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おじちゃんが見た世界  作者: 蛇炉
6/20

第六話 おじちゃん、選択する

人は、生きている限り様々な選択を迫られる。



選択とは、複数あるものから、いくつか或いは一つを選びとることだ

選択を迫られる場合、人は無難なもの、当たり障りのないものを選ぶ。


それは、困難を嫌い、自分に不幸が降りかかるのを自然と避けるからだ。







「こっちの方が楽だから」「これを選べば安全だから」「あっちは嫌だから」.....







どれもこれも、自分の事を中心に考え、の選択をしている。

これは、人としては当然のことで別に悪いことではない。

場合によっては、それが正しいことだってある。


むしろ、自分で選ぶだけまだマシかもしれない。




最近では、選択をすること自体を自ら放棄することがある。







「面倒だ」「どっちでもいい」「なんでもいい」「わからない」「まかせる」







自分の選択することを捨て、自らの考えを放棄する。

自分以外の者に自分の行動を決めさせ、責任を丸投げする行為だ。

上手くいけば、それをあたかも自分の考えだと自らの手柄にし、そうでなければそのすべてを請け負った者に押しつける。




“自分は何もしてないくせに・・・”




他者がそう思っても、当の本人は何の負い目も感じず笑い飛ばす。

そんな事を何食わぬ顔でするのが 人間だ。

















人間という生き物は、複雑で難しい























*****************






「ほ、ほら。とりあえず飲め」



俺は、部屋に備え付けてあったティーセットでお茶を入れ、ティーカップを差し出した。



「あ、ありがとうございます・・・」



巫女は少しぎこちない動きで俺の手からティーカップを受け取ると、両手で包み込むようにカップを持ち、ゆっくりそれを口へ運んだ。

俺はそれを見届けてから、自分のティーカップにもお茶を入れ、お茶をすすった。



おっ、うまい。

なんか・・・不思議と落ち着くな



俺はそう思いながら、再びお茶に口をつけ、ほぅっと息を吐いた。



んん~、体があったまるな~。

・・・・・・さて、どうする?



俺は少しだけリラックスした頭を使って考え始めた。

どうすれば、巫女は機嫌を直すかを・・・



俺はちらりと巫女の方を向いてみた。

すると、巫女とばっちり眼が会った。



「あっ・・・」



巫女は小さく声を漏らすと、サッと顔を背けてしまった。

俺はそんな巫女の様子を見つつ、もう一度お茶を飲んだ。


(や、やべえ。そうとう怒ってる・・・)


俺はお茶を飲みながらタラリと流れた汗をぬぐった。

お茶を飲めば落ち着くと思ったが、あまり効果はなかった。


(このままじゃあのデカ物に殺される!!・・・どうする、どうするッッ!!!)


頭のなかでさっきのデカ物が恐ろしい形相をこちらに向けている姿が見えた。

その瞬間、俺はブルッと身震いをしてから頭を振って思考を切り替えた。

しかし、恐怖はなかなか消えてくれる者ではなく、気付くと俺の手が小刻みに震えており、カップが小皿に当たりカチャカチャと音を立てていた。

俺は小皿にカップを置くと、一度深呼吸をして震えが止まったのを確認してから再びカップを手に持った。




「勇者様・・・どうかしたんですか?」



不思議そうな顔を向けながら巫女が、俺を方を見て首を傾げていた。



「えっ!?、ああ、何でもない」



俺は突然掛けられた声に少し驚いたが、直ぐに返事をした。

巫女は、俺の返事を聞くと手に持っていたティーカップを俺の方へ差し出してきた。



「・・・いただけますか?」



突然そういわれて一瞬理解ができなかったが、空になったカップを見てやっと状況を理解した。



「・・・ああ!!す、すまん」



俺は、慌てて差し出されたカップを受け取ると、ゆっくりとポットのお茶を注いだ。

ポットから注がれたお茶は、ふわふわと湯気を上げ、あたりにほんのりとハーブのようなにおいが広がった。

巫女は、うれしそうにそれを受け取ると、先ほどと同じようにお茶に口をつけた。

飲み終えると、ホウッと満足げに息を吐き出して笑顔を浮かべた。

そんな巫女を俺はびくびくしながら見ていたが、その笑顔をみて少しだけホッとした。


(・・・笑ってるってことは、機嫌が良いって事で、良いんだよな?)


俺は自問自答しつつも、自分のカップにもお茶を注ぎ、グイッとカップを傾けた。

すると、カップの中のお茶が一気に俺の口めがけて流れ込んできた。



「あっぢぃーーーー!?」



俺は持っていたカップを手放して飛び上がった。


し、しまった。

俺、猫舌じゃねえか。


俺は舌をだらんと垂らしながらその場に蹲った。



「ゆ、勇者様!?大丈夫ですか!!」



すると、巫女がベットから立ち上がり、俺のものに駆け寄ってきた。

俺の元に辿り着いた巫女は、俺の背中に手を置くと、ゆっくりなで始めた。

俺は、ひりひりする舌を手で仰ぎながら痛みが落ち着くのを待った。

その間、巫女はずっと俺の背中をさすってくれていた。



「す、すはん・・・」

(訳:す、すまん・・・)



俺は舌を垂らしたまま、巫女にそういった。

巫女はそんな俺を見てクスクスと笑った。



「な、なんへわらっへんはほ!!!!」

(訳:な、なんで笑ってんだよ!!!!)



俺がそういうと、巫女はとても良い笑顔を俺に向けてきた。



「いえ、なんだか子供みたいだなと思いまして・・・ふふっ」



巫女はそういうと目を細めるとクスクスと含み笑いをした。


(なんでだ・・・すげー腹立つ)


俺はいらいらしながら巫女を睨み付けたが、巫女はそんなことには気づかず俺の背中をさすっていた。

しばらくして、痛みが落ち着いてきたのを確認した俺は、巫女から離れてベッドにドカッと腰を下ろした。



「あ~、熱かった・・・」



俺はベッドに身体を投げ出し、そう言って息を吐いた。

自然と目線は上を向き、天井を見つめる形になった。

天井には、大きなシャンデリアがポツンとあるだけで特に何もない。


・・・いや、あるか

シャンデリアの根本のほうに、黒っぽいのが・・・


俺はぼーっとシャンデリアの根本にある黒い何かを見つめた。

最初はただの汚れだと思ったが、よく見るとドーム上に盛り上がっていて、少しだけ光沢があるので汚れではないと判断した。


(・・・じゃあ、あれなんだ?)


俺は目を細めてそれを見た。

すると、隣でバフンッと音がして身体がわずかに跳ね上がった。

俺は黒い何かから視線を外し、音のした方へ顔を向けた。

すると、そこには両目をギュッと閉じて寝転がった巫女がいた。



「う~・・・」


「・・・なにしてんだ?」



俺がそういうと、巫女はビクッと身体を震わせると、ゆっくり目を開けた。

そして、俺を見た途端顔が真っ赤に変色した。



「あっ、わっ・・・えっと・・・あうっ・・・」



巫女は何か言いたいようだが、口をぱくぱくと動かすだけで言葉になっていなかった。


(・・・こいつ、なにがしたいんだ?)


俺は巫女の妙な行動を見ながら首をかしげた。

すると、巫女は両手で顔を覆った。



「ええっと・・・その、勇者様が・・・そう!!何を見てるのかな・・・なんて」



巫女はそう言って両手を顔から離すと、素早く顔を天井に向けた。

俺は妙な奴だと思いながらも、俺も天井に視線を戻した。



「なんか、シャンデリアの根本に黒いのが・・・」



そういってシャンデリアの根本を指さそうとしたが、そこにはもう黒い何かはなかった。


(・・・妙だな、確かに黒い何かが)


俺はシャンデリアの周りをよく見てみたが、先ほどの黒い何かはどこにも見あたらなかった。


目の・・・錯覚か?



「・・・勇者様、黒いのってどこですか」



首をかしげていると、巫女が俺の真横に顔を寄せてきた。



「あーー・・・すまん、俺の見間違いだったみたいだ」


「見間違い・・・ですか」



巫女はほっとしたような口調でそういった。



「どうかしたのか?」


「い、いえいえ!!特に問題は・・・」



巫女はそこまで言うと、突然黙り込んだ。

どうしたのかと巫女の方を見ると、俺の方を見ながら赤面して固まっていた。


(・・・大丈夫かこいつ?、風邪でも引いてんのか?)


俺は巫女にずいっと顔を寄せて自分の額を巫女の額にくっつけた。



「っっっっ!!?!!?!?!!!?!?!!!」



すると、巫女が突然叫び声のような音を出してた。


うわっ、ひどい熱じゃねえか!!

身体も震えてんぞこいつ!!


俺は巫女から顔を離すと、巫女は突然起き上がり、ベッドから離れていった。



「なっ、なっ、なっっっ!!!!!!」



「な」だけで俺に何かを訴えかけてきた巫女は、壁にぴったりと身体をくっつけて自分のおでこを両手で押さえていた。

俺は身体を起こすと、巫女のところまで歩み寄ろうとした。

すると、巫女は半泣き状態でさらに身体を壁に密着させた首をぶんぶん左右に振った。


(・・・何で怖がってだ?)


俺はとりあえず近づくのをあきらめ、その場で少し声を張って巫女に呼びかけた。



「おい、お前すごい熱じゃねえか!!!。ここ使っていいからおとなしく寝とけ!!」



そういって、俺は自分の寝転がっていたベッドを指さした。

すると、巫女は壁から身体をわずかに離すと、しばらく俺の顔を見つめ、突然その場にペタンと座り込んでしまった。


・・・ああ~~~!!!!!

めんどくせえっ!!!!


俺は自分の頭をかきむしると、巫女目がけて走り出した。

そして、座っている巫女を無理矢理抱き上げると、そのままベッドに放り込んだ。



「おら!!!大人しく寝とけ!!。俺が嫌なら出ててやるよ!!」



俺はそういうと、ズカズカと部屋の外に出ようとした。

すると、突然服を引っ張られた。



「ぁあ??」



少し苛立たしげな声を出して振り返ってみると、巫女が服の袖をグッとつかんでいた。

その手は、小刻みに震えていたが、軽く振り払ったくらいでは離してくれなかった。

何のつもりだと思って巫女の顔を伺ってみると、目に涙をためがら俺をまっすぐ見ていた。

俺は捕まれた袖と巫女の顔を交互に見た。



(何なんだこいつ、怖がってみたり引き留めてみたり・・・)



俺は訳が分からず顔をしかめたが、とりあえず離してもらえそうもないので、ベッドの端の方に腰掛けた。

すると、巫女は安心したようにホウッと息を吐いて俺の袖から手を離した。



「・・・お前、ほんと訳わからねぇ」


「・・・すみません」



巫女は申し訳なさそうにそういうと、俺の隣にちょこんと正座した。

それを見て、俺は隣に座した巫女の両肩を捕まえた。



「・・・おい」


「は、はひっ!?」


「熱があんだから寝てろっていってんだろがあっ!!!!!」



俺はそのまま巫女の肩を押して倒すと無理矢理布団の中に納めようとした。



「きゃああぁぁぁあああぁぁああああ!!!」



しかし、なぜか巫女は暴れだし、悲鳴を上げだした。

俺と巫女はそのままベッドの上でとっくみあいになってしまった。

すると






「「勇者様ッッ!!!!」」






バタンッと勢いよく扉を開けて、二人に兵士が全く同時に同じ言葉を言って部屋の中に入ってきた。


俺たちはそれを見てピタリと動きを止めた。

すると、バサリと俺の持っていた布団が落ちた。



「あっ」



突然巫女が短い声を上げたので視線を落としてみると、そこには服を着崩している巫女がいた。


・・・あれ?

下?なんでだ?


俺はそこまで考えて自分がどういう状態なのか理解した。

俺は、巫女の上に馬乗りになって片手を巫女の襟を引っ張り、もう片方には布団を持っていた。


この構図は・・・


そこまで考えて俺は動きを完全に止めた。

しかし、それは入ってきた兵士達も同じで、俺たちを見た途端まるで時が止まってしまったように動かなくなっていた。

シンとした空気が部屋の中に訪れ、しばらく誰も動かなかったが、最初にフリーズ状態から復帰したのは兵士の片方だった。



「だ、だだだ誰かーーーーーーー!!!!!!!巫女と勇者がーーーーーーーーーーー!!!」



何を勘違いしたのか、兵士は突然叫び声を上げ、もう一人の兵士を連れていちもくさんに部屋を出て行った。



「ま、まま待ってください!!!!誤解です、誤解です~~~~~~~!!!!!!!」



巫女は滑るように俺の下から這い出ると、そのまま兵士の後を追いかけて扉の外へかけだしていった。

俺は、それを見送ると、しばらく動けずにいたが、少し落ち着いてきて大きなため息を吐いた。



「・・・これは、まずいな」



俺はそう言って天井を仰ぎ見た。

すると、廊下から複数人の慌ただしい足音が近づいてくるのが聞こえてきた。


















**********
















「さて・・・説明してもらおうか?二人とも」



広い部屋に、アルのあきれた様な声は響いた。



「だから、説明も何もありません!!!誤解です!!」



すかさず隣から悲鳴の様な声で抗議する声が上がる。

その声の主は、当然巫女だ。


あれからしばらくして、巫女が部屋に戻ってきた

アルというとんでもないおまけ付きで・・・


アルは、とても怪訝そうな表情で部屋に入ってくると、一通り部屋を見渡してすぐここに連れてこられたのだ。

ここは、アルと初めてあった時の部屋で、“玉座の間”と呼ばれているらしい。

主に、勇者の任命やアルから直接指令を出す時に使われる部屋だそうだ。

しかし、今回は過去に類を見ない特別な使われ方をしている。

それは・・・



「私は、勇者様と間違いは起こしていませんッッ!!!」



巫女と勇者(俺)の熱愛疑惑についてだ。


間違いって何だよ

何もしてねーよ



俺は心の中でつっこみを入れつつ、黙って事の成り行きを見守った。



どうも、俺らのこの関係はかなりの面倒な事態らしい。

なぜかというと、それは俺と巫女の役職が関係している。


この世界では、巫女はというのは別名“聖女”と呼ばれ、とても神聖で清楚なものらしい。

自己を捨て、世界のために我が身を捧げ、常に公正な目で世の中を見なければならないらしい。

主な仕事は、静水を作ること、政や大規模な行事後の浄化、神へのお祈り等々

これらはどれも大変らしいが、メリットは大きい

まず、今この世界ではびこっている黒い物体

あれは、この世界のあらゆる物質を飲み込んでしまう恐ろしいものらしい。

あれに触れたら最後、いかなる手段をもってしても逃げられない。

打撃も、斬撃も、銃撃も効果がないようだ。

そこで使われるのが“静水”だ

静水は、黒い物体を消滅させる効果があるらしく、今のところそれしか手がないらしい。


故に、巫女は大切にされ、重宝される。

それなりの地位も手にはいるので、とてもすごい役職だ。


しかし、巫女になるには条件がある


一つ、8年以上巫女の修行を積んでいる

二つ、年齢が16歳~29歳

三つ、性別が女

四つ、結婚をしていない処女


この四つが巫女になる条件なのだが、今回問題になっているのは四つ目だ。

別に、巫女が恋愛をしてもいいらしい。

しかし、許されるのはあくまで恋愛である。


神聖で清楚な巫女が、結婚した傷物では困るらしい。

だから、目をつぶれるのは恋愛関係まで

その先に進むには、別かれるか巫女をやめるしかない。


しかし、これは前例がなかったわけではない。

ある時代の巫女は、王に見初められ妻になった例がある。

この時、まだ巫女は22で類い希なる才能を有していた。

その能力を買われて、この巫女は最後まで巫女の仕事を全うし、その後は巫女修の師として有能な巫女を大量に排出したとか・・・。


要するに、使えるなら問題ないということだ。


俺の隣で叫んでいる巫女も、かなり有能らしく、最年少で巫女の職に就いた天才らしい。

仕事も大変丁寧で早く、人望も厚い。


そんな人物なら、何の問題もないはずだ。

そう、巫女には何の問題もない



「私もそれは重々承知だ。問題なのは・・・」



アルはそこでいったん言葉を切り、ゆっくりと俺の方へ顔を向けた。

すると、巫女もそれに合わせて首を動かした。



「俺の方だって言ってんだろ?話の流れ的に・・・・」



俺は片手で顔を覆い、わざとらしく息を吐き出した。


そう、今回問題になっているのは勇者である俺の方だ。

なぜ、俺が問題になっているのかというと



アルが言うには、勇者という存在はこの世界ではとてつもなく面倒な立場らしい。

勇者とは、この世界に危機が訪れたとき、この世界の3人の権力者がある特殊なアイテムを使うことで呼ばれるらしい。

それによって呼び出される者は、この世界ではあり得ないほど強大な力を使い、特異な能力でその危機を回避させると言い伝えられているらしい。

まさに、救世主と呼ぶにふさわしい存在

しかし、勇者はその強大な力を振るうことで、人々からおそれられる存在

勇者とは、人々の希望であり、恐怖の対象でもある。

さらに、この行為には大きな代償を伴う。


それは、勇者が“異世界から呼び寄せられる”ことだ。


それは、ある学者が「勇者はこの世界の生き物ではない」と断言した事と勇者本人がそれを肯定したことによって明らかになった事だ。


勇者曰く、世界を超えることは本来不可能なこと。

しかし、何らかの理由で勇者が現れたことにより、この世界に影響が出て、人の力で勇者を呼べるようになったとか。



その成功率は、ほぼ100%



つまり、確実に異世界から勇者を呼び寄せることができるのだとか。

しかし、勇者はあくまで“異世界の住人”

世界を人でたとえるなら、世界のバランスを崩す“異物”

存在するはずのないものなのだ。

それをわざわざ連れてくるということは、世界に多大な負荷をもたらす。

しかも、負荷は勇者がこの世界にいる間蓄積され続けるらしい。


だから、勇者として呼ばれた者は迅速に動き、問題の処理をしなければならない。


だが、もし勇者がこの世界の住人と恋仲になったら・・・


別れを惜しみ、離れることを嫌う

最悪の場合、その力が今度は問題から人へ振るわれるおそれがある。


それを避けるために、勇者には一人で仕事をさせ、もてなすが他人行儀を貫き通す必要がある。

情を移さないように、情をわかせないように・・・


だが、今回は極めて異例


勇者として呼ばれた人物が、事もあろうに巫女と恋に落ちてしまったのだから・・・




「確かに、世話をするよう巫女に言いつけたが・・・一日でそんな仲になるとは・・・」



アルは憂鬱そうな顔をすると、眉間を人差し指と親指でつまむと、そのままグリグリともみ始めた。



「ち、違います、ガリセウス様ッッ!!!!、わわわ私達はそんな仲では!!―――――」


「では、先ほどの伝令は何だ。聞けば、おおじちあきの下に組み敷かれ、服をはぎ取られていたそうではないか。」



アルは顔を上げてそういうと、頬杖をついて俺を見下ろしてきた。


おいおいおい、そんな感じで伝わってんのかよ・・・

あの兵士目が節穴過ぎんだろ


俺は、兵士を内心罵りながらアルの言葉を否定した。



「あのなぁ、俺は別にこいつの事を組み敷いてないし、服もはぎ取ってないぞ」



俺は面倒な気持ちを滲ませながらそういうと、アルは空いている手で自分のあごを撫でた。

すると、頬杖をつくのをやめたアルは、玉座の手すりに両手を置くと、少しだけ俺の方に身を乗り出した。



「では、兵士が見たのは何だ?。まさか、見間違いだというつもりではないな?」



アルは見下すように俺を見下してきた。

俺はアルの態度に対してのイライラを表に出さないようにしながら、自分の使用としたことをありのまま話した。

それを聞き終えたアルは「ふ~む」となにやら考えごとをするような声を漏らした。

不意に、アルは俺から巫女へ視線を移した。



「巫女・・・まさか勇者に惚れているのか?」


「---ッッッ!?!?」


「何でそうなった」



俺は思わずそういってしまったが、アルの一言に、巫女が明らかに動揺の色を見せた。


おい、何でだよ

ありえねぇだろ、何でそこで驚くんだよ


俺は隣で固まっている巫女を横目でにらみつけながら、必死に否定しろと念じた。

それが通じたのか、巫女は否定の言葉を口にした。



「ち、ちち違いますッッッ!!!!そんな、勇者しゃまにそにょにょうにゃ@※▽☆#・・・!!!」



動揺したのか、巫女はめちゃくちゃに声を上げた

声はかなりうわずっていて、その顔は真っ赤になっていた。



何でそんな慌ててんだよッッ!!!!

スパッと言えよスパッと!!!



俺は巫女の方に顔を向け、思いっきり睨み付けてやった。

そんな様子を見たアルは、しばらく巫女をまっすぐ見つめていた。

巫女も、アルを正面から見据えていた。

しばらくにらみ合っていた二人だが、やがて、アルの方がふぅとため息をはいて視線をそらした。



「なるほどな・・・これはゆゆしき事態だ」



アルはそう言って肩をすくめた。

すると、隣で巫女が金切り声を上げた。



「だ、だから違――――」

「何も言わずともよい。・・・さて、どうしたものか」



アルは、スッと片手をあげて巫女を黙らせるとその手をあごに当て、俺の方に視線を向けてきた。

そして、しばらく黙って俺の顔をにらむように見てきた。



「“おおじちあき”よ。お前は、巫女の事をどう思っている?」


「・・・はあ?」



突然振られた質問に、俺は眉をひそめた。


なんだいきなり・・・

巫女をどう思ってるだあ?


俺はチラリと巫女を見た。

巫女は、両手を突っ張るようにこちらに向けながら首と手をぶんぶん振っていた。

それを見て、俺は目を細めつつアルに返事をした。



「どう思ってるっつっても・・・ただの知人だ」


「ほう・・・知人か。なるほど、妥当なところだな」



アルは、ニヤリと口元をゆがめると今度は巫女の方へ視線を移した。



「では巫女よ。お前は、“おおじちあき”の事をどう思っている」


「ただの憧れです!!!」


「・・・なるほど」



巫女の返事を聞いたアルは、額に人差し指を当てて考えるような素振りをした。



「そうだな・・・ではこうしよう。“おおじちあき”よ。これからお前に、今回の件の解決法について私から幾つか選択肢を出してやろう。その中から、お前に好きなものを選べ」


「はあっ?おい、どういう――――」


「では、一つ目だ」



アルは、俺の言葉を遮るようにそういうと、そのまま一つ目の解決法とやらを話し始めた。



「それは、お前をこの世界から元の世界へ帰す、そして――――」


「よし、それだ。それにしよう、今すぐその方法を実行してくれ」



俺は迷わずそういうと、アルは少しムッとした顔をして俺を見てきた。



「話は最後まで聞け、お前を元の世界に帰す、そして、そのまま巫女もお前と一緒にお前がいた世界へと送る手だ」


「はぁああっっ?!」

「えぇええっっ?!」


アルの言葉を聞いて、俺と巫女はお互いの顔を見た。

俺は当然驚いてだが、巫女の方は顔を真っ赤にして俺を見ていた。



「おいッ!!!なんでこいつまで付いてくるんだよ?!。俺だけ帰せばすむ話じゃねーか!!」


「そそそそうです!!!ガリセウス様、なぜそのようなお考えに?!」



俺らが口々に反論すると、アルはわざとらしくため息を吐きだした。



「それは、その方が巫女が浮かばれるからだ。“おおじちあき”よ、お前にとっては理解に苦しむことだろうが、それが一番だ」


「ふざけんなゴラァッッ!!!!」



俺はその場に立ち上がると、あらん限りの声でアルに怒声を浴びせた。

すると、アルは右手を胸の高さあたりまであげて、人差し指をたてた。



「落ち着け“おおじちあき”、これはあくまで解決法の一つだ。これが気に入らないなら他のものを選べばいい」


「なら、さっさと話やがれ!!!!」



吐き捨てるように俺はアルにそういうと、アルは右手の中指を立てた。



「二つ目の方法として、お前がこのまま役目を果たすという手がある」


「なんでだよっ!!」



俺は先ほどの勢いのまま反論すると、アルは不機嫌そうな顔で俺を見た。



「これでもかなり多めに見ている方だ。本来なら、巫女共々この国から追い出しているところだが・・・今回はそうもいくまい。なら、お前に“勇者として”この国を出て行ってもらえば、不当な扱いを受けることもない、その上、そこの巫女と二人で旅をできるぞ?」


「わ、私も行くんですか?」


「当然だ、今回の件はお前にも非がある。償いだと思ってお前も勇者と共に行け」



アルは厳粛な態度で巫女にそういうと、巫女はそれ以上反論できず、ただ頭を下げた。

俺は隣で頭を垂れている巫女を指さした。



「お、おい・・・ちょっと待て。どっち選んでも、結局こいつは付いてくんのか?」


「さて、“おおじちあき”よ。どちらにする?私はどちらでもかまわないぞ?」



アルは俺の言葉を無視して、楽しそうに俺にそういってきた。

その表情はとても嬉々としていて、少しだけ玉座から体を乗り出していた。



うっわ、殴りてぇ~

マジでふざけんなクソ野郎



俺は握り拳を作りつつ、何とか留まって先ほど出された二択のどちらを選ぶか考え始めた。


(さて・・・どうするか)


俺は自分のあごを撫でながら視線を上へ向けた。


まず、今回出された選択肢


単純に、元の世界に帰るかこの世界に留まってから帰るか・・・

結局帰れはするが、前者を取るととんでもないおまけが付いてきてかなり面倒だ。

かといって、後者を選べば、俺はこの世界の問題を解決するという面倒な使命を負うことになる・・・


(どっちも・・・メリットがねぇ)


俺はそう思いながら、うんうん唸りながら必死に考えた。


選んだ方の未来を

その先に待ち受けるであろう困難や問題を

様々な可能性を



「・・・・・・」


「さあ、どっちだ?」



思考の海の中で、アルのせかすような言葉を聞いた。


(どうする、どっちを選んでも俺にはデメリットしかないぞ・・・)


そう、どちらを選んだとしても、結局巫女というおまけが付いてくる

だが、長い目で見れば、断然後者を選ぶ

なぜなら、後者ならば勇者の役目さえ終えれば何のしがらみもなく帰れる。

巫女も付いてこない。


つまり、ここで俺が選択すべき方は・・・



「・・・・よし、俺は後者を選ぶ」



俺がそういうと、アルは少しだけ驚いた顔をした。



「・・・そっちを選ぶのか。てっきり、前者の方を選ぶと私は考えていたのだが・・・」


「後者の方がマシだっただけだ。深い意味はねえよ・・・」



俺はそういいながら、ふぅとため息をはいた。



「マシだと?、私なら必ず前者を選択するが・・・まあよい。では、今回の件、お前達が旅に出るということでよいな?」


「ああ」

「は、はい」



アルの言葉に、俺と巫女は返事を返すと、アルは大きなあくびを一つして玉座から腰を上げた。



「では、この件に関してはこれで仕舞いだ。念を押しておくが、今回の件についてほかの者には絶対に喋るな。これは私たちだけで決めた密約、このことがほかの者に漏れた時点で約束は無しだ。いいな?」


「面倒だな・・・まあ、いいけどよ」

「わ、わかりました・・・」



俺たちの返事を聞くと、アルは一度大きくうなずくとそのままカツカツと足音を立てて俺たちの目の前に下りてきた。

そして、俺と巫女を交互に見ると、アルは再びうなずいた。



「お前達の健闘を祈っているぞ・・・では、失礼する」



そう言い残して、アルは部屋を後にした。










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