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おじちゃんが見た世界  作者: 蛇炉
17/20

第十七話 おじちゃん、川に行く

朝を迎えたころ、帰ってきた巫女たちに宿のことを聞いてみる。

すると、どうやらこの宿屋の人間にティエード家に世話になっている奴がいるらしい

そいつから、すでに宿屋の宿泊を許可してもらえるように言ってあるそうだ。


俺たちが宿泊したこの宿は、二階がある一戸建ての建物だ。


一階スペースがロビー兼食堂

二階が宿泊スペースになっていた


内装は木造の質素なものがらも、掃除や手入れが行き届いているのか、とても清潔感があった。

おまけに、素泊まりで朝飯付きときた


正直、俺の見たこの世界から考えると、かなりいいサービスの宿であることは容易に想像できた。




「・・・・なあ、ここクソ高ぇ宿なんじゃねぇのか?

本当に一泊する許可貰ってるのか?」




朝食で出されたパンを食いながら、巫女に確認してみると、同じようにハムハムとパンを食ってた巫女が少し慌てた様子で返事をした。




「んんっ!?・・・・・っ大丈夫ですよ。

ここのご主人にもしっかり確認しましたし、それどころかしばらくここの部屋を使ってもいいって言ってくださったんですよ?」


「まあ、その時の顔が明らかに下心丸出しのヤバイ顔だったから、断ったんだけどね?」




「・・・・・そうか」




俺はチラリとロビーのほうを見ると、そこには筋骨隆々で強面のおっさんが、その顔をデレデレに崩して両手を組んでいた。

もちろん、こっちをガン見していた。



・・・・・ただの変態が経営する宿か



俺はさっきまで感じていた心配を頭から完全に消し去り、思う存分朝食を楽しんだ。

そして、朝食を済ませ部屋に戻った俺たちは、一度俺のいる部屋に集まり昨日の夜のことを話した。

どうやら、メリアスたちも俺と似たようなことをしていたらしく、互いに収集した情報を報告しあうことになった。




メリアスは、この先にあるマイード村についての情報

巫女は、もろもろの物資の補充・金銭の確保

俺は、残念ながらこれといったことはなかったことを伝えた。


そして、最後に共通していたのが、“清流の川”と“川の悪魔”の話だった。


巫女もメリアスも、村人からある程度の話をチラホラ聞いたらしい

俺も、その話を村長から聞いたことを言うと、なぜか二人は驚いた様子で固まっていた。

それはどうでもいいのだが、これからマイード村に向かうにはどうしても“清流の川”を越えなければならない。




「どうしましょう。私が聞いた話では、川の悪魔というのは、大群で押し寄せてくるそうで・・・・

川に近づいただけで襲い掛かってきて、体をバラバラにし、川にひきずりこんでしまう引きずり込んでしまうとか・・・・」


「うーん、そうだね・・・・・

さすがに、音や気配まで探ってきて、挙句、凶悪な牙で一咬みだって言ってたし・・・・」


「そうだなぁ、そんな腕のバケモノ・・・・どうしようもねぇよな――――――――ん?」




待て待て待て・・・・おかしくないか?


村長の話だったらバラつきはあっても、必ず共通した部分があるって言ってなかったか?







確か・・・・・“不気味な目”と“大きな腕”だ








だが、二人の今の発言から、どこにも“目”と“腕”の話は出てきていない。

・・・・・・どういうことだ?




「・・・セレインちゃん、ちょっといいかな?

あなたが聞いた “川の悪魔” の特徴を教えてほしいなあ」




メリアスの質問に、首をかしげながら巫女は答えた。




「は、はい・・・・先ほども言いましたが、川の悪魔は “謎の生物の大群” で、川に近づく生物を見境なく襲い、肢体をバラバラにし、川に引きずり込んでしまう恐ろしいものだと・・・・」




「・・・・・おかしい。

僕が聞いた話とあまりに違いすぎる・・・・・おじちゃんも、そうだよね?」



「・・・・・ああ」




巫女の聞いた “川の悪魔” の話

それが、俺が聞いたものと相違点が多いことが分かった。

メリアスからも聞くと、おおざっぱに言うと “謎の大型獣が襲い掛かってくる” といった内容だった。




「なんでこんなバラバラなんだ?・・・・・ここの奴ら、大なり小なり被害にあってんだろ?」



「うーん・・・・・・もしかして、おじちゃんが聞いた村長の話が本当で、ほかの人が嘘を言ってるとか?」



「わざわざ村人にでっち上げの話を言い聞かせてたってことか?・・・・意味ないんじゃねぇか?」




そう、あまり意味がないのだ

なぜなら、たとえ村長が話を捻じ曲げたところでこんな狭い村なのだ。

村長以外の奴が好奇心で見に行って、それを言いふらすこともありえる。

それに、村人同士で話が食い違えば、誰だってそれが嘘だと気が付く。

仮に、生存者がいないのを言い訳に、様々な姿を持っているバケモノという認識で広まっているならまだしも・・・・・




「・・・・もしや、“川の悪魔”とは、魔物のことではないのでしょうか?」


「魔物?・・・・・まあ、確かに話を聞く限りじゃ、姿がバラバラだな・・・」




魔物の特徴から考えるに、十分あり得ない話じゃない。

一度に複数の姿になれるのかは知らないが、仮に魔物がその辺の虫か何かを吸収して化ければ、巫女がきいた姿で攻撃も可能だろう。

メリアスの話でも、そこらの獣を吸収して巨大化でもすれば可能だろう。


・・・・・だが、目玉と手のバケモノはどうなんだ?

目と手だけを吸収して化けたのか??・・・・・いや、なら最初から人間の姿のほうがいいだろう。

油断を誘えるし、不意を突いて襲うことも可能なはずだ。



・・・・やっぱ、わからんな




「・・・・・・・・ねえ、おじちゃんおじちゃん」


「ああ?、どうしたメリアス」


「もうさ、川を越えるしかないわけだし、とりあえず直接向かってみたほうが早くないかな?」


「はあ!?、お前、バケモノがいるって川に自分からノコノコ出向くっていうのか?!」




俺がそういうと、メリアスはこれ見よがしに胸を張ってどや顔をしてきた。



・・・・ああっ?

いきなりどうしたんだこいつ?



メリアスの態度が理解できずに、顔をしかめていると巫女が何かに気が付いたのか、短く息を吸う音が聞こえた。




「はっ!?、ま、まさかメリアスさん・・・・

・・・・何か川の悪魔に関する重要なことを知っているのですか?」


「フフフ・・・・・さすがセレインちゃん。

―――――――全然違うよ?」




メリアスの言葉を聞き、巫女が盛大にズッコケてしまった。

かくいう俺も、あまりにもったいぶっている態度に呆れているんだが・・・・


すると、メリアスはいやらしい笑顔を浮かべて指を一本立てた。




「まず大前提として、どんなことが起こっても、僕さえいれば大体対処できるよ。

――――――おじちゃんだって、僕がいったい誰なのか分かってるでしょ?」


「そういえばそうだったな・・・・メリアス」




メリアスの言葉に、やっと俺はこいつの態度の根拠が分かった。


そういえば、こいつ・・・・曲がりなりにも神様・・って奴だったな

あんまりに威厳も有難みもご利益も何も感じねぇ奴だからな・・・・・忘れてたぜ




「おじちゃん・・・読まなくても顔に出てるから・・・・・・もう僕のライフゼロだから」


「知るか、悔しかったらそれらしい事を一度でもしやがれ」




メリアスはほっとくとして、確かに大変不服だがこいつがいれば万事何とかなりそうだ。

それに、巫女もなんだかんだ言って魔物を消し去る術を持ってるしな。

俺もやばくなったら“チアキ”を叩き起こせばいい訳だしな。




「あ、あの・・・・おおじ様。メリアス様がちょっと・・・・」




巫女に言われてメリアスのほうを見ると、なぜか胡坐をかいて両手を合わせ、正面に水平を保って伸ばしていた。



・・・・・・何してんだこいつ?



「お、おいメリアス?・・・・・・何して―――――――――――」







「――――――いでよっ!!! “神器オンリ 裁定者の天秤シャリテルナアクス”!!」




そう叫ぶや否や、合わせていた両手からビリビリと音が鳴りだし、次第に電気のようなものを帯び始めた。

メリアスは、ゆっくりとした動きでその手を広げると、腕全体にまとっていた電気が手に集まり、手のひら部分にドーム状の塊が二つ出来上がった。

そして、メリアスは一度目をつぶると、広げていた腕を止め、今度は勢いよくその腕を閉じた。

すると、二つの塊は見事に合わさりきれいな球体が出来上がった。

出来上がった球体は、バチバチとあたりに電気を飛ばしながら次第に形を変え、それは棒状のものに変わっていった。

そして、突然それがまばゆい光を放ち、俺は思わず目を覆った。

しばらくそのままでいると、バチバチという音が聞こえなくなり、光も収まったようで、確認のために薄目を開けてみた。




「・・・・・え?」「・・・・・はあ?」




巫女と俺の目に飛び込んできたのは、一振りの戦斧だった。


斧の所々が金で装飾されており、刃は鋼や鉄ではなく、透き通るような青色だった。

素人目で見ても、かなり切れ味がよさそうだ。


メリアスは、その斧をことも何気に片手で持っており、俺や巫女の反応を見て満足げな顔をしていた。




「どう、すごいでしょっ!!!!僕専用の“神器オンリ”だよっ!!

これだけでも、僕が神様だって証明になるでしょ?

・・・・しかも、これにはとんでもない“神業オンリゴ”が―――――――――」


「―――――っの、クソガキがぁ!!!!!」




自信満々で天狗になっているメリアスを、俺は思いっきりたたいた。


もちろん、グーで・・・・


空いているほうの手で頭を押さえているメリアスに、俺はしばらくお説教をしたのだった。


何の前触れもなく、電気やら武器やら出しやがってこいつはっ!!!

かなりビビったわっ!!!!


しばらくすると、巫女が見かねて止めに入ったことで俺の説教は終わったのだが。

いまだにシュンとしているメリアスは、まだ納得してないのか口を尖らせたまま俯いていた。




「・・・・それで?、なんでいきなりこんなことした

もう怒らねぇ・・・・とは言わねぇけど、言ってみろ」


「だって、神様っぽいことしてみろっておじちゃんが・・・・言った」


「誰も電気撒き散らして斧出せって言ってねぇだろ・・・・場所考えろ」




俺の言葉に、「むーっ」と頬を膨らませたメリアスに、俺はまた切れそうになったが、巫女が俺の肩をポンポンと叩いてきたことで、少し冷静になった。





・・・・・・・・・・・



・・・・・・・・・・・



・・・・・・・・・・・





よし、落ち着いた。


・・・・・まあ、物は考えようだ

こいつはこいつなりに考えてやったこと、そこまで目くじらたてるようなことじゃねぇ


それに、こいつはいざとなれば武器を出して対抗できるってことが分かった

巫女も居ることだし、もう少し “川の悪魔” について情報を集めていけば、案外すんなり川を越えられるかもしれないな。




「・・・・・・よし、分かった。これから “川の悪魔” について情報を集めるか。

こいつも巫女もいざとなったら戦えんだ・・・・川超えるだけなら何とかなんだろ?」



「ふーんっ!!!僕知らなーいっ!!!」






「・・・・・・いい情報だったら頭撫でてやるぞ?」


「まっかせておじちゃんっ!!!僕なら朝飯前だよっ!!!」




そう息巻くと、メリアスはフンスッとやる気満々の様子で部屋を飛び出していった。

その際、先ほど出した斧は哀れにも床に放置され、気のせいかもしれないが何ともいたたまれない雰囲気をにじませていた。



まったく、面倒くせぇのかチョロいのか・・・・・


俺は、頭を掻きながらため息を吐いた。

すると、未だ部屋に居る巫女がなんだかモジモジしながらこちらをチラチラとみていた。

どうしたのかと考えていると、巫女が小さな声をあげた。




「あ、あの・・・・おおじ様?

・・・・私も情報が手には入ったら・・・その・・・いいですか?」





・・・・・・巫女、お前もか

























********




それから俺たち全員で村の色んなやつから “川の悪魔” について聞き回ったのだが、結局有力な情報は得られなかった。

それどころか、情報がバラバラすぎてどれが本当の情報なのか全く分からなくなってしまった。

俺たちは、とりあえず一番信用できそうな村長の話を真実だと仮定し、ほかの情報もそれに準じて対策を立てることにした。




結果として、いかなる対策をしたところで、すべて対応されてしまう可能性が高い

だから、臨機応変に警戒を怠らず川を通過する


まあ、要するにロクな対策は思いつかなかったということだ。


メリアス曰く、どんなことがあっても自分が何とかするとか言ってるし、もうこれ以上考えても説得するのも無駄だと悟り、俺たちは “清流の川” を目指して森の中を突き進んでいるのだが・・・・




「で?、いったい何なんだ、あいつは?」




「ま、待ってほしいアルッ!!お願いだから少しでも話を聞いてほしいアルヨッ!!!!」




俺たちの行く手を阻むように両手を広げ、必死に声を上げている女が一人


そいつは、今にも崩れてしまいそうな程ボロボロの馬車を道の脇に止め、女自身もボロボロの身なりをしおり、ボロの隙間や顔などの肌が見える部分に痛々しい傷が多く見受けられた。


そいつが、しつこいくらい馬車に乗っている俺に詰め寄ってきているわけなんだが・・・・・




「・・・・なぁ、なんでお前は真っ先に俺のところに来た?

普通なら、馬車操ってる巫女に声かけないか?」


「馬車を操ってるのは大体従者や雇われの人間ネ。

普通に考えれば、まとめ役やリーダーは馬車に乗るはずネ」


「・・・・・・そういうもんか?」




あまり馬車というものに乗ったことがない俺としては、よくわからない分析なのだが、隣にいるメリアスがしきりに頷いているところを見ると、そうなのだろう。




「それで・・・・・僕たちに話って??

まさか、この先にある “清流の川” に関する何かだったりする?」




メリアスの言葉に、わかりやすく体を飛び跳ねさせて動揺を示した女に、俺は頭を抱えそうになった。


まあ、そういった類の話だとは思ったけどな・・・・

しかも、十中八九 “川の悪魔” 関連だ。




「お、お願いアル・・・・・・せ、せめて私の話だけでも聞いてほしいアルヨ

それから、川へ向かうかどうか決めてほしいネ・・・・・・」




ずいぶん暗い様子で話すので、これはただ事ではないのだろう。


どのみち俺たちは、“川の悪魔”の情報に飢えているのだ

もしかすると、重要な情報を聞けるかもしれないしな・・・・


俺は、念のため巫女を馬車の中に呼び寄せ、全員で女の話を聞くことにした。


この女、名前は “ネネ” というらしい

何でも、商人をしている女らしく、遠い異国から大口の取引を取り付けて、商いを続けながらここまで旅をしていたのだそうだ。

だが、目的地である “マイード村” を目前にして、清流の川が氾濫していたらしく、とてもわたれる状態ではなく、途方に暮れていたそうだ。




「・・・・待て待て、って事はあれか?

この先、村に行くには馬車は―――――」


「――――――進めないアル。

川が元に戻って居れば、話は別アルが・・・・・橋も見当たらなかったアルし・・・・・」




俺の質問に答えた “ネネ” は、盛大にため息を吐いた。

何でも、商品のほとんどがダメになったあげく、残った品も馬車がボロボロになってしまって運べなくなってしまっているそうだ。

そこまで話を聞いたメリアスが、何かを察したのか訳知り顔でニヤリと笑った。




「なるほど・・・・つまり、あなたは、私たちと一緒に川を渡って、その物資を運んでほしいと?」


「・・・・・・その通りアル

もちろんタダじゃないアル、商品の中から好きな物を貴方たちに・・・・・ゆ、譲るアルッ!!

こう見えて、私はかなり珍しい物を扱ってるネ。

きっとお眼鏡にかなう物があるはずヨ」




少し苦しそうにそう言うと、ネネは両手を地面につけると、まっすぐ俺の方を見た。

そして――――――




「お願いアル。せっかくあの人・・・に助けて貰った命・・・・何にもせずに、こんなところで散らす訳にはいかないアルヨ・・・・この通りアルッ!!!!!」




ネネはそう言って、頭を下げ、額を地面にこすりつけた。

その様子に、俺は頭をガリガリ掻きながら隣に居るメリアスと巫女に視線を送った。


正直なところ、俺としてはどちらでもかまわない。

結局、何かあったときに対処できるのはこの二人なのだ。

俺が出来ることと言えば、“チアキ” をたたき起こしてサポートするか、逃げるくらいしか出来ない。


自分で自分が情けなくなるが、事実そうなのだからどうしようもない。

俺の視線に、メリアスはコクリッと頷いていたが、巫女はどこか困ったような顔でこちらを見返しているようで、しきりにネネの方を見ていた。




「・・・・巫女、どうした?」


「あっ、いえ・・・・・少しお聞きしたいことがありまして・・・」




巫女の反応に、俺は先を促すようにあごでしゃくると、巫女は少し聞きづらそうに質問をした。




「ネネさん・・・・・先ほどあなたが言った “あの人” とは・・・・・いったい誰ですか?」




巫女の質問に、頭を下げていたネネは、わずかに身体を震わせ、ゆっくりと頭を上げた。

そして、口を真一文字に引き結ぶと視線を下げ、つらそうな顔を晒してきた。

その反応を見て、俺は巫女が何が聞きたいのかを察した。

案の定、巫女は彼女の反応を見ると、続けて質問した。




「ネネさん・・・・あなたもしかして、“川の悪魔” に襲われたのでは?

・・・・・そして、“あの人” というのは、同行なさっていた方で、あなたは悪魔から命からがら逃げ延びてきた・・・・・・その方を残して」




巫女の言葉に、ネネはグッと下唇を噛んでいっそうつらそうな表情になった。

そして、にらみつけるように巫女を見て、その口を開いた。




「・・・・その通りアル

私は、数日前に・・・・・ “川の悪魔”に襲われ、生き延びたアル。


あの人の・・・・・名も聞けなかった冒険者の方を・・・

・・・・・命の恩人を・・・・・見捨てて・・・・・わたしはッ・・・」




ネネはそこまで居ると、下唇をガリッと噛み、悔しそうに顔を伏せた。

顔を伏せている真下の床に、ポタポタと小さなシミがいくつもできあがった。


それを見て、俺はいよいよ困り果ててしまった。




これはまた・・・・・ずいぶん面倒な事になった

しかも、こんな頼まれ方をされては、断りづらい・・・・いや、断れない




俺は再び隣に居る二人をチラリと見たが、そこには二人の姿はなかった。

いつの間にか、二人はネネの両サイドへ移動しており、心配そうに背中をさすったり頭を撫でたりしていた。



・・・・あー、これはもう連れて行く事になりそうだな




俺はそんなことを思いつつ、ネネが落ち着くまで黙って見守っていたのだった。




















***********







しばらくして、ようやく泣き止んだネネを伴い、物資共々 “清流の川”を目指したのだった。

その道中、ネネから “川の悪魔” について話を聞いた。


姿形は、人間の手のようで、大きさは人間の頭を優に越えるほど巨大だったという。

その手には、至る所に不気味な目がついており、そのすべてが別々の方向を見ていたという。


何でも、最初は川の反対岸にそれらしい影を見つけ、一瞬目を離した隙にすぐ隣に出現していたそうだ。


その際、一緒に居たという冒険者が襲われたそうだ。

ネネ自身、そのときどうなったのかよく覚えていないそうだが、気がつくとさっきいた場所で倒れていたそうだ。

そして、ボロボロの物資を積んだ馬車と自らを見て、早くこのことを伝えなければと移動を試みたらしいのだが、下手に動くよりも誰かが通りかかるのを待った方がいいと判断し、道で何日も待っていたそうだ。


幸い、護身術程度は嗜んでおり、食料なんかも商品の一部を消費してしのげていたのだと言う。




「みなさん、川が見えました・・・・」




ネネの話を聞いている内に、どうやら川の近くにたどり着いたようだ。


俺たちは、馬車を降りて目の前を見ると、そこには確かに川があった。


だが、その川はひどく濁っており、ゴウゴウと激しい流れの川だった。

川幅も広く、水面からは流木や何かの残骸が見え隠れしていた。



・・・・・これが“清流の川”か?

名前負けしてるな・・・・



そんなことを思いつつ、あたりをキョロキョロと見回していると、突然何かが俺の腕をかすめていった。

何事かとそちらを見ると、真っ青な顔でガタガタと身を震わせているネネがいた。




「おい、ビビりすぎだろ。

まだ何にも出てきてないだろ?」


「ああっ・・・そ、そんな・・・あれ・・・」




俺の声を無視して、ネネはカッと両目を大きく開いたまま川を見つめていた

そして、右手をゆらりと持ち上げると、川の向こう側を指差した。

俺は、その指の先へ視線を向けてみ。


すると、川の向こう岸に何か黒っぽい小さな影が見えた。




「・・・冒険者、さん・・・?」


「ああ?お前、あれがなんなのかわかっ――――」




そこまで言って、俺の喉はまるで凍りついたかのように動きを止めた


なぜなら、ネネの方へ視線を向けてみると



その奥、丁度ネネのすぐとなりに












―――――真っ黒な弓を構えた人影が、立っていた。




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