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おじちゃんが見た世界  作者: 蛇炉
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第五話 おじちゃん、奇襲をうける

※誤字・脱字があるかもしれませんが、ご了承ください。

人には、様々な考えや思想が存在する。


人の考えは、一緒のようですべてが異なるものだ。

宗教しかり、言葉しかり

これらは、人なら誰もが持っている共通のものだ。


特に言葉は、相手に自分の考えを伝えるきわめて重要なものだ。

文化の違いや、人種の違いで、言葉が通じない人もいるだろうが、それは仕方ない。

他の方法で何とか意志を伝えるしかないだろう。


だが、意思疎通の手段の大部分を占める言葉が通じないと言うことは、相手の考えていることが正しく伝わらないということ。

すなわち、相手の考えがよくわからないということだ。


人は、無意識に自分の考えと違うものを嫌う傾向がある。

それは、相手に自分の主張とは違うものが自分に影響を与えてくるからだ。


その結果、自分の中にある種の“恐怖”が生まれる。


故に、人は相手におびえ、自己防衛をしようと働きかける。

それは、相手を突き放したり、攻撃してみたりと色々だが、だいたいの人がとる行動は決まっている。




恐怖の対象の消滅




人は弱くてもろい。

これを実行することは、別に難しいことではない。

しかし、それを第三者が見ると、第三者は恐怖を消滅させた人を、無条件で恐怖する。



      次は自分を消そうとするのではないか


そんな恐怖が第三者の体中に回る。

すると、恐怖を消し去った人を消し去ろうとその人は動く。

それをまた別の人が見て、同じように動く。

それが半永久的に続き、やがて止められないほどの大きなものになる。


収拾のつかなくなったそれを、人は“殺し合い”と呼ぶ。

これは、他の人を理解できないから起こる悲しいものだ。











・・・いや、むしろ逆かもしれない。











人は、相手がするのことを理解できている・・・・・・・からこそ





殺し合いをするのかもしれない・・・




















*****************









ガンッ、ガンッ、ガンッ・・・

ガンッ、ガンッ、ガンッ・・・


一定の間隔で耳障りな打撃音が聞こえてくる。

最初は無視をしようと思ったが、音は次第に大きく、間隔を狭めてさらになり続けた。

俺は、のそのそと布団の中から顔を出した。



「・・・あぁ?」



まだ半開きな目で音のほうを見ると、そこには二人の鎧が扉に寄りかかっていた。


(・・・なんだ?)


俺は目をごしごしとこすってもう一度扉を見た。

すると、そこには槍を地面に投げ捨てて、必死に扉を押さえている兵士二人の姿が目に入った。



「・・・なにやってんだ?」



俺は体を起こしながら二人にそう声をかけた。

すると、兵士の片方が必死の形相で俺を見ると、軽く頭を下げた。



「お、おはようございますおじちゃん様!!、大変申し訳ありませんが、今すぐここから逃げてくださいッ!!!」



兵士はそう叫ぶと、扉がひときわ大きな音を立ててたたかれた。

その衝撃で、兵士二人が扉に弾かれ、ガシャンと地面に倒れ込んだ。

それによって、観音開きの扉が勢いよく開け放たれた。



「俺の娘を気絶させた奴はここかーーーーー!!!!!!」



けたたましい叫び声をあげながら部屋の中に一人の巨漢が飛び込んできた。

巨漢は、体の大きさに不釣り合いなマントを身につけており、長さが背中の真ん中より下あたりまでしかなく、服も少し長さが足りておらず、そこからのぞく腹には立派な筋肉がこんにちはしていた。

そして、その筋肉のすぐ隣に長い剣がたたずんでいた。


巨漢は、部屋に飛び込んでくるとそのまま顔をすごい速さで振り、俺のほうをにらみつけてきた。

そして、俺を見つけると、血走った目を見開き腰にさしていた剣を抜いた。



「お~ま~え~かぁ~~!!!!!!!!」



巨漢は鬱陶しそうにマントを脱ぎ捨てると、そのまま猛スピードで俺のほうへ突進してきた。

そして、そのまま勢いを殺すことなく剣を振り下ろしてきた。



「はあ?!、ちょっ、待て!!!!!」



俺は慌ててベッドから飛び出すと、ちょうど俺の腹のあった場所辺りに深々と剣が突き刺さった。

剣は、一切の迷いなく振り下ろされ、剣の先がしっかりとベッドに突き刺さっていた。

俺は、地面に転がりながらその様子を見て、いやな汗が流れた。



「な、なんなんだよいったい!!!」


「逃がすか小童ッ!!!!」



巨漢はそういうと、ベッドに刺さったままの剣を自分のほうに引き寄せ、ベッドを真っ二つに切り裂いた。


しゃ、洒落にならんッ!!!

何なんだこいつは?!


巨漢は剣を正眼に構えたまま、一歩、また一歩と俺のほうに近づいてくる。

俺は、慌てて立ち上がり、何とか逃げようと近くにあった長いすの陰に隠れた。



「無駄なことを!!!」



すると、巨漢は足音をとどろかせながらこちらに駆け寄ってきた。

そして、一際大きな足音が聞こえた



「フンッ!!!」



巨漢の声が聞こえたとたん、頭上を何かが通り過ぎた。

ややあってから、すさまじい風きり音とともに暴風が俺を襲った。

俺は、そのまま風にあおられ、まるで紙切れのように飛ばされ壁に激しく体を打ち付けた。



「ぐっ!!」



何が起きたのか理解できないまま、俺は壁にもたれかかるように座っていた。

俺は何とか首を持ち上げ、巨漢の立っている方に顔を向けてみた。

そこには綺麗な一文字に切り刻まれた長いすと、剣を振り切った体勢のまま、血走った目だけをこちらに向けてニヤリと笑っている巨漢がいた。

巨漢は、体勢を元に戻し剣を再び俺の方へ向けた。



「もう逃げられんぞ、小童・・・覚悟ッッ!!!」



巨漢はそう叫ぶと、こちらに向けていた剣を体の横で構え、剣の先を地面にこすりつけながらかけだした。


俺は、逃げようと手足に力を入れたが、体が動かなかった。

もう一度試してみたが、結果は変わらず


巨漢が剣から火花を散らせながら近づいてくる

すでに50メートルもないだろう


・・・え?

50メートル?

・・・広くないか?

それに、あれだけ猛スピードで走ってきてて、まだ50メートルもあるのか?


・・・いや、あり得ない。


いくらなんでも壁から壁までが50メートル以上というのは、あまりに広すぎるだろ

そう考えると、これは俺の勘違いだろうか?

実際に巨漢は、もう俺の目の前にきて、剣を突き立てているのか?


・・・いや、そんな痛みはない。


手も、足も、体も、頭にも痛みはない

動かすことはできないが、確かに無事であるのがわかる。


・・・待てよ、俺は何でこんなことを考える余裕があるんだ?



俺は、妙に落ち着いている自分を客観的にみて、おかしいと思った。

これだけのことを考えていれば、もうとっくに巨漢が俺の元にたどり着き、体に剣を突き立てているはずだ。

しかし、迫ってきている巨漢は相変わらずすさまじい勢いを保ったままこちらに走ってきている最中だ。



俺は、首をかしげつつも、多少動くようになった手足で、必死に巨漢がつっこんでくる直線上から体をずらした。

その瞬間





ズガゴオオオオォォォォンッ!!!!!!





俺が先ほどまでもたれ掛かっていた壁が、爆発音にもにたすごい音を立てて剣が突き刺さった。

砕かれた壁の破片が俺に降りかかってきたが、俺はそれを気にする余裕はなかった。

巨漢が、血走った両目を見開いて、目だけをこちらに向けていたのだ。

その顔は、まるで親の敵を見るような恐ろしいものだった。



「いつの間に逃げおった小童ぁッ!!!!」



巨漢は、人間が出すとは思えないような雄叫びを上げた。

巨漢の声は、空気を揺らし、肌がビリビリと痛いくらい震えた。

思わず耳をふさぎそうになったが、そんなことをしている余裕はない。

目の前の巨漢はすでに剣を壁から抜き、俺に振り下ろそうとしている。


俺は、もつれる足を必死に動かし、俺は出口へ向かってかけだした。

その後を追うように、巨漢の剣の風圧が俺の背中をなでた。

その瞬間、地面から爆発音のような音が響き、俺は体勢を崩しそうになりつつもそのまま走り続けた。



「待てぇえ!!!小童ぁああ!!!!!!」



巨漢の狂った声が背後から浴びつつも、俺は走り続けた。

そして、やっと出口まであと数メートルまで近づき、そのまま部屋を出ようと扉を出て右へ行こうとした。

そのとき



「きゃっ」


「うおっ?!」



曲がろうとした方向から誰かがつっこんできて、俺はそいつと盛大に激突してしまった。

俺はその場に盛大な尻餅をついてしまった。


ろ、肋骨が・・・肋骨が・・・


どうやら俺がぶつかったやつの頭がそのあたりだったらしい。

俺は胸を押さえようと手を伸ばしてみると、そこには人の頭があった。

視線を落としてみると、そこには昨日ぶっ倒れてそのまま気絶した巫女とか言うやつがいた。



「いたたた・・・、もうっ!いったい誰・・・ゆ、ゆゆゆゆうしゃしゃま!?」



巫女は悪態をつきながら顔を上げると、途端に顔が真っ赤になった。

巫女は、そのままワナワナと震えながら俺の方を見ていたが、すぐに体を離した。



「お、おお、おはようございますっっ!!。あの、えっと、その、ここ、これはその事故で!!べべ、別にわざとではっ!!!!!」



巫女は、パタパタと手を振りながら必死に弁解していた。



慌てすぎじゃないかこいつ・・・

確かに、人にぶつかったらそりゃ慌てるが



俺は巫女を見ながらそんなことを考えていると、背後から聞こえてくる叫び声がやんでいることに気がついた。

俺は、妙に思って振り返ってみた。



「・・・」



巨漢が剣を構えたまま固まっていた。

しかも、その顔には先ほどまでの血走ったものがなく、代わりにデレデレにゆるんだ表情があった。

巨漢は、しばらく止まっていたが、やがて剣をその場に投げ捨てると、その場で体を前のめりにした。



「セ・レ・イ・ン~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!!!!!!」



突然そう叫んだ巨漢は、両手を広げてこちらに走ってきた。

その速さは、俺を追いかけてきていた時の倍はあるんじゃないだろうか・・・・

巨漢は、未だに顔を真っ赤にさせながらパニックになっている巫女にふんわりと抱きついた。

抱きつくと言っても、巨漢が巫女に覆い被さっているようなかんじだが・・・



「セレイン~~~~~~~~~~!!!!!!!」


「うわぁああ!!!!、お、お父さん?!」



抱きついる(覆い被さっている)巨漢は再びそう叫ぶと、巫女が心底驚いたような声を上げた。

巨漢は、巫女に抱きついた状態で何度も頬ずりをし、だらしなく顔をゆるませていた。

そんな巨漢を、巫女は必死に引きはがそうともがいている。


・・・なるほど

どうやら、二人は親子のようだ。

しかも、巨漢は娘にベッタリときたもんだ。


俺は、生暖かい目で二人のようすを見ていると、やっと巨漢のホールドから巫女が抜け出した。



「お父さんッ!!!やっぱりこれはお父さんの仕業ね!!!」



巫女がそう怒鳴りつけると、巨漢がだらしない顔のまま巫女を見た。



「そうだぞぉ、お父さんはすごいからなぁ」



巨漢はデレデレとしながら胸を張った。

巫女は、そんな巨漢を見てさらに怒鳴った。



「何がすごいよッ!!!、勇者様を襲っておいて!!!部屋もこんなにしちゃって、どうするつもりだったのよッ!!!!」



すると、巨漢は少しだけ表情を硬くした。

そして、やや考えるとすぐに口を開いた。



「勇者の暗殺☆、てへっ!!」



巨漢はそういうと、自分の頭にゲンコツを乗せ、ペロリとしたを出した。



うわっ

おっさんが「てへっ」とか・・・

しかも、俺のこと殺そうとしたのかよ



俺は、巨漢に冷たい目を向けていると、不意に巨漢が俺に気がつき、途端に先ほどの血走った目で俺をにらんできた。



「何を見ている小童!!!」


「何が小童よッ!!!!、失礼でしょ!!、だいたい、何で遠征に行ってるはずのお父さんがここにいるのよ!!!」



巫女に怒鳴られ、再びだらしない顔になった巨漢は申し訳なさそうにうつむいた。



「だ、だってな。おまえが倒れたと聞いて、居ても立ってもいられなくなって・・・」

「全部放り出して来たって言うの?!」



巫女がそういうと、巨漢はビクリと身を縮ませた。

巫女はそのままガミガミと怒り始めた。



「なんでそんなことしたの?!。今前線がどんな状態か、私なんかよりお父さんの方が良くわかってるでしょ?!。全部放り出して帰ってくるってどういうことなの?!。どこから仕入れた情報かしらないけど、お父さんが襲った勇者様は私の命の恩人だよ?!。お父さんのことだから、どうせ私が気絶したのは、勇者様が私を守れなかったからとか短絡的なこと考えたからでしょ!!。前から言ってるでしょ、そう言うのは私が悪いの!!他の人は関係ないの!!!。それに、一番豪華な客室をどうしてここまでめちゃくちゃにできるの?!、どうするのこれ!!!責任とるのは私なのよ?!だいたいお父さんは昔から―――――――」



巫女は、まるで堰を切ったようにガミガミと説教をした。

巨漢は、正座をしてションボリと肩を落としながら説教を受けていた。


わずかに口元がゆるんでいるように見てるが、たぶん俺の気のせいだろう

・・・いや、気のせいであってくれ。

こんなやつに殺されかけたと思うと自分が情けなくなる。


俺はしばらく巫女と巨漢の二人を見ていたが、いっこうに巫女の怒りが収まる気配がない。

巨漢の方も、さすがに辛くなってきたのか、だんだん姿勢が悪くなってきている。


(・・・そろそろ俺も移動したいし、助けてやるか)


俺はそう考え、巫女に声をかけることにした。



「もうその辺でいいんじゃないか?、おまえの父さんもさすがに反省してるだろ」



俺がそういうと、巫女の体がビクリとはねた。

そして、ゆっくりと首がこちらに向くと、巫女の顔が驚愕の色になった。



「えーとっ・・・もしかして、ずっとそこで待っていましたか?」



俺は黙ってうなずくと、一瞬で巫女の顔が真っ赤になった。

そして、慌てた様子で頭を下げると、巨漢の隣に座った。



「す、すいません!!!わわ、私の父がとんだ無礼を、わわ、私もその・・・と、とにかくすみませんでした!!!」



巫女はそういうと、そのまま深々と頭を下げた。

当然、隣に正座している巨漢も同じように頭を下げてきた。

・・・巨漢の方はすっごい睨んできてるけどな。



「あ~、大丈夫だって。どうせ俺も近いうちに元の世界に帰るんだし・・・殺されなかっただけマシだ」



俺がそういうと、巫女も巨漢も頭を上げ、再び頭を下げてきた。

が、巨漢の方は納得できないようで、未だに俺を睨んできていた。


なぜそこまで目の敵にするのだろうか・・・

そんなに気に入らないのか?


俺は巨漢を見ながらそんなことを考えていると、巫女が俺の方を見ているのに気がついた。



「・・・どうかしたのか?」


「えっ?!、い、いいえっ!!!何でもないですっ!!」



巫女はそう言って、慌てた様子で顔を反らした。

巫女の横顔は、先ほどよりも少し赤いような気がした。


・・・赤面症でも煩っているのか?


俺はそんなことを考えつつ、再び巨漢に視線を戻すと、先ほどよりもさらに怖い顔で俺をにらみつけていた。

まるで、俺を睨み殺そうとするような勢いで・・・



・・・これは

そうか、そういうことなのか?

試してみるか?



俺は一瞬だけ迷ったが、これは試しておいた方がいいと実験してみることにした。



「なあ巫女さん。ちょっと頼みたいことがあんだけど・・・この後時間あいてるか?」


「ふ、ふぇっ?!」



俺がそう提案すると、巫女はバッと顔をこちらに向けて間抜けな声を出した。

当然、巨漢は俺が提案した瞬間から殺気が濃厚になった。

おお、いい感じだ。

もう一押ししとくか・・・


俺はそう考え、わざとらしく慌てて見せた。



「あ、いや、その~・・・忙しいならいいんだ。別に急ぎって訳でもないから、他のやつに頼むってことも――――「私、全然暇です」」



俺が言い終わる前に巫女からOKの返事が返ってきた。

それを聞いて、巨漢がギョッとした表情で巫女を見た。

何か言おうと口を開きかけたが、何か言う前に巫女に口をふさがれもごもごと言うので精一杯らしい。



「ありがとう、優しいんだなおまえ」


「そっ!!そそそ、そんなことないですよ///」



巫女は嬉しそうに身をよじっていた。

そして、そんな巫女を見て、巨漢が一瞬だけゆるんだが俺を視界にとらえた瞬間、般若のような顔になっていた。


俺はなぜ巨漢が俺を目の敵にしているのかわかった気がする。


原因は、間違いなくこの巫女だろう。

見たところ、そうとう娘を大事にしているから、俺が巫女と仲良くしているのが気に入らないのだろう。

だが、あまり邪険に扱いすぎても気に入らない。

傷つけても気に入らない。


さらに追い打ちをかけるように、巫女の赤面症が巨漢にあらぬ誤解を生んでいる

すでに、俺がこの巨漢との仲を回復するのは不可能だろう。

さっきの実験のせいで、決定打を自ら決めてしまっただろし・・・。



俺は、二人にばれないようにため息を吐き、とりあえず巫女と巨漢を立ち上がらせた。



「勇者様、今回は本当に朝からお騒がせしました。父に代わって謝らせていただきます。」



巫女は丁寧に頭を下げた。

さすが巫女と言うだけあって、とても綺麗な礼だ。

それに続くように、巨漢も頭を下げた。



「どうも、失礼いたしました勇者殿。当然のことながら、罰はすべて私がお受けいたします。腕を切るなり、目玉を差し出すなり、何なりといってください。その代わり、娘には何もしないでいただきたい」



巨漢の男がさらっととんでもないことを言うと、巫女が何か言おうとしたが、巨漢の止められ何も言わなかった。

巫女は、心配そうな顔で俺を見てきた。

巫女の目が・・・痛い痛い、浄化される。



っつってもな~・・・

別に怪我した訳じゃねぇし。

罰なんていらないんじゃね?



俺はしばらく考えてみたが、何も思いつかなかった。



「いいってそういうの・・・別に何もなかったし、一つ貸しってことで」



俺がそういうと、巨漢は少し驚いたように俺を見たが、すぐにニヤリと笑みを浮かべた。



「あなたの寛大さに感謝いたします」



納得してくれたらしく、巨漢はそういって軽く会釈した。


よかった

「何でもいいから罰を与えてくれ」とか言われなくて・・・

たまにいるからな~そういうやつ


それに、罰の度合いもよくわからないしな

考えるのも面倒だし。


俺がそんなことを考えていると、不意に巨漢が何かをつぶやいた。

何を言ったのかは聞き取れなかったが、まあ別にいいだろ。



「では、娘の無事も確認できましたので、私はそろそろ失礼させていただきます。」



巨漢はそういうと、巫女の頭をなでてから俺の方から帰ろうと俺の横を通った。



「セレインに手を出してみろ、チリも残らんと思え」(ボソッ



瞬間的に、俺は体が凍り付いたように冷えた。

通り過ぎざま、さらっと恐ろしいことを言ってきた。


や、やっぱり勘違いしてやがる!!

くそ、赤面症の巫女め


俺がそんなことを考えていると、突然巨漢が曲がり角で立ち止まった。



「そういえば、まだ名乗っていませんでしたね。私は、“第1防衛騎士団団長 セレドマ”と申します。以後、お見知りおきを」



セレドマと名乗った巨漢はそういうと、ニヤリと笑みを浮かべてそのまま去っていった。


セレドマが去っていったのを見届けると、俺は盛大なため息を吐き出した。


つ、疲れた~

何なんだあのおっさん

巫女のやつが来なかったら死んでたんじゃないか?


俺はセレドマに捕まった自分の姿を想像してみた。


・・・ああ、死なないかもしれない

いや、死なせてくれないかもしれない

考えただけで恐ろしい


俺はサーッと体温が下がっていくのがわかった。



「あ、あの、勇者様。顔が真っ青ですが・・・大丈夫ですか?」



巫女はそう言って、心配そうに俺の顔をのぞき込んできていた。

俺は、大丈夫だと言って手を振った。

しかし、巫女はそのまま顔を伏せ、表情が暗くなった。



「・・・どうかしたのか?」



俺が声をかけると、巫女はチラリと目だけでこちらを見て、頭を下げてきた。



「私の父・・・セレドマ団長が大変失礼しました。なんとお詫びすればいいか・・・本当にすみません」


「だからいいって・・・。おまえが謝るような事じゃねえよ」



俺がそういうと、巫女は申し訳なさそうな顔で俺を見ると再び頭を下げてきた。


気にしてねぇっつってんのに、何回謝るんだよこいつ

これだから人間は・・・メンドくせぇ


俺は何か気の紛れるような話題を振ろうと、必死に頭を働かせた。



「あ、あの・・・勇者様?」



すると、巫女の方から俺に声をかけてきた。

また何か言われるのかと少し警戒したが、巫女の顔を見てその線はないと思った。



「ささ、先ほど、わ、私に頼みたい事があると、おお仰りましたよね?。わ、私は、何をすれば?」



巫女は、かなり動揺しているのか、言葉の頭を何度も繰り返しながらそう言ってきた。

その間で、巫女の顔がみるみる赤くなっていき、今にも倒れそうになっていた。


おいおい、大丈夫かこいつ?

また倒れられたりしたら、今度こそ殺される


俺は、巫女の変化にビビリながら口を開いた。



「ああ、ちょっと試したいことがあったんだ。特に何も頼もうと思ってない」


「えっ・・・」



俺がそういうと、巫女は瞬時に顔の赤みが引き、口を半分開けたまま硬直した。

そして、やや時間をおいてから目をパチパチと動かした。



「そう、ですか。何もなかったんですね・・・」



巫女はそういって、顔を先ほどよりも暗いものにした。


は?なんで?

何で落ち込んでんの?


俺は巫女が暗い顔をした理由がわからず困惑した。

すると、巫女は突然にっこりと笑った。



「何かあるときは、いつでも声をかけてくださいね」



巫女はそういうと、俺に背を向け、ユラユラと歩き始めた。


うわっ、負のオーラが・・・

セレドマが今の巫女を見たら。


瞬間的に自分に降りかかるであろう不幸を想像して、身の毛がよだった。

俺は、早急に何とか巫女の機嫌を直す策を考えた。



「ま、待ってくれ!!」



俺は巫女の肩を捕まえると、巫女はゆっくり振り返った。

その顔には、生気が全く感じられなかった。


ま、まずい!!!

これは想像以上にまずい!!!


俺はそう思い、すぐに何か言おうとしたが、肝心の作戦が何もない。

しばらくそのまま黙っていると、巫女が耐えきれなくなったのか口を開いた。



「どうかしましたか?、私、急いでいるのですが?」



巫女は、まるで俺を突き放すように何の感情もこもっていない目を向けてきた。


俺は思わず手を離しそうになったが、この状態の巫女を放っておく訳にもいかない。

俺の命が・・・危ない!!!


俺は、巫女の肩をつかんだまま必死に頭を回転させ、何かを考えた。

何でもいい、巫女の機嫌を少しでも戻せる策をッ!!!


俺は、今までで一番頭を回転させたかもしれない。

俺の頭の中で、いくつもの事柄が通り過ぎていく。

そして、俺が出した答えは




「ちょっと、俺の部屋でお茶でも飲んで行かないか?」




自分でもよく理解できないものだった。





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