プロローグ
「どうしてこうなった……」
目の前に風景に俺はそう呟いた。
群青の空の下に建ち並ぶレンガの家々。
歩道には人々が歩き、車道には馬車が走っている。
歩く人々の中には鎧を着た者や、獣のような耳をした者もいる。
何故こんな事態に陥ったのか目をつむり少し前の記憶を思い出す。
――高校生だが学校には行かず家に引き篭もり、俺はいつものように執筆活動をしていた。
だが、あまり筆が進まないので、気分転換にと毎度のことながら近くのコンビニへと足を運ぶ。
週刊少年誌をチェックし終え、家に戻ろうとしたが、少年誌の隣にあった一冊の本に目が留まった。
『サルでも分かる小説家への道!』という、いかにも嘘の匂いが強そうな題名の本である。
俺は少しだけ、ほんの少しだけ気になり、その本を手に取った。
裏表紙には何も書いていなかったのでそのまま表紙をめくり――
そして気がつくと中世ヨーロッパ風な場所へと移動しており、今に至る。
もう一度街並みを見渡そうとしたその時、目の前に少女が立っていたことに気づく。
茶髪で丸く膨らんだ頬の少女は、俺の体のお腹ぐらいまでの身長だ。
こちらを見つめ続ける少女の瞳からは機械的な、冷然としたものが感じられた。
「どうしたの?」
俺が質問すると少女はくるりと回ってこちらに背を向けて口を開く。
「ついてきて」
呆気に取られた俺には目もくれず少女が歩き出すので、とりあえずついて行くことにした。
歩きながら俺は考える。
多分今の状況は今流行りの異世界転移もの、文明は街並みからして中世風。
でもこの少女はヒロインにしては幼すぎないか? ロリは恋愛対象外なんだが。
この幼女が新たなる美少女の元に案内してくれているということか、それともこのロリがいきなり成長したり……
そんなことを考えていると急に前を歩く幼女の足が止まる。
「ここ、入って」
幼女が入れというのは目の前の建物の事なのだろうが、そこには今にも崩れそうな教会が建っている。
ところどころの壁が剥がれ落ち、窓のステンドグラスも割れていて、見ていて痛々しい程だ。
幼女に言われるがままに教会に入ると祭壇に人影が見えた。
艶やかな黄金色が腰の下まで流れていて、淡い紺色の修道着は女性もの、その人影は祭壇に向けて祈りを捧げている。
……
…………
えっと、どうしたらいいのだろう。
話しかければいいんだよね? 祈祷中の女性に声をかけたらバッドエンドとか洒落にならないからね?
足音を立てずに金髪少女の背後へ回り、声をかけようと彼女の肩に手を置こうとすると。
「へっくち!!」
俺の体は後方へと瞬時に飛び退いた。
んーだよもう! 急にそういうことされるとびっくりすんだよ! こちとら心臓止まるかと思ったわ!!
俺を驚かせた原因である目の前の彼女が、こちらを振り向く。
飛び退いた時にたててしまった音に気づいたのだろう。
振り向いた彼女と目が合う。
彼女は意を決したような顔をして俺に言った。
「どっ、どうかこの世界を……あの、救ってはくれましぇんか! あっ、噛んじゃった……」