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トロール

~ここまでのあらすじ~


天涯孤独の女の子、ナノは今日も冒険者として遺跡の発掘に勤しんでいた。

そんな彼女は遺跡で謎の箱を拾って持ち帰る。(1話)

しかしその夜、モンスターの襲撃を受け(2話)、相棒のペタが重傷を負ってしまった。

箱の秘密に気が付いたナノは、何とかペタの命を救う。(3話)

しかしそれと引き換えにおかしなナノマシン(なの子)がペタに宿ってしまった。(4話)

まあいいか、と流していたら謎の超回復現象が蔓延し(5話)、同じような箱を持つピコも登場。(6話)

謎の男の子、モコも乱入して(7話)いよいよ恋のさや当てが始まるかと思いきや、モンスターが襲撃してきた。(8話)

ピコとモコをパーティに加え、雨の降る中モンスター迎撃の準備を整えるナノ達。(前話)


アトさんとイクサさんはすっかり蚊帳の外でバトルが始まる!

トロールが大きな石を投げて、それがやぐらを直撃する。

そのトロールにバリスタから放たれた太い矢が刺さって、それが開戦の合図になった。


もう一基のバリスタからも同じものが放たれて、後続のトロールの腕に刺さる。

さらに別のトロールの頭の辺りで炎が爆発する。これはピコかな。

トロールの周りがモヤっとして全体的にトロールたちの動きが鈍くなると、残ったやぐらや高台から一斉に矢が射掛けられる。


それでも致命傷にはならなかったトロールたちは、飛んでくる矢も気にせず、持ってきた岩や丸太をやぐらに投げつけていた。


「やぐらに行かなくてよかったわ。」


ピコが魔法のステッキを振りながらぼやいている。ん?


「あなた、それ・・・」


なんとピコの手に握られているのは、マジカル~や魔法少女~などの、いわゆる日曜朝のアレが持っているファンシーラブリーなものだった。

「何よ。」と言いながらピコがソレを振うと、キラキラとした何かが軌跡となって舞い落ちる。

「いや、それって・・・魔法のステッキ?」

「私の魔法の媒介よ。オリジナルだから、ちょっと珍しいかもしれないわね。」

「オリジナル・・・」


これって、ピコも異世界の記憶を持って生まれてきたってこと?


「ナノ!俺たちも行くぞ。」


ピコについて深く考える間はなかったようだ。私達も仕事をしないと。

ペタと一緒に駆け出しながらトロールを見ると、槍のような太さの矢を引き抜いていた。ピコが燃やした頭部も、髪の毛も含めてどんどん再生している。


バリスタが次の矢を射掛ける。

バリスタの攻撃は強力だが、連射は出来ない。人の手ではとても引けない強力な弓を回転輪軸を使って巻き上げる。そうやって時間をかけて溜めた運動エネルギーを一気に射出する。

トロールは全部で10体はいるだろうか。それに対してバリスタ2台では数が足りない。押し込まれるのはもとより承知だ。

塹壕や柵が障害とはなっているが、殺傷力はない。そうやって足止めをしたところで本来は矢を射掛けるのがセオリーだが、その弓矢の多くがトロールの足止めに使われているのだから、柵などはただの時間稼ぎでしかなかった。

押し寄せるゴブリンに対して冒険者も円陣を組んでバリスタを守ろうとしているが、お互いに自動回復して長期戦になる状況なら、一対一では弱くても数が多いモンスターの方が優勢になってしまうのだろう。



そう、だから今が頃合ころあいだ。



私達は戦場を移動する。ゴブリン達が射掛けてくる弓矢はテラさんとモコが対応してくれた。

私はペタの手を取る。すぐになの子の声が聞こえた。

なの子の準備が出来たことを確認した私は、合図の為にペタの手を強く握る。ペタは意を決したように息を吸い込んで、


「全員集合!」


ペタが戦場の中心で叫んだ。

これが今回私とペタが前線にいる理由。なの子の制御を離れて勝手に回復活動をしているナノマシンの回収だ。

ひとしきり回収したら、すぐ森に逃げ込んで場所を変える。



「ねぇ、なの子。これ、声に出さなきゃいけないの?」


【あの巨人までは届きませんでしたね。もっと近づかないといけません。】


無視か。マスターの発言も無視なのか!


【そんなことはありません。】


・・・


やっぱり無視じゃんか!!

そんなやり取りをなの子としながら、戦場のあちこちで、モンスターに付いたナノマシンを回収していく。


「ほんとにすごい勢いで傷が治って行くんだな。」

モコが肩に矢を受けて足が止まる。私とテラさんが盾を構えて庇っている間に、自分で引き抜いてそんなことを言った。

「ナノマシンを回収しているからだいぶ余ってるんだってさ、修復力が。」なの子の代わりに私が答える。

「それなら安心して戦えるな。」テラさんがそんなことを言いながらトロールを見る。

バリスタからはとっくに次の矢が飛んできていいのだけれど、それがないことを考えると、ついにゴブリン達の手で破壊されたのか。


「ピコ、ここのマナはまだ残っているのか?」

「まだ残ってるけど、やぐらの魔法使いが飛んできた石を破壊するのにマナを無駄遣いしたわ。あのやぐら、意味あるの?」

「そう言うな。少なくともトロールの目を引いてくれている。」

「ゴブリン共にはだいぶ陣の奥まで入られたな、弓や魔法使いもゴブリン共を狙い始めて、トロールの足止めが薄くなってる。」

「あの茂みに隠れていったんあのトロールをやり過ごすぞ。」


私達は一旦茂みに身を隠して戦況を確認する。

私達に有利な点はまず高台にいることだ。トロールの投石は本当ならもっと脅威になるはずだが、高低差の分の位置エネルギーが投石の運動エネルギーから引かれる。逆にこちらからの射下す矢は、位置エネルギー分が加算されて威力が増す。高さはそのまま攻撃力に補正となって働くのだ。

それから回復力の違い。

元々モンスターで回復魔法を使えるものはまれだ。

一気に押し切られるような戦場を選ばなければ、多少の戦力差があっても回復の出来る冒険者が有利というのが定石だった。

今回はモンスター側も回復するのが厄介だったのだが、それは私達がぎ取っている。

今をしのげば戦況はこちらに傾いてくるだろう。




「全員集合。」

小さくペタがささやく。目の前を通り過ぎるトロールのナノマシンを回収した。

でも私達はトロールに気を取られすぎていたんだ。未熟だった。


「うっ。」

アンブッシュ(隠れて待ち伏せ)が出来るのは私達だけじゃない。むしろそれを得意とするモンスターがゴブリンだ。

握った手に急に力が込められて振り返ってみれば、ペタがまたもや刺されている。


「ペタ!」

刺したゴブリンの首筋を狙って剣を突き出す。

ゴブリンはそれを避けるかペタに刺した剣を抜いて防ぐか、一瞬迷ったのだろう。その逡巡しゅんじゅんの一拍のうちに私の剣はゴブリンの首を穿うがつ。


しかしゴブリンが一匹で襲ってくるわけがない。

ペタの安否確認よりまずは周辺警戒と・・・撤退だ。トロールはもうこちらに気付いただろう。

「テラさん!」そこまで考えて、声を上げる。

「ピコ!トロールに魔法だ。」そう言いながら敵を引き付けるようにテラさんが茂みから飛び出すのが見える。

私もペタを抱えて茂みからそっと抜け出す。視界の効かない茂みの中ではまたどこから襲われるか分からない。

しかし、ピコからの魔法はいつまでたっても飛んでこない。トロールがこちらを振り向く。

「ナノ、俺は大丈夫だ。」ペタは刺さった剣を抜いて自分の武器を構える。

「なの子!」この距離ならと呼びかけると、【今やってますよ。】と返事が返ってくる。ダメと言わないなら治る範囲なんだろう。私はペタの傷を負った側にかばうように立つ。

しかしピコとモコが茂みから出てこない。魔法も飛んでこない。もしやとは思ったが、何かする前にトロールが持っていた丸太を振り回してきた。

相手が大きいということはリーチも長いということだ。技量があればそれでも懐に飛び込んで足なり腹なりに攻撃もできるのだろうが、そんな技量もない私達がまともに戦える相手じゃない。短弓は持っているが、立ち止まって構えて狙う時間を与えてくれるとも思えない。

つまり私達はトロールに対して逃げの一手しかないのだけれど、先ほど中途半端にトロールをやり過ごしてしまった結果、戻るべき自陣営はトロールの向こう側だ。


「立ち止まるな。弓に狙われるぞ。」

「ペタ、動ける?」テラさんの声を受けてペタに問いかける。

「大丈夫だ。走れる。」

ピコとモコは気にかかるが、もう茂みには戻れない。

私達は弓に狙われないよう適度に距離を開けてジグザグに走りだした。

いや、走り出そうとしたその時、トロールの側頭部に飛び蹴りが刺さる。


「ピコ?!」


ついにステッキだけでなく全身が日曜朝の魔法少女っぽくなってしまったピコだった。

いつの間にかモコがトロールの背後に立ち、足に短剣を突き刺す。両手で両足のふくらはぎにそれぞれ一本づつ。

立っていられなくなり両膝をついたトロールがデタラメに丸太を振り回すと、何かに弾かれるようにモコは離脱する。たぶん魔法で何かしたんだろう。


もはやトロールに戦闘力はない。

私達はトロールを迂回してピコとモコに合流しようと走り出す。

その時だった。

トロールが丸太をぶん投げたのは。


トロールは見えていたのか、野生のカンだったのか。

いずれにしても、まだ怪我の癒えないペタをかばって走っていた私を、丸太がきれいに吹き飛ばした。





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