第十八話 おじちゃん、悪魔に説教する
「避けろッ!!!」
「ッッ!?!?」
俺は、とっさにネネに体当たりをして突き飛ばす。
それとほぼ同時に、人影は引き絞っていた弓を解き放ち、顔のすぐ横をかすめて背後の木の幹にざっくりと突き刺さった。
俺は素早く体勢を立て直し、攻撃してきた人影の方を見た。
一体、誰がこんな――――――――――ん?
俺は改めて攻撃してきたやつを見て、強烈な違和感を覚えた。
(・・・・なんだ?なにがいる?)
そこには、確かに弓を構えた人影が居るのだが、何が居るのかはっきり認識出来ず、その姿を正確に見ることが出来ない。
こいつが男なのか、女なのか
弓以外の武器があるのか、それ以外もあるのか
本来なら、見ただけで得られるそういった情報が、一切わからないのだ。
「おじちゃんッ!!!」
「勇者様ッ!!」
メリアスと巫女の声に、俺はハッと短く息を吐き、ほぼ反射的にその場から飛び退いた。
すると、俺がさっきまで居た場所に、ヒュンッと言う音とともに、一本の黒い矢が突き刺さった。
な、なんだ?!
なんで、いきなり矢が飛んできた!?
―――――――人影は、矢を構えてねぇぞ??
「な、なんでアルッ!!何でさっきまで何も居なかったのに、こんな大群がいるアルかッ!!!」
「おじちゃん、気をつけて!!!その黒いやつ、眼から黒い何かを飛ばしてるみたいだよ!!」
「勇者様、その黒い獣、先ほどから妙な動きをしています!!気をつけて!!!」
「・・・・・・・おいちょっと待て、お前らなにいってんだ!?」
全員が俺に警告してきたが、全員の意見が全くかみ合っていない
いや、そもそも、この黒いやつの全員の認識がずれている???
困惑していると、人影は、どんどんこちらに近づいてきた。
すると、慌てた様子でメリアスが俺の元まで駆け寄ってきた。
「おじちゃん、なんで逃げないの?!これ、明らかにやばいやつでしょ!!!
こんな目玉のバケモノにかなうわけ無いでしょ!!」
「ああ??、お前にはこの人影が、目玉のバケモノに見えてるのか!?」
「それ以外の何に――――――――――おじちゃんには、何が見えてるの?」
俺の声に、メリアスは視線を影に向けたまま、俺にそう問いかけてきた。
俺は、弓を持った人影が見えていると答えると、メリアスは難しい顔をして目の前の影をにらみつけた。
「・・・・・幻影系か?・・・・いや、なら全員の認識が違う時点で・・・・・・そもそも、これは生き物なのか・・・・・・いや、とにかく対処が先・・・・」
なにやらブツブツと独り言をしゃべり出したメリアスに、俺は突き飛ばしたまますっかり忘れていたネネの方を見た。
ネネは、影の方を見ながら歯をガチガチ鳴らし、腰を抜かしてしまっている様子だった。
「おい、お前しっかりしろ!!!テメェの身はテメェで守れよッ!!!」
「あり得ない、あり得ないアルよ・・・・冒険者さんが・・・・・その姿、間違いないアルよ・・・・・なんで、どうして・・・・・・・」
「おい!!聞いてんのかッッ!!!!」
思わず、俺は両肩を掴んで激しく揺すってそう言うと、ネネはうつろだった目をこちらに向け、眼から大量の涙を流し始めた。
何事かと思えば、今度はネネが俺の両肩をガッチリ掴み返してきた。
「あの人アルよ!!、あの影は、私を助けてくれた、冒険者さんアル!!!」
「ああ???、なんだって??」
俺は、ネネの腕を引きはがしながらそう言うと、ネネは突然立ち上がり、俺の横を通り過ぎ、影の方へかけだした。
「冒険者さん!!!どうして、貴方はあのとき黒い腕に捕まって、そのまま川底へ――――――――」
「おい待て馬鹿ッ!!!、メリアスッ!!!」
「わかってるって!!!」
フラフラと影に近寄ろうとしていたネネを、メリアスが何とか捕まえ、そのまま羽交い締めのような形で止めることが出来た。
だが、ネネはそれでも影に近づこうと、じたばたと暴れ出した。
「はなすアル!!!、冒険者さんが、冒険者さんが生きてたアルよ!!!!」
「落ち着いて!!、あれは偽物ッ―――――――――危ないッ!!!」
ネネを捕まえたまま、倒れ込むように横へ移動した二人に、俺も慌てて同じ方向に回避行動をとった。
すると、俺のすぐ上を一本の矢が通り過ぎ、後ろの樹の幹にざっくりと突き刺さった。
「樹を折るほどの威力はなさそうだけど・・・・・あの黒い針は一体・・・・」
「な、なんでそんなちょっとした動きで、獣の突進を躱せてるんですか!?」
「・・・・・黒い針・・・・それに、獣か・・・・」
どうやら、本当に各人全く違うものに見えているようだ
・・・・とすると、この黒いやつの本来の姿も、人型ですらないのかもしれないな
何らかの方法で、全員が全く違う姿に見えている・・・・
一体なぜ・・・・
俺は、あたりをキョロキョロと見回しながら、目の前の影がまた攻撃をしてこないか警戒した。
もしかすると、どこかにこの現象を引き起こしている何かがあるのかもしれない。
すると、川の方をチラリと見たときに、妙なものが視界の隅にうつった。
少しだけ、そちらに顔を向けてしっかりと確認してみると、そこには黒い腕のようなものが川から生えているのが見えた。
腕は、ここから見える限りだとかなり大きく、手のひらのあたりに眼のような何かが付いているのが見えた。
その腕が、一つ、二つ・・・・四本か?
「来ます!!」
「うおっ?!、あぶねぇーな・・・」
巫女の声に反応して、慌てて横に転がると、俺のすぐ横を黒い矢が射抜いていた。
間一髪だった・・・か?
なんだ?いま、妙な違和感が――――――――
『―――――――“顕現せよ、聖なる光よっ!”』
「うおっ?!」
「わあっ!!」
「なにアルかッ!?」
突然、聞き覚えのある言葉が聞こえてきたかと思うと、眩い光が俺たちの視界を覆い尽くした。
影の攻撃かとも思ったが、俺に至っては特に攻撃された様子もない
周りを少し確認してみたが、ネネやメリアスにも特に変化がない
だが、地面にはどこかで見た覚えがあるクレーターができあがっていた。
それを見て、俺はすぐに巫女が使った光の奔流の事を思い出した。
あれは、魔物を消し去ったのと同時に今できあがっているようなクレーターがあったのを鮮明に覚えている。
だが、少しだけ前と違うところがあった。
それは、|影がクレーターの中心で問題なく立っている事だ。
「そ、そんな・・・・浄化されてない!?」
巫女の声のした方を見れば、本を片手に抱えて、もう片方の手を影の方へ向けてひどく驚いていた。
そして、俺は、このとき視線を影から外したのを後悔した。
「お、おじちゃん・・・・・それ、は?」
「なんだ?、一体何――――――――がぁ??」
名前を呼ばれ、メリアスの方を向こうと身をよじると、なぜか俺の肩口に何か違和感を感じた。
それは、俺の身体に密着するように弓を構えた影が、俺に向かって小さなナイフを突き刺している姿だった。
その瞬間、感じて居た違和感が、激しい痛みとして俺に伝えてきたのだ。
「があっ?、こ・・の、野郎・・・がぁっ!!!」
俺は、肩口に刺さっているナイフを自ら引き抜き、そのままの勢いで影を切りつけようとしたが、それよりも早く、影は俺に覆い被さるように身を大きく傾けてきた。
そして、それと同時に俺の手にあったナイフと影は形を無くし、液体のようになり、俺に降りかかってきた。
「おじちゃんっ!!!」
「メリアス、来るなっ!!!!」
俺の元に駆け寄ってきたメリアスに、俺は慌てて叫んで制止したが、それよりも早く影は俺の身体を覆うように降りかかってきた。
そして、メリアスも近づいてきたせいで一緒に影へ飲み込まれてしまった。
「勇者様!!!メリアス様!!!!」
「あっ・・・ああっ・・・・・うわあぁっ・・・・・」
巫女とネネの声がかすかに聞こえたのを最後に、俺の意識は自然と落ちてしまった。
そのとき、なぜか俺の近くで笑い声が聞こえた気がした。
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俺は、何をしているのだろうか?
よく分からない連中に
縁もゆかりもない連中に
得体も知れない連中に
なぜ、俺の身体を調べられなければならないのだろうか。
なぜ、あらゆる事をわざわざ質問され、知りもしない事を吐けと言われなければならないのか?
・・・・・・・ふざけるな
質問したいのはこちらの方だ
知りたいのはこちらの方だ
何なのだ?
なんななのだこいつは?
こいつは、本当に俺なのか?
こいつは、本当に存在しているのか?
誰か、誰か
知っているなら、教えてくれ
一体・・・・・一体こいつは・・・・・
【初めまして・・・・――――――――坊や】
―――――この女は誰なんだッ????
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「おじちゃんッ!!!!!」
「ッ!?」
突然聞こえてきたでかい声に、俺は両目を見開いた。
そのまま飛び起きてしまいたかったのだが、首と上半身に何かが絡みつき、俺は勢いに流されるまま再び地面に倒れた。
倒れた拍子に勢いよく後頭部をぶつけてしまい、声を上げそうになったが、それを遮るように、俺の視界を一瞬で黒い何かが通り過ぎた。
そして、すぐそばで凄まじい破壊音が鳴り響き、俺はその瞬間、自分が一体どういう状況に置かれているのかを理解した。
「おじちゃん!!怪我無い!?」
「お、おう・・・ありがとなメリアス」
首に抱きつくように俺を押し倒したメリアスに、俺はお礼だけ言って慎重に今の状況を把握すべく、周囲を目だけで巡視した。
どうやら、先ほどの河原ではないようだ。
少々ジメッとしていて薄暗い。
身体や肌が触れている部分から、地面が岩場のような場所であるのがわかる
(ここは・・・・洞窟か?
一体、どこの??)
まあ、地名や名称を言われた所で、俺にはさっぱり分からないのだが
ともかく、先の攻撃の主がここへ連れてきたと考えて良いだろう。
俺はそう結論づけ、先ほど目の前を通過した黒い何かを飛ばしてきた者の方を見た。
すると、そこには確かに真っ黒な人影が存在した。
・・・・・いや、影のように黒い何かが存在していた
先ほど河原に居たやつに似て、黒いという認識しか出来ないが、今回ははっきりとその異常性に気づくことが出来る
俺が見ていたように、人影のようにも見える
だが、ゆらゆらとはっきりとした輪郭がとらえられず、形もおぼろげだ。
絶えず形を変えている様子に見え、人かと思えば獣、獣かと思えば何かの群れのようにも見える
丸い球体のようなものにも見える時があり、巨大な腕のような影にも見える・・・・・。
薄暗いせいなのもあるかもしれないが、先ほどのメリアスや巫女の言葉を思い出してみれば、なるほど確かに獣や群れと言った姿にも見えなくもない。
俺がそんな事を考えている間も、影はこちらに向けて攻撃を加えてくる。
先ほどのようにギリギリで避けることにならず、俺とメリアスは余裕を持って避けることがで来ていた。
なぜなら、先ほどと違い、影は何かしらの予備動作をしてからこちらに攻撃を仕掛けているからだ。
先ほどならば、攻撃する動作自体はあったが、見当違いの方を見ている事や、そもそも攻撃の姿勢をとっていない事もあったが、今はそんなことはない。
必ず、影は何かしらの動作をして、こちらをしっかりと向いてから攻撃を加えてきているのだ。
なぜ先ほどのような攻撃をしてこないか分からないが、ともかく格段に避けやすくなった事に変わりない。
メリアスも、問題なく避けている
かくいう俺も、盾を使ったりその場に伏せたりと、攻撃を避けて反らして駆け回っている。
そんな様子を見た影から、明らかに苛立ちのようなものも見て取れる。
すると、影に変化が見られた。
【――――・ゼ・・、ク・・・ナ・】
なんと、影から声のような音が聞こえてくるようになってきた。
どうやら、言葉を話せるようだ。
俺は、攻撃を避けつつ、なんと言っているのか聞き取れないか音に意識を集中してみた。
すると、俺はとんでもない事に気がついた。
それは――――――
【――――なぜナル?、攻撃を避けてるナル?、怖いナルよこの人達?、どうしてナル?、ナルは悪くないナルよ?、どうしてこんなに攻めてくるナル??、可笑しいナル、怖いナル、もう帰りたいナル・・・・一体全体どうなってるナル??、ナルは無害で、無実で、無気力で、無知な生き物ナルよ?、どうして大人しく帰ってくれないナル?、大体、ここ最近人が多すぎるナル、ナルは誰とも会いたくないナル、どうしてどいつもこいつも川に近づいてくるナル?、結構前に人払いのお願いしたのに、何で??、どうして????――――――――――】
「・・・・・・・」
こいつ、すごい勢いでネガティブな発言ばかりしているのだ。
メリアスもそれに気がついたのか、攻撃を避けつつもこちらに視線を向け、微妙な表情のまま、影を指さしていた。
俺も避けながらメリアスの指さす方を見る。
すると、よく見ると影の根元のもやもやした所に、なにやら小さな何かが居るのに気がついた。
俺は、メリアスの方を見て頷くと、彼女も理解したのか、素早く俺の方へ来た。
「メリアス」
「はいはいおじちゃん」
「・・・・連れてこい」
その言葉とほぼ同時に、メリアスは俺から離れ、ジグザグにかけながら疾風のごとくかけていき、あっという間に影の懐に入った。
慌てた様子で影が攻撃の予備動作をとったが、それよりも早く、メリアスは足下のもやの中に居るそれを捕まえ、そのまま影からむしり取るように引きづり出した。
その瞬間、影がまるで絶叫するようにもがき始め、もやが完全に晴れるのと同時に散っていった。
代わりに、メリアスに抱きかかえられるように捕まったそれが、ぽっかりと口と眼をいっぱいに開いてこちらとメリアスを交互に見て、タラタラと滝のような汗を流していた。
「・・・・これか?」
「・・・・たぶん?」
【・・・あ、えっと、あの、その・・・・・・・あはは、はは、は??】
それは、困ったように周囲を見ながら俺を見て、苦笑いをしながら首をかしげて見せたのだった。
「・・・・それで、お前が影を操って、川に近づいてきた奴を片っ端から攻撃してたと」
【えーっと・・・・その~、なんというか、素直に頷いて良いかどうか微妙で絶妙で巧妙なデリケートな所なんで~、はっきりとは言えないというか・・・・悪気はないというか―――――】
「で?」
【はいナルです、ナルが “川の悪魔” って呼ばれてるやつの正体です。本当にごめんなさいナル】
俺が問い詰めると、地面にちょこんと正座をした子供は、深々と頭を下げた。
あれから俺は、メリアスに後ろからいつでも捕まえられるように待機させ、子供に正座させた。
最初は、ひきつった笑みを浮かべながらも、逃走しようとしたみたいだが、すぐに俺かメリアスに止められ、それを何度か繰り返すうちに、本当におとなしくなったのだ。
そこからは、知っていることをすべて吐かせ、抵抗するならば実力によって、滞りなく話させることに成功したのだ。
なんでも、この子供はこの川の守り神のような存在らしく、名を“唸神”(なるかみ)と言うらしい
ナルカミは、この清流の川を古くから綺麗に保ち、浄化していたそうだ。
細々とだが、ナルカミを知っている信者による信仰のお陰で、消えることなく、人々の目に触れぬようにひっそりと暮らしていた。
だが、ここ数年状況は大きく変わってしまった・・・・・・
なんと、ナルカミの御神体とも言える川の上流の祠(ちなみに、相当ボロボロだとか)で、謎の水質汚染が起こったのだ。
川の生き物たちは汚染により住めなくなり、美しかった水も汚染によって朽ちた木々や、石によって、濁流へとその姿を変えていた。
ナルカミも、川の汚染により、力のほとんどを浄化と川の維持に使っているせいで、力が出ないとのこと
【ーーーーーー本当なら、こんなに危ない川じゃないナル。梢の音、川のせせらぎ、小鳥たちの声とか・・・本当にのどかできれいなところだったナル。
ーーーーーーでも、それも数年前までの話ナル
今では、こんなに危ないところになってしまったナル。
唯一の橋も落ちてしまって、村との交流もしづらくなったナル・・・・
汚染の原因を調べようにも、ナルはここから自由に動くことができないナル。
しかも、ここ最近妙に人が多くなったナル、川を無理矢理渡ろうとして流されたり、そのまま力尽きてしまったりでどんどん色んな生き物が死んでるナル・・・・・・・
だからナルは、少しても犠牲が出ないように、川から遠ざかってもらうために、こういう手段を・・・・・】
ナルカミは、しょんぼりと肩を落としながらそういって、手首を小さくクイッと動かした。
すると、ナルカミの手のひらから影が流れだし、地面に垂れると、そのまま小さな人形が現れた。
人形は、好き勝手に動き回ると、すぐに形を保てず溶けるように地面に吸い込まれていった。
なるほど、こいつがさっきの影の正体か。
そうか、それで近付いてくる奴等がことごとく襲われてたってことか
「・・・・・・で?襲った人間はどこにいんだ?
話によると、男が一人お前に連れ去られたままのはずだ」
【・・・・・・・ナル??】
俺の言葉に、ナルカミはきょとんとした顔で首をかしげた。
いやいや、そんな顔をされても困るのだ
何故なら、いまの話の中ではーーーーーー
「ねぇねぇ、ちょっといいかな?
数日前に、冒険者の人を襲ったことはない?」
【・・・冒険者ナルか?
えーっと・・・・・確かに数日前来たナル。
確か、川岸に居るお二人の内の一人、あの人の同伴者だったナルか?
あの人なら、ナルが対岸に渡そうとしたら、突然居なくなってしまったナル
だから、行き先は知らないナル】
「いなくなっただと??
・・・どういうことだ?」
メリアスの質問に、ナルカミは顎に手を当ててうーんっとうなり始めた。
しばらくして、ナルカミは首を左右にふった
その答えに、メリアスは俺の方を見て、首を左右に振った。
どうやら、嘘をいってるわけでも無いようだ。
そうなると、襲われた冒険者は自力でこいつの目を盗み、逃げ出したのか?
・・・いや、難しいだろう
ここがどこか知らないが、恐らくそう簡単に地上に出られるような場所ではないのだろう。
メリアスも、そんな俺の思考を読んだのか、コクコクと頷いている。
・・・・だとすると、件の冒険者は何処にーーーーーー
【えーっと・・・・・あの、あのーーーーーー】
「ああっ?なんだ?」
【ナルに話せることはこれくらいで、今後はもっと安全な方法で何とかするナル、この辺りで許してもらえないナルか・・・?
ほら、ナルの力の概要まで話したし、人を突然襲って対岸に渡すのも金輪際しないナル・・・・・・
も、もも、もし、冒険者の人を探すなら、ナルも力を貸すナル、安全に地上の人たちも対岸に渡すなる・・・・・・・
だから、えっと、その・・・・・お願いしますナルゥゥ・・・】
俺が悩んでる間に、ナルカミはドンドン言葉がしりすぼみになっていき、最後の方は両目に涙をためながら俺に必死に懇願してきていた。
何でこんなに怯えられてるかわからないが、すでにこいつにはなんの興味もない。
しかも、勝手に色々こちらに都合がいい条件を大量につけてくれている。
なら、もう自由にしてやってもいいだろう。
俺は、メリアスの方を見ると、彼女は苦笑いを浮かべつつ、ナルカミから離れ、俺の方へ駆け寄ってきて、何故か腕にしがみついてきた。
すると、ナルカミは一瞬呆けたような顔で自分の背後と俺を交互に見て、すぐに嬉しそうな顔になり、そのままペコペコと土下座されてしまった。
はぁ、やれやれ
こっちに来てから、どうしてこんなに崇められたり怖がられたりせにゃならんのだ
「おじちゃん・・・一回鏡見て自分の思案顔見た方がいいよ?」
「ん?なんだメリアスぅ?
撫でてほしいのかぁ?仕方ないなぁー??」
「あばばばばばばばーーー!!!!
撫でてない撫でてない!!
それ掴んでる持ち上がってる指がめり込んでるぅぅぅぅうう・・・!!!!」
メリアスが誉めてくれたので、俺もお返しにコメカミと眉間に指をめり込ませて、 力強く撫でて あげた。
ナルカミは、それを見てさらに怯えていたが、やられてる本人は、「痛い痛い」と喚いてるくせに口元がニヤケて涎まで垂らしているので、きっと気にすることはないだろう。
・・・というか、こいつ本当に気持ち悪いな
【あっ、あの~・・・そろそろ帰ってもいいナルか?
また誰か川に来たみたいナル、そっちの相手をしたいナル・・・
というか、妙に正確な足取りで、こっちに近づいてきてるみたいナル・・・・・・
ナルとしても、痴話げんかはナルが居なくなってからに―――――――――――】
「うるせぇ!!!
そんなん、いちいち俺に確認すんなっ!!!
行くならとっとと行きやがれっっ!!!」
【ひぃっ!!し、失礼しますナルゥ~~~~~~!!!!】
俺が怒鳴りつけると、ナルカミは悲鳴を上げながらしっぽを巻いて逃げ出していった。
いい加減メリアスを地面に下ろしてやり、精神的疲労から「ハァッ・・・・」とため息を吐いた。
まったく、旅に出てそうそう何でこう厄介ごとばかり起こるんだ。
しかも、旅の仲間がここに居る変態と小娘って・・・・・・はぁ~っ・・・・
急に陰鬱とした感情があふれてきて、俺は再びため息を吐いた。
すると、俺から解放されたメリアスが少し怪訝そうな顔でどこかを見つめている事に気がついた。
視線を追ってみると、どうやらナルカミが去って行った方を見ているようだ
「・・・・おじちゃん」
「・・・・なんだ」
「・・・・・僕たち、どうやってここから出るんだろう?」
・・・・・・・・はぁーーーーっ
俺は、ガックリと首を落とし、再びため息をしながら、メリアスを伴って走り去っていったナルカミの後を追い掛ける事になったのだった。
ナルカミに追いつき、俺たちの姿を見た途端
【ビィヤァァァァァアアア~~~!!!追っかけてきたナルゥゥゥゥウウ!!!!!】
とか言って、かなり全力で逃げ出したのは、仕方ないことだと思う。