第3話
終わりの街、竜也の落ちて来たゲートに一番近い街はそう呼ばれていた。
そう呼ばれる理由は鉄道列車の線路の果てということもあるが、それ以外にも一つの大きな理由があったのだ。
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安土竜也がその街並みを改めて見た時感じたものは、何かが抜け落ちているような寂寥感だった。
石造りのどっしりとした建物が建ち並び、鉄骨によるアーケードが有る大通りでさえ、そこを歩く者は余り多くない。
「ここは人が少ないですね」
「ああ、もう何年も前からこんな状態さ」
そう返事をするのは射手のコウだ。竜也より五つ程年上で、射手としての腕はいい。
繋ぎ屋の寮の隣室に住む兄貴分として、竜也に街の施設を案内していた。
「一体なんでこんな状態に?」
「お前そんなことも知らないで来たのかよ!」
コウは声を荒げると、そのままの勢いで説明を始めた。
「この街のすぐの所に怪物のコロニーが有ったって知ってるか?」
「ああ、俺が倒れていたって場所ですか」
「アレはコロニーの跡地さ、俺まだ産まれるずっと前にはさ、その上にでっかい山みたいなコロニーがあったんだ」
「でもそのコロニーはもう壊したんですよね?」
「ああそうさ、そのせいでこんな街になってる。」
「どういうことなんですか」
「あの怪物共は地の力が有るから蘇るってのは知ってるよな」
「はい」
「その地の力ってのをコロニーを通して運んでたんだよ」
「あのデカい虫みたいなのが?」
「虫はデカいもんだろう。そう、あの怪物が地上まで地の力を運んでたお陰で地上の生き物は元気だった」
「成る程、つまりその代わりのパイプラインを」
「そういうこと。」
何と無く納得したような気になっていた竜也だが、また一つ疑問が湧いてくる。
「地下に潜ってる皆が元気なのはわかるけど、地上に住んでる皆も特別元気が無いってこともないように見えますが」
「ああ、その理由は簡単さ。お前は地上に住む人で外に出てる奴をどれだけ見た?」
そう、明らかに屋外に人が少ないのだ。
あのアーケードも露店で溢れていそうなものだが活気が無く、商店などは全て屋内にあった。
「外に出るとマズいってことですか。」
「その通りだ。いや、厳密には空からの光、つまり天の力を浴び続けるとマズい。全身が焼けるような痛みらしいからな」
「それは確かにマズい…ですね」
「それでここが最後のコロニーだったらしくてな、ここのコロニーを壊してからその症状が広がり始めた、人類と虫共の終わりの街ってワケさ」
そう言って言葉を止めたコウの表情は暗く、竜也も押し黙ってしまう。
するとコウは表情を明るく変え、話しを続けた。
「だから俺達『繋ぎ屋』がパイプラインを繋いで、賑やかな街を取り戻すんだ!な、いい仕事だろ?」
そう言ったコウはとても誇らしげな表情をしていた。
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「ようし、着いたぞ」
コウが立ち止まったのはアーケードの一角にある大きな建物の前だった。
「ここは…」
竜也も立ち止まるとコウがその建物の扉を開く。
「さ、来いよ」
電話ボックス程の狭い隙間に竜也を引き込んだコウは外に繋がる扉を閉めると、反対側の扉を開け放つ。
「ユシカさーん!」
「はいは〜い」
燭台の灯りに照らされた薄暗いカウンターの奥にコウが叫ぶと、小柄な可愛らしい女性が出てくる。
「あらコウ君来てくれたのね、今日はお友達も一緒みたいね。」
「ああ、こいつはタツヤ、新入りの繋ぎ屋っす」
「あら、それじゃあうちのジョウカの後輩くんね、そのタツヤ君の道具かしら?」
「はい、サカザキ隊長に言われて」
「じゃあちょっと待ってて、今揃えるわ」
そう言うとユシカと呼ばれた女性はカウンターの奥に去って行った。
「俺の道具を揃えてくれるんですね」
「そういうことだ。な、ユシカさん、可愛いだろ?」
「え、ええまあ」
「だろ?この街の繋ぎ屋になって良かったぜ、そう思うだろ、タツヤ」
コウの話を聞くこと数分、店の奥から二人の人影がやって来た。
一人は先程のユシカ、もう一人はスラリと背の高い、オーバーオールを着た女性、灯の揺らめくその瞳に竜也は視線を奪われていた。
「おい、タツヤ」
「えっ、はい」
「採寸だ。」
コウに肩を叩かれ返事をすると、背の高い女性が竜也の手を取り巻尺を当てた。
肩、胴、脚と手早く作業をこなすその女性の、何処か幼さを残す顔から竜也は目を離せない。
頭の周りに巻尺を巻いた時、少女と竜也の視線が交差した。
「ジョウカだ、宜しく」
そのままその背の高い少女…ジョウカは頭の採寸を終えると、コウの相手をしていたユシカに話しかける。
するとユシカとジョウカの二人は店の奥にまた戻って行く。
「アイツも少しはユシカさんを見習えば年相応の可愛げがあるって話だよな、タツヤ」
「…」
「おい、タツヤ!」
「はいっ?」
声を裏返しながら竜也が返事をすると、コウは頭を掻きながら言葉を続けた。
「お前ってどっか抜けてるよな」
「そんなこと無いですよ、コウこそさっきの話し方、似合って無いっすよ」
「テメェ、俺はユシカさんに敬意を払ってだな…
竜也とコウの二人がガヤガヤと話していると、ユシカが分厚い服を、ジョウカが鈍く光る鉄兜を持ってカウンターに立っていた。
「はい、コレが貴方の作業着よ」
にっこりと笑いユシカがその服を竜也に手渡す。
「あ、有難うございまっ」
礼を言い終わるか否かの所で頭に何かが被せられる。
竜也が頭を上げるとあの揺らめく瞳があった。
ニッと歯を見せて笑うジョウカに、竜也は言った。
「俺は竜也、こちらこそ宜しく。」
この少女が竜也の相棒となり、最高のパートナーとなるのは、そう遠い未来ではない。
世界観でビビッと来た方は是非、感想等をお願いします。
いよいよ次がn話です




