの国のではない。真っ黒で金の装飾がある、クレチジア帝国のものだった。しかも、右耳にはいつもはない銀色のイヤリングのようなものをつけている。それに見覚えがあるため、余計混乱した。


「そ、それ」


 指摘した後に髪を見れば、黒だが若干茶色が混ざっていた。

 まるで染めていたのを落としたような。


 するとジノルグも気付いたのか、苦笑した。


「詳しい事は行きながら話す」







「ったく、信じられんわ」


 ヴァイズは走りながら口を開く。

 その言い方はいらいらしていた。


 同じく一緒に走っているエマーシャルは無表情のままだ。だが、その少し後ろにいるヒューゴは微妙な顔をする。何か言いたげな様子だが、それでも黙っている。それがヴァイズには癪に障った。


「あんたもあんたやわ。まさか知っとった上で黙っとったなんて」

「……それが約束でもあったからな」

「はぁ!?」


 なにが約束だ。どうせジノルグとの約束でもあったんだろうが、そんなものはくそくらえだ。この時のヴァイズは遠慮なくそんな風に思った。


「むしろ先に言っといてくれたら、こんな大事にならんかったかもしれなんやろ!?」


 叱責すれば彼はまるで亀のように首を縮こまらせる。散々エマーシャルに厳しい事を言ってたくせに、どうにもジノルグには甘い。ヒューゴの弱みはジノルグと言ってもいいかもしれない。


「ほんとに信じられん。ジノルグの記憶を操作して内部に侵入させるなんて」


 そう、ジノルグは薬で一時的に記憶を消されていた。

 しかも「ステフ・イワレブ」という別人になっていたのだから驚きだ。


 エマーシャルは一回息を吐いてから口を開く。


「元々彼はここにいない予定でした。それでもロゼフィア様を追って来た。婆様の意志に反する行為なので止めましたが、婆様自身が条件付きで許可したのです。それが別人(・・)になるという事。……実直な彼の事です、別人になりきるのは無理だろうと私も婆様も思っていました。だから薬を使ったのです」

「……しかもその薬を作ったんが、元々シュツラーゼの魔女だったとはな」


 今回ジノルグに使った薬は、ある双子の魔女が作ったものだ。全く同じではないものの、今こうして城中にばらまかれている薬もそれと似た効果を持っているという。つまり、その魔女が作ったと言っても過言ではない。


「エレナとセナリアの事は、私達もずっと気にかけていました。そして、何かつながりはないかと探っていたんです。だから城を見て核心しました。これはエレナが作った薬であると」


 静かな中でも力強い言い方だった。

 それなりに気にかけていたからこそかもしれない。


 実際双子の魔女が関係していると思ったのは、フィリップスの部屋で女性の姿を見てからのようだ。シュツラーゼで一緒に過ごした仲間でもあるため、彼女の姿と魔法に見覚えがあったのだろう。それ以前にもロゼフィアの報告で、薬剤師達の言動に違和感を覚えたらしい。


 言わないだけで、実は色々と考えていたのか。

 しかも、ジノルグに薬を飲ませたのは別の理由もあったようだ。


「あの騎士はすでに薬を飲んでいるため、薬の耐性がついてます。この中にいても薬が効かない……つまり、記憶がなくなる事はありません」


 だからロゼフィアを助けられる、と言ったのか。エマーシャルの考えに舌を巻きつつ、そこまで予想して薬を使った事にも驚きだ。だが、こんな遠回しな事をしなくてももっと手っ取り早い方法があったんじゃないかとも思う。ヴァイズは城の内部に入りながら倒れている人達を見て顔を歪ませた。今種明かしをされても、香りによって倒れている大勢の人達の事を思うと胸が痛い。


「ちゃんと対処できる薬は用意しています。実際に私達も平気でしょう」


 エマーシャルは何でもないようないい方をする。

 確かに今三人は、用意された薬を服用した上で城の内部に入っている。


 特に倒れる事もなく、何か変化があるわけでもない。だから大丈夫なのだろうが、それでも周りを巻き込んだやり方は好まない。これはエマーシャルの考えなのか、それともシュツラーゼの村長の考えなのか……。どちらにせよ、やる事が大き過ぎる。その度胸、そしてこの状況を打破できるという自信に唸るばかりだ。


 そんな事を思いながらも、三人はディミトリスとロゼフィアが入った扉の前まで来た。扉は空いたままで、しんと静まり返っている。エマーシャルは迷いなくその中に入る。二人も同じように急いで階段を下りた。下りた先に人影はなかったが、地下のような場所にまた別の部屋を見つけ、乱暴に開ける。


 すると、拘束されているディミトリスと倒れている女性を見つけた。


「エレナ……!」


 珍しくエマーシャルが焦ったような声を出す。

 駆けよれば、彼女は薄っすらと目を開ける。


「……エ、マ……?」

「魔法を使ったのね。ロゼフィア様達は?」


 すると彼女はゆっくりと力なく指を差す。

 そこには発動した後の魔法陣が残されていた。 







「信じられない……!」


 話を聞いたロゼフィアは、馬の上で絶句した。

 すると後ろに乗って手綱を引くジノルグは苦笑する。


 幸いにも、森に誰かが馬をつなげていた。

 緊急事態でもあるため借り、二人は城まで急いでいた。


「まさかステフがジノルグだったなんて」

「ヒューゴ達は心配していたけどな。すぐにバレるんじゃないかって」

「確かに最初はジノルグだと思ったわ。でも中身は違っていたから」

「俺も薬を飲んでいたから、ステフだった時の事は全く覚えていない。別の人間になっていたから、中身が違うのは当たり前かもしれないな」

「でも……」


 ヴァイズに渡された薬を使った事を思い出す。


 あの時、確かに彼は守りたいと思ってくれた。

 こちらの事を全く覚えてなくても。自分が何者か分かっていなくても。


 それでも、守りたいという思いはずっと持っていたのだ。

 ジノルグじゃないかと思わせるほど。……実際ジノルグだったわけだが。


「だが、ロゼフィア殿は俺の名を呼んでくれた」

「え?」

「名を呼んでくれただろう。それだけは覚えていた」


 薬は元々一時的なものだったらしく、ロゼフィアと会わない間に効果が消えたようだ。そして、名前を呼んだ事を覚えていたらしい。会わないようにしていたのは自分がジノルグとバレないようにするためだったようだ。


「そ、そうだったの……」


 それを聞いて、ロゼフィアは少しだけ恥ずかしくなる。

 確かに名前を呼んだか、それを本人に覚えられていたなんて。


 ジノルグはくすっと笑う。


「忘れられてるんじゃないかと心配していた」

「そんなわけないじゃない……!」


 思わず声が大きくなる。


 むしろ忘れるわけがない。

 忘れようとしても忘れられなかったのに。


 すると相手はあっさり言う。


「そうか。ロゼフィア殿にとって俺は、そこまでの存在になったんだな」

「…………護衛騎士なんだから、当然でしょう」

「前までは一人がいい、護衛騎士なんていらないなんて言ってたのにな」

「ちょっとまだ根に持ってるの!?」


 一体いつの話だ。

 今は全然言っていないのに。


 すると意地悪そうに微笑む。

 そういうところは変わっていない。


 ロゼフィアは思わず言ってしまった。


「ジノルグこそ、元々は自分の意志で護衛騎士になったんじゃないくせに」


 すると彼の目は大きく見開かれる。


「なぜ、」

「シュツラーゼの村長が教えてくれたの」


 何か言われるのが怖くて、言葉を続ける。


「母に頼まれたのよね。護衛をしてくれって。……したくもないのに護衛をさせられて」

「違う」

「でもそうでしょう! 自分の意志じゃない、頼まれたから断れなくて」

「やると決めたのは俺だ。頼まれたから仕方なくやったんじゃない」


 射貫くほどに真っ直ぐの瞳で見られる。

 眩しすぎて、ロゼフィアはずっと見てられなかった。


「……嘘よ。断れないから仕方なく」

「俺はそんな無責任な事はしない。それはロゼフィア殿が一番分かってくれると思うが」


 ああ、分かる。絶対に自分の意志を曲げない。

 自分の意志で何事も行うほどに彼は真っ直ぐだから。


「でも……嫌だった事もあるでしょう」


 言われてやらされた。自分で何事も決めてやる人が。

 おそらく母の事だ。断る事さえ許さなかったはず。


「母が頼まなかったら、私の護衛なんてしなくて済んだのに」


 思わず下を見る。瞳が涙に滲んだ。何を思って悲しいのか分からない。

 だけど申し訳なさはあった。自分の護衛をしなければ、もっと彼は自由だったかもしれないのに。


 するとジノルグは静かに言った。


「……なんで泣く」


 びくっと身体が動く。背中を向けているはずなのに、どうして分かったのだろう。だが、答えられない。そんなの、自分が知りたいくらいだ。


 するといつの間にか馬が止まる。

 ジノルグはなぜか馬から降り、下から顔を覗き込んだ。


(……そのやり方はずるい)


 だが隠れようもなく、そのままでいた。するとそっと顔に手が触れる。その拍子に涙が一筋流れていく。ジノルグは優しく、目尻にあった涙を拭いてくれた。


「きっかけはどうであれ、俺がロゼフィアの護衛騎士をしているのは自分の意志だ。それは最初から今まで変わらない」


 穏やかに、こちらを気遣ったような声色だった。


 それでも、何も言えなかった。

 むしろ何を言えばいいのか分からなかった。


 すると、ジノルグは急に真剣な表情になる。


「ずっと、ロゼフィア殿に言いたい事があった」

「え……」

「ずっと言えなかったが、ようやく許しをもらったんだ」

「許し?」

「ああ。ずっと言いたかった」

「……それは、なに?」


 するとなぜかふっと笑う。


「全てが終わったら、伝える」

「え……こ、ここまで言っておいて?」

「言わないせいでロゼフィア殿に心配をかけた事もあったな。だがこれからはそんな事ない。全部伝える。全部だ」


 強調するように二回言われる。

 それを聞いて、ロゼフィアはどんどん顔が曇っていく。


「え……今まで私が散々色々言ったからその仕返し……?」

「なんでそうなる」


 呆れたようにツッコまれた。


「だ、だって」

「むしろ逆だ」

「逆?」

「いいからそれは終わってからな」


 ぽんぽん、と、子供をあやすように頭を撫でられる。なんだか上手くまるめ込まれた気がしたが、ジノルグが嬉しそうに微笑んだので、ロゼフィアはそのまま頷いた。何を言われるのか少し気になったが、喜んでいい内容なのかもしれない。だって、ジノルグだから。ロゼフィアは自然とそう思えた。







 城に着けば周りからは驚かれた。

 久しぶりに帰ってきたからだろう。


 二人は気にせずすぐにアンドレアの元へ向かった。


「ジノルグ! ロゼ!」


 すぐにアンドレアがこちらに駆け寄ってくれた。

 見れば傍にクラウスとサラもいる。ずっと傍でついていたのだろう。


「説明は後でするわ。とにかくクレチジア帝国に応援を送ってほしいの」

「……何があったのかはヒューゴに聞いているわ。すぐに応援を送る。後、二人に伝えたい事があるの」


 どうやらヒューゴ達は逐一アンドレアに報告していたらしい。さすがそこはしっかりしている。おそらくクレチジア帝国の事も聞いているのだろう。一瞬ロゼフィアはルベリカの事を頭によぎったか、この際気にしないでいた。


「それで、話というのは」

「もうすぐ来るはずよ」


 ジノルグが聞けば、アンドレアは意味深な言い方をする。

 しばらくすれば、タイミングよく部屋に誰かが入ってきた。


「殿下、報告したい事が……ジノ、ロゼ殿。無事だったんだな」


 亜麻色の髪を振りながら入ってきたのはレオナルドだ。


 少し疲れているのか、目の下がクマになっている。珍しくやつれたような感じなのが少し気になったが、こちらを見てほっとするように笑ってくれた。


 レオナルドはアンドレアに報告する形で膝をついた。


「例の魔女の事ですが、情報がつかめました」

「「!」」


 ナイトメア・クラブで出会った魔女。


 毒に詳しく魔法も使えるその魔女の消息が長らくつかめなかったが、どうやら情報があったようだ。さすが情報網と言われるレオナルド。だがそのレオナルドでさえ時間がかかった。一体今どこにいるのだろう。


 だがロゼフィアは、今魔女がどこにいるのか、というよりも、その魔女の正体の方が気になっていた。なぜならその魔女はただの魔女ではない。……囚われていたエレナという魔女の姉、セナリアなのかもしれないのだから。エレナの言い分ではセナリアのように感じるが、まだその核心は持てない。だからこそ知りたい。そして直接会って話したい。


「それで、彼女は今どこにいるの?」

「それは――――」


 レオナルドは間を空けた。

 そしてロゼフィアを見てにやっと笑う。


「ロゼ殿なら、分かるのかもしれないな」

「…………え?」


 その場にいた者全員、目を丸くした。

活動報告も更新しました。

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