雨(あめ) 夢(ゆめ)
ペタが何かを言っているような気がして、私は意識を取り戻す。
雨が少し強くなったのだろうか。髪の毛が首に張り付いて気持ち悪い。
でもカラダは動かない。
見える、というのとは少し違う感覚で周囲の状況を把握する。
何だろう、なの子とリンクして情報をもらってるんだろうか。
ペタが私を担いで走っている。
私、軽くないのに。
また意識が遠のく。
モコとペタが言い争っている。
アトさん、イクサさんの気配も感じる。
戦えるのなら戦列から離れるべきではないというモコ。
私のそばに居たいペタ。
ああ、なんだろう。
もっと子供だった頃のペタと近所の悪がき、母や父、前世の日本での研究者仲間、色々な言い争いの記憶が混じってきた。
建前をイヤミったらしく言うのはモコなのかサトルなのか。
モコ?サトル?は捨て台詞を何か言って出ていく。
テラさんも、イクサさんと何か話して出て行った。ピコもついていくようだ。
そういえば、町はどうなったんだろう。
私は喪失感を感じている。
しかし、何を。
何を失くしてしまったんだろう。
意識が暗転する。。。
気付いたら町まで戻っていた。
トロールやゴブリンは?
・・・私の箱が盗まれたようだ。
やはりトロール達は陽動で、私達がいた場所の脇の森を抜けたゴブリンが町を襲ったらしい。
その中に人間の男が一人。
ゴブリンに対応するため手薄になったギルドを襲い、そこにいたサブギルと対決して、利き腕と足に重傷を負わせた。
利き腕は戦闘力を奪う為、足を狙ったのは後を追わせない為だ。
なんとも無駄がないというか、洗練されているというか。
町も火をかけられて、今も煙がくすぶっている。
雨が降っていたのに火をかけられた、ということは魔法だ。
魔法使い対策として町のマナを消費する、という目的もあったのかもしれない。
ゴブリンは魔法を使えないから、火をかけたのはその男か、他に魔法使いもいたのか。
認識阻害系統の魔法も使っていたのかもしれない。
目撃者は多くいるのに、その男の容姿も背格好もはっきりしない。
それでも魔道具が盗まれたのだ。
すぐに追跡隊が組まれる。サブギルが指揮を執るみたいだ。重傷だというのに。しょうがない。ナノマシンをたっぷりつけておこう。
モコも一緒に行くようなので、モコにもナノマシンをしっかり付けておく。
ペタと言い争っていた時、私の所までゴブリン達が来ないように、そんな気持ちで言ってくれていたのは分かっているから。
短い付き合いだったし、嫌なやつだと思ったことも多いけど、悪いやつだと思ったことはなかった。
ペタは、何もしないで沈んでいる。
もう泣いてはいない。
翌朝。
寝ている私の部屋に隣の家のお姉さんが来て、イクサさんが対応していた。
お姉さんは泣いていて、顔なじみのペタは部屋を出て行った。
そういえば、私は大けがをしているはずなのに誰も回復魔法をかけようとしない。
イクサさんとお姉さんの会話が聞こえる。
「ナノは・・」
「首の骨が・・・」
そうか・・・私、死んだのか。