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ピコの謎箱(リドルボックス) ~上~

その次の日。

私の気分そのままの雨模様だったけれど、私達は打ち合わせのためにテラさんの下宿の食堂に集まった。まあアレよ。赤点とって人生終わった、みたいになってもちゃんと次の日も授業があるようなものよ。



「おう、皆集まったな。・・・ナノ、何かあったのか?」

「何でも・・あ、アトさんは?」

状況を知らないテラさんが声をかけてくるけど、答えられるわけないので話題を変える。


「ああ、アトはまだギルドで治療を受けてるよ。やけどの跡を消すとか言ってたな。ついでにギルドで魔法の補習を受けさせられてるってぼやいてたか。」

「あぁ・・」


意味の薄い反復作業をさせられる懲罰目的のおしおきってやつね。

私が一人納得している間に下宿の主人がやって来た。テラさんが数枚の硬貨を渡すと、すぐに飲み物が届けられる。テラさんとイクサさんには林檎酒(シードル)、私とペタは薄めた林檎の絞り汁だ。

こういう打ち合わせの時の代金をリーダーが出すか各自が払うのかはパーティによってまちまちだけど、うちは年長者のテラさんとイクサさんが交代で払ってくれる。


「それじゃあ、揃ったところで明日の打ち合わせ始めるか。昨日ギルドに行ってきたんだが・・・」


飲み物が配られると、テラさんが仕切ってすぐに打ち合わせが始まる。

パーティの生存率を上げるためにも事前の打ち合わせはとても重要だ。

モンスターの構成や数、周囲の状況ごとに細かく戦い方の検討をすることも必要だけど、もっとも重要なのはモンスターから逃げるタイミング。これはどのパーティもしっかり打ち合わせをしてイザというときに迷うことがないようにしている。

迷ってるうちに万が一逃げ遅れたら生存は絶望的になるし、その人を救出するために戻ってパーティが全滅、なんて悲劇も避けたいからね。


それと発掘する場所はギルドが各パーティに割り振っていて他のパーティに出し抜かれるということもないので、打ち合わせは今みたいに食堂を使ってオープンにやるのが定番だ。

成績のいいパーティの打ち合わせは、他のパーティも聞き耳を立てている。

そうやって成功したやり方が共有されていくんだね。今はまだ遺跡の底も見えてないから、早く発掘を進めるためにパーティ間の情報のやり取りは活発だ。



「・・・それでまあ、ギルドの方針はみんな知ってるだろうけど、俺はこのパーティで引き続き発掘申請を出そうと思うから、あんまり気にすんなよ。」


テラさんが私達を見て、そう声をかけてくる。

実は今、私達のパーティは解散の危機にあった。

モンスターが超回復して思うように討伐数が稼げない現状では、すぐに次のモンスター・オーバーフローを起こしてしまう。それを避けるためには敵が回復しても強引に倒し切ってしまう火力が必要だ。

だからギルドの方針は大きく変わっていた。

これまでは戦力を分散させ、そこそこ戦えるパーティをたくさん作って効率的に遺跡を探索しようという方針だったのを、戦力となり得る人を集約させて残りは斥候と後方支援専任にするという方針に転換したのだ。

そうなると私達のパーティはテラさん以外は火力もないし斥候も中途半端だ。近いうちに解散勧告が出ると思っていた。テラさんの気持ちは嬉しいけど、ギルドの勧告は事実上の命令だ。発掘許可を出すのも発掘品を買い取るのもギルドだから。


私のそんな複雑な顔を見たからか、テラさんが優しい顔で付け足した。


「そんな顔するなって。」

「でも・・」

「大丈夫なんだよ。実はあの夜襲でのお前たちの討伐成績がようやく認められてな。お前らも戦力として数えていいことになった。つまり冒険者見習いから冒険者への昇格ってことだな。」


「えぇ!」

「ほんとに?!」


パーティリーダーのテラさんが確認してない討伐は申請しても信用してもらえない。認められなかったのだと思ってた。


「お前らがあれだけの大怪我をしながら討伐したんだ。認められないわけないだろが。」


ああ、テラさんマジ男前だ。

ギルドとどれだけ交渉してくれたんだろう。これだけ時間がかかったんだから相当骨を折ってくれたはずだ。


「やったね、ペタ。私達ついに見習いじゃなくなったよ!」

「おう。やったな!」


私とペタは思わずハイタッチする。

してから、ちょっと顔を赤くして視線を外す。

イクサさんがまた私達を見てニヤニヤしていたのは見えないフリだ。気を取り直して私はテラさんに話しかける。


「ということは、解散勧告はない?」

「ひとまずはな。でもこのパーティで続けるにはもう少し討伐成績を上げなきゃならない。ここ最近の成績じゃ、いずれ解散勧告の対象になる。」

「そうかぁ。」

「かといって俺は無理はしたくない。まあ手っ取り早いのは戦力になる奴をスカウトすることだな。当てはまったくないが。」


そう言ってテラさんはわっはっはと笑う。

笑い事じゃないっての。まあそういうところ嫌いじゃないけど。


「テラさん。その原因となった超回復のことは、ギルドで何か言ってた?」

昨日、なの子から情報は貰えたから解決策は分かっている。

ただ現状を把握しておきたかった。

「ああ、今も調査はしていると言ってたけど、おそらく魔道具マジックアイテムによる広域回復魔法の誤作動じゃないかってことだ。というのも、あの夜襲があった一週間前に遺跡で神殿のようなものが見つかっていてな。王都の偉いさんがいろいろ調べてたらしいんだよな。」


遺跡内の所々にある神殿のような部屋では、魔道具マジックアイテムが発掘されることが多い。

もちろん見つかったものが魔道具マジックアイテムなのかただのガラクタなのか、私達にはわからない。鑑定しなくちゃいけないけど、それは王都で賢者と呼ばれる人たちが行っていた。

だから冒険者が発掘してきた”魔道具の可能性が少しだけあるもの”は、冒険者ギルドが一律の金額で買い取って、すべて王都に送っている。


さらに神殿のような魔道具マジックアイテムの出そうな場所なら、冒険者が自分で発掘しなくてもその場所の情報をギルドに買い取ってもらうこともできる。

ギルドとしても、王都から詳しい人に来てもらって手付かずの状態から調査してもらった方が確実だ。つまりこの話だと、その神殿の位置情報を誰かがギルドに売って、ギルド経由で王都からきた人が発掘したってことね。



「あ、わかったぞ。そこに回復の魔道具マジックアイテムがあって、それを間違えて発動させちゃったってこと?」

「ああ、ギルドの見解もそんな感じだ。その発掘をしてた偉いさんも今は行方不明ってことだからな。ま、俺がこれだけの効果のを持つ魔道具マジックアイテムを誤発動させたら逃げるね。」

「それで、いつまで効果は続くのかしら~」

「それが分かれば苦労はしないが、まあいつかはマナ切れになるさ。」

「これだけ広範囲で長い間発動するなんて、相当マナを蓄えてたのね~。」


なの子のしでかしたことが、そんな話になってたのか。

というか、偉いさんってもしかして"アイツ"のこと?


テラさんとペタ達は他人事のように話をしていて、「実は私、事情を知ってます。」とは言い出しにくくなる。他にも色々相談したいことはあったんだけど、困ったな。

なの子が送ってきた圧縮知識ブレインボムによれば、この超回復現象はなの子の制御を離れたナノマシンが原因だ。どうやらなの子の制御を離れても条件さえ整えば勝手に自己増殖しちゃうらしく、自然にどんどん広がっていく。

幸いにも一定密度以下になると自壊する安全機能もあって、つまり空気中に拡散すると自壊するので、体液などを伴う接触以外ではナノマシンが広がる心配はないらしい。

R18指定にするつもりはないので、いやらしい想像はしないでね。


まあそれはとにかく自己増殖するナノマシンが原因なので、自然に広がることはあっても自然に収束することはない。

あの箱はパンドラの箱か。

あの箱から紙を出さなければ、いや、それをペタに移植しなければ・・・

すべて過ぎてしまったことだけれど、ああ、慎重で冷静な私はどこに行った!と考えて、そういえば昔から、いや前世から思い付きでイロイロやってたな、と思った。三つ子の魂は世界を越えた。

思わず遠い目をしてしまう。



「ねえ、その話ホント?」


後ろから女の子の声がして、皆が振り返る。

黒いワンピースを着た小さな女の子が、そこいた。


「君は?」

「私はピコ。今日この町に来たの。」

「旅行者か?」

「違うわ。こう見えても魔法使いよ。」

「ってことは、お嬢ちゃんも冒険者なのか。」

「そうよ。よろしくね。」

「お、おう。」

「それでね、さっきの話だけどその魔道具マジックアイテムって、今は誰が持ってるの?」

「さあな。あくまで噂だしなぁ。どんな形をしてるのかも・・・」

「じゃあじゃあ、こんなものを見たことはある?」


そう言ってピコと名乗る少女は箱を取り出す。

それはすべての発端となったあの箱とよく似ていた。






次週、もう一人メインキャラを出すつもりなので、ピコの年齢設定などはその時に一緒に書きます。


■討伐成績

モンスターを討伐した証拠として耳を持って帰るなどはよくある設定ですが、今回はパーティリーダーによる自己申告制としました。

それ故に、パーティリーダーと認められるにはそれなりの信用がなければなりません。

もちろん、監査として時々ギルドの人間が発掘に同行したりしますし、実力以上の報告をしてしまうと、モンスターの多い前線に割り振られて身を滅ぼす、なんてことも考えられますから、虚偽申請はある程度抑止されている、ということにしています。

とはいえ、多少の水増しはあるでしょう。特に1匹も倒せなかったときなどは、ギルドもパーティを路頭に迷わせるのは本意ではありませんから、少しは黙認はしていると思います。


尚、死体は通路の脇に寄せておけばスライムなどの死体を食べるモンスターによっていつの間にか処理されます。

また薬の素材となるような角や爪はもちろん持ち帰っています。


■発掘申請

遺跡発掘は王都が冒険者ギルドを通じて管理・運営を行っている公共事業という位置づけです。

ちなみに勝手に入って発掘しても買取をしてくれるのはギルドだけなのであまり意味はありません。

分かりやすい金銀財宝は出土しないで埴輪や土偶のようなものが見つかって一般人には大して価値はないけど、博物館なら引き取ってくれるというようなニュアンスが近いかもしれません。

ただし、裏の流通ルートは存在していて、裏ルート専門の冒険者もいます。

尚、遺跡と発掘品(マジックアイテム)の所有権も厳密に言えば王都にあり、冒険者に素直に提出させるために買取という形をとっているだけです。

ただ、冒険者達は所有権まで考えてもないでしょうね。現代知識のあるナノは多少考えたこともあるかもしれませんが。

ちなみに発掘申請は有料で、運が悪ければ赤字になることもあり得ます。

ただ、実際は上の「討伐成績」にも書いた通り多少の誤魔化しもありますから赤字になることはないでしょう。

また、申請の際に発掘場所の希望を伝えることは出来ますが、どちらかというとギルドの都合で割り振られることの方が多いようです。


林檎酒シードル

テラさんが飲んでいる林檎酒シードルは、リンゴを皮ごと絞って樽に詰め、リンゴの皮にもともと付着している天然酵母の力で発酵させたものです。樽の気密性が高いわけではないので発泡はしません。ナノ達が飲んだのは発酵させる前の絞り汁ですね。もちろん、厳密に温度管理されているわけではありませんから、多少は発酵してアルコールになっているかもしれません。

現実の中世では衛生的な水がなかなか手に入らなかったので、子供も水代わりにワインを飲んでいたようですが、日本で読まれる小説にその記述はいらないかなと思い、子供はジュースにしています。


■ワンピース

作中ではワンピースとしましたが、現代のような体形に合わせて型取りしたものではなく、筒型の布に頭と腕を通す穴を開けただけの貫頭衣ですね。背が伸びても腰ひもの位置を変えるだけですから、子供の服として割とメジャーだろうということで採用しました。

尚、この町はリンゴの産地ですから、まあ日本で言えば青森のような、温帯の中でも寒い地方です。もちろん冬になればそれなりに着込むのでしょうが、今は温暖な季節ということで一つ。

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