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おじちゃんが見た世界  作者: 蛇炉
10/20

第十話 おじちゃん、掴む

※誤字・脱字等があるかもしれませんが、ご了承ください。

人は、あまりに強大な物を見ると認識出来ないことがある。


権力・思想・財力・単純な力


自分の現状からはあまりにも離れすぎているその力は、認識出来ない


・・・いや、認識出来ないっというと違うかもしれない

認識しようとしないのだ



あまりに、自分から離れているから

あまりに、差が開きすぎているから

あまりに、絶望的ではっきりしすぎているから


人は、それを瞬間的に悟り、わざと自分の意識から外してしまうのだ。


だが、それでも外しきれない時がある。

そのとき、人は自分の小ささを知り、自分が無力であることを自覚してしまうのだ。




さて、話しは大きく変わるが聞いてほしい。







もし、あなたがどうしようもなく“大きな存在”に出会ったなら


あなたなら、どうするだろう?





















*****************






「セーーーーーーレーーーーーーイーーーーーーーンーーーーーーーーー!!!!!!!」





目の前で、一人の巨漢が身の丈よりも大きい大剣を掲げ、雄叫びを上げていた。

男は、大剣を片手で軽々と掲げているが、どう見ても片手で持ち上がるような軽そうな物ではない。

俺の目から見ても、それは明らかだ。

だが、現に大剣は片手で持ち上げられている。

巨漢の腕力が、凄まじいことが嫌でも理解できる。

しかも、もっと信じられない事がある。


それは、魔物に物理攻撃をしたことだ。

先ほど魔物本人から聞いた情報が正しければ、魔物に物理攻撃は聞かない。

むしろ、攻撃を加えてきたそれを吸収しまう。

だが、目の前の巨漢は健在で、どこも吸収された様子はない。

なのに、どうして・・・・




「セ、セレドマ団長ッッ?!

 なぜここにいるのですか!!!」




突然、驚いた様子の声が、俺の後ろから上がった。

すると、巨漢・・・もといセレドマが突然叫ぶのを止めた。




「セレイン!!無事だったのk――――――」




こちらを向きながら嬉しそうにそう言った

だが、セレドマがこちらを見た瞬間、突然動きを停止させた。

そして、掲げていた大剣をダランと地面に下ろしてしまった。

地面に下ろされた大剣は、剣自身の重さなのか、ドシンッ と派手な音を立てて地面にめり込んだ。



(お、おいおいマジかよ。あの剣一体何キロあるんだよ・・・・)



俺は地面にめり込んだ大剣に顔を引きつらせ、さらに固まっているセレドマを見た。

すると、セレドマの顔を見た俺は、現在どういう状況なのかを理解した。

なぜか?

それは、セレドマが俺を睨み殺す勢いで見てきていたからだ。




「貴様ぁぁぁ・・・なぜ、セレインの近くに居るぅぅぅ・・・・」




およそ、人間が出したとは思えないほどおぞましい声で、セレドマは俺にそういった。

そして、キリキリと首を傾け、地面にめり込んでいた剣を大きく振り上げ肩に担ぎ上げた。

その姿と、目に見えるほど強烈な殺意に、俺の身体は勝手に汗をダラダラとあふれさせていた

それは、先ほど魔物に襲われ掛けた時の比ではなかった。


あ、あいつ人間じゃねぇ

ただの化け物だッッ!!!




「私のセレインから・・・離れろぉおおぉぉおおお!!!」




それは、もはや人間が出す様な声ではなかった。

獣が出す、咆哮に似た音だった。

セレドマは、大剣を担いだまま大地を ドスッドスッ と石造りの地面に足跡を刻みつけながら、凄まじい勢いでこちらに掛けてきた。

まさに、その時だった――――




「あのさぁ~?、いきなりブッ飛ばしといて謝罪の一つも無いわけッ!!!!」




声が近づいてきたかと思うと、セレドマの目の前に人影が現れた。

そいつは、両手を突っ張り、セレドマを止めていた。

その影は、魔物だった。




「あぁ~あッ!!!、足がちょっと削れちゃったじゃんかッ!!!、どうしてくれんのおっさん!!!!」


「HA~~~NA~~~~RE~~~~ROOOOOooooo!!!!!!」


「うわぁ、私の事無視か・・・じゃあ、私も好き勝手するか、なっ!!!」




突然、魔物は身体を半歩分退くと、セレドマは半歩退かれた方向へ大きく身体を傾かせた。

そして、魔物は身体を捻ってセレドマの下から身体を外すと、傾いている方向とは逆サイドに回り込み、そのまま捻った勢いで大きく右手を振りかぶり、拳をセレドマの脇腹にたたき込んだ。




「GUぅうっ!?」




セレドマは、雄叫びとうめき声が混ざったような音を出した。

すると、魔物はさらに脇腹にたたき込んだ右手を一度引き、前傾姿勢になっているセレドマの下に潜り込んだ。

そして、下からセレドマに抱きつくと、そのまま飛び上がった。




「地面とキスでもしなよ?、おっさんっ!!!!」




そういって、魔物は身体を後ろに反らし、ブリッジをした。

当然、抱きつかれていたセレドマは顔面を地面にたたきつけられた。

たたきつけられた瞬間、セレドマの顔を中心に、小さなクレーターができあがっていた。

セレドマは、しばらく両手がピクピクと動いていた。

だが、すぐに手は動かなくなり、手に持っていた大剣がドスンッと砂埃をあげて地面にめり込んだ。

しばらくその格好のまま固まって居た二人だが、不意に魔物がブリッジの姿勢を崩し、起き上がってきた。

セレドマは、地面に突き刺さってしまっているのか、魔物の支えが無くなってもまるで一本の棒のように体勢を崩すことは無かった。



「ふぅ~、なかなか綺麗に決まったかな?・・・私を吹っ飛ばしたんだし、当然の報いかな?」




そういって、両手を頭の上で組み、大きく伸びをした。

そして、魔物はこちらを向いてニヤリと笑った。




「じゃあ、今度こそ取り込んじゃおうかな?」


「・・・クソッ、助かったが助かってねぇな」




一難去ってまた一難ってのか今のような状況じゃ無いだろうか?

俺は、後ろに巫女を庇うように立った。

すると、後ろにいた巫女が突然俺を押しのけて前に出てきた。




「お父様ッッ!!!、お父様ぁぁああッッ!!!!」




すごい勢いで叫び始めた巫女に、俺は驚いてしまった。

すると、魔物が突然ケタケタと笑い出した。




「あらら~、このおっさん可愛い子のお父さんだったんだぁ?。

 ごっめんねぇ~、今私が殺しちゃったぁああ~!!!!

 おっさんの頭なんて、卵みたいにグチャグチャにつぶれたてるか、地面に突き刺さっちゃって窒息してるんじゃないぃ?

 人間って、呼吸できないと死んじゃうもんねぇええ?

 本当に、不完全で儚いものだよね、人間ってやつわぁあ???」




舌を出して、小馬鹿にするような言葉を並べる魔物に、俺は虫ずが走ったが、それでも巫女は諦めずにセレドマを呼び続けた。




「お父様ッッ!!!おとうさまっっっ!!!!!」


「あのさぁあああ!!!!、うるさいんだけど!!!

 あんたのお父さんはあたしが殺したっていったでしょぉぉおお???

 わかんなかなぁああ!!!、しっかりおっさんが力尽きたの確認してから離れたんだから、これで生きてたらこいつ人間じゃねぇから!!」



「おとうさまっっっ!!!」




魔物に何を言われても、巫女は狂ったようにセレドマを呼び続けた。

その様子に、俺は妙なものを感じていた。


何で、こいつはセレドマを呼び続ける?

あの様子じゃ、死んでいるのは確実だ。

ただ、親父が死んで狂ったのか??


・・・いや、それは無いだろう

理由は簡単だ

巫女の顔には、絶望の色や悲しみの色が一切浮かんでいない。

ただ、一心にセレドマを呼んでいる。



(もしかして・・・・死んでないのか?あのおっさん)



俺は、巫女から再びセレドマに視線を移した。

相変わらず、地面に突き刺さっていたが、俺は確かに見た。

セレドマの足が、僅かであるが動いていた。


い、生きてる

マジかあのおっさん


セレドマが生きてるとなれば、この状況は一気にひっくり返る。

現在進行形で、巫女の奴は呼び続けている。

魔物も、ただ巫女を馬鹿にしたり叫んだりするだけで特に無いか仕掛けてくる様子は無い。


何とかしてセレドマを起こせば、俺・・・はどのみち死ぬかもしれんが

巫女だけでも、助かるかもしれない


少なくとも、魔物からの脅威が消えることは確実

そうと分かれば、何とかしてセレドマを起こさなければ


・・・だが、実際どうする

今も巫女が呼び掛けているが、セレドマは僅かに動くばかりで動けそうにない。

何か・・・あいつが飛び起きるような

そんな、なにかが・・・あっ


巫女とセレドマを交互に見て、一つひらめいた事があった

だが、それを実行すれば、後で巫女とセレドマに殺されるかもしれない・・・



(どうする・・・いつまでも魔物が黙ってるわけじゃ無い・・・気がつけば当然襲ってくるだろう・・・やるしかねぇか?・・・)



俺は、魔物をチラリと見てみると、明らかに不機嫌そうな顔で巫女を見ていた。

しかも、自分の拳を手に何度も打ち付けていた。


クソッ、魔物の奴何やるかわかんねぇ

やるしかねぇか!!!


俺は意を決して、巫女の背後に立った。

巫女は、今も必死にセレドマを呼び続けており、額には僅かに汗が浮かんでいた。


クソ、悪い巫女っ!!!

後でお前の好きにしろっ!!!!!


俺は心の中でそう叫ぶと、先ほど思いついた事を実行した。




「巫女ッッ!!!」


「おとうさ――――へっ?」




素っ頓狂な声を上げて首だけをこちらに向けた巫女

そんな巫女に、覆い被さるように俺は巫女を捕まえ、そのまま両手を――――

巫女の柔らかい肉山にあてがった。


俺の行動に、恐らくこの場にすべての者が驚愕し、動きを止めただろう。

もちろん、魔物もだ。


俺は、手を肉山にあてがったまま、巫女に最低の言葉をささやいた。





「巫女・・・お前の、意外にデカくて柔らかいな」






・・・


・・・・・・


・・・・・・・・ど、どうだ!!!


これは、間違いなくあれが来るだろ!!!

さあ、やれ巫女!!!!!


例のあれやれッッ!!!!!!




俺は祈るような気持ちで、至近距離にある巫女の顔をジッと見た。

だが、巫女はただキョトンとした顔で俺を見つめ返すだけで、俺の期待していた事は起こっていなかった。



・・・ん????

なんでだ???



俺はおかしいなと思いつつ、首を傾げた。

何がいけなかったのかと考えようとしたその時

巫女に変化が訪れた。


巫女の顔が、徐々に赤く染まっていき

やがて、両手と口が大きく開かれ、とうとう俺が望んでいたことが起こった。












「きゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


















巫女は、人間が出せる声量を遙かに超えるほどのデカイ声で、長い悲鳴を上げ始めた。

俺は、慌てて両耳を塞ぎ、自分の思惑通りに事が進んだことにニヤリと笑みを浮かべた。


よ、よっしゃ!!!!!

やっと叫んだ!!!

一瞬失敗したかと思ったが、俺の想像以上だなこれは!!!!


そう、俺が思い付いたのはどうってことない

巫女にセクハラしてドデカイ悲鳴を上げてもらおうと思ったのだ。

セレドマの性格上、巫女に何かあればすっ飛んでくるはずだ。


それは、今この状態でも変わらないはず!!!!




俺は、セレドマの方へ視線を向けてみた。

そして、俺はとんでもない事に気がついた。


クレーターの中に、セレドマがいなかったのだ。


どこに行ったのかと辺りを見渡してみると、セレドマは魔物のすぐ近くに立っていた。

セレドマの頭からは、一筋の血が流れていたが、その他には傷のようなものは見当たらなかった。

魔物は、驚いているのか口をポカンと開けてセレドマを見上げていた。




「な、なんで・・・確かに、死んだはず・・・」




魔物の言葉に反応したのか、セレドマはギロリと目だけを動かして魔物を見下ろした。




「・・・セレインに、何をした」


「・・・はぁ?」




魔物が肩眉を上げ、セレドマを睨み付けてそういうと、セレドマは視線を魔物から俺へと移した。




「小童、セレインに何をした」


「・・・いや、俺は何もしてないぞ?、そこにいる魔物が襲いかかって来ただけだ」


「えっ?!、ちょ、何言って――――」




魔物がそこまで言うと、それ以上言葉が続くことは無かった

なぜなら、続きを語る前に、魔物の上半身が跡形も無く消え去ったからだ。


・・・・いや、正確には吹き飛ばされたと表現した方が正しいのかもしれない。

その証拠に、魔物の近くに立っていたセレドマの片腕が、魔物の上半身があった所で制止していた。

おそらく、今の一瞬でやったのだろう。


セレドマは、一度制止していた手を下ろし、反対の手を大きく後ろに引いた。

そして




「フンッ!!!!!!!」




身体を大きく捻って、勢いをつけた拳を残った魔物の身体に叩き付けた。

その拳は、魔物の身体を一瞬で飛び散らせ、地面に先ほど魔物が作り上げたクレーターよりも大きなものを作り上げていた。




「は、はは・・・・マジで、あいつ人間かよ・・・」




俺はそのままペタンッと地面に尻餅をつき、そうつぶやくと出来たばかりのクレーターからセレドマが堂々とした姿で出てきた。




「魔物風情が・・・娘を怯えさせるんじゃない」




セレドマは、クレーターに向かって唾を吐きかけ、もう一つのクレーターに落ちていた大剣を拾い上げた。


つ、強ぇ~~

強すぎだろセレドマ・・・

もう、こいつ一人で魔物全滅させられるだろ


そんなことを考えていると、大剣を肩に担ぎ直したセレドマは、キョロキョロと辺りを確認しながらこちらに近づいてきた。




「勇者様、魔物の殲滅はいたしました。

 さあ、お手を・・・」




そう言って、セレドマは少しだけかがむと、俺に手を差し出してきた。


うわぁ・・・

敬語になってるよ

さっき俺のこと「小童ぁ!!」って呼んでなかったっけ?

しかも、駆けつけたとき俺を殺しに掛かってきたよな?


俺は苦笑いを浮かべながら、セレドマの手を借りて立ち上がると、セレドマは肩に担いでいた大剣を身体の正面に持ってきて、そのまま地面に付いた。




「報告いたします。

 先ほどの魔物を最後に、撃退および殲滅を無事に終わらせました。

 巫女様、並びに勇者様は、すぐに城へ帰還せよ、っとのことです。

 ・・・このまま共に帰還したいのですが、巫女様、動けますか?」




そこまでいうと、セレドマは視線を斜め下の方へ向けた。

俺もつられてそちらを見ると、そこには小さく縮こまっている巫女がいた。

こちらに背を向けて、プルプルと震えている姿は、まるで小動物のようだった。

セレドマが ホウッ と溜息吐き出し、巫女に近づいた。




「巫女様、動けますか?」


「ううっ・・・私の・・・ちょっと フワッ って・・・あうううぅぅっ//////」


「巫・女・さ・ま・ッ!!!!!」


「ううわああっ!!!は、ハイッ!!!!、大丈夫です!!」


「・・・では、参りましょう」




セレドマはニッコリと優しい笑顔を巫女に向けると、そのまま立ち上がり、歩き出した。

それに続くように、巫女がパタパタと走り出した。




「おい巫女、転ぶぞ」


「ふわぁっ!!!、だだだ、大丈夫ですっ!!」




なぜか顔を真っ赤にしながらさらに走る速度を上げた巫女は、セレドマの隣までいき、そのまま腕にしがみついた。

セレドマは、一瞬だけ足を止めたが、すぐにまた歩き始めた。

その後ろ姿から、嬉しそうなオーラが出ていた。




「なんだあれ・・・それにしても、疲れたぁ~」




俺はセレドマのあとを歩きながら、頭の後ろで手を組み、大きなあくびをした。


まったく、この世界に来てからロクな事が起こってねぇな


魔物に襲われて

元の世界に戻れなくなたから、勇者に祭り上げられて

また魔物に襲われて

化け物みたいなおっさんに襲われて

ロクでもねぇ勘違いされて・・・・・・


おいおい、今思い返してみるとひでぇな・・・

何で俺はこんな目にあってんだ・・・

・・・ん?そういえば、なんでだ?

なんで、俺こんな事になってるんだっけ?




俺は、一度立ち止まり、何か重要な事を忘れているような気がして頭を悩ませた。


なんだ?

何を忘れてる?

なんか、こう・・・とてつもなくイラッとする

ちょろちょろとしてて、騒がしい




「頑張れおじちゃん!!、ほら、もう少しだよ!!頑張って私の事思い出して!!」


「ああ?、うるせぇな、少し黙ってろメリアス。

 もう少しで思い出しそうなんだ――――――」




そこまで言って、俺はそれに気がついた。


今この場には、俺と巫女、そしてセレドマしかいないはず・・・

だが、今の声

まさか――――


俺は恐る恐る声がした方を向くと、そこには俺の作業着を着たメリアスがいた。


ば、馬鹿な

こいつ、どこから湧いて出てきた

いや、そもそもこいつは、いつからここにいた?

そもそも、なんで未だに俺の作業着、しかもチャックを少し開き気味で着こなしてるんだ?




「いや、だって、この作業着子供用だよ?、しかも男性用の。

 さすがに、開いてないと胸が苦しくて苦しくて・・・」


「おい、何で答えてんだよ。

 俺は一言も喋ってねぇぞ」


「ふっふっふ、おじちゃん相変わらず甘いね。

 私は神様だよ?、人の考えを読むことくらい、意識を集中すれば、これくらい造作も無いよ?」



「そうか、じゃあメリアス、さらに聞いて良いか?

 百歩譲って、お前は俺の心を読んだとしよう・・・

 じゃあ、今俺が考えてることがわかってるんだよな?」


「うん、もちろんわかるよ。ちょっと待ってね」




そういって、メリアスはわざとらしく人差し指を額に当て、両目を瞑った。

そのタイミングで、俺はありったけの憎悪と怒りの感情を頭に思い浮かべた。

内容はもちろん、この世界に無理矢理送り込んだメリアスに対しての感情

そして、この世界で受けてきた数々のムカツいた事、その他諸々

すると、メリアスはみるみる顔色を青くさせ、脂汗を大量に流し始めた。




「・・・で?、俺からどんな感情を読み取ったかな?メリアスちゃん」


「あ、あは、ははは・・・や、やったぁ・・・はは初めて“ちゃん”付けで呼んでくれたね~

 ワー、ワタシウレシイナァ~~」


「・・・何かいうことは、あるか?」


「あ、はい、えっと・・・本当に会えてよかっ――――」

「よし、お前と話すことはもうねぇ・・・あばよ、もう会うことも無いだろう」


「待って待って待って待ってッッ!!!!!!

 わわわ、わかったよ!!!謝る、謝るからッッ!!!!!!」


「・・・誰だお前?」

「もう手遅れっっ?!、うわああああ、嫌だぁ~~~~~~。

 お願いだから許してぇぇぇ~~~~~~、そんな態度とらないでぇぇ~~~~~~」




わんわん泣きながら、足にすがりついてきたメリアスに、「神様なんてこの程度の存在なんだな」っと見下した気持ちで見下ろしつつ、虐めすぎたかもしれないと思い直し、メリアスの頭を撫でてやった。

すると、途端に泣き止んだメリアスは、「へっ、うへへっ」と気持ちの悪い声を上げて、俺の手の動きに合わせて頭を押しつけてきた。




「気持ち悪いな、おい・・・そんなことよりお前、どこから湧いて出てきやがった。

 さっきまでそこにいなかっただろ?」


「暖かくておおきぃ~・・・へ?、あっ、えっとね。細かいことは神様の決めごとで教えられないんだけどさ、ざっくり言っちゃうと、ついさっきおじちゃんを見つけたから、飛んできたんだ!!」


「なるほど、全くわからん・・・それは、例え話か?それとも、本当にそれでも飛んできたのか?」


「だ、だからさ。その辺の細かいことは喋れないんだ。と、とにかくどんな手段にしろ、おじちゃんの元まで一瞬で来たことに変わりないから、そういうことで!!」




何が「そういうことで」だ

適当な事言いやがって・・・

こいつ、ベラベラ喋る割に重要な事は一つも喋らねぇ

聞くだけ無駄かもしれねぇな


そんなことよりも、だ

こいつが俺の目の前に現れたって事は・・・


俺はメリアスが現れた意味を思い、ニヤリと笑った。




「・・・おじちゃん?、その顔何か、不気味で怖いよ?」


「ほっとけ、そんなことよりメリアス。お前が俺の前に現れたって事は、俺を迎えに来たってことだろ?

 さあ、もうこんな世界は真っ平御免だ・・・早く帰してくれ」




俺がそう言うと、メリアスは途端に顔色をどんどん青くさせて目をそらした。


・・・あ~、なんで目をそらした?

そこは、「仕方ないな~」とか「わかったよ」とか返事を返す場面だろ?


・・・まさか、ウソだろ?


俺は、目をそらしたメリアスの正面にしゃがみ込み、視線を同じにした。

すると、今度は顔ごとそっぽへ向けて、俺を見ようとしなかった。




「・・・おいメリアス、こっち向け」


「・・・やだ」


「こっち向けって言ってんだ、クソガキ」


「ガキじゃないも~ん、立派な女だも~ん」


「じゃあ、そのままで良いから答えろ。お前なら、俺を元の世界に帰せるんだよな?」




すると、メリアスは口を堅く引き結び、両手で耳を塞いでしまった。


っんのクソガキィ~~・・・

ああ、そうかよ

そっちがその気なら俺にだって考えがある!!


俺は頭にきて、目の前で一切の外部情報を遮断している女の顎を掴み、無理矢理こちらを向かせた。


大体こういう輩は、これで正直になるもんだ!!!


そうして、俺は無理矢理メリアスの口をこじ開けた。

そして、作業着のポケットから隠し持っていた小瓶を取り出した。

その中身をメリアスの口の中に流し込み、鼻と口を塞いで無理矢理飲み込ませた。

すると、メリアスはバタバタと暴れ出し、必死に俺の手をどけようとしてきたが、俺は手を離さなかった。

しばらくそうしていると、メリアスの抵抗が緩くなり、トロンとした目で俺を見上げていた。



俺が取り出した小瓶の中身は、酒だ




「アルコール度数がクソ高ぇ、俺の秘蔵の酒だ。

 これで酔わないやつはいねぇぞ!!!!」




くそ、あれが最後の一本だったのになぁ

後で飲もうと思ってたのに・・・


俺はやけくそに気味にそう叫ぶと、メリアスは熱っぽい息を吐き出した。




「はれぇえ~?、おじたんがいっぱいらぁ~・・・うへへぇ~」


「さあ、酔っ払い。俺の質問に答えろ。ちゃんと答えてくれたら、ご褒美をやる」




もちろんウソだ

これ以上、何もやる気は無い

だが、酔いが回っているメリアスは嬉しそうな顔で何度も首を縦に振った。




「まず一つ目、お前は俺を元の世界に帰せるのか?」


「えへへ~・・・それはねぇ~、実われぇ、難しいんらよぉ~?」


「難しい?、って事は出来ねぇ訳じゃ無いんだな!!」


「れきるよぉ?、れもれぇ・・・じけいれるやぁ、座標やぁ、かららの時間をもろしたりぃ、色々やらなきゃらんらくてぇ~、一番早くてもぉ・・・20年くらい掛かるかにゃぁ?。ふへへ~、20年らって!!!、そしたらおじちゃん本当におじちゃんにらっちゃうれぇ?

 ・・・ご褒美ちょうらい?」




メリアスは、無邪気な笑みを浮かべておねだりしてきた。

だが、俺はそれどころでは無い。

ろれつが回っておらず、聞き取りずらかった部分もあったが、俺が聞きたかった情報は

しっかり聞きとることが出来た。


に、20年・・・?

こんなクソみたいな世界で、20年だと?

う、ウソだろ?


メリアスの言ったことのショックで固まって居ると、突然首に重みを感じて、前のめりになってしまった。

気がつくと、目の前にメリアスの顔があった。




「うぇへへ~、ご褒美!!おじちゃんのチッスほちぃらぁ・・・?」


「・・・まだ俺の質問は終わってねぇ、そのあとにしてやるよ」


「え~~~、やらぁ!!今、今して欲しいんらヨォ!!!」


「二つ目だ。俺が今いるここはどこだ・・・最初に来た場所じゃねぇだろ?ここ」




そう、俺がずっと考えていた事だ

最初に連れてこられたのは、間違いなく俺がずっと以前に送り込まれた世界だった。

だが、俺が今いるここは、知っている世界とあまりに違いすぎる。


人がいて、文化があり、金銭や政治の動きも見て取れた

しかも、魔物とか言う謎生物までいる。


ここは、俺が以前送り込まれた世界じゃねぇ

なら、ここはどこだ?

その答えを、メリアスは知っているはずだ。




「ありゃりゃ~、やっぱりおじちゃんは気がついてらんられぇ?・・・そんな所もわらしは大好きぃ・・・えへへ~」


「質問に答えろ酔っ払い」


「ぶぅー!!おじちゃん冷たいよぉ、・・・そうらよ?。ここはわらしの世界であってわらしのせかいららいよぉ?・・・ここはれぇ・・・・・・ここわぁ・・・・・zzzzz」




メリアスは、突然コクンと首を下げ、寝息を立て始めてしまった。


ね、寝やがったこいつ!!!


俺は、慌ててメリアスの肩を揺すって起こそうとしたが、いっこうに目を覚ます気配はなかった。

たまに、気持ち悪い声を出して笑うだけで、鼻提灯までつくっていた。


クソッ!!

熟睡しやがって!!!

俺の最後の酒飲んで、分かったことが帰れないって事だけだと!!!


ふざけんなッッ!!、せめてここがどこかくらい吐きやがれッッ!!!


俺は、さらにメリアスを激しく揺すり、何とか目を覚まさせようとした。

すると、突然メリアスの目がぱちりと開いた。


よっしゃっ!!!やっと起きやがったぜこのクソアマ!!!

さあ、さっきの続きを吐けやッ!!!!!




「・・・ううっ、うっぷっ!」


「いや、そっちは吐かなくていいッ!!!」


「気持ち、悪い、ウェッ!!」


「だぁーー!!!!!、待て待て待てぇ~~~~~~!!!!!」




俺の叫びも虚しく、メリアスは口から“汚ぇキラキラ”を出し、それを俺の膝にぶちまけたのだ。

ああ、まだそれだけなら「汚ぇえッ!!」ですんだだろう

だが、メリアスは何を考えたのか、うっすら目を開けたまま両手を首の後ろに回してきたのだ。

そして




「うぇへへ~、ご褒美もらってないやぁ~・・・ん~~~」


「おい!!ウソだろ待――――――」




メリアスは、そのまま俺の口にデロデロになった口を重ねて来たのだ。

さらに、追い打ちまであった。




「ゆ、ゆ、勇者様・・・来ないと思ったら、何してるんですか」


「そ、そんな・・・勇者様・・・」




背後から、セレドマと巫女の声が聞こえてきた。



・・・

・・・・・・

・・・・・・・・・・・・








死にてぇ










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