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50*決して消えない想い

更新久々です……! 少し長めです……!

忙しい事もありまして今後とも更新遅くなると思いますが、今後ともお付き合い下さると嬉しいです。そしていつも読んで下さりありがとうございます!

 半分くらい開いた扉を、ヴァイズはじっと見つめる。


 最初ロゼフィアだけ行くと聞いた時は反対した。一人で行くのはあまりに危険すぎる。何かあってからでは遅い。それは他の二人も同意見だった。


 だが、ロゼフィアは真剣な顔で言った。


『一人で行った方が隙が作れるわ』

『やけんそれが危ないって』

『大丈夫。もし私に何かあったとしても、ヴァイズや……皆がいるから』

『『…………』』


 ヒューゴとエマーシャルは黙ってそれを聞いていた。

 ロゼフィアの意図を汲んだからこそかもしれない。


 ヴァイズも渋々承諾した。




 しばらく経っても何も変化が起こらず、歯がゆい思いを押さえてじっと扉を見つめ続ける。この日のために、色々と考えてきた。ディミトリスがロゼフィアに何か危害を加えてないだろうか、とか。ロゼフィアを人質にするんじゃないのか、とか。最悪な場合も考えたが、首を振る。そんな事あるわけない。


 だが、身体は正直らしい。


 さっきから心臓の音がうるさい。どことなく手足も震える。自分達は他国に来てまで何をしているのだろう、なんて思ってしまう。……でもきっとロゼフィアは、常に相手の事を考えるロゼフィアは、絶対そんな事を言わないのだろう。


(……待っとるだけなんは性に合わん)


 今すぐにでも飛び出したい気持ちを抑える。

 それはおそらく、あの騎士だって同じ事を考えるはずだ。


 今はどこにいるかも分からないが、こういう時に叱咤したくなる。


 ――――あんたの大事な魔女は一人で皆のために動いてる。

 それなのにあんたは……今何をしてる?


 ロゼフィアには内緒で、エマーシャルやヒューゴにもジノルグの事を聞いたりした。が、二人は首を振った。誰も彼がどこにいて何をしているのか分からない。例え魔女の長からロゼフィアに与えた仕事だったとしても、一人で全て背負う必要はない。だから自分は今傍にいる。もっと頼ってくれたらいいのに。


 それでも、今はごちゃごちゃ言ってる場合じゃない。

 ロゼフィアが決めた事なら、自分は従うだけだ。


 と、扉からある人物が出てくる。

 ディミトリスだ。


 穏やかな表情で、手には何か持っている。

 大きい瓶で、薄い黄緑色の液状が入っていた。


 蓋を開けた瞬間、爽やかで良い香りが鼻孔をくすぐった。


 彼はそれを地面に向ける。液体は容赦なく地面に落ち、音を立てながら流れて行った。地面に触れた瞬間、泡となってすぐに消えていく。……いや、違う。泡となり、上へ向かう。液体から気体になったのだ。緑色の小さい粒子が集まったような形になり、流れるように四方八方へ移動する。


 どんどんその気体はその場を、まるで城を囲むように移動していく。ヴァイズは徐々に自分の吸う空気にその香りが混じってきているのを感じた。爽やかであり、人が心地よいと思う香り。急にこんな香りがしたら、誰だって気になってより空気を吸い込んでしまう。


 ヴァイズは無意識のうちに息を止める。

 口を手で覆い、その場を走って移動する。


 これが何なのか分からないが、とにかく今は吸うべきではないと判断した。







「遅いな」


 別室で待機していたヒューゴは、そう口にする。

 そろそろ何か起きてもおかしくない時間だ。


 エマーシャルもそう思い、窓に目を向けた。

 すると、あり得ない状況に目を見開き、すぐに部屋を飛び出す。


「!? おい!」


 ヒューゴも後を追い、外に出る。

 すると空気に何か、黄緑色が混じっていた。


「なんだこれ……」


 無色透明の空気のはずが、なぜか微妙に黄緑色の、粒子のようなものが舞っている。しかもどこかいい香りがした。何の香りだと思いさらに吸い込もうとすると、急にエマーシャルの手がヒューゴの鼻と口を覆う。


「っ!?」


 息を止められ、苦しくなる。だがエマーシャルはいつもの真顔にさらに真剣さを付け加えた表情で「静かに」と言う。彼女も自分の鼻と口を押えている。こちらの苦しい表情を察したのか、少しだけ隙間を与えられた。なんとか呼吸はできるようになる。彼女はそのまま顔を近付けて手短に伝えてきた。


「この場から逃げます」

「まだあいつが」

「逃げないと危ない」


 言い終わるや否や、エマーシャルが腕を引っ張って走り出す。


 顔にあった彼女の手が離れ、慌ててヒューゴは自分の手で口元を覆う。何がどうなってこうなっているのかすぐには分からなかったが、彼女に従った方がいいと判断した。腕は引っ張られたまま、とにかく走る。


 走る最中、使用人達は廊下を歩いていた。

 こちらの異変にどう思うだろうと見ていれば、急に一人の使用人が倒れる。


「!?」


 見れば他の者も一人、二人……どんどん倒れていく。

 この空気を吸ったからだろうか。


 どうなっているのか聞きたい気持ちが勝りそうになったが、エマーシャルは前を見たままただ走っていた。腕を掴む手は強く、それが彼女の焦りと決意の強さを表していた。ここはぐっと堪える。残されたロゼフィア、そしてヴァイズの事も気になったが、とにかく走り続けた。







 城からだいぶ離れた場所で、やっと足を止める。

 二人は共に息を切らしていた。


 掴まれていた手も離れ、ヒューゴは自分の腕をさする。

 痣にでもなったんじゃないかと思うくらい、痛い。


「……一体どういう事か、説明してくれ」


 すると彼女はやっと振り返る。

 紅茶色の瞳を光らせて、教えてくれた。


「あれは薬です。記憶を消す薬。香りを使って、広範囲に薬をバラまいている」

「は……? 記憶を?」


 そんな事なんてできるのか。

 だがエマーシャルは、いとも簡単に言ってくる。


「不可能な話ではありません。魔女(・・)が作った薬なら」

「!」

「それに、そんな薬がある事をヒューゴ様も知っているはずでしょう」


 一瞬分からなかったが、しばらくして理解する。

 思わず鼻で笑ってしまう。だがおかしくて笑える話じゃない。


「まさか、ジノルグに」

「どういう事なん?」


 タイミングよくヴァイズは二人の前に現れる。


 本当はもう少し前についていた。

 だが話を聞いているうちに、問い詰めないといけない気がしたのだ。


 この二人は何か隠している。


「……ヴァイズ様、ご無事でよかった」

「そんなん今はいいわ。どういう事なん。なんであの騎士さんの名前が出てくるん。二人共知らんのやなかったん。それにエマ、どうしてあんたはこの薬の事すぐに分かったん。うちでさえ何の効果があるかすぐには分からん。けど、あんたはこの薬の事を知っとる。そうやろ?」

「…………」


 エマーシャルは黙ったままだった。

 だがそれで気が済むわけがない。


「黙らんと答えてや! 今だってロゼが中におるのに、悠長な時間なんて」

「いえ、おそらく大丈夫です」

「はぁ!?」


 一体何の根拠があってそんな事を言うのか。

 ヴァイズはエマーシャルの胸ぐらを掴む。


 だが、ヒューゴが間に入って止めた。


「隠していてすみません」


 エマーシャルは冷静だった。


「城の中に、ジノルグ様がいるんです」

「……は」

「きっとロゼフィア様を助けて下さるはずです。理由は、これからお話します」


 エマーシャルは、まるで台本を持っているかのようにすらすらと伝えてくる。ジノルグの事、薬の事、それらの話を聞いて、ヴァイズは唖然とした。


 そして再度城を見る。


 現状自分達がすぐに事を起こせるわけじゃない。城にいるだろうと言われているジノルグが、本当にロゼフィアを連れ出してここまで来てくれるのか……少し期待している自分がいた。彼ならきっと、ロゼフィアを助けてくれるだろうと。むしろ、ロゼフィアと一緒でなければ、絶対首を絞めてやると誓った。







「……て、……きて」


 誰かに起こされている。

 そう感じながらも、目はまだ開かない。


 すると再度大きな声が聞こえてきた。


「起きて!」


 はっとして目を開ける。

 そしてロゼフィアは声の主を見た。


 栗色の長い髪に、ぱっちりとした琥珀色の瞳。

 綺麗な容姿を持つ女性に、何度か瞬きをする。


 相手は胸をなで下ろした。


「よかった。気が付いたのね」

「あなたは」

「私はエレナ。あなた……魔女よね?」

「どうしてそれを」

「私も魔女だから。なんとなくだけど、分かったの」


 それを聞いて少し驚いた。

 まさかここに魔女がいたなんて。


 と、ロゼフィアはある事に気付く。


 なんとなくだが、目の前の女性を知っている。

 思い出そうとしばらく記憶をさかのぼっていると、はっとした。


「あなた、クラブにいた……」


 全く化粧をしていないから誰か分からなかったが、彼女はクラブで会ったあの魔女だった。確か魔法が使え、毒草に詳しい魔女。どうしてここにいるのか。


 するとエレナは「え?」と困惑するような声を出す。


「私、あなたと会ったのは初めてよ。だってずっとここに囚われていたもの」

「え」


 だが、まるで瓜二つ、というほどよく似ている。

 こんなにも似ている人がいるものなのか。


 エレナの言葉に戸惑っていると、彼女はずいと近付いてきた。


「ね、その人、どこで会ったの? ここ?」

「いいえ。私がいた国で」

「もしかして、気が強い感じ? 魔法が使えたりだとか」

「え、ええそう。どうしてそれを」


 すると相手は息を呑んだ。

 しばらくしてから、視線を下にする。


「多分……私の姉だわ」

「姉?」


 大きく頷かれる。


「双子の姉がいるの。私はずっと囚われたままで、姉がどこに連れていかれたのかは分からなかった。……でも、そう。姉に会ったの。……よかった。生きてるって分かっただけで、よかった……!」


 エレナはみるみるうちに瞳に涙を溜める。

 慌てて持っていた白いハンカチを渡せば、そっと涙を拭った。


 彼女の様子を見ていれば、クラブで会ったあの魔女が悪い魔女でない事が分かった。おそらくあの魔女も、被害者なのだろう。ロゼフィアはぎゅっと口をつぐんだ。そして彼女を真っ直ぐ見つめる。


「ねえ、どうしてあなたはここにいるの? それに、どうしてお姉さんは」


 するとエレナは少し沈んだ顔をした。

 だが意を決したように、口を開く。


 何があったのか、最初から話してくれた。




 妹のエレナ、そして姉のセナリアは、魔女の村であるシュツラーゼで生まれた。幼い頃より多くの魔女と共に生活し、それぞれに得意な分野があった。エレナは香りを使った薬。セナリアは毒草を使った薬。得意な分野は違えど、作る薬は相手を助けるためのもの。


 シュツラーゼで暮らせば、魔女の歴史もおのずと学ぶ。


 クレチジア帝国が魔女狩りを行っていた事、今や協定を結んで和解している事も知った。虐殺の話に心は痛くなったが、それでも今では魔女に寛大という話も聞いた。今の皇帝が本当にいい人である、と。その話を聞いて、二人はクレチジア帝国に行きたいと考えるようになった。自分達は魔女であるから、魔女であるからこそ、少しでもさらに和解の道に進みたいと、そう願いを込めて。


 二人は外で勉強をしたい、と周りに言って村を出た。

 目的を話すつもりはなかった。


 話して止められるのを恐れたのもあるが、自分達の力でやりたい思いもあった。丁度クレチジア帝国では薬剤師を募集していたため、姉妹で試験を受けた。魔女である事は隠した。隠した上で、薬剤師として、そして人格を認められた時、初めて言いたいと思っていた。


「……素性もよく分からない私達を、皆さんとても親切にして下さったの。特に、陛下が」


 ロゼフィアは頷いた。


 自分が魔女であると隠していても、決して咎めたりしなかった。

 魔女も人も同じであると、そう考えているからだろう。


「それに、陛下は姉を好いていたわ」

「え」

「姉も陛下を快く思っていて……だから私、絶対二人は結ばれるんだって信じて疑わなかった」


 もしや、フィリップスが言っていて忘れられない女性というのはセナリアの事なのだろうか。だが、どうしてフィリップスは彼女の事を忘れてしまったのか。そう思っていれば、エレナが急に声のトーンを落とす。


「……だけど、室長が私達の正体に気付いてしまったの」


 魔女という正体に気付いただけでなく、態度が一変したという。


「魔女だから薬の知識に長けているだろう、って、私達に無理やり薬を作るよう迫ってきた。それに、オルタさんにだけその事実を伝えて……姉と陛下が会わないようにさせたの」


 という事は、オルタとディミトリスは裏でつながっていたという事か。それは、信じられないというか、信じたくない内容だった。誰よりもフィリップスの事を思っているだろうに。……いや、思っているが故に、その選択を取ってしまったのかもしれない。


「私達も隠していたわけだから、悪い事をしたと思った。それに、魔女と陛下が結ばれるなんて、絶対無理だ、って言われて……。私よりも姉の方が、精神が参ってしまって……」


 話を聞いていて痛々しい。

 そんな事を言われたら、自分を責めてしまうのが分かる。


「……室長は、オルタさんに提案したの。記憶を消してしまえばいいって。私達の記憶さえ消してしまえば、陛下も別の人に目を向けるだろう、って」

「まさか、それで」


 だから皆、忘れていたのか。


 不自然なほどにそこに誰かいるという痕跡があるのに、それがなぜあるのかも気付いていない。それは……記憶を消されたからだ。本当は存在しているのに、そこにあるのが当たり前なのに、それを消されていた。思い出さないように手を回されていたのだ。


「でも、陛下だけは、薄っすらとでも覚えてくれてた。私はずっとここで薬を作る手伝いをさせられていたんだけど、よく室長に言われていたの。『陛下の記憶にあるセナリアさんの事は、なかなか消せないようだ』って」

「……それだけ、彼女を想って」

「それを聞いて私は嬉しかった。私は忘れられても構わない。けど、姉だけは……今もどこにいるか分からない姉だけは、陛下に覚えててほしかったから」


 どうやら記憶を消されてからは、エレナはここでずっと囚われていたようだ。誰にも会えず。誰かと話す事も許されず。そしてセナリアは連れていかれた。なんとなくではあるが、命令されたのだろう。毒草を得意とする薬なら、利用価値は大いにある。


「それを知って、少しでもこの状況を伝えようと、魔法を使って陛下に姿を見せていたの」

「! もしかして、昨夜」

「ええ。知らない人がいて焦ったけど、あれはあなたの仲間だったのね」


 エレナの魔法は弱いらしく、大きい魔法を使う際は月に一度だけしか発動させる事ができないらしい。自分の姿を見せるだけで精一杯のようで、声を発したり何か伝える事まではできなかったようだ。しかも体力の消耗も激しく、次の日は立ち上がる事さえできないらしい。


 今も、座った状態で身体を引きずるようにして傍に寄って起こしてくれた。隠し扉があるらしく、ディミトリスが誰かと話しているのを聞いて、ここまで来てくれたようだ。それにエレナは元々囚われているため、部屋から出る事はできないらしい。何度も逃げようと試みたようだが、魔法で閉じ込められているようだ。話を聞いて、ロゼフィアはエレナの手をぎゅっと握った。


「私に、何かできる事はある?」


 ディミトリスには眠らされただけだ。

 動ける自分なら、この場で何かできるかもしれない。


 だがエレナは微妙な顔をする。


「さっき室長が薬を持って出て行ったわ。あれが記憶を消す薬なの。多分、皆のあなたの記憶を消そうとしてる」

「え」

「仲間も、あなたの事を忘れてるかもしれない。だったら意味がないわ」

「そんな……どうしたら……」


 そんな事信じたくないが、もしかしたら薬のせいで忘れられる可能性はある。だったらどんなに走り回っても、話をしても、きっと聞いてもらえない。皆、知らないロゼフィアの話よりも、知っているディミトリスの話を信じるに決まっている。


 どうすればいいか二人で頭を巡らす。


 今すぐにでもできる事。

 自分だからこそできる事。


 一体それはなんだ。


「……あ」


 エレナが急に声を上げる。

 そして足を引きずりながらどこか向かって進み出す。


 ロゼフィアも手を貸してその場所に向かう。

 向かった先は、隠し扉だ。エレナがいつも使っている部屋だという。


 彼女はすぐに敷いていた絨毯をめくる。

 そこには円状の何か模様が描かれていた。


「これは……」

「移動魔法。魔法陣を使って書いたものよ。もしものために書いていたの。そんな勇気なくて今まで使ってなかったけど、やっと使える」


 魔法陣を使った魔法は、一度しか使えないらしい。


 行きたい場所を強く念じたら行く事ができるようだ。

 ただ、行った事のある場所でないと、全く分からない場所に出てしまうとか。


「私が知っている場所はシュツラーゼくらいだから……。隠れて行った上に、今更なんて言えばいいか分からなくて、使う勇気が持てなかったの。でも、あなたならきっと」


 エレナの意図が、すぐに分かった。

 他国から来たからこそ、国に戻って助けを呼べる。


「……エレナ、ありがとう」

「それはこちらの台詞。ありがとう、あなたが来てくれてよかった」


 その場でお互い抱きしめ合う。

 そしてすぐにロゼフィアは魔法陣の上に立った。


 エレナが呪文を唱えようとしたその瞬間……ゆっくりと隠し扉のドアが開く。


「「!!」」


 二人はすぐにそちらを見る。


「おや、なに勝手な事をしているんですか」

「室長……!」


 ディミトリスは笑みを深くする。


「いつの間にかエレナとも仲良くなって……あなたもいけない子ですね。まだ分かっていないのですか? あなたの姉は私の掌で踊っている。あなたが勝手な事をするなら、姉の命はないですよ?」

「やめてっ!!」


 エレナが叫ぶ。

 ロゼフィアは眉を寄せた。


「……室長、もうやめてください」

「はて。あなたにそんな事を言われる筋合いはありませんね。それより私は、あなたの瞳に興味があるんです」


 急に近付いてきたと思えば、顎を掴まれる。


 糸目がそっと開き、こちらの瞳を舐めるように見てくる。

 気持ちが悪い。視線を外したくなったが、相手がそれを許さない。


「……本当に美しい。両方ともくり抜きたいですね。『紫陽花の魔女』の瞳だと売れば、オークションでも高く売れるでしょう。いや、観賞用かな。それとも、実験に使うのも……いやそれは少々もったいない」

「や、め」

「逃げられるなんて思わない事ですね。あなたのお仲間達だって、あなたの事はとっくに忘れてる」

「……っ!」

「このまま私の手で……ぐあっ!」


 急にディミトリスの首根っこを誰かが掴み、そのまま投げ飛ばされる。壁に当たり顔を歪めたが、その傍に剣が寄る。みるみるうちに顔が青ざめた。


「……汚い手でロゼフィア殿に触れるな」


 相手を威嚇する低い声が聞こえた。


 解放されたロゼフィアは、その人物を見た。

 彼も、ゆっくりこちらを目を合わせる。


 確信した。

 思わず胸が締め付けられる。


 ジノルグが、来てくれたのだ。

(3月18日追記)

時期は過ぎましたがバレンタインの話を書いてみました!

楽しんでいただけますように。


https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/455765/blogkey/1986892/

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