第十五話 おじちゃん、処罰される
※誤字、脱字、打ち間違い等多々あるかもしれませんが、ご了承ください
セレインちゃんが極太の光を放ってから、私たちは全員で顔をつきあわせていた。
私の左右にセレインちゃんとメリアスが来ましたが、もちろん、食べたりしませんよ???
ええ、食べたりしな・・・・しません・・・・うーん、ちょっとかじるくらいなら??
『おい馬鹿やめろ』
(あ~ん、どうしていつも私の思考が読めるんですかねぇ・・・・・聞こえてませんよねぇ?)
『・・・・知るか、いいから話聞いてろ』
失敬なっ!!!!
私はオオジ君に文句を言いつつ、しっかり周りの話にも耳を傾けていますぅ!!!
え~っと、大体まとめると
「あの個体、妙に賢かった☆ゾイッ☆」←セレドマ
「事態はかなり深刻だよぅ~、何とかしてよぉ~セレえも~ん」←アル
「拙者、陛下ノタメニ粉骨砕身スルデゴザルゥッ!!!」←アイン
「アイン馬鹿やん。・・・・もう面倒だから、勇者に全部押しつけね?(笑)」←ミズチ
「そ、そんなっ!!!いくら何でも私たちだけでは無理ですっ!!!」←セレインちゃーん///
「僕も居るから大丈夫!!一緒に頑張ろう!!!!」←クソガ・・・・メリアス
「そんなことより、私暗殺目的でいろいろやったけど、処分どうします?」←私
「「「・・・・・・」」」←私以外の全員 (今ここ!!)
どうですっ!!!!
私の完璧なこれまでの話のあらすじは!!!!!
『・・・・・・・・・』
(あの、あなたまで沈黙しないでいただけますか?)
冷たい視線を送っている(ような気がする)オオジ君を放っておいて、私は再び現実の話し合いに意識を集中させた。
どうやら、アルがセレインちゃんやセレドマ達といろいろ着地点を模索しているようだった。
アインとミズチはただただ黙って事の顛末を見守る様子で、すでに二人だけで喧嘩漫才を繰り広げていた。
あらら~、大変そうですね
こんなに皆さんを困らせて、いったい誰のせいでこんな――――
『お前だよ、お前』
(いや、だから何で私の考えてる事が分かるんですか・・・・)
『教えたら絶対マネするだろ・・・・絶対教えね』
(えー、不公平ですよ。私だってあなたのどうでもいい思考を読んでからかってみたいのにぃっ!!)
『だから教えねぇんだよクソアマ・・・・いいから黙って事の顛末見守っとけ』
(ぶーぶー、このケチ!!!・・・・・そういえば、どうしてあなたはまだ出てこないんですか?
私、さっきから限界突破しすぎてもう倒れそうなんですけど・・・)
『・・・・・メリアス面倒くさい』
(あー!!、さてはしばらく中で休む気ですね!!!させませんよ、そんなこと!!!)
『あーあーあー!!!!、こちとらこっちに来てからまだ二日も経ってねーのに色々起こりまくってんだよ!!!!少しは寝かせろ!!』
(うわー、またそうやって適当に逃げようとするー)
『う、うるせぇ!!!とりあえず、状況だけは見守ってやるからしばらくお前が表に出とけ!!!』
(え~、もう眠いんですよー・・・三徹した後みたいな状態なんですよ?)
『あー分かった分かった、そのどうでもいい口閉じて、さっさと反応してやれ・・・メリアスが困ってるぞ?』
(はいっ?)
私は、オオジ君に言われて現実に意識を戻してみると、さっきまで話し合いに参加していたはずのメリアスが、私の袖を引っ張って困った表情を浮かべていた。
・・・うーん、やっぱり不気味ですね
こんなに表情豊かなくせに、何の感情の揺れもない
「さっきからボーッとしてるけど大丈夫?体調悪いなら、部屋で休んでても・・・・」
「いえいえ大丈夫ですぅ・・・・ちょっとオオジ君と話し合いをしてたんですぅ」
「えっ?!、おじちゃん!?おじちゃんと話せるの!?・・・・ちょ、ちょっと僕もおじちゃんに大切な話があるんだけど――――――」
「・・・・・不気味ですね」
本当に、なぜ?
こんなにオオジ君を求めてる様子なのに、彼女から一切の感情が感じ取れない・・・・
おかしい
理解が出来ない
・・・・キモチガワルイ
「・・・・・そこまで露骨に嫌われちゃったら、僕だって傷つくんだよ??」
「っっ!?」
「あー、待って待って。おじちゃんには伝えてあるんだけど、僕ってある程度人の考えてる事が読めるんだ。だから、君がさっきから僕の感情が読み取れなくて気味悪がってるのは知ってる・・・・」
「・・・・そうなんですぅ?」
私は、冷や汗を掻きながらわざとらしくそう首をかしげて見せた。
いやいや、これは本格的に気持ち悪いですね
人の思考を読めて、他人には読ませない?
私が言えたことじゃないんですけど、とんでもないのぞき魔じゃないですか
すると、メリアスはニッコリと笑顔を浮かべた。
「うん、そうだよ。さっきから、いろんな人の感情を見て、舌なめずりしてるでしょ?・・・・それ、感覚が鋭い人だったらかなり不快感をあおるから、控えた方がいいよ?
・・・ああ、それとね。
僕から感情が読み取れないのは、僕が意識して垂れ流してないからだよ
ほら、僕って曲がりなりにも神様だからさ、感情とかでも干渉されるとちょっと不都合があるんだよね~
まあ、仮に干渉されても“量”や“質”が桁違いだから、たぶん処理しきれないよ?
安心してよ、間違っても君に敵対したりする気はこれっぽっちもないんだからさ」
あっけらかんとした様子でそう告げてきたメリアス
私は、オオジ君の記憶を部分的に見ていたから、確かにこいつが神だと知っていた。
だが、まさかここまで露骨に神様であるとアピールされるとは・・・・・
(これはこれは・・・・・かなりやっかいですねぇ)
私は未だにニッコリとした表情でこちらを見ているメリアスに、引きつった笑みを返しつつそう思った。
メリアスは、そんな私の様子を見て嬉しそうにこちらへすり寄ってきた。
思わず身を引きそうになったが、その前に彼女が私のすぐ隣に張り付いてきた。
何をするのかと身構えたが、彼女がしてきた事にあきれそうになった。
「だ・か・ら、ちょっとでいいからおじちゃんと話させてぇぇぇ!!!」
「うわっ!?、み、耳が」
「おーねーがーいー!!!」
「うううっ、わ、わかりました。わかりましたから耳元で叫ばないでほしいですぅ!!」
耳元で叫ばれ、私は思わず了承してしまった
すると、メリアスは目をキラキラと煌めかせ、まるで花が咲いたような笑顔を浮かべた。
うう、本当に何なんだこの子は
正直、私の手には負えないんですが・・・・
とりあえず、ここはもうオオジ君に身体を返した方がいいだろう
私も活動限界をとっくに超えているんですし、オオジ君もそろそろ自分の身体を帰してほしいだろう
『いや、待てチアキ。俺は全然気にしないから、そのまま起きてていいぞ?』
(えっ?!、あっ、いや、えっと・・・・私ももう眠いですし、十分楽しんだので・・・)
『久しぶりの外だろ?もっと自由にしててもいいんだぞ?』
(いえいえ、もう十分自由にしたので、ゆっくり寝ようかと)
『そ、そんなこというなよー』
(あはは、優しさだけで十分です・・・・・それでは、こうた~いっ!!!)
『あっ!!、おいコラまっ――――――』
オオジ君の言葉を無視して、半強制的に私は再び彼の中で眠ることにした。
ああ、しかし、少し残念でしたねぇ
いくら何でも、もう少し、人の、感情、を、食べて、おけ、ば―――――――――――――
――――――――――ああっ、クソがっ!!!!
本当に寝やがった!!!!
このタイミングで俺が出てきても仕方ねぇだろが!!!!
しかも、いきなりこんなとこで入れ替わっちまったら
俺は、おそるおそるすぐ隣を見ると、先ほどまで嬉しそうにしていたメリアスが目をまん丸にして固まっていた。
しかも、いつの間にかほかの連中もこっち見てるじゃねぇか!!!
本当になんてタイミングだコラッ!!!
「こ、これは!?・・・・おじちゃんが、おじちゃんで、おじちゃんだーーーっ!!!!」
「訳わかんねぇ事言うんじゃねぇ!!!よるなクソガキ!!!!」
「わー、間違いなくおじちゃんだぁ・・・・ちょっとヘコみそうだよ」
「知るかっ!!」
「・・・・・・これは、いったいどういうことだ??」
「ああっ?」
困惑したような声が聞こえ、俺は顔をしかめながらそちらに顔を向けた。
すると、アルやこの場にいた全員が俺のことを見ていた。
・・・・・だぁーーーー!!!
これだから交代したくなかったんだよ!!
説明しづれぇし、納得もさせづれぇんだよあいつの件は!!!
『大変そうですね、まったく一体誰のせいでこんな―――』
(お前のせいだよこのクソ野郎ッ!!!)
頭の中に腹の立つ発言をしたチアキに、俺は悪態をついた。
そして、どうやってこいつについての説明をしようか考えた。
すると、突然メリアスが俺から離れ、俺の前に進み出てきた。
何をするのか見守っている、意味ありげにウインクして俺に背を向けた。
・・・・嫌な予感しかしない。
「えーっと、僕から説明するね。おじちゃんはね、昔ある事があって別の性別の人と入れ替わるんだよね。性格もその人のものにすり替わるから、混乱するよね?
なんでも、昔おじちゃんと交友があった人らしいけど、詳しいことは聞いてないんだ。
なにせ、細かい理由を聞こうとするとおじちゃんすごく嫌がるんだよね。
まあ、さっきの女の人・・・チアキちゃんは、結構突飛なことをするけど、おおむね害はないから気にしないであげてね?」
スラスラと説明を始めたメリアスに、この場にいる全員が耳を傾け、一様に首を傾げたり不満そうな顔を浮かべたりと、全員が様々な反応を示していた。
もちろん、この全員というのには俺も入っている。
なぜなら―――――メリアスに “チアキについて話をしたことがない” からだ。
メリアスが言ったことは、予測ができる程度なのだが、限りなく真実に近いことを言い当てていた。
確かに、普通の “二重人格” で片づけてしまうには、少々無理がある現象ではあるだろう
性格どころか、性別から体つきまでまるっきり変わってしまうのだからな
仮に、この世界に“二重人格”という存在がなければ、誤魔化せたかもしれないが、全員の反応を確認すると、どうやらそれはなさそうだ。
なぜなら、先ほどからアルたちが小声で
「おおじちあきは、二重人格だったのか?・・・・いやしかし、完璧に性別が変わっていたぞ??」
「アチラノ世界デハ、性別ゴト変ワッテシマウノデハ???」
「アイン、さすがにそれはないと思うけどなぁ(困惑)」
と、まあ、いい感じに困惑している。
ミズチに関しては、“(笑)”が“(困惑)” になっている。
・・・・・・わかりやすい奴だな、おい
俺が呆れながら三人の様子を見ていると、突然メリアスがビシッと空を指さした。
「この話はこれ以上解決もしないし理解もできない!!!
だ・か・ら、いい加減話まとめてくれないかな?、君」
「・・・・・そうだな。納得はしていないが、話を進めねばな」
空を指していた手を振り下ろし、ズビシッとアルを指したメリアス
それに、かなり不服そうな顔をしつつも、このままではいけないと思ったのか、渋々アルもうなずいた。
そして、ある程度話はまとまっていたのか、こちらに一歩進み出てきたアルは、威厳ある声で告げてきた。
「今回の“おおじ ちあき”の件、並びに、先の魔物の件、結界の件の処罰と手柄を総じて吟味し、あまりにも手柄を問題行動によって打ち消し、むしろ処罰のほうが重くなってしまっている。
よって、アル・セフィール・バルカ・ヴェコ・ガリセウス三世の名において、ここに宣言する。
おおじちあき
おまえに
“称号のはく奪” および “魔物のせん滅”、加えて “国外追放” の処罰を下す。」
アルが言い終わるのと同時に、アインとミズチが同時に剣を抜き、その切っ先を天に向かってささげた。
そして、互いの剣をほぼ同時に振り下ろし、切っ先を俺のほうへ向けてきた。
俺は少し警戒していたが、二人は剣を向けるだけで特に動く様子はない。
・・・なんだこれ?
意味が分からず首をかしげていると、突然巫女の奴が慌てた様子でアルに詰め寄っていた。
「お、お待ちください!!!それはいくら何でも重すぎる罰ではありませんか!?」
「何を言っている、巫女・・・・いや、セレイン。この罰は、お前にも適応しているぞ」
「・・・・・・・・・・・えっ?」
「改めて、アル・セフィール・バルカ・ヴェコ・ガリセウス三世の名において宣言する
セレイン=ティエード
お前に
“おおじ ちあき と同じ処罰” を下す」
「・・・・・・・・・はぇ?」
アルの言葉に、完全に呆けてしまった巫女は、目を真ん丸にさせて口をあんぐり開けて間抜けな声を上げていた。
そのあまりに間抜けな顔と声に、思わず吹き出しそうになった
「失礼ですが、ガリセウス様」
「お、お父さ・・・・・・・セレドマ様ッ!!」
呆けていた巫女の前に立ち、アルに正面から相対したのは、巫女の父親であるセレドマだった。
セレドマの行動に、完全に役立たずだった巫女が正気に戻った。
「なんだセレドマ。いくらお前でも、処罰を覆すことはしないぞ?」
どうやら、アルはセレドマが巫女のことをかばうと思っているようだ。
まあ、この親ばかならそれくらいするだろうな
巫女の奴も、どこか不安そうにしつつも、少しだけ安心した顔をしてるしな。
セレドマは、チラリと後ろにいる巫女を見て、すぐに正面を見据え、アルに進言した。
「そのようなことはしません。我が娘ならば、かならず処罰を真摯に受け止め、処罰を全うするでしょう」
「・・・・・・・ふぇっ?」
「私は、その処罰を執行するのを、間を開けず直ちに執行すべきだと進言するつもりでした。」
「・・・・・・・お、お父さん?」
深々と頭を下げたセレドマの背を見つめながら、巫女が困惑した様子で瞳を揺らしていた。
お~、やるなおっさん
親ばかだと思ってたが、どうやらけじめはしっかりつけさせるようだな。
すると、アルはしばらく無表情のままセレドマを見つめ、そして、重苦しい雰囲気で告げた。
「・・・・わかった。お前の進言を受け、明日日の出とともに執行予定の処罰を、今この場で執行しよう。・・・・・言っておくが、拒否権はないぞ?“おおじ ちあき”、“セレイン=ティエード”」
「へーへー、好きにしろ」
「・・・・・・・・わかりました」
アルの厳格な態度に、俺は適当に返事を返し、巫女は目に見えてシュンッとした様子でうなずいた。
それを見て、アルはチラリとセレドマのほうに視線を送ると、セレドマは軽く頭を下げ、こちらに近づいてきた。
「これより、お前たちを町の外へ連行する。・・・・妙な真似はするなよ?」
俺たちを睨み付けながらそういい、俺は適当に手を上げて返事をした。
一方巫女は、不安そうな顔で俺を見てから父親であるセレドマを見た。
「・・・・・・」
「・・・どうした。何か言いたいことでもあるのか?」
一切感情を表していない顔で、セレドマは巫女にそう問うと、静かに自らの剣の鞘に手を持って行った。
その様子に、巫女は短く息をのみ、そして、一気に悲しそうな顔になった。
「いいえ・・・・・なにも、ありません」
何かを押し殺したような声で、巫女はそう答えると、踵を返し、俺の隣によって来た。
「よし、俺が先行してお前らを連れていく。・・・・逃げられると思うなよ?」
そう言って、セレドマはスタスタと俺たちの前まで進み出ると、ついて来いと言わんばかりに顎で進行方向を指した。
少しむかつく態度だが、逆らう理由もないので黙ってついて行くことにした。
巫女やメリアスも、俺の後をついてくるような形で歩き始めた。
こうして、俺たちはセレドマに連行されるという形で城を出た。
そしてそのまま町の中を歩き、しばらく歩くと大きな壁が見えてきた。
橋は、軽く50メートルはあるのではないかと思う。
そんな壁の正面に、アーチ状の橋が見えてきた。
おそらく、この橋がこの町と外をつないでいるのだろう。
橋に近づくと、数人の兵士がガシャガシャと鎧をならしながら掛けてきて、目の前にきれいに整列した。
何事かと思っていると、整列している兵士の中から先頭に居た一人が一歩前に出てきた。
そして、こちらが立ち止まるのを待ってから、出てきた一人が気をつけをして、声を張り上げた。
「静騎士殿に、敬礼ッッ!!」
かけ声とともに、整列していた全員が一斉に敬礼をした。
すると、セレドマもそれに答えるように敬礼をして、すぐに元の体制に戻った。
それに反応して、目の前の兵士達も一斉に敬礼をやめ、先頭に居たものがさらに一歩前に出てきた。
「お疲れ様であります、静騎士長殿!!!」
「ああ、ご苦労・・・・・上から伝令は聞いているな?」
「ハッ!!、滞りなくッ!!・・・・・しかし、なぜこのような処置に――――」
「――――私は、いつ発言することを許したんだ?」
前に出てきた兵士の言葉を、セレドマはそう言って遮ると、兵士は一瞬にして顔を真っ青にさせ、素早く口を両手で押さえ、すぐさま気をつけの姿勢をとった。
「も、申し訳ありませんッ!!――――お、おいっ!!例のものを早く持ってこい!!!」
「「ハッ!!」」
焦った様子で檄を飛ばした兵士に、後ろに整列している兵士の中から二人が返事をして、素早く列から離れ、どこかへ走り去ってしまった。
その様子を見たセレドマは、こちらを振り返った。
もちろん、無表情のままだ。
「お前達には、これからこの外へ出てもらう・・・・・橋の向こうまで私はついて行くが、それ以上はお前達だけだ。・・・・・分かっていると思うが、お前達はこの国に戻ることはもはや出来ない。せいぜい、そのあたりで野垂れ死んでしまわないようにな・・・・・余計な仕事が増えてしまうからな」
セレドマはそう言うと、両手を組んで鼻を鳴らした。
その様子に、巫女はうつむいたまましきりに震えていた。
わずかに鼻をすする音が聞こえてきていたので、泣いているのだろう。
メリアスは、さっきから巫女の頭を撫でたり、優しく語りかけたりと必死に慰めようとしていた。
・・・・俺か?
あー、俺は・・・・あれだな?
セレドマの胡散臭い演技につきあってやってるだけだ。
「「た、ただいまお持ちしました!!」」
「よしっ・・・・静騎士殿、念のためこちらで間違いが無いか、確認していただいてもよろしいでしょうか?」
「ああ」
二人の兵士が戻ってきて、例のものってやつが姿を現したのだが・・・・
これは、なんというか・・・・
・・・・・・馬車だよな?
しかも、荷台に大量の物資が載ってる・・・・
俺は、そのあまりに立派な馬車と荷台の中身を見て、少々顔が引きつってしまった。
すると、セレドマは馬車に近づき、馬を撫でたり、荷台に乗せてある荷物を見たりと数分間じっくりと状態を確認していた。
そして、満足したのか小さく「よし」とつぶやくと、こちらを振り返った。
すると、いつの間にか俺の後ろに居たはずの巫女が俺より前に居た。
「・・・ふぅ・・・ぐぅっ・・・お、どうぅ、ざまぁあ~~~」
「お前達には、これに乗って早々にこの国から出てもらう。
セレイン=ティエードが馬の扱いに長けているはずだ、小さな頃から私がたたき込んだんだからな。
・・・・といっても、上達がはやかったからな、私が直接指導しなくても、きっとすばらしい技術を会得していただろうな?」
「うぅっ・・・・・ううっ・・・・」
「水や食料も、おおよそ5日は持つように乗せてある・・・・・それまでには、どこかの村か町にたどり着けるはずだ。
・・・・あまり食べ過ぎないようにしろ、節約すれば、さらに長持ちする。それも教えていたな?」
「ううっ、ふぐぅっ・・・・うっ・・!!」
「地図や金銭は持たせられなかった・・・・それらは自分たちで何とかしろ、それくらい出来ないと今後お前達だけで旅をさせるのは心許ないからな。
・・・・まあ、セレインは昔からしっかりした子だ。・・・おそらく、大丈夫だろう」
「ううっ・・・・お、とう、さん・・・・」
「・・・・・・セレイン
小さな時から、城やこの国の中でしか生きられなかったお前だが・・・
お前を縛るものは、今日本日このときをもって無くなったんだ
お前は、今日から・・・自由だ。
今後は、私が手助けしてやれない。もしかすると、お前と敵対してしまうかもしれない。
お前だけじゃ、どうしようもないことや、苦しいことがたくさん待っているかもしれない。
そんなとき、私は、お前のそばで支えられない・・・何の力にもなれない。
こんな、不甲斐なく無力な父親を・・・・・どうか、許してくれ。
だが、だがなっ?・・・・・私は、私はいつまでも――――――」
セレドマの言葉は、巫女の体当たりによって中断されてしまった。
巫女は、大粒の涙を流しながら、ギュッとセレドマの腰に抱きついて泣いていた。
セレドマも、驚いたのか無表情だった顔には、わずかだが困惑が浮かんでいた。
だが、すぐにため息とともに優しい表情になった。
そして、抱きついてきている巫女の頭にそっと手を乗せた。
「いつまでも――――――お前の事を、愛しているぞ」
その言葉を最後に、セレドマは喋らなくなった。
代わりに、セレドマは涙を流している巫女をしっかりと抱きしめ、優しく、ただ優しく背中を撫でていた。
ああ、感動的だな
こう言うのって、ほんとに涙が出てくるよな
・・・・けどな?
「うぐうっ、おう、おうぅぅ・・!!」
「ズズッ!!、おおおーーーーー!!!」
「おれ、じごどおわっだら、親父にでがみがぐぅ~・・・・!!!」
「ずずずっ、ずずっ、うおおおおおっ!!!」
etc...
ここに居る奴ら全員、何で泣いてんだよッ!!!
お前ら整列したままオイオイ泣いてんじゃねぇよッ!!
台無しだよ!!!
お前らの汚ぇ泣きっ面のせいで、俺の感動は吹っ飛んじまったよっ!!!
てか、おい!!
前に出てきた兵士、てめぇはてめぇで、何で俺たちに敬礼してんだッ!!!!
お前が催促しねぇと、これいつまで経っても出発しねぇぞ!!!
セレドマ達より、盛大に泣き叫んでいる兵士達
これは、もうあいつに頼るしかない・・・
俺は、わずかな希望にかけ、ゆっくりと後ろに居るであろう人物に視線を向けた。
そして―――――後悔した。
「うわぁあぁあああぁぁぁああんッ!!!
お"ーじーぢゃ"ーーーーーーーん"っ"っ"!!!!」
「だぁあああぁぁああ!!!やっぱりお前もかぁああぁぁあ!!!」
感情の起伏が少ないこいつならと、メリアスを頼った俺が馬鹿だった
メリアスは、涙と鼻水でデロンデロンになった顔で、抱きついてきたのだ。
しかも、なかなか力が強い―――――いでででででっ!!!!
「お、おい、いででででっ!!!ばかっ、はなっ―――――!!!」
「うわああああああああああああああああんッ!!!」
「ま、待てっ!!、は、肺がっ!!!、はなっ、ほんとに苦しッ――――」
「うわあああああああああああああああああああああああああああんっ!!!」
「がっ!!、かはっ!!?、・・・・くそ、が・・・・・」
ギリギリとメリアスに締め上げられた俺は、抵抗するまもなく、息が完全に出来なくなり、そのまま意識が真っ暗な闇の中へと落ちていったのだった。