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おじちゃんが見た世界  作者: 蛇炉
16/20

第十六話 川に住む異形

今回、最初の方は違う方の視点で始まります。

中間くらいからおじちゃん視点に戻ります

人は新天地を訪れる際、実に様々な感情を発露する



あるものは、自らの知らない土地に興味をもち、気持ちを高ぶらせる

あるものは、全く同じ理由で不安を感じ、その土地に不信感を持つ。


あるものは、自らが過去に訪れた土地に類似していると、懐かしさを感じる

あるものは、同じ理由で、その土地に対して言いしれぬ恨みを漏らすものも居る。



千差万別、十人十色・・・・

見方が変われば、印象が変わり・・・・とらえ方が変わる




そして、最初に感じたそれが・・・・・・




実に強固に、強烈に、執拗に




・・・・・・・・人の中に根付くのだ






*****************




「・・・・・・はぁ」

「・・・・・・はぁ」



盛大なため息をはき出す二人の人物がいた


一人は、とある事情によりとある物資をある場所へと輸送していた商人である

もう一人は、たまたま立ち寄った村にて、ある場所へ行ってとある人物の護衛を頼まれた冒険者だった。


二人は全くの無関係であり、面識もありはしない

唯一の共通点として、二人とも全く同じ場所へ用事があると言うことだ。




「・・・・・困った、困ったアルヨ」

「そうだよなぁ、参っちまうよな~」




ため息交じりの商人の言葉に、冒険者も答える

二人が見つめる先には、ゴウゴウと荒々しい音を立てて流れる川が広がっていた。

川は、泥や流木が混じり、川岸を削り落とすような勢いで流れていた。

本来であれば、この川はとても澄んでおり、川幅や深さもわたれないほどではないものなのだ。

申し訳程度に、橋なんぞもかかっているはずだった。

だが、今二人の目の前に広がっているのは、本来の川より大幅に深く、広くなってしまった濁流があるだけだった。


そう、二人が向かいたい場所は、この川を越えた場所にあるのだ。




「何でアル、何で久しぶりの大口の取引で、こんな目に遭うアルヨ・・・・」


「俺だって、久しぶりの依頼だってのに・・・・・ついてねぇなぁ」




二人は、ガックリと肩を落として再びため息を吐いた。


商人は、ぼんやりと濁流を見つめつつ、隣で自分と同じように肩を落としている冒険者を見た。

彼は、かなり線の細い男で、背中にクロスボウと腰あたりに矢筒を下げていた。

どちらもかなり使い込まれており、商人の自分から見てかなりの年月を経ているのが分かった。


よく見ると、かなりくたびれた格好をしており、頬もこけ、顔色も少々悪い。

さっきの発言から、もしかするとここ数日まともな食事や睡眠をとっていないのかもしれない。

本来であれば、そんなことを気にする余裕も筋合いもないかもしれないのだが、私はこのとき少々妙な仲間意識があった。

たまたま同じ場所、同じ災難に遭って閉まって、こうして同じように落ち込んでいる

あまり褒められたような人間ではないのだが、私は持って来ている物資のほかに食料がいくらかあったのを思い出し、それを分けることにした。




「冒険者さん、あんたもしかしてまともに飯、食べて無いアルか?」


「ん~??、まあ、そうさなぁ・・・・・・最後に食ったのは五日くらい前だったかな?」


「・・・・なるほどネ。もし、よかったら、私の持ってる食料いるアルか?」


「ほ、本当かっ!?・・・・・だが、そりゃあんたの商売に使うもんじゃねぇのか?」


「違うネ、私の昼ご飯アルヨ。長旅になると思って多めに準備したアルヨ」


「おいおい、だったらなおさら貰えねぇよ。この先あんたが困るだろ?」


「また現地調達すればいいアル。これも何かの縁、せっかくだから一緒に食べるアル」


「・・・・・そうか、なら悪ぃけど貰うかな?」




冒険者の言葉に、満足げに頷いた私は、彼を荷台に呼び寄せ、二人仲良く幌の下に入ると自分の膝の上に昼ご飯を広げた。

中身は、なんてこと無いただのにぎりめしなのだが、冒険者はそれを見るなり生唾を飲み込んだ。

そんな様子に、少々おかしくなって私はクスリッと思わず笑ってしまった。




「さあさあ、遠慮無く食べてほしいアル」


「わ、悪いなっ!いただきますっ!!」




私がにぎりめしを差し出すと冒険者は両手でそれらをひっつかむと、むさぼるようにガブガブとかぶりつき始めた。

あまりの食いっぷりに少々驚いたが、その姿に自然と笑みがこぼれた。




「どうアルか?私自慢のにぎりめしアル・・・・うまいアルか?」


「むぐ、むぐぐっ!!、もんぐもも、むぐんっ!!!」


「あははっ、そんなに慌てなくていいネ、食べてからでいいアルヨ。」




私の言葉に、ただただ頷く冒険者

おいしそうに食べるその姿に、こちらも不思議と満たされた気持ちになった。

ひとしきり食べ終えると、冒険者は満足げに腹をさすりながら、ゲフッと息を吐いた。




「ふぅ~、いやー生き返ったッ!!!あんがとな商人の嬢ちゃん」


「困った時はお互い様ネ、気にすることないアルヨ

・・・・あと、嬢ちゃんじゃなくて、私には“ネネ” って立派な名前あるアルヨ?」


「おう、そっかそっか!!あんがとなネネッ!!」




ガッハッハと豪快な笑い声を上げながら、冒険者は私の名を呼んで再びお礼を言ってくれた。

それが、妙に照れくさくて私は顔をそっぽへ向けてしまった。

さっきまで陰鬱な気分だったが、彼のおかげで少しだけ前向きな気分になることが出来た。


その後も、しばらく二人並んで荷台の縁に腰掛け、濁流をぼんやりと眺めていると、不意に冒険者が私の肩をトントンとたたいた。




「ん?何アルか?」


「あー、何だ、その・・・俺は依頼主がこの先に居るんだがよ?

ネネは、どうしてあそこめざしてんだ?」




冒険者の質問に、少々顔をしかめてしまった

本来、こういう情報はむやみに教えたりすると後々面倒ごとになる可能性がある

だがまあ、ある程度この冒険者は信じることが出来ると私は思い、今回の取引についておおざっぱに話した。


すると、冒険者は少し眉をひそめて私を見てきた。




「・・・・・ネネ、まさかとは思うが、例の噂のこと知ってるよな?」


「当然ネ、伊達に商人やってないアルヨ。“川の悪魔”の事アルネ?」




川の悪魔


それは、この川に古くから噂されているものだ。

曰く、川の中に潜んでいる謎の生物らしく、時たまこの川を渡るものを、川の中に引きづり込んでしまうという噂だ。

その姿は色々あるが、一番有名なのが “大きな目と巨大な手・・・・・・・・・” というのがある。

なんでも、川に突然怪しく光るものを見つけ、それをのぞき込んでしまうとたちまち巨大な腕でつかまれ川の中に引きづり込まれてしまうと言うものだ。


正直、私はみじんも信じていないが冒険者はとてもまじめな顔で、私から視線を川に写し、にらみつけた




「実は、あながちその噂が馬鹿にならねぇみてぇでな・・・・・ここら近辺ではしょっちゅう目撃されててよ?つい最近も、俺が立ち寄った村で犠牲者が出てるんだとよ」




彼の発言で、私は思わずゾクッと嫌な感覚がした。

どうやら、冗談や嘘ではないようだ。


冒険者は、濁流から視線を外し、再びこちらを見るとニカッと無骨な笑みを浮かべた。




「まあ、ネネには飯を貰った恩があるッ!!

万が一、ここでそいつに襲われるような事があったら、俺が命に代えてでも逃がしてやるよ」




再びガハハと豪快に笑い始めた彼に、私はあきれてしまったが、不思議と彼の言葉で先ほど感じた嫌な感覚もきれいさっぱり無くなって居るのも確かだった。


どうやら、短時間で私は彼にかなりの信頼を置いてしまっているようだ。

私は思わずニヤケてしまった顔を引き締め、再び顔を上げた。




「頼もしいアルネ?なら、村に着くまでよろしくお願いするアル――――――よっ?」




私が冒険者にそう言いかけ、思わず言葉を失ってしまった。


なぜなら、私が顔を上げてチラリと濁流の方を見たとき、違和感に気がついてしまったのだ。

濁流の丁度反対の岸に、一本の黒い棒状のものがそびえ立っていたのだ。

相変わらず激しい流れの濁流の中で、唯一その黒い棒のみが、一切ながされることなくそびえ立っていたのだ。




「ん?どうかしたのか・・・ネネ?」


「ぼ、冒険者さん・・・・・なんか向こう岸に変なの――――――がっ」




そう言って、視線を冒険者の方へ向けて、私は完全に動きを止めてしまった。










―――――――なぜなら、冒険者すぐ後ろに
















不気味な目のある大腕・・・・・・・・・・” が彼を掴もうとしていた。















*****************






「・・・・・・ああ?どこだここ?」




ガタガタと揺れる地面に違和感を感じ、俺は目を覚ましてあたりを見回してみた。

一見してみると、どうやら馬車か何かの中の様子だが・・・・・

・・・・・ああ、いや、間違いない馬車の中だ


俺は、徐々に頭がはっきりしてきて、直前に何があったのかを思い出した。



俺たちは、セレドマの厚意により馬車と旅の物資を多く貰い、巫女のやつと感動の別れ(?)を済ませ他のだった。

その際、俺はメリアスに締め落とされたのだった




「・・・おっ、おっ、おっ!!」


「ん? “おっ” ???」




近くから突然聞こえてきた謎の声に、俺はそちらに顔を向けた

すると、そこにはワナワナと両手を震わせてこちらを見ているメリアスがいた。



・・・・・ああ、またか



確信にちかい嫌な予感がして、俺は一瞬で遠い目になった。

すると、案の定、突然身体に衝撃が走り、俺はその場に倒されてしまった。




「おーじーちゃーーーーーーーーんっ!!!!!」


「がぁーーーーーーっ!!!」




再び感じる身体へのギリギリとした痛みに、俺は叫び声を上げていた。

もちろん、俺の身体を締め上げて居るメリアスのせいである。

俺は、何とかメリアスを引きはがそうとするが、両手ごと身体にがっしりしがみつかれているせいで、一切逃げることが出来ない。


(こ、こいつっ!?・・・・また俺を気絶させる気かっ!?)


徐々に閉まっていく身体から、ミシミシと音が鳴っている

俺は、必死に声を上げ、身体をひねって脱出を試みるが、あまり効果があるようには思えなかった。




「め、メリアズッ・・・ぐ、ぐるじっ―――――」


「ごめんね、気絶させるまで抱きついてごめんね、おじちゃーーーーーーんっ!!!!」


「が、あぐっ・・・・かはっ!?・・・・はなっ、せっ、ぇ・・・・」


「おじちゃ・・・・うわああ!!、ごごご、ごめんっ!!!」




俺の声をやっと理解したのか、メリアスは慌てて俺の身体から手を離すと、スーッと痛みが引き、新鮮な空気が俺の肺を満たしてくれた。

俺は、ぜぇぜぇと肩で息をしながら、必死に深呼吸を繰り返し、額の汗をぬぐった。


あ、あせった・・・・・洒落にならねぇ




「あ、あの・・・・・本当にごめんね?」




目に見えてシュンとした様子で謝ってきたメリアスに、わずかばかりの殺意を感じつつ、俺は現在の状況を聞くことにした。


メリアスも、気を取り直したのかスラスラと話してくれた。




なんでも、俺が気絶してから数分後、メリアスと巫女は何とか俺を馬車の荷台に乗せ、無事に出発したそうだ。

道中、これといった問題も起こらず、魔物や野生動物に襲われるようなこともなかったそうだ。

どれくらい気絶していたのか聞くと、30分ほど倒れたままだったそうだ。

そこまで長い時間気を失っているわけではなさそうで、俺はひとまず安心した。




「なるほどな・・・・・・それで、今俺たちはどこに向かってんだ?」




すると、メリアスはポケットから小さく折りたたまれた地図を取り出し、さらに荷台に掛けてあった明かりを一つ手に取り、地図を照らしながらある一か所を指さした。




「今、大体この長い道の辺にいるんだけど・・・・・・ここにある “マイード村”ってところを目指しているんだ」




そう言って、指をスーッと地図の上で滑らせ、この世界の文字が書かれている箇所を指さした。

どうやら、今さしているのが “マイード村” というところらしい。

俺は、まじまじと地図を見つめながら道と村を交互に見た。




「・・・・・・なあ、この長ぇのはなんだ?」




そう言って、俺は地図のちょうど村と俺たちが通っている道の中間

そこをきれいに分担するように引かれた線を指した。

すると、メリアスは「ええとね」と言いながら顎に指をあてた。




「確かそれは “清流の川” って呼ばれてる川だね。」




そう言って、メリアスは川の説明を始めた。


なんでも、清流の川というのはその名の通り、とても穏やかな流れの川であるそうだ。

流れている水もきれいに住んでおり、川幅も水深もそこまでではないそうだ。

長さだけは、かなりあるそうで馬や商人はあまりいい印象を持っていたそうだが、近隣の村々の奴らが小さな橋を架け、それのおかげで不満もなくなったそうだ。




「なるほどな・・・・・ってことは、特に問題なく川も越えられるってことか」


「うん、たぶん大丈夫だと思うよ・・・・・それに、川を渡る前にも小さな村があるから、そこで少し休んでから川を越えようと思ってたんだ。

・・・・ほら、セレインちゃんも疲れてるだろうし?」




そう言って、メリアスは馬車を操っている巫女のほうを見た。

俺もそちらに視線を向けると、そこには確かに巫女の後ろ姿が見えた。


そういえば、巫女が操ってるんだったなこれ・・・・




「それに、補給できるときにいろいろ集めたり買ったりしないとね・・・・・お金ないけどっ!」




妙なテンションでそういったメリアスに、俺はジトッとした目を向けて外へと視線を移した。

外は、すっかり真っ暗になっており、少し視線を上へずらすときれいな星が瞬いていた。



次の村までどれだけかかるか、俺にはわからないが・・・・

この星空に、メリアスも適度にしゃべりかけてくる。


そう退屈しないだろう・・・・


俺は、それからもベラベラとしゃべるメリアスの話を聞き流しつつ、きれいな星空をみつつ、村につくのを待ったのだった。







******************







「皆さん、村が見えてきました」


「おっ、着いたのか」




巫女の声に、俺は荷台から顔を出し、前方を確認してみた

すると、そこには小さな柵で囲われた村が、ぼんやりとした明かりを発しているのを確かに見た。

どうやら村のあちこちで大きめの明かりがともっているようだ。


村の入り口に近づくと、村人らしき人物が松明を持って立っており、こちらに気が付くと駆け寄ってきた。

そして、巫女と一言、二言しゃべると、無事に村の中に入ることができた。


その後、無事に寝床も確保でき、出発は周囲が明るくなるのを待つことにした。

巫女曰く、夜の時間帯でこれ以上動き回るのは危険だということだ

なので、せっかくだから村人に話を聞きつつ日の出を待とうということになったのだ。



っというわけで、俺は一人で村の中をブラブラしてたわけだが・・・・・




「いやはや、まさかこんな夜更けに旅の方々か来るとは、なかなか命知らずだのう・・・・フォフォフォ」


「・・・・ああ」


「しかもしかも、まだまだお若い御仁のようじゃ・・・・お連れの方々もお美しい娘っ子ばかりでうらやましい限りじゃ・・・・フォフォフォ」


「・・・・そうか」


「旅の方は、見慣れぬ格好をしておったのでな、少々警戒してしまったがのう・・・・フォフォフォ」


「・・・・ああ」






俺は、変な爺に絡まれていた。


適当に歩いていたら、突然この爺さんがよたよたと杖を突いて現れ、有無を言わさず近くの家に招かれてしまった。

しかも、詳しい話を聞きたいとか言われて食事と酒を進められ、爺さんもさっきからグビグビ酒を飲んでいる。

ちなみに、俺は酒が嫌いだから一滴も飲んでいない。


最初は、逃げてしまおうかとも思ったが、爺がまるで「逃がすか」と言わんばかりのタイミングで酒を勧めてきたり、話題をコロリッと変えたりとなかなか逃げることができなかった。

それに、話の内容もくだらないことばかりだった。



やれ、「若い時はわしも~・・・・」だとか

やれ、「お連れの方は美しい~・・・・」だとか


そんな話ばかりだった。



俺はいい加減相槌を打つのも面倒くさくなってきた頃、爺がとんでもないことをポロリと溢した。




「しかし、旅のお方。何故このような辺鄙な村へ?

・・・・もし、この先の村へ向かうのであれば、ほぼ不可能なのじゃがのう」


「そうか・・・・・・ん?、なんだと?」




つい適当に相槌を打ってしまったが、今言ったことは聞き捨てならなかった。


この先に向かうのは無理?

どういうことだ?


俺が詳しく話を聞かせてくれるよう言うと、爺は立派な顎髭を撫でながら話し始めた。




「つい数日前のことでのう・・・・この先の川を渡るために商人が訪れてのう?この先にある村を目指しているそうだったんじゃ。

・・・そういえばその商人がまた色っぽくてのう?、独特なしゃべりのめんこい娘っ子で――――」


「おい、話が脱線してるぞ?」


「フォ?、ああすまんすまん。年を取ると話がよくすり替わってしまうのう・・・・フォフォフォ」


「いいから続きを話せ・・・・・その商人はどうしたんだ?」


「慌てなさんな・・・・・その商人はのう、かなり規模の大きな馬車を引いていての?この先の川を渡れるか不安がっていたのじゃ。だがの?、川には橋が架かっておるし、 “川の悪魔”の うわさも最近めっきり減ってきていたからのう・・・・・・心配いらんとわしはイケてる笑顔で――――――」


「待て待て、知らん単語が出てきたぞ?

・・・ “川の悪魔” って何だ?」




また脱線しかけた話を元に戻そうと、俺がそういうと、爺は一瞬で表情を曇らせ、静かに手元に置かれている酒をあおった。

そして、一つ息を吐きだすと語りだした。




「川の悪魔はの?

この近隣の村人ならだれもが知っておるもんじゃ。

あの川には、ある噂があるのじゃが

・・・・・・わしも確かなことはわからんのじゃが、川には正体不明の人を襲うバケモノが住んでおるんじゃ。

姿かたちは、様々に伝わっておるが、必ず共通しているのが

“不気味な目” と “大きな腕”

という特徴じゃ。

そいつは、川から突然現れ、問答無用で人を川の中へ引きずり込んでしまうんじゃよ。


もちろん、そやつは行方不明扱いで、未だに一人も見つかっておらん


被害者もかなりでておるんでのう、一度討伐を依頼したんじゃ

・・・じゃが、誰もかえって来んかった。

それからも、何度か依頼したんじゃが、結果は同じじゃった

被害者も増え、討伐もかなわん・・・・


・・・・・わしの孫も、何を思ったのか悪魔を退治すると息巻いて、結局帰ってきておらん」




そう言って、爺は一度黙り込むとまた酒をあおった。

そして、寂しそうな顔で窓の外を見つめ、ハァ~ッ と息を吐いた。




「そうして、村の者は皆川に近づかなくなり、川に近づくものへも忠告をするようになったのじゃ

“この先にある川は渡れん、おとなしく帰れ”・・・・とな」




そういうと、突然爺は杖を手に持って立ち上がると、つかつかとこちらに近づいてきた。

そして、俺の肩に手を置いてまっすぐに俺を見つめてきた。




「これ以上、あのバケモノの餌食になる人間は見たくないんじゃ

・・・・・すまんが、このまま川へ向かわんでもらいたいんじゃ。

旅のお方、どうか・・・・・どうかっ・・・・」




爺の手がワナワナと震え、それでもがっしりと俺の肩をつかんでおり、俺を見据える目にも強い意志を感じた。


どうやら、この爺・・・・・・・最初からそれが目的だったようだ。

俺は、まっすぐな瞳を見つめ返し、ソッと肩にある手をどけた。




「・・・・・・旅のお方」


「悪いな爺さん。俺の一存じゃ決めらんねぇし、そもそもそんな話・・・・・信じられねぇな」


「・・・・・・そうか」




すると、爺はひげを数度撫でつけ、またヨロヨロと元の場所へ戻って腰を下ろした。




「・・・・・・ならば、せめて今日はこの村でゆっくり休んで行って欲しい。

宿がないのであれば、わしが用意させよう」


「いや、気持ちだけでいい・・・・・宿はもうとってるしな。

むしろ、飯が食えてなかなかいい情報ももらえて、これ以上はなんもいらねぇよ・・・・村長さんよ?」


「・・・・・・そうか、お見通しじゃったか」




爺はそういうと、再びフォフォフォと笑って酒をあおると、そのまま開放してもらえた。

ああ、もちろん飯だけはちゃんと完食した。


その時もまた、爺は嬉しそうにフォフォフォと笑っていた。







それから俺は、宿に戻って来たわけだが、今更ながら気が付いたことがあった。

そう、それは―――――――――――





「・・・・・ここの宿代、どうやって払うんだ??」





俺は、早くも村長の爺の厚意を断ったことに後悔することになったのだった。














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