進むよ大森林
南の指定自然大森林は広さで言えば、富士の樹海ぐらいらしいがイメージの割にそこまで広くは無く、山の手線の内側面積と同程度の大森林である。
システムには羅針盤が備わっているため迷子になる心配は無く、王都から徒歩30分で行ける好立地ダンジョンだ。
「ここが大森林の入口のようですね。」
ラブがジト目で看板を見ながら呟く。字は読めないけど、何となく緊張感のないような・・・キラキラ星が描かれててファンシーである。
ここに来るまで一応戦闘があり、定番の動く液体粘着物体やら猪と牛を足して割ったような動物を討伐したが、VRMMO経験者の俺らには障害にもならずレベルも言われた通り5になっていた。
MoSは描写表現設定を持っており、五段階で生々しい血も噴き出すリアルな設定も出来るが、設定を下げるとモンスターも可愛いデザインになるらしい。
俺たちは通常設定の三で固定しており、血液の表現は無くモンスター討伐時も採集アイテムだけが残る。
設定を高くすると解体技術が必要なるが、その分採集で得るものは多いとか。
「言われてたけどやっぱり拍子抜けるねぇ」
「森林となると、火魔術は避けた方が良さそうですね。水や氷魔術を使いましょう。」
くっ、炭になるまでコントロール出来れば火魔術だって使えるのに!ここは我慢しよう。
道中に小声でエクスプロージョンとぶつぶつ唱えて居たのだが、どうも上手く出来なく空中で小さな爆発がポンっと出来るだけであった。
林道に入り奥に進む。やはり中は薄暗くどこか湿った感じがし、道の広さも二人並べる程度か。
鳥の鳴き声がかすかに聞こえ、大森林って感じ。
さて持ってきた依頼書は五枚。
この大森林に生えているスキャリオンと言う薬草を十個。解毒作用のある茸を五個。灰色狼の毛皮を三枚と肉を五個に、落とし物の指輪を探す依頼だ。
「レジェはこのスキャリオンと言う薬草、心当たりありますか?」
「さぁ?手にすればアイテム名分かるから、大丈夫じゃないか?茸もそんなに多くないだろう」
一応、先程から手当たり次第に雑草を取り調べてるが雑草とか表示されないので、違うみたいだ。
「私は指輪を探せば良いんだよね!」
妹には落とし物の指輪を探して貰うため、地面を細かく見るように伝えている。
林道を歩いていると、左側からガサガサと音がする。さてさて、どんなモンスターがお出ましだ?
「ウキー!」「アイス!」「ストーン!」
「ウキー!?」
道に飛び出てきた所に躊躇せず詠唱し、二つの礫は問答無用で猿を攻撃する。
「ッシ!」
妹様が最後のトドメを刺し戦闘終了、まさに無慈悲な瞬殺である。猿は尻尾だけを残して光となり消えていったとさ。
「複数人で戦闘した場合、レベルはどう反映されるのですかね?あくまで個人の指標な訳ですし。」
「う〜んディートハルトさんの話は、敵のレベルが重要だってことだから結局はそれに比例しそう。」
その後、何個か尻尾を入手した。猿、哀れなり。
道は少し広い空間になり、ここからは二つに別れているようだ。少し考える。
「これ思うんだけど、別に道に沿って探索しなくてもいいんじゃない?駄目?」
「駄目、ではないけど別に大森林を踏破が目的じゃないからな。一先ずは、依頼だ。」
道沿いに依頼の品が無ければそうしましょう。と、ラブリエも続ける。妹は納得したようで、また指輪を探しに辺りを調べ始めた。
「あ、ネギだ。ネギだよお兄ちゃん〜」
妹が奥を指す。本当だ、確かに森の中にネギが生えている。結構シュールな光景だなぁ・・・
足場が悪い樹々の間を抜け、ネギが生えている場所にたどり着き、ネギを抜いてアイテム名を確認する。間違いない、これがスキャリオンだ。
「良く見つけましたね、貴女」
遠くから見て、言われてみればネギだね。って分かるレベルだった。妹も褒められてえへへ〜とか言っている。ファインプレーです。
「これで一つ依頼クリアだな。」
その場にまとまって数十本生えていたので、余分に入手して置く。需要があればまた来よう。
「ネギなんて畑で量産が出来ますのにね。」
「さぁ?大森林に生えてるから特別なんじゃないか?南の大森林産ってな。」
どうでもいい話をしながら道を進む。相談の結果、右の道を選んだ。ネギも生えてたしな。
林道も段々と歩きづらくなり、俺も辛くなってくるが妹とラブはどこ吹く風。これが体力の差なのか!?ステータスのVITも3だったしな・・・
若干落ち込むが、道を続く。道中で固有名詞のある草や実はとりあえず採集し、現れた敵は蹴散らす。
「ッハ!」
妹はこれで三回攻撃を入れている。グラディウスを手にし舞う姿はまさに戦士である。
正面に大樹が見えてきた。最早、道らしい道は無く完全に大森林の中だ。来た道の方角を記録して先に進むと、何やら音がし始めた。
「これは・・・足音ですね。こっちに向かって来ます。結構数がいそうです。」
「さっきの猿じゃないよね。感じが違うし。」
早速エンカウントか。狼だったら丁度いい、返討ちにしてやる!杖を構え臨戦態勢。
「ガウゥ!!ギャゥ!グウゥガァ!!」
予想通り灰色狼だ。数十匹はいる、これは不味ったかな。と思いながら遠距離から魔術を浴びせる。
二人で魔術を唱えながら狼を撃退して行く。幸い一撃で行動不能になる為、向かって来る数を減らせているようだ。
だが流石に数が多い。魔術に当たらなかった狼はこちらへ飛び掛かり、妹の餌食になる。
魔術を唱え続けていると、段々と身体に疲労がかかり魔力が尽きてきた感覚を覚えるが、それでも唱えなければ。
「ハァッ!!」
もう妹は三匹同時に狼と戦闘している状況だが、あと少しで全て倒せる。が、俺の魔力が切れてしまった。魔術を唱えても効果が無い。
それでも唱え続けるラブを守ろうと、短剣を取り出し構える。狼が一匹こちらに来てしまった。
「ガァッ!!」
「オラァッ!!」
飛びかかって来た狼を短剣で刺して飛ばす。現実だと真っ青な状況だがこっちはVRMMORPGでの経験がある。これぐらいであれば対応出来る。
飛ばした先で妹がトドメを刺し、ラブが新たに来た狼を魔術で攻撃する。これで戦闘は終わりだろう。
改めて周囲を見ると、傷付いた行動不能の狼が蠢く酷い惨状で一匹づつ始末して行く。つ、疲れた。
「レ、レジェ。ありがとうございます。」
「ん?ラブどうした?俺は魔力切れちゃてさ・・・短剣があって良かったよ。」
それでも庇ってくれてありがとう。とラブは言う。なんか照れるね〜妹の視線が何故か痛い。
「お兄ちゃん!早く毛皮とお肉拾って!」
妹に急かされ依頼品の回収をする。しかし危なかった、もっと狼の大群が多かったらやられてたかも知れない。
「目の前に大樹が有ったのも助かりました、狼が二方向に別れて各個撃破が可能でしたから。」
「私ちょっと腕噛まれちゃった。」
妹の発言に驚き、心配したらお兄ちゃん気持ち悪いって言われてしまった・・・
「茸もあそこに生えているので、ほぼ依頼は大丈夫でしょう。後は指輪だけですね。」
ラブが指差す大樹には根本に小さい茸が生えており、採集すると依頼品と同じ茸だった。
「私も結構集中して落とし物がないか探したんだけど、見つからなかったよ・・・」
実は結構、妹は探し物が得意である。俺も何度か助けられたので、こいつが見つけられなければ俺が分かるわけがない。
なんだかんだ戦闘で疲れ、魔力を回復させる為に大樹の側で休憩することにした。
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正直、戦闘は苦手です・・・頑張ります。