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異世界転落  作者: 金柑山
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第n話

ーーー幾許かの時が流れた、終わりの街のコロニー跡にて



「十二時に一体!殻ムカデ!」


安土竜也(アヅチタツヤ)は夜目が効く。

今もその特技を存分に生かし、大きな障害を発見した。

真っ暗闇のコロニー跡を進む竜也の居る部隊は一斉にサーチライトを前方に向ける。

すると浮かび上がるのは高さ1m程のドーム上の鈍い輝きと、その下で蠢く多数の脚だ。


「第二班!脚撃て!」


サカザキの怒号が響く、それと同時に大きな殻を支える脚へ鋼の針が次々と吸い込まれて行く。

ガサガサと土を抉りながら此方へと前進を続けていたその大きな団子虫のような生き物は、突如ぐるりと身体を丸め込み暗い闇の向こうへと転げ落ちて行った。


「クソッ、逃げやがった」

「殻ムカデなら仕方ないだろう?」


ポツリと悪態をついた竜也の肩に手を添えるのはジョウカ、身の丈程の大盾を持った竜也の盾持ちであり、最高のパートナーだ。


「一体でも逃がすと群れが来るかもしれないじゃないか」

「だったらそれに備えて前を見ておこう、ね」

「ああ、わかったよ。」


添えられた手を竜也はそっと払うが、その顔は不満気ながらも何処か嬉しそうであった。


「おいタツヤ、いちゃつくのは地上に帰ってからだ」


サカザキがそう言うと、ほかの部隊員からも囃し立てる言葉が聞こえる。

竜也はバツが悪そうに弩を構え直し、前を向く。


ーーーーーー


安土竜也は、所謂異世界トリップを経験していた。

帰宅途中のマンホールに『影の柱』が繋がり、そのままこの草臥れた世界へと落ちてきた。


この世界には二つの大きな力があった。

空の上からは天の力が、地下深くには地の力が、其々が地表でバランスを保っていた。その住民の中で最も傲慢となった人類はそのバランスを崩し、そのツケを払っているのだ。


竜也の落ちて来た場所は正にその最前線。地下へと続く二重扉の間で、何も判らず呆けていた竜也をサカザキが勧誘、そして竜也は『繋ぎ屋』の一員となったのだ。


『繋ぎ屋』となった竜也の活躍は中々のものであった。

その効き過ぎる夜目を存分に発揮して、竜也はサカザキの部隊をサポートし、今ここまでパイプラインを繋いで来た。


ーーーーーー


「到着だ。全隊、第四班をサポート」

「よし」「頼みますよ」


号令の後に言葉を発したのはキトリマとノチヅナの二人、双子の小男でどちらも一流の機械技師だ。

二人は背負った背嚢を置くと作業を始める。


今回の作業はパイプラインの最後の工程、変換器の設置だ。

地の力はそのままの状態では人間に扱うことが出来ない、そこで特殊な鉱石を加工した触媒を使いガス状に変換し地上までタービンで汲み上げるのだ。


「犬蟻だ!」

「第六班撃てッ!」


後方から誰かの声と、それに続いてサカザキの声が響き、そして数発の矢が放たれる音が聞こえた。


「二体…偵察だ。」


無力化した犬蟻の解体に向かったニゴエがそう呟くと部隊員全体にどよめきが広がる。

荷運びや狩りは単独で行う犬蟻だが、大きな群れが動く前は決まってフェロモンをたっぷり積んだ偵察がその先を哨戒する。


「この大人数で長く留まり過ぎたな…

キトリマ、どの位かかる」

「あと五分ってとこでしょう」

「そうか。各自警戒を怠るな、すぐ移動できるようにタンクの破棄も考えておけ」


そうサカザキが号令を下すと部隊員は一斉にざわめきを止めた。

静かな緊張の中、部隊員の囁きと装置を弄るカチャカチャという金属音だけが響く。



「終わりました」

「バッチリですよ、これで」

「よし、これよりさっさと埋めろ、帰還するぞ!」


作業の終わりを知らせる声と、サカザキの号令が聞こえたその時、未だ犬蟻の大群は来ていなかった。


「やったな、ジョウカ。」

「良かった…これで…」

「ああ、だが気を抜くな、いつも言ってるだろ?」

「そうだね、そうだ。よし、帰還するぞ」


部隊員は帰還に向けた警戒や準備を行いながらも、其々が細やかに喜びを分かち合っているようだった。



安土竜也は何処か違和感を覚えていた。

いつも通りならば偵察を倒すと直ぐにでも湧いてくる犬蟻の大群がその姿を一向に見せないのだ。

設置場所からかなりの時間歩き、大きな分岐を二つも越えたが、それでもまだ犬蟻は現れない。


「どうしたの?タツヤ」

「いや、蟻の群れが中々来ないなと思ってな」


そう言って竜也がジョウカの方を振り返るとそこには、最後尾の後ろ、ボールランプの届かない天井に犬蟻の大群がひしめき合っていた。


振り返った瞬間表情が凍り付いた竜也を見て、ジョウカは歩みを止める。

その肩を竜也は素早く掴み、止まったジョウカを歩かせながら耳元に口を寄せた。


「天井に犬蟻の大群、サカザキに伝えて」

「っ、、わかった、まかせて」


竜也の急な動きに驚き表情を乱すジョウカだが、その言葉のを聞いてキッとした表情に戻る。

サカザキの方を向き右手を上げ、ハンドサインを送ると、サカザキは一つ頷き言葉を発する。


「落ち着いて聞け、移動は続行、サーチライトは厳禁だ。」


部隊に緊張が走る


「後方の天井に犬蟻の大群が居る、恐らくゲート前の待機時間で一斉に襲うつもりだろう。だが警戒を怠るな、第五第六班は上部からの奇襲を警戒してくれ」


空気が張り詰める。もうゲートまではそれ程の距離は無く、それはつまりあの大群の一斉攻撃も近いということを意味する。


「かなりの量ですよ、犬蟻」


足音だけが響くコロニー跡で、竜也はそう報告する。


「…『火』が使える者はグローブを外せ、陣形の準備もだ」


サカザキの号令で部隊員の半数程からガサゴソと音がする。

サカザキは左手のみグローブを外し、腰のベルトにそれを引っ掛け固定した。



「ゲートだ!」

「ニゴエ!回せ!」


竜也の声とサカザキの声はほぼ同時に聞こえた。

サーチライトが前方遠くを照らし、ニゴエがその光の道を駆けて行く。

大きな金属扉についたハンドルをニゴエが回すと、くぐもった金属音が聞こえてくる。

ニゴエの居るゲート前にあと少しで部隊が接触するというところでサカザキの怒号が響き渡る。


「全員ゲートを背に!全員で帰還するぞ!!!」


サーチライトの白い筋が一斉に犬蟻を照らし、黒々とした天井からボロボロとそれらが降下してくる。

犬のように縦に大きく開くその顎の中心に、最初の一矢が撃ち込まれた。


ジリジリとゲートが上がって行く。

怒号、罵声、弩の音に燃え盛る犬蟻の断末魔が響き渡る中、安土竜也も着々と犬蟻を穿っていた。


「クソッ、ゲートはまだか!」

「力ももう切れかけてる!」

「それじゃトドメが刺せねえぞ!!」


ーーーーーー


ここで少し説明を挟まねばならない。

天の力と地の力、それらは生物に様々な影響を与えていて、それは人間にも同じであった『火』というものもその一つである。

天の力を少しばかり体内に溜め込み火炎として放つ能力、それこそが最強の鉾である『火』であり、人類はその力で地上を支配していた。

然しここは地下世界であり、天の力の補給は無いのだ。

そして地の力は、地下に巣食うもの達へと凄まじい再生力を与えていた。


矢弾ではその再生力と生命力の塊を行動不能にすることが限界であり、どうしても部位の解体が必要となる。

『火』を使えば焼き壊すことも可能だが地下では天の力は補給されず、あっという間に底を突いてしまう。


ーーーーーー


「ゲートが開いた!!」


誰かがそう言うとまだ腰程の高さのゲートの隙間に急ぎ足で駆け込み伝声管に叫ぶ。


「犬蟻の大群だ!第一も開けて応援頼む!」

「ようしあと一歩だ!負傷者は後退!盾持ちと離れるな!」


サカザキが号令をかける。

騒乱の中に金属の軋む音が追加され、眩い光が差し込んだ。


「中央に道を開けろ!!!」


サカザキの怒号で部隊員が一斉に両端に寄る。

燃え盛る球体が轟音と共にその合間を抜け、爆散した。

犬蟻が次々と燃えて行き、部隊員からは歓声と安堵の声が漏れる。


「走れ走れ!地上だ!止まるな!」


第一ゲートのドアの両脇から次々と部隊員が地上へと駆け出し、第二ゲートが閉じて行く。

その中で安土竜也は弩を構えていた。


「いいのかよ、早く行ってやらなくて」

「最後まで一緒だよ、相棒だからね」

「ああ、そうだな、頼む。」

「任せて」


竜也は自ら率先して殿を務めていた。特に今回のような天井に張り付くようなものの場合、ゲート間のトンネルの設備を破壊してしまうことも少なくないため、第二ゲート閉鎖後の即座の殲滅確認は必須だった。



「これで最後だ」


第二ゲートのすぐ横の壁面を登っていた犬蟻に矢弾を撃ち込むと、竜也は弩の先をを降ろし、腰の鉈を持ち解体に向かおうとする。


「危ない!!」


その時正に真上から竜也に降り注いだ一匹の犬蟻を、ジョウカは大盾で弾き落とした。


「っっ!!!」


まだ残っていた犬蟻に驚きながらも弩のバネを引くためペダルを踏み弩を固定し、思い切りバーを引いた。

ガチリ、弩が引かれる。

何度も飛びかかる犬蟻をジョウカは大盾で弾き続ける。

竜也は矢弾を弩に込める。

犬蟻は大盾に飛び付き足を引っ掛けた。


「タツヤ!!」


ジョウカはそう叫ぶと、全身を使って大盾を竜也に投げつけるように振り回す。

大盾に取り付いたままの犬蟻の

の顎の間を、竜也の弩が撃ち抜いた。


ーーーーーー


安土竜也は生還した。

夕日の明かりで鈍く光るゲートの前、竜也は相棒のジョウカと背中合わせに適当な岩に腰掛け、装備を外していた。これから荷台に装備を積み、街へと帰るのだ。


「なあ、ジョウカ」

「改まってどうしたの、タツヤ」


何かを待ちきれない悪戯っ子のように喜色を湛えた声で話しかける竜也は、夕日を背にした誰かに手を振っていた。


「なあってば」

「だからなに、」


そう言ってジョウカは振り向くと、夕日を背にしたその人の元へ駆けて行く。

橙の光の中、母親を抱きしめる相棒のその顔は、竜也の見た中で最も美しい少女の笑顔だった。


これにて一旦完結とさせて頂きます

n話を読んで下さった皆様、本当に有難う御座います


今後この設定で長編を書こうと考えています

その時の参考にさせて頂きたいので、どんな些細なご意見、ご感想でもお待ちしております

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