第十三話 おじちゃん、お姉さんに任せる
今回は、ちょっと長いのでいくつかに分けて投稿しようと思います
『人任せ』
それは、自分のやるべきことを全くせず、その他の人間にすべてやらせること
面倒くさいから
できるはずがないから
そもそも、自分が関わるとろくなことがないから・・・・・・
そんな、マイナス方向の自分勝手な思考によって、人は物事を他人に任せきりになることがある
大概、人間というものは誰かがやってくれるのならば、それに甘んじて自分自身は何もしないのだ。
なのに、自分の評価を少しでも上げるため、少しでも甘い蜜を吸うため
あるいは、ただ単に気に入らなかったからという理由で・・・・・・
人は、簡単に人を傷つけるのだ
人一倍がんばっている人間に対し、「仕事が遅い」「要領が悪い」「自分が思っていたのと違う」「勝手なことをするな」・・・・・・・
自分は何もしていないのに
手や頭ではなく、口だけは、頼んでもいないのによく回るのだ。
思いやりや、アドバイスより先に
真っ先に悪意が口からだらしなくこぼれてしまうのだ。
自分の想像と違うから
そいつより手早く、効率よく、上手にできるから
ついつい文句が口からこぼれ出すのだ。
少なくとも、私の知っている人間というのは、そういう風に振る舞っている。
だが、果たしてそれは悪いことなのだろうか???
できてないから、自分も手伝う
やる気はないが、口だけでも出して少しでも力になろうとする
見方をほんの少しでも変えれば、とらえ方も変わってくる。
そんなことより、もっと悪意に満ちている行為を、私は知っている
“相手を認知している” ぶん、まだまだ、良心的ではないのだろうか???
私は、そう思えてしまって仕方ない・・・・・・・・・
************
え~っと、少々状況を整理しましょうか?
私が目を覚ますと、見知らぬ部屋に居て・・・・・・・んん~、すでにちょっと許容できませんね
まあ、ひとまずそれはおいといて。
目の前にいる少女たち
向かって右側には、見慣れない格好の小さくて可愛らしい女の子
白を基調とした着物のような服に、なんの印か分からないけど、可愛い模様のチョッキ?を羽織っている。
下は、真っ赤な袴かな?
少しダボッとしているが、彼女が着ることでその可愛らしさがいっそう際立っていた。
ふふふっ、本当に美味しそうねぇ
・・・あら、いけないいけない
彼女―――――――セレインって言ってたかしら?
おおじ君の残滓によれば、それで名前合ってるはずよね?
まあ、彼は巫女って呼んでたみたいだけど、私は名前で呼ぼうかしら、その方が分かりやすいでしょうし・・・
思考がそれましたね?
とにかく、その少女は、私をポカンとした顔で見つめ、ただただ固まっていた。
ふふふ、やっぱりかわいいわね
後でちょっとつまんじゃおうかしら?
っとと、またずれましたわね?
とにかく、その子はただ見てるだけですね
少々引っ掛かるのが、もう一人の方
どこかで見覚えのある、子供用の作業服を着ている。
彼女の身体に対して、服のサイズが明らかに小さく、胸元や両手・両足の丈が全く足りておらず、その発育の大変よろしい身体が余計に強調されていた。
ふふ、ちょっと惜しいけど、全然範囲内ね
ふわふわなのもいいわねぇ
っっっととと、もう!
今そんなことを考えてる場合じゃないでしょ私!!!
そんなことより、この子の反応よね、問題は・・・
セレインちゃん同様、私のことを見ているのだけれど、少々趣が異なっているわね
彼女は、驚いて固まっているというより、何かを探ろうとして私のことを観察している・・・って言えばいいのかしら?
なんだか、ネットリとした視線だから気持ち悪いんだけど、そこはまあ、おおめに見てもいいかしらね?
さてさて、この子の名前だけど、どうやらそうとうおおじ君に関わってるみたいね?
メリアス、クソガキ、変人、神、変態・・・・・・
少し覗いただけでも、これだけの名前の候補が出てくるなんて
今までになかったわね?
もしかして、おおじ君も無意識に気になってる子なのかしらね?
ふふふ、散々女は嫌いだっ!!って言ってた彼も所詮は男なのね?
それにしても、本当に久しぶりねぇ
彼から聞いた話だと、森の中に住んでるって聞いたけど、どう見ても森の中って感じじゃないわよね?
何処なのかしら????
「え~っと、あなたはおじちゃん・・・・でいいのかな?」
「ちょっとぉ!!!何なのおじちゃんって!!!」
「うぇえ!?」
私が地面を叩きながらそういうと、メリアスちゃんは変な声を上げながら飛び退いた。
んもう、なんでよりにもよって“おじちゃん”とか・・・・
せめておばちゃん・・・・・だったらもっと激怒してるわね。
「と、とと、とにかくさ・・・“おおじちあき”って認識で間違いないのかな?」
「ええ、その通りですよメリアスちゃん・・・・・で、合っているかしらぁ?」
「うぇ!?、って名前くらい知ってるか、一応は同一存在って認識で良いんだもんね?」
「あらぁ、話しが早いですわねぇ。では、認識の混濁を避けるためにぃ、改めて自己紹介を―――――――」
そう言って、私はその場に立ち上がって二人を見た。
そして、その場で綺麗にクルリと回って見せた。
「お初にお目にかかりますぅ。私はぁ、おおじちあき・・・・・私のことは “ちあき” とお呼びくださいぃ。」
そう言って、私は自分の中で最高に良い笑顔を浮かべて笑いかけた。
すると、なぜかセレインちゃんは顔を真っ赤に
メリアスちゃんは少しだけ不満そうに口をとがらせた。
あらあら、どうやらメリアスちゃんには私の色仕掛けは効果が薄そうね。
「え~っと、それじゃあ “ちあきちゃん” ってさ―――――――」
「呼び捨てでも構わないんですよぉ?、まあ、その呼び方もなかなかいいですけどねぇ」
「・・・・・続けるけど、おじちゃんはどうなったの?。
まさか、もう元には戻らないとかふざけたこと言わないよね?」
・・・・・どうやら、そっちが本題っぽいですね
なるほど、精神が私主体になったから、それを警戒してメリアスちゃんは何の反応も示さないんですね。
まあ、おおじ君の説明じゃ、心配になるのもしかたありませんよね
まったくもう、彼は相変わらず口べたで説明足らずなんだから・・・・・・
私は、少々面倒くさいと思ったけど、大体の事情を話すことにした。
おおざっぱに言ってしまうと
・精神的な主導権が移動しているだけで、意識が消えた訳ではない
・能力を使うためには、主導権を私に明け渡すしか方法がない
・主導権を渡しているときは、もう片方の人格は断片的な情報の共有しか出来ない
・身体が男女逆転する
とまあ、この四点が大きな変化かしらね?
ちなみに、性別についてはしっかり確認してもらったわ・・・・・・目視で!!!!
ふふふ、二人の反応は大変美味しく頂きました。
ああ、そういえばこれも大事なことですね
私の食料・・・・・もといエネルギー源は、“強い感情”・“欲”・“タンパク質”の三つである
これは、おおじ君も説明してたから改めて言う必要は無いでしょうか?
・・・・簡単に説明した方が良さそうですね?
まあ、私のエネルギー源と言うのは、要するに能力を使うための燃料です。
これがあれば、私はいくらでも能力を使えるのですわ
でも、欠点も当然あります。
・エネルギーを使いすぎると強制的に主導権が切り替わる
・同姓には効きづらい
・普段よりもエネルギー欲求が強くなる
これくらいかしら?
正直、三番目が厄介すぎるのですよねぇ
簡潔に言うと、見境無く食べちゃうんですよねぇ~
もちろん、“欲望的な意味で” ・・・・ね
「ちあきちゃん、目が据わってるよ・・・・・おっかないんだけど」
「ゆ、勇者様・・・・・あまりジロジロ見られますと・・・その・・・・」
「ふふふ、二人とも可愛いですねぇ・・・・・ちょっとつまみ食いしちゃいそうですよぉ?」
本当に美味しそうなので、ちょっと舌なめずりして見ると、二人はそろって私から距離をとってしまった。
あらあら、別に食べよう何て・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・ちょっとしか考えてなかったのに
「お願いだからすぐに冗談って言ってよ・・・・・・本当に身の危険を感じるよ」
「すみません、私もちょっと身の危険を・・・・・」
「あらまぁ、随分嫌われてしまいましたねぇ・・・・・そんな事よりぃ、今私はどんな状況なのかぁ、説明をしていただいても良いですかぁ?」
私がそういうと、二人はお互いの顔を見合わせて不思議そうに首を傾げ合っていた。
・・・・・・本当に、ちょっとつまみたい
でもダメよ。
今は “食欲” より “知識欲” を優先しないとダメ
だって、自分の状況を知らないと、今後の行動に支障が出てしまうもの・・・・ねぇ??
私は、努めて我慢をしつつ、二人の説明に耳を傾けたのだ。
***********
「なるほどなるほどぉ・・・・なんだか大変な事になってしまっているのですねぇ」
私は、あらかた説明を受けて、今置かれている状況が面倒くさ――――――――複雑なのを理解する
おおじ君の残滓と照らし合わせて考えると、どうやらここは別次元の世界なようなのだ。
・・・静騎士
・・・・・静水
・・・・・・・魔物
それと、―――――――神と名乗る少女
・・・・ふふふ
どうやら、前に居た世界よりも “私が居た次元寄り” の世界みたいね
・・・でも、魔物って言っても黒いスライムしかいないみたいね?
もっとこう・・・・オークとかゴブリンとか、そういうのは居ないみたいね
それに、どうやらこのセレインちゃんと一騒動あったせいで、この国を出て行かないといけないみたいだし・・・・・
はぁ、相変わらずトラブル体質ね・・・・おおじ君
「―――――――何か質問はありますか?、勇者様」
「そうですねぇ・・・―――――――私の能力の具体的な部分、それはまだ彼から聞いていないんですよねぇ?」
私が質問すると、セレインちゃんとメリアスちゃんはコクリと頷いた。
う~ん、それは困ったわね
少し説明し辛いのよね・・・・私の能力
実際に使ってみた方がいいのかしら??
でも、今の状態だったら、私また引っ込んじゃうしぃ~~~
『―――――――おい、ちあき・・・・ちあきッ!!!!!』
(・・・・・あらあら、やっと目が覚めたのね?
ずいぶんとお寝坊さんね、おおじ君??)
私は頭の中で響いた声に、クスクスと笑いながらそう答えた。
すると、不機嫌そうな舌打ちの音がした。
『うっせぇな。久しぶりだったから仕方ねぇだろ・・・・・で?、能力の説明すんだのか?』
(いいえ、まだね?・・・・それに、口じゃ説明できないでしょ・・・私の能力?)
『だから起こしたんだろ。いいからさっさと能力見せて寝てろ』
(も~う、あなたって私に対してすごい冷たいわよねぇ・・・・・もう少しくらい楽しませてよ)
『うるせぇ、俺の体でキモイ口調・キモイことしようとすんなよ・・・・おまえと違って全部見えてんだよこっちは』
(はぁ・・・・はいはい、わかったわよ。それじゃ、終わったら勝手に寝るから、そのつもりでね?)
『ああ』
久しぶりの会話だというのに、相変わらず冷たい男・・・・・まあ、そこがいいんだけどねぇ
さて、あまり待たせちゃうのも悪いし・・・・・・ちゃっちゃとしちゃいましょうか?
私は、一度おおじ君との会話を打ち切り、再び意識を二人に戻した。
えーっと、能力の話を聞いるか確認してたのよね?
「それじゃあぁ、“論より証拠”・“百聞は一見にしかず”・・・・一度実際に能力を使ってみますからぁ、よく見ててくださいねぇ?」
そう言って、私は自らの体に触れる
う~ん、どうすればいいかしらね・・・・とりあえず、“増幅”しましょうか?
部位は・・・・・“両腕の筋肉”・・・でいいかしら?
量は・・・・・ぱっと見でわかるように、“5倍”くらい?
消費するのは・・・・・“食欲”にしましょうか
さっきから、すごいおなか減ってますしぃ?
私はそこまで定めると、私の中でカチリッと何かが入る音がした。
そして、自然と能力の起動が感覚的に理解できた。
しばらくして、さっきまで空腹だったにもかかわらず、その感覚がスーッと消えていく感覚がした。
「――――――――それじゃあ、いきますねぇ?・・・・これが私の能力ですぅ」
私は、能力が発現する前にそう一声かけ、二人に見えるように両腕を上げ、力こぶを作って見せた。
今の私は、線の細くて二の腕もプニプニのままだ。
でも、能力が発現すれば―――――――――
そこで、ようやく能力が発現、次の瞬間には、私の二の腕は急速に脈を打ち、それに併せて肥大化した。
もちろん、ただ膨張したのではなく、血管が浮き立ち、腕だけがまるでゴリラのように筋骨隆々になったのだ。
「「っ!?」」
二人は、突然の変化にそろって驚いていた。
メリアスちゃんはわずかに後退しており
セレインちゃんはその場で腰を抜かしたのかペタンッとおしりをついて両手を後ろについていた。
ふふふ、いいわねぇ~いいわねぇ~
そういった感情の吐露は私のエネルギーに変換できるのよねぇ~
・・・・・まあ、もう眠たいからあまり関係ないんだけどねぇ
私は、自分の口元を隠し、大きなあくびを一つした。
「ふわぁ~~、これが私の能力の一部・・・・今は“食欲”を使って、“両腕の筋肉”を“増やした”んですけどぉ・・・・・持続時間は、ざっと見積もって30分ってところですかねぇ?」
私がそういうと、二人はおっかなびっくり私に近づいてきた。
そして、メリアスちゃんが私の肥大化した二の腕を軽く握り、驚愕していた。
「うわ~、本当に筋肉だねこれ・・・・・一瞬見かけ倒しだと思ったけど」
「失礼ですねぇ、今の私は正真正銘のアームストロングなんですよぅ?」
「これは・・・・本当にすごいです」
気がつくと、セレインちゃんも少し興奮した様子で私の二の腕を触っていた。
あらあら?、もしかして、今私・・・・とってもおいしい状況なのかしら?
美少女二人から肉体的接触をされてるのよね?
これもう、OKサイン出てるって認識でいいのよね???
少しくらい、食べちゃっても、いいのよね??????????
『いい訳あるかッ!!!この痴女がッ!!!!!』
(あ~ん、もう少し楽しみたかったのにぃ~――――――――――)
私は残念に思いながらも、ゆっくりと沈んでいく自分の意識に、急速におそってきた眠気に身をゆだねるように、そのまま意識を手放したのだった。
―――――――・・・・・・というわけで、俺の意識が再び浮上した。
「・・・・おい、いい加減に離れろ」
「・・・ん?」「・・・え?」
体に意識が戻り、最初に行ったのは、二人を引っぺがすことだった。
二人は、突然ちあきと交代した俺を見て、少しだけ目をパチパチとさせてキョトンとしていたが、すぐにメリアスが正気に戻った。
「・・・もしかして、おじちゃん??」
「ああ、そうだよ・・・・確認でもしてみるか??」
俺は冗談めかして自分のズボンのベルトに手をかけるフリをした。
すると、まだ戻ってこれてない巫女が、瞬時に顔を真っ赤にさせ、手をパタパタと振ってそれを拒否した。
「ええ、そうね・・・・今すぐ確認しないと!!!さあ、さあおじちゃんズボンの中に居るであろうあなたのビックおじちゃんを―――――――――」
「やらねぇよ、調子乗んなクソガキッッ!!!!」
俺は、手をワキワキさせながら近づいてきたメリアスの頭に拳骨を落とした。
強化しているため、かなりの威力が出たはずだ。
メリアスは両手で頭を抱えながら、目に涙をためながら俺を見上げてきた。
「あう~・・・・、この暴力的かつ一切のためらいのない対応・・・・間違いなくおじちゃんだ・・・・・・・だから、今殴ったとこ撫でて~~・・・一瞬で治るからぁ~~~」
「うるせぇ、今度は両手で頭ぶっ叩くぞ――――」
「―――――すいません僕が間違ってました勘弁してくださいっ!!!!」
その場できれいな土下座をしたメリアスに、俺はため息をはきつつ膨張した腕を見た。
・・・・・まったく、これだから能力使われたくねーんだよ
任意で切れねーし、訳もわからねぇうちにいろいろなくなるしよ
今回は・・・・“食欲”だったか??
くっそ、面倒くせぇの使いやがって
「あの、勇者様」
「ああ?、何だ巫女」
「そろそろ、許してあげたらどうですか?。ずっと頭をグリグリしてますけど・・・・・」
巫女に言われ、メリアスに視線を戻すと本当に頭を地面にめり込ませる勢いで頭を下げていた。
おいおい、人の家の床に穴開けるなよ??
「まあ、こいつは放っておくとして、俺の能力は見ての通りだ。
今は、腹は減るが食いたくなくなってる状態だな
この様子だと、三日はこの状態が続くか?」
曖昧な判断基準であるが、条件をいくつか指定してたからな。
時間見積もり的にも、それくらいが妥当だろうな
「じゃ、じゃあ・・・あと25分くらいはそのまま、かつ、払った代償は三日経つまで戻らないと・・・」
「そういうことになるな・・・・めんどくせぇ~」
俺は、これから三日続くであろう事を思い浮かべ、思わずため息をはきそうになった。
「まあ、何はともあれ・・・・おじちゃんの能力は僕でも対処可能だってわかったことだし、そろそろお開きに――――――――――」
「―――――――おい、ちょっと待て。メリアス、おまえ今、なんて言った?」
「へっ?、そろそろお開きに??」
「その前だ!!、おまえ、対処可能っつったか??」
俺は、片眉を吊り上げながらメリアスに問いただした。
こいつは今、サラリととんでもないことを言ったのだ。
俺の代償に、対処可能だって??
このやっかいな、―――――もはや呪いと言ってもいい―――――俺の能力の代償を、どうにかできるといったのか??。
すると、メリアスはニヤリと嫌らしい笑みを浮かべた。
「うん?、おじちゃんの代償は、対処可能だっていったんだよ?・・・・しかも、ほぼ永続的に無効にできるだけの手段を、僕は有しているね~。」
「はぁ!?」
俺は思わずでかい声を上げて驚愕した。
おいおい、嘘だろ!?
このやっかいな能力の代償が・・・・無くなるのか!?
それなら、もし、本当にそれが可能なら――――――――
(――――――――あらぁ、それはちょっと困るのよねぇ?)
「はあっ?―――――――うぐぅっ!?」
俺が、わずかにメリアスの言葉に希望を持っていると、突然、頭の中であいつ声が響き、俺の意識はものすごい勢いで刈り取られてしまった。
――――――っと、言うわけで、再び私の意識が表に出てきました。
「メリアスちゃん?、その申し出はとっても魅力的なんですけどぉ・・・・遠慮させてもらいますねぇ?」
私がそう宣言すると、少しだけ驚いた様子でメリアスちゃんが固まっていた。
あらあら、無防備っ!!
そのまま唇の一つでも奪ってやりたいわねぇ?
でも、代償のせいでイマイチ調子が出ないわねぇ
まあ、私が望んで設定したんだし、文句は言えないのだけれど
「あなたは・・・・ちあきちゃん でいいのかしら?」
「正解ですぅ~・・・・理解が早くて大変助かりますぅ」
私はわざとおっとりしたしゃべりでそういうと、にっこり笑って首をコテンッとかしげて見せた。
メリアスちゃんは少し顔をしかめたけど、セレインちゃんは顔を赤くしてポーッと私を見つめていた。
ふふふっ、乙女ねぇ~
そのままナデナデしてあげたい・・・・
『おい!!、テメェ、どういうつもりだッッッ!!!!!!』
あらあら、ずいぶん早いお目覚めね
ちょっと、手加減しすぎたかしら???
私は、私の中で騒ぎ立てる “オオジ君” の声を聞きながら、それを努めて無視した。
そして、私はとるべき対応をするため、再びメリアスちゃんに意識を向けた。
「ごめんなさい。この代償は、私にとって自分に対しての“戒め”なんですぅ。人にはあまりに過ぎた力、実現させてはいけない力であるものだと私は考えているのですぅ。
もし、メリアスちゃんの力でそれを無くしてしまえば、それはただの暴力になってしまいますぅ。私は・・・・・・私にとってそれは、とっても嫌なことなんですぅ・・・・・・」
私は、わざとらしくならないように注意して、表情を暗くさせ、肩をわずかに落として見せた。
そして、目には涙を溜めて・・・・・・・少し難しいですね?
まあ、二人の様子を盗み見れば、私の演技が十分に通用しているのがわかりますしね?
「う~ん、そっか・・・・・・“戒め” かぁ~」
「ううっ、ぐすっ、なんて健気なんでしょうか・・・・ズズッ」
私は二人の反応を見て、両手で顔を覆い隠し、密かに口元を緩ませた。
なんてチョロいのかしら?
こんな見え透いたことを鵜呑みにするなんて・・・・・ふふふっ
『――――――なるほどな、おまえの狙いはわかった・・・・・“単なる嫌がらせ”だな?』
(――――――あらあら?、やっぱりバレちゃってます??。そうですよ、これは単なる嫌がらせですよ?)
私は頭の中に響いてきた “オオジ君” の声を肯定した。
そう、これは単なる嫌がらせ
私の力を、そう易々と使われてしまうのは、少々もったいないですしぃ?
―――――なにより、おもしろくない
私は、自らの中に居る “オオジ君” に対してケラケラと笑ってみせると彼は隠そうともせずに、思いっきり舌打ちをした。
『はんっ!!!、道理で無理矢理精神干渉してきてる訳か・・・・・・おまえ、隈がひでぇぞ?』
彼に指摘されて、私は自らの目の下にソッと手を添えた。
触ってわかるものではないとわかっているが、誰からの指摘も無いので、おそらく精神体である自分にだけ本来の私の姿があらわになっているのでしょう
それを自覚したとたん、私は猛烈な眠気に襲われてしまった。
あらあら、まあまあ?
限界が・・・・ちかい・・です・・・・ねぇ???
で・す・が・ッ!!
ここで寝落ちするほど、私は根性なしではありませーーーーーーん!!!
「眠気覚まし拳骨ッ!!!」
「「ッ!?!?」」
突然自分の顔面に拳をたたきつけた私に、二人はずいぶん驚いていた。
ふふふっ、説明しましょう
“眠気覚まし拳骨”とは、私がたった今、即興で、無慈悲で、思いつきで、気まぐれで・・・・
そんな適当な要素をない交ぜにし、それらすべてを拳に乗せ、自らのほほに向かってたたきつける
要するに、ただの全力顔面パンチである!!!!
いや~、おかげでお目々ぱっちりになりました~
『うがああああぁぁぁぁ~~~~~~~・・・・・・・
マジでふざけんな、このクソアマァああああぁぁぁぁ~~~~~~~!!!!!!』
私の中で、ほほを押さえながらゴロゴロと転げ回って叫んでいるオオジ君がいた
ああ~、いい声ねえ
これ、この感情の高ぶった感じの声がもう・・・・ねぇ??
私は恍惚とした顔を表に出さないよう、必死にこらえながら自分の顔面に叩き付けた拳をどかした。
私の顔には、アザやハレは一切無い。
これも、私の能力の内の一つ
まあ、ここで説明する必要は無いので、話すつもりはないのだけれど・・・
「ち、ちあきちゃん??・・・・いきなりどうしたの?」
「ゆ、勇者様・・・・かなりすごい音がしましたが、大丈夫なのでしょうか?」
気がつくと、メリアスちゃんとセレインちゃんが私の顔を心配そうにのぞき込んでいた。
私は、適当にほほえんでごまかすと、そのまま立ち上がり、部屋の扉へ手をかけた。
「ちょ、ちょっと!!!いったいどこへ行くのさっ!!!」
私の背中に、少々焦った様子でメリアスちゃんが声をかけてきた。
当然、私はそれを無視して部屋を出ようとしたのだけれど、どうやらオオジ君がそれに少しだけ抵抗しているようだ。
『おい、俺も疑問だ・・・・・お前、今から何やらかすつもりだ?』
私を責めるようにそう言ってきたオオジ君に、私は「ふふふッ」と笑みをこぼし、答えを出した。
(少々面倒ではあるのだけれど・・・・・
やるべきことは、しっかりやっておかないといけませんよね?)
私は、オオジ君にそう答えると、今度はメリアスちゃんに答えるべく後ろを振り返った。
そして、なるべく笑顔を心がけて、宣言した。
「今からぁ、この国のトップとお話をしてぇ、合理的に亡命しようと思いますぅ」
「・・・・・・へっ?」
「・・・・・・えっ?」
『・・・・・・はぁっ?』
私の言葉を聞いて、三者三様な反応が返ってきた。
ああっ・・・・・・いいっ!!!