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おじちゃんが見た世界  作者: 蛇炉
9/20

第九話 おじちゃん、対話する

※話数の表記、ルビのミスがありました。誠に申し訳ありませんでした。

人は他者を恐れる事を本能的に刻まれている生き物だ。


相手の様子をうかがい、相手の機嫌を予想し、相手の反応を見る。

自分が望む反応を得るために、自分が望む評価を得るために

人は、自らの発言、行動、思想をコントロールし表現する。


人は、他者からの力なくして安寧を手に入れることが出来ないのだから

人は、他者からの評価無く富を手に入れることが出来ないのだから


だから人は、より良い評価を

よりよい物を

よりよい手助けを

よりよい環境を


今よりも、もっと良い状態を望むのだ。



人よ・・・大いに探れ

人よ・・・大いにあがけ

そして求めるのだ



人の力は、“何かを求める”ことで発揮されるのだ





















*****************
















魔物が、変形した。

先ほどまで、決まった形の無い不定型な物だったのだが、今は違う。


ハッキリと、その質量を小さく圧縮もしくは凝縮し、先ほどの巨大な楕円の身体では無く人の形に近しい物になっている。

その形は、見た目は半透明な黒い物のままなのだが、明らかに人の腕、足、頭のパーツをしっかりと持っている。

両手両足を地面につき、頭をだらんと地面に垂らしていた。

その姿は、地面に這いつくばって居るようにも見え、夕日に照らし出された影のようだった。





(人型?・・・あれが、メイドがいってた一番やっかいな奴なのか?)




俺は盾を構えたまま、人型になった魔物をジッと睨み付け、後ろに突っ立っている巫女に言葉を投げかけた。




「おい巫女、魔物が人の形になった・・・あれがやっかいな奴か?」


「・・・いいえ、違います。正確に言うと、まだ・・違います。あれは、人型魔物の幼体というもので、今ならまだ、その形状になって力を振るうことは無いので、十分私たちで仕留められます。」


「なるほど、奴がなれる前にやれってことか」


「はい、そうです」




巫女は、ふわふわと浮いている本に手をかざすと、その手を勢いよく真横へスライドさせた

すると、その動きに連動するように本のページがパラパラと独りでにめくれ始めた。




「勇者様ッ!!!私はこれから詠唱に入ります、出来るだけ魔物の注意を私から逸らしてくださいッ!!」


「はぁ!?、いきなり何いってんだよ!!」


「私が“浄化の祈り”を捧げている間は、どうしても無防備になってしまうんです!!お願いします!!!」




そういって、巫女は両目を瞑り、両手を胸の前で握り何かをブツブツとしゃべり始めてしまった。


くっそ、勝手に始めやがった!!

あいつの注意を逸らせ?

俺に死んでこいって言ってるのかッ!!!!


俺は巫女を睨み付け、歯ぎしりをした。

すると、さっきまで動きを見せなかった魔物(?)が突然行動し始めた。

這いつくばるような格好だった魔物が、その二本の足で立ち上がっていたのだ。

魔物は、指も関節もない両手をこちらに伸ばし、直立不動を保っていたのだ。

そして――――――――――










「ヴアアアアアアァァァァアアァァアアァァァアァァアアアアアッッッッ!!!!!!!」











先ほどと同じような爆音を轟かせ、激しく頭と思わしく部分をめちゃくちゃに振り回し始めたのだ。

頭を振っている間も、爆音は止むことがなく、俺は思わず盾の影に隠れつつ耳を塞いだ。

その瞬間だった





ベチャッ!!!!!




「・・・は?、何だ?」




耳を塞ごうとした刹那、僅かな衝撃と共に、轟音に紛れて粘度の高いものが何かにぶつかる音が聞こえてきたのだ。

俺は、そろりと盾の影から顔を出してみると信じられないことが起こっていた。





盾に真っ黒な人の下半身が生えていたのだ。




「うおっ!?、な、なんだこれ!!!!」




俺は思わず盾から身体を離し、そのまま数歩距離をとる。

すると、ガシャンと言う音を立てて盾は地面に倒れ、盾に生えていた下半身が地面から持ち上がった。

そして、下半身は足を少しだけバタバタさせながらもがいていた。

俺は、それを見てやっと何が起こったのかを理解した。

どうやら、盾から生えていた人の胴体は、頭から盾に突っ込んできたらしい。

そのせいで、胴体の上半分がつぶれてしまい、下半身だけが残ったわけだ。

その証拠に、地面のあちこちに魔物の上半身と思わしきパーツが地面に転がっていた。

散らばっていたパーツも、しばらくするとその形を失い、元の液体のようなものになっていた。

液体は、しばらくもぞもぞとその場でうごめくと、すごい速さで盾から生えた下半身へ




「おいおい、気持ち悪いな」




俺はそう口走りながら、背後に巫女をかばうように立ち、魔物の動きに細心の注意を払った。

最悪の場合、俺が巫女の盾になればこいつを消すことくらいは出来るのだろう。

それに、魔物がいま何をしてるのかがさっぱり分からん

一体何をする気なんだ


すると、上半身が全て下半身に集まり、再び円形の塊に姿を変えたかと思うと、すぐに人型に戻った。

しかし、魔物はやっかいな状態で元に戻ったようだ。



(くそ、俺の盾を身体の一部に・・・)



魔物は、丁度身体の中心に盾を貼り付けたような状態で人型に戻っており、俺の盾がまるで鎧のようになっていた。

すると、魔物は両手を再び俺たちの方に向け、今度は両足を少し曲げ、中腰のような格好になっていた。




「ヴァアアァァ・・・・」




魔物は、轟音ではなくまるで何かを喋るように音を出すと、今度は両手を勢いよく広げた。

何をするのかと思うと、突然広げていた両手を勢いよく自らの身体に埋め込んでいる盾にぶち当てた。

当然、魔物の両手はベチャリと音を当てて辺りに飛び散った。

その瞬間




「ヴァヴァヴァヴァヴァヴァヴァヴァヴァァァァァァァァッッッッッ!!!!!!!!!!」




狂った様に盾に当てることの出来る部位を叩き付け始めたのだ。

最初は右足、次に左足、最後に頭

どれも、盾にぶつけるたびにビチャリ音を立て、根元からちぎれ、辺りに真っ黒い液体をまき散らしていた。

辺りに残ったのは、俺の盾を貼り付けた胴体と、バラバラに飛び散った魔物の部位の部位だけだった。



(・・・・なんだ?一体何が起こってるんだ?)



俺は辺りに散っている魔物の部位に警戒しつつ、俺の盾を持っている個体へ視線を向けていた。

盾は、所々黒く粘度の高い物体に覆われてしまっていて、もはや取り返すことは難しい状態だ

巫女の様子をチラリと見てみたが、まだ“祈り”とか言うのは終わっていないらしい。



(くそ、早くしてくれよ・・・・)



タラリと一粒の汗が顔を流れ、俺は正面へ視線を戻した。

すると、俺はあることに気がついた。

辺りに飛び散った魔物のパーツが、それぞれ動き回っているのだ。

右手、右足、左手、左足、首、胴体

その全てが、その場でバタバタ暴れたり、左右にごろごろと転げ回っていた。

胴体だけは、俺の盾を徐々に吸収しながら形をグニャグニャと絶え間なく変えていた。

不意に、地面を転がっていた首が、何かに引っかかったのか小さく飛び上がり、俺の方へ転がってきた。

首は、緩やかに速度を落とし、俺の足下辺りで止まった。

思わず、数歩後ずさろうとしたが、背後に巫女が居るためそこまで下がることが出来なかった。

視線を足下にある首へ落とすと、その首は丁度俺を見上げるような形で地面に転がっていた。




「・・・」


「・・・の、のっぺらぼうだな」




我ながらくだらないと思いつつ、一人つぶやいてみたが、当然誰かから返答はなかった。

――――――――と、思った瞬間






「誰がのっぺらぼうだッ!!!」



「ふぁいっ!?」




奇妙な叫び声を上げて、俺は思わずその場で飛び上がってしまった。


ま、ま、魔物の首が喋ったッ!!!


俺は足下にある魔物の首を見下ろしていると、首から再び声が聞こえてきた。




「あんた今、私のことを見て“首が喋った!!”ってビビッてるんでしょ!!

 そうなんでしょ!!

分かる、分かるよ~、その気持ち・・・私もまさか言葉が喋れると思わなかったもの。

 でもさ、あんたが私の顔見てのっぺらぼうなんて言うからさ~、なんかもう、カ-ッ!! ってなっっ ちゃってさ~、叫びだしそうな勢いで思ってたら声になっちゃったっていうねwww。

 しかも私の性質上、一度出来ちゃったらその後も楽々使いこなせちゃうらしいからさぁ~、試しに今みたいに喋ってみたらペラペラ喋れちゃってるっていうね。

 てか、私ペラペラ喋りすぎじゃない?、そうでもない?、いやしゃべりすぎだよね。

 さっきまで“ヴァアアア”とか“ヴヴヴウ”しかしゃべれなかったのに、いきなり言語とかwwww私最強すぎじゃないwww

 ・・・そういえば、さっきから一言も喋ってないけどあんた大丈夫?」




あまりにペラペラと言葉を喋り始めた魔物の首に、俺は唖然とその様子を眺めることしか出来なかった。

すると、やっと喋るのをやめた首が再び言葉を喋り始めた。




「なん黙ってるの?、少しでいいから私と言葉のキャッチボールしてよ~。

 私、せっかく喋れるんだからさぁ~、何か気の利いた反応とか出来ないわけ?

 それとも “こいつ、口とかその他諸々のパーツがないのに、なんでこんなに喋ってるの?” とか考えてて言葉出てこないの?

 いや~、もうそれはさぁ、何となくなんだよ何となく。さっきもさぁ、口とかないけど爆音出せてたでしょ?私も原理わかんないけど出てたでしょ?、それのノリだよ。

 あんたも唖然とする気持ち分かるよ?、首だけの私がこんなにペラペラ喋ってるのは・・・

 “何か他のものから気を逸らすための作戦なんじゃないか?”とか“あんたを油断させて後ろの可愛い子と一緒に吸収するきなんじゃないか?”とか色々考えるのも分かるけどさ~。

 確かに最初は吸収する気満々だったけどさぁ、今は全くそんな気ないよ?。

本当だよ?

ただ単純に、あんたや後ろの可愛い子と話してみたいな~って思っただけなのよ。

 この辺分かってくれる?、分かってくれるよね?、分かってくれたならさ、頼むから何か喋ってくれる?。

 お願いだから何か喋って、さっきから私しか喋ってないからさ、私なんか、本当に言葉通じてるのか心配になってきたんだけど・・・」




再びとんでもない勢いで喋り始めた魔物だが、言葉尻が弱々しくなっていた。


・・・どうやら、魔物はペラペラ喋るものらしい

やっと目の前で起こっていることに頭がおいついてきた。

つまり、ぼんやりとしか聞いていなかったが、少なくとも今は俺たちに危害を加える気がないらしい。

なら、少し離してみるのも悪くないだろう。


俺はそう思い、足下に転がっている頭に向かって言葉を投げかけてみた。




「おい、本当に俺たちに危害を加える気は何だな?」




俺は警戒しつつ、魔物の首にそういうと、突然首はゴロンとその場で一回転した。




「わあっ!!、やったやった!!!喋った喋ってくれた!!!

 言葉が通じてないわけじゃなかったんだね~。やっぱり私最強~ッ!!!いや~、よかったよかった。

 今のところ言語を変えるなんて出来そうにないから・・・まあ、やってみたら案外出来るのかもしれないけど、労力は少ない方がいいよね?

 ほら、人間だって疲れるのって嫌だよね?・・・そうだよね?そこ共通認識なんだよね?。

・・・まあ、わざわざ聞かなくても吸収した人間の記憶を読み取れば詳しく分かるんだけどさ

 ・・・うん、大丈夫、私普通、おかしくない。

 いや~それにしても、本当に話してくれてよかったよ~。

 あのままだったら「あっ、これダメなやつだ」って割り切って取り込んじゃおうと思ってたんだけど、早まらなくてよかった~」



「お、おい・・・俺の質問に――――」



「本当にホッとしたぁ~・・・・あー、はいはいあんたの質問ね。そうだね、今現在その気はまったくないよ?。

 せっかく言葉が話せるんだものね、思いっきり話し倒そうッ!!!!」


「あ、ああ・・・そうか」




あー、俺はこういうおしゃべりなやつ苦手なんだよ・・・

こっちの話聞かねぇくせに、テメェの話しは滝みてぇにダラダラ垂れ流す。

情報を聞き出す相手としては、これほどやりやすいやつはいねぇけど・・・正直耳が痛い。


俺は少々顔をしかめつつ、足下の首と話しやすくするため、その場にしゃがみ込んだ。

すると、首は自らこちら側に転がり、丁度俺の顔を正面から見られるように角度を調節してきた。

どうやら、目は存在していないが俺をしっかり認識出来ているようだ。




「これで少しは話しやすいだろ?、さあ、俺の質問にいくつか答えてくれ。いいか?」


「おおっ!!!これが噂に聞く“気遣い”!!

 素晴らしい!!!、相手の立場に立ってものを考える高等技術らしいけど、あんたはいとも簡単にやってのけるんだね!!!

 そして、私はこれから“会話”するんだね!!!

 会話!!!、意思疎通!!!、口伝!!!

 ああ、話しがそれたね。オーケーオーケー、何でも聞いてッ!!私が答えられることなら大体答えるからッッ!!」




首は、うれしそうに横回転しながらそういうと、突然回転をやめ、少し弾みを付けて顔をまっすぐに立てた。

ちょうど、地面から首が生えているような状況になった。


き、器用なやつだな・・・


俺は、軽く頭を抱えつつ目のまえのハイテンションな首に質問を始めた。




「まず一つ、お前の名前は何だ?」


「あんた達が呼んでる名前で大体あってるよ・・・なんだっけ、えーっと・・・魔物だっけ?

 別に意味合い的には間違っちゃ居なし、拘りもないからそう呼んでもらってかまわない・・・かな?」




魔物は、首を傾げるとそのまま地面に倒れそうになっていたので慌てて首を元の位置に戻っていた。

そのとき、背後で蠢いていた両手がビタンッと地面を叩いた様な音が聞こえてきた。


・・・なんだ?

いま、手がこいつの動きに連動して多様な・・・


俺は首から視線を外し、その後ろでバタバタと暴れたりしている魔物の手足を見た。

すると、首は何かを察したのか突然声を発した。




「ああ、そういえば人間って私たちのこと詳しく知らないんだっけ・・・

そうだ!!、この際色々教えちゃおう!!!、心してきいてよ!!!、あんただけ特別だからね!!


 まずね、私たちの認識について人間は大きな勘違いしてるから、そこから説明していこうか!!

えっとね、まず私たち、あんた達で言う魔物って言うのは生物じゃないよ。」


「・・・そうなのか?」




以外だ

アルやメイドからは、かなり厄介な生き物と聞いていた

じゃあ、一体魔物ってのは・・・


俺が考え事をしている間も、魔物は話しを続けていた




「あらら、結構ドライな反応だなぁ・・・まあいっか、とにかくそうなんだよ。どっちかって言うと“事象”とか、“現象”って言った方が正しいかもしれないね。」



魔物は生き物ではなく、事象や現象と同じ・・・?

・・・雨とか風とかそういうのと同じってことか?

まあ、勝手に起こることってことか・・・




「あー、難しい顔してる~。いいぞ若者よ、悩め悩め!!!その疑問こそ大いなる思考を呼び覚ますのだ!!!

 ・・・続き話すね。

 そんな私たちだけど、当然行動目的って言うのがあって動いてるんだよ。

 その目的って言うのが “この世にある物質を取り込んで学習すること”なんだよ。

 あらゆるものを取り込み、そこから情報を出来るだけ多く集める。

 そうだねぇ・・・吸収するものに特に好みとかはないんだけど、“人間”なんかが一番情報集めにいいっぽいんだよね。

 なんかこう、一気に頭がよくなった感じ?っていうか取り込めたっ感じ?・・・そんな気がするんだよね、逆に、その辺の岩とか草とかは情報量が少ないから、私たちは基本的に人間を吸収して知能を上げル事を好んでいるよ。」




知能を上げる・・・か

・・・何のためにだ?


俺はそのまま魔物に質問してみると、魔物はウーンッと唸りながらその場にコテンッと倒れてしまった。




「難しい質問だね・・・私たちが何のために情報を集める、か・・・。

 そうだねぇ・・・それが私たちに与えられた使命、みたいなものだからかな?」


「使命・・・命令ってことか?」




すると、魔物はコクンと頷いた。


・・・なるほどな

どうやら、こいつらの上には厄介なやつが居るようだな・・・

人間を消したがっており、尚且つ、こいつらの知能を上げたがってるやつが・・・。




「おい魔物、もう一つ質問だ・・・いいか?」


「うん、いいよ!!!

 さあ、もっと私と言葉を交わそうじゃないか!!!・・・っと、その前に

ちょっとだけ時間もらってもいいかな?、いい加減ばらけた身体集めたいんだけど・・・」


「なに?、そんなこと出来るのか?」


「うん、出来ちゃうんだよ私。

 そうだ!!、実際に見てもらおうか、そうしたら何かわかるかもよ??」




そういうと、魔物は俺に後頭部を向けると、少し顔を後ろに反らせた。

そして――――――――





「それじゃあ始めるね~

 さあ、私のバラバラになった身体!!!、とりあえず、頭が居るところにあつまれぇッ!!!」




そういって、首を左右に振り始めると、さっきまで蠢いていた手足がピタリと動きを止めた。

そして、まるでこちらを見るように手や足が一斉に頭がある箇所に向いた。




「おいおい、私の胴体!!!、物質吸収してるところ悪いけど、さっさと行動してくれよ!!!」




首がそう呼びかけると、全く動くことがなかった胴体が、突然方向転換してこちらを向いた。

首は、二度ほど頷いて手・足・胴体の順番に顔を向けると次の瞬間




「さあ、来いッ!!!!」




その言葉を言った途端、全てのパーツが目にもとまらぬ速さで首に飛来し、ベチャリと音を立てて首を押しつぶしてしまったのだ。

飛来したパーツも、自らの勢いに負けて首同様にぐちゃぐちゃになってしまっていた。



(うわぁ・・・やりやがったこいつ)



随分ハイなやつだと思っていたが、まさか自殺するなんて


俺は、思わずただの黒い塊と化した魔物に合掌した。




「いやいやいや、おかしいよあんた!!!、ほら、私元気!!!、こっち見てこっち!!!」


「うわ・・・病気か?、あんまりインパクト強すぎて幻聴が聞こえる・・・」


「幻聴チガウッ!!!、居る、私ここに居る!!!、まって今人型になるから!!!!」




魔物の声がそういうと、突然目の前の黒い塊が小刻みに波立ち始めた。

そして、すばらしい勢いでビヨーンと真上に伸び上がり、戻ってくる頃には人の形になっていた。

だが、さきほどの影の様な姿ではなかった。

肌の色は真っ黒ではなく、肌色

何もついてなかった顔には、しっかり人間の顔に本来ついているパーツが全てついており、身体の関節や筋肉まで繊細に表現されていた。

そして、先ほどと一番違うところは




「ふぅ・・・人間の女ってこんな感じでいいのかな?、どうどう?私、ちゃんと人間になってる?」





無邪気な笑顔を浮かべながら小首を傾げる全裸の女がたっていたことだ!!


こ、こいつ女だったのか!!

いや、まあ、何となく言葉尻とかが女っぽいなぁとは思ってたが・・・

いやいやいや、まずなんで全裸状態?!

さっきまで影みたいだったのに、なんでいきなり人間っぽくなってやがるんだこいつ!!!


俺がうろたえている間、魔物は不思議そうに俺を見ながら自分の頭をポリポリと掻いた。

そして、あることに気がついたのかポンッと手を叩いた。




「あっ、そうか分かった!!!髪の毛だ!!髪の毛がないからそんな驚いてるのか!!!、ちょっとまってね~・・・確か髪の毛の成分は・・・ホイッ!!!」



そういって、頭に当てていた手をそのまま後ろに払うと、頭からすごい勢いでサラサラの黒い髪の毛が生えてきた。

髪はドンドンのび、腰辺りまで伸びてやっと止まった。

魔物は、生えてきた髪の毛を手で梳いて、キョロキョロと自分の頭から生えた髪の毛を確認していた。




「どうどう?、これで完璧でしょ!!!」




魔物は、両手を腰に当て、むき出しの胸をさらに前に突き出すように胸を張った。

そのせいで、タプンと二つの脂肪の塊が柔らかそうに揺れた。




「・・・」


「あ、あれ?・・・もしもーし。私、もしかしてどこか可笑しい?・・・うーん、どこが可笑しいのかな?、足?、筋肉の付き方?、顔?、それとも、やっぱりあんまり構造がわかんなかった又の間の―――――」


「・・お・・ろ」


「へ?」


「ふ・く・を・き・ろ!!!!」


「うわっ!!」



俺は、思わず目の前で自分の又をのぞき込もうとした魔物に、げんこつを落としてしまった。

すると、本来帰ってくるはずの衝撃はなく、代わりに水を殴ったときのようなバチャンという音と共に女の頭が黒い水となって飛び散った。

飛び散った水は、すぐに魔物の身体に吸収され、すぐに先ほどの女の顔が出てきた。




「ああ、そういえば人間は服を着るんだっけ・・・持ってないからこのままでいいでしょ?」


「良いわけあるか馬鹿野郎!!!!」


「わぷっ!!!」




再び頭を飛び散らせた魔物は、今度は先ほどよりも素早く形を元に戻し、口を少しだけとがらしていた。




「ぶーっ、何だよ~、なんで怒ってるんだよ~。

 人間の男は人間の女の裸が好きなんだろ?

 ならいいだろ、あんたにとっては良いもの見られたってくらいで~。

 ・・・・人間って難しいなぁ~

 はいはい、服を出せば良いんだろ?

 ・・・あー、でもかさばるの嫌なんだよなぁ・・・さっき吸収したあれでいっか。

 そ~れ、クルリンパッ!っと」




魔物がその場でクルリと一回転すると、なぜか全身をぴっちりとした布で包んでいた。

それは、俺が居た世界で奴らが着てた真っ白なものに似ていた。


たしか、名前はなんだったか・・・

た、た、た・・・タイツ!!、そうタイツだ!!

それで全身を包んでいた・・・って




「なんで、それなんだよ」


「さっき吸収した剣持ってるやつがいたんだけど、そいつが着てた銀色のやつを自分なりにアレンジしてみたんだけど・・・似てないかな?」


「銀色の?・・・鎖帷子のことか」


「あー、呼び方知らないけど・・・たぶんそれのこと!!!」


「・・・お前、何でも自分で作れるんだな」




俺がそういうと、魔物はうれしそうにニッコリ笑った。




「正確には、取り込んだ物質から作ってるから何でもではないね・・・・まあ、取り込んだものでも自分の身体の成分に含まれてない物はできないし、無理だけどね~。

 まあ、足りない成分は取り込んだときに補給することも出来るし、何でもって言っても良いかもね~」




なるほど、ほぼ万能な生成能力か・・・

それに、あらゆるものを取り込み吸収する能力

魔物ってのは思ったよりも厄介なものらしい・・・




「ねぇねぇ!!!

 他には何か聞きたいことないの、私なんだか楽しくなってきた!!!

 だんだん身体も動くようになってきてるし・・・ほら、こんなことも出来るよ!!!!」




すると、魔物は両足を曲げ、少し身体を沈み込ませると、そのまま勢いよく飛び上がった。

魔物は、膝を抱え、まるで弾丸のような速さで軽く4メートルほど飛び上がっていた。

そして、そのまま地面に落下してくるのかと思いきや、着地の瞬間身体をまっすぐに伸ばし、両手で地面に着地し、勢いを殺すため側転を二回、さらにバック宙を一回決め、見事両足をそろえて止まった。




「どうどう!!

 すごくない!!

 今のすごくない!!!

 今、初めてやってみたんだけど、すごく綺麗に出来てたと思うんだ!!」


「あ、ああ・・・そうだな」




俺は、パチパチと拍手しながら喜び勇んでいる魔物を見て、タラリと嫌な汗が背中を流れていた。


ま、まずいな

これは、さっき巫女が言ってた“人型になれてきた”って状態なんじゃないのか?


俺は、拍手をしたまま目だけで後ろの巫女を確認した。

すると、巫女も同じように目だけをこちらに向けて、口を真一文字にひき結んでいた。



(・・・“情報を聞き出すだけ聞き出せば、すぐに発動します”ってか?)



俺は苦笑いを浮かべると、巫女はコクンと頷いて再び視線を魔物へ向けた。

俺も、気を引き締め、魔物の方へ視線を戻した。

魔物は、うれしそうに逆立ちしたり、そのまま片手の人差し指だけで状態を保ち、スクワットを始めていた。


つ、使いこなしすぎだろ・・・




「お、おい魔物!!!、まだいくつか質問があるんだが、いいか!!」


「あはははは!!!、すごいすごーい!!!、人型ってかなりいろんなことが出来るんだね!!!!

・・・あ、うん、ごめんごめんハイになってた。

 何でも聞いてよマイ・ロードッ!!!」


「いつの間に俺はお前の主人に・・・まあいい、早速だが、お前たちの苦手なものはあるのか?」




俺がそう言うと、魔物は少しきょとんとした顔で俺を見ると、すぐにニヤリとした。




「私たちの苦手なものは “純物とりこめないもの” だよ。取り込めるのは必ず複数の成分を含んだものだけなんだ~。」


「“純物とりこめないもの” か・・・じゃあ、静水ってのは純度の高い水なのか」


「いやいや、その“静水”ってのはよく分からないんだけど・・・ “純物” が私たちの身体に入っちゃうと、存在を保てなくなるんだよね~。

 なんて言うのかな、蒸発するっていうのかな?とにかく消えるんだよ」


「なるほどな・・・じゃあ、別に水が苦手って訳じゃないんだな」


「うん?、水?、なんで?・・・全然平気だよ?

 そうだなぁ、他に苦手なものってなんだろう・・・?」




魔物は自らの顎に人差し指をあて、わざとらしく首を傾げた。

だがすぐに、何かに思い当たったのか口を開いた。




「そうだ、集まるのが困難なくらい細かくされたり、あり得ないくらい綺麗に切られちゃうと元に戻れない・・・とかかな?」


「なるほど・・・通常の物理攻撃は―――――――」

「効果がない・・・というより、“純物” じゃなかったら基本的に取り込めるから、むしろ私たちは情報が手に入るし嬉しいかな?

 ・・・あっ、でも物理攻撃するものの表面を “純物” とかで覆っちゃうと不味いかな?

 今まで、そんなことしてくるやつ居なかったから、どうなるかわかんないけど・・・」




なるほど、だんだん魔物の特徴が明確になってきた。

このまま問答を続ければ、こいつらを消し去るための情報を引き出せるかもしれな――――――




「ねぇあんた・・・さっきから話してるのって私のことばっかりだけど、もしかして――――――」




・・・ああ、気づきやがったか

そろそろ潮時か?


俺は背後に居る巫女に視線を送ると、巫女はコクンと頷いた。

攻撃を仕掛けるなら・・・それを言う前の今しかない

俺も巫女も、魔物の次の言葉に耳をそば立てた。




「もしかして、人間の姿の私に惚れちゃったッ!?」




「「何でだよっ!!」ですかっ!!」




思わず俺たちはそう叫んでいた。

そして、すぐに巫女は何かに気がついたのか「あっ」っと不吉な声を上げた。

何事かと俺は身体ごと後ろに向けると、巫女は青い顔をしていた。




「・・・巫女?」


「“祈り”・・・今ので途切れちゃいました」




巫女がそう言い終わると、先ほどまでフワフワ浮いていた本が、目に見えない支えをなくし、ドサリと地面に落下した。

その音が、俺にはなぜか妙に大きなものに聞こえた。

本に俺たちの視線が注がれているさなか、一人カラカラと笑い声を上げている人物が居た。




「あははははは!!!、ねぇ、どうしたのかなぁ・・・?。

私がずっと警戒してた可愛い子ぉ、あなたの唱えていたクソッタレな“祈り”とやらはどうしたのぉ・・・?

 これだけ私の秘密をベラベラ喋ってあげたのよ?

 ほら、もう聞き出したい情報はないの?、私は会話を楽しみたいだけなんだからさぁ?

 でもさぁ、よく考えるとこれあんた達以外に知られちゃいけない事だよねぇ?

 私、お喋りで楽観的な性格してるから全然気がつかなかったよぉ?

 だからぁ~、誰かに言いふらされる前に始末しないといけないよねぇ?


 ・・・だよね?

 そうだよね?


 人間だって、国家秘密に触れた人は処分するんでしょ?

 だったらさぁ、私だって秘密を知ったやつを処分しても、文句はいえないよねぇ?


 私間違ってないよね?

 そうだよね?」




魔物は不気味なほど無邪気な笑みを浮かべた。

その笑みを向けられ、「ヒィッ!!」と短い悲鳴が後ろから聞こえてきた。

チラリと様子を見ると、涙を流しながら恐怖で顔をこわばらせた巫女が、地面にへたり込んで怯えていた。

すると、魔物は突然両手を天高く掲げた。




「やっと、やっとだよ・・・・私は、新しい情報を取り込めるんだぁ!!やったねぇえッ!!!

 あは、あっはははははははははあはっは、あっはははははははははっはははははっははははははっはっは!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


「クソッタレ!!!」




俺は悪態をつきつつ、魔物に背を向けて巫女の落とした本を拾おうとした。

だが、このとき背を向けたのか失敗だった。





「ねぇねぇ、その本拾ってどうするの?」


「ッッ!!!???」




ささやくような声が耳元で聞こえ、俺は慌てて身体をひねった。

だが、背後に魔物の姿はなかった。




「へぇ~、これが人間が“祈り”を捧げるための“静書”かぁ~・・・案外普通の内容なんだねぇ~」




声のした方へ視線を向けると、そこには頬杖をつきながら本を地面に広げている魔物が居た。


は、速い・・・

いつの間に距離を




「これがないと、人間は“祈り”を捧げても声が届かないんだよね?、あってるよねそこの可愛い子」


「あっ・・・うあっ・・・あああっ」


「もう・・・まあいいや、取り込んじゃえば分かるよね」




そういって、魔物は本を片手で持って頭上に掲げると、口をゆっくり広げた。

口の先は、黒一色で、まるで全く別の世界のようにぽっかりとしていた。

その口が徐々に広げられ、やがて顔一面が真っ黒になるほどそれは広げられた。



(クソッ!!、あの本が何かしらねぇが・・・止めないとヤベェだろこれ!!!)



俺は慌てて魔物から本を取り上げようとしたが、動き出したのが遅かった。

魔物は、口を広げきるとそのまま首を空へ向け、本を持っていた手をパッと離してしまった。

本は、重力に逆らうことなくポッカリと空いた黒い穴へと落ちて――――――――




「セーーーーーーレーーーーーーイーーーーーーンーーーーーー!!!!!!!!!!」


「うう゛ぁあッ!!!!????」




突然、俺の視界から奇声と共に魔物が消え去り、代わりに見覚えのある筋肉が現れた。

何が起こったか分からず目をパチクリさせていると、ドサリと俺の目の前に本が落ちてきた。

俺はそれをゆっくり拾い上げると、ゆっくり顔を上げてみると――――――――




「セレインッ!!セレインは無事かぁーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!」




馬鹿でかい剣を片手で軽々と天にかざしながら、馬鹿なことを叫んでいる セレドマ がいた。





更新が遅れてしまい申し訳ありません


単純に、ネタが浮かびませんでした・・・


時間がたったせいで、キャラとか設定がブレブレになっていまして、もしかしたら可笑しいところがあるかもしれませんが、ご了承ください。


これからも、この作品の続きを書いていきたいと思っていますので、今後ともよろしくお願いいたします。

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