いざクエストへ
ラブに俺が購入した杖用品店を教えて買いに行っている間、俺たちは暫く拠点にする宿屋を探していた。
MoSでは通常のVRMMOと同様に宿屋で横になりながらログアウトすることを推奨している。
本当は睡眠しながら落ちるのが最善らしいが、ゲーム内で一々寝ていられないのが実情だ。
「料金は七曜で一人2万コキーユだよ。」
「ここで良くないか?他も似たような値段だし、立地も悪くないだろ。」
妹様も別に問題ないようで宿屋はここに決めた。ラブの分も一緒に三人の予約をする。
「じゃ早速ラブたんと合流して狩りに行こう!」
「そうだな、もう結構調べることは調べたし」
宿屋のおばちゃん曰く、王国管轄の依頼仲介所が大通りにあり、特に王都から南の指定自然大森林は比較的安全で依頼もそこ関係が多いらしい。
ラブに位置情報を送り、数分後にやって来た。
「いい宿ですね。当分はここを拠点にしますか。」
良かった、ラブも宿屋が気に入ったようだ。
「それにしてもあんな店舗があったのですね。外から見れば閉店してる様にしか見えませんでした。」
あの後妹と大通りにあった安物量販店とやらに行ったのだったが、量販店なだけに似たような杖が大量生産されていた。
「性能はあの老舗の方が上だよな。付加価値はやっぱりデカい。だけど能力を少し落としてあの値段の安さなら別に悪い品って訳じゃないと思う。」
「紛失したり盗難されるリスクはありますし、死亡したら装備品は消滅しますからね。」
ラブは購入したと思われるワンドを手に取りそう呟いた。確かにそうだ。
MoSは死亡(HPがゼロ)した場合、金を含めて所持品が全て消滅し、その人物の魂を神聖教会に持って行かなければ復活出来ない仕組みになっている。
システムには緊急救助回線がついており、生死に関わる危機的状況に陥ると通信出来るようだ。死亡すると自動的に発信される。
知り合いが居なければ、救助後に金銭を要求されるのが一般的だとか。正に泣きっ面に蜂である。
死亡後一定時間内に救助されないとキャラクターデータが削除され新規扱いで復活するとのこと。
なんと言うソロプレイヤー殺し・・・
流石に三人もいて全滅はないと思いたいが、念のため王立特別救助部隊に回線先を設定した。
これは準国民であれば無料で使用出来るらしい。
歩いて依頼仲介所に着く。やはりここが一番賑わっており、殆どがプレイヤーのようだ。
「デッカい建物だね!すご~い・・・」
「そうですか?パリのノートルダム大聖堂に似てますが・・・それよりは小さいですね。」
まぁ現実と比べたら凄い建物なんて山ほどあるからな。旅行で行った清水寺とかそれは凄かった。
建物に入ると内装が凝っており天井が高い。デザイナーはやっぱり大聖堂を参考にしたのかな?
カウンターが両端に並んでおり、プレイヤーは中央に集まり依頼掲示板を見ながら順番をまっている。
「手分けして割りのいい依頼を探そう。」
「大森林がお勧めなんですよね?その範囲で。」
掲示板を見ながら南の大森林への依頼をメモして行く。グレイウルフの毛皮、ホットペイルの実などなど
メモを取っていると肩に手を置かれ話かけられた。
「ちょいあんさん、見ない杖ぇー持ってんな」
「あ゛?何の用だ?」
早速絡んで来る奴が現れた。このMoSでもVRMMOの醍醐味とも言える、PKは可能になっているが合意無き暴力行為は完全に違法である。
ゲーム内での処罰の対象になるので強気で!
「おっと違うんだ。別に盗ろうってぇことじゃねぇ、そいつは何処で手に入れたんだ?」
「ああ、これか?タダで教えるのはちょっとなぁ」
おっさんが少し慌ててるのを見て、性格は悪くなさそうだなとは思った。だが隙は逃さない。
「うーん・・・しゃーねぇな、それじゃここのお得な情報を教えてやる。それでどうだ?」
「別にいいよそれで、この杖の入手方法だって似たような物だしね」
おっさんに脇に連れて行かれる。うーん
「今は他の奴に聞かれたら少し困るからな。」
そんなにお得な情報なのだろうか、耳元で小声で喋るのはやめて頂きたい。気持ち悪い。
「依頼の受け方の話だ。今は皆知らずに受付の順番を待っているが、実は別に受付を通さなくても良いんだ。あの依頼掲示板の紙を取って、勝手に集めても問題はないんだ。」
何だと?じゃぁあの律儀に並んで待っている人は・・・嗚呼、悲しき日本の国民性。
「朝なんて人で溢れててよ、入場規制がかかったぐれぇだ。面倒だったから依頼紙取って先に集めて来たんだわ。」
「なるほど、良いことを聞いた。」
依頼後は奥の受付だから、と奥を見ると全身鎧を着た西洋騎士らしい人が換金して居た。初日からご苦労なことである。
「お、あの鎧ぃ・・・間違いねぇな、明鏡止水のディートハルトだぜ。βテスターの前線組だ。」
「へぇ、有名人なんだ。」
「おう、かなりプレイヤースキルが高いらしい。別ゲームでも有名だったに違いない。」
ディートハルトは換金を終え気品のある歩き方で出口へ向かって居た。聞き耳を立てると、やはりプレイヤーの間で噂に成る程有名人みたいだ。
あれ?そう言えば身内の別ゲームの有名人さんはどこに行ったんだ?さっきまで「ああ〜!!ハルクだ!ハルクもやってたんだぁ〜!」あぁぁ・・・
近くでは「ハルク?人違いじゃないのか?」「ディート様にタメ口なんて・・・」「おい、明鏡止水が動揺しているぞ?」とザワザワ。
「ヒ、ヒカリ様!?」
ヒカリは妹のネームである。MoSも同じだ。
「なっ何故MoSに!?これ、これは違うんです!別に引退した訳じゃ!これは気分転換にですね!」
どうやら、ディートハルトとやらは妹様とお知り合いの用だ。さぞかし強いんだろうな。
ちなみに周囲は今度は妹の噂をし始めている。「ヒカリ?ヒカリってあの有名なハルバードの悪魔か?」「あの可愛い子が一騎当千の狂戦士?」「信じられない・・・」
俺は妹がそう呼ばれてることが信じられないよ。
とりあえず目星の依頼書を剥がしてここから逃げよう。注目され過ぎたくはないからな。
おっさんに杖の店舗を教え三人を連れ建物を出る。
人気の無い路地にまでやって来てようやく一息つき、落ち込んでる明鏡止水(笑)に話しかける。
「いきなり連れ出して申し訳ない、ディートハルトさん。予定とかありましたか?」
「・・・いや、特にないから、大丈夫。レジェリウスさんだね。名前は聞いたことあるよ」
おお、俺の名前も知っているようだ。
そしてディートハルトと妹は色々と会話をし、妹が前のゲームが飽きた話をすると何処か安心したようだった。妹様は仏様だから大丈夫。
話によるとこっそりβテスターを応募したら当たってしまって、更にハマってしまったとか。βテスター時の話を聞くと、今とかなり規模が違うらしい。
「南に大森林なんて無かったし、王都もこんなに広くは無かったよ。大森林は行ってみたけど初級モンスターしか居なかったから、1レベでも問題ないさ」
森に着くまでには5レベになってるけど、と笑いながら話す。となるとディートハルトは今は・・・
「20レベだね。ただこのレベルはただの敵を倒せる指数であって直ぐに上がるよ」
ん?情報では中々上がらないってあったような?
「それは間違いだね。いくら雑魚を倒してもレベルは上がらないさ、量より質重視なんだ!」
成る程、20レベル程度の初級モンスターを倒したからディートハルトのレベルが20になったのか。
そう言えばβテスターでの最高到達レベルはどれぐらいなのだろうか?
「う〜ん自分は48レベルだったけど、最高でも50ちょいぐらいじゃない?これぐらいの敵になると、一人じゃ倒せなくなって来るよ」
βテスター経験者の生の話が聞けて良かった、皆でフレンド登録をして大森林に向かう。妹に凄いへこへこしてたのが印象的だった。何者だこいつ?