第11話 新・続・尻
「いやー! いやー!」
女は悲鳴を上げながら泣いている。泣きたいのはこっちのほうだ。どうやってコミュニケーションをとっていいのかわからん。
「女、よく聴け。俺の意識がかろうじて保てているのはお前のおかげなのだよ」
女は恐る恐るこっちを見る。尻から首筋にかけての美しいカーブに俺は欲情した。欲情して意識がよりはっきりとしてきた。
「そうだ。それでいい。いいか。俺は変態だ。そう思ってくれていい。感染者よりも変態のほうがまだいいだろう?」
「な、なによそれ! ヘンタイ!」
俺がそういったのだから、変態といわれて文句を言う筋合いはない。しかし、変態とヘンタイではなんというか、微妙にニュアンスが違う。前者は偏執、つまりは偏りを示し、後者は異常を示す。さらに前者は時に賞賛の言葉として使われ、後者は軽蔑の言葉として使われる。
「心配するな。俺は無害な変態だ。いや、この場合、有益な変態といって過言ではないぞ」
「もう、イヤ! 話しかけないで!」
女の気持ちもわからないでもないが、それでも俺は話をつづけた・
「いいのか。このまま俺の病状が悪化したら、こんなやわな拘束じゃ、俺を縛り付けておくことはできないぜ」
どうやら、交渉はこちらのペースで進められそうだ。女は観念したようだ。
「それでいい。ともかく悪い提案じゃない。よく聴け」
俺は3つのことを提案した。
ひとつ
尻をもっと見せろ。スリムでピチピチのジーンズを脱いで、できればパンティーも脱いで尻を出して俺に見せろ。
もしかしたらそれによって、俺の病状は劇的によくなるのかもしれない。仮によくならないでも、進行を止めることができるかもしれない。そうしたら、俺はいくつか有益な情報を与えよう。
この部屋の鍵の場所。食料の備蓄量。避難袋の場所。電池、ろうそく、ライター、カセットコンロなどこういうときに必要そうな物の収納場所。
サバイバルのノウハウ。水の備蓄、電気が止まった場合の対処方法。外部との連絡方法。武器の創り方、扱い方などなど。
ふたつ
脱いだパンティーを頭にかぶせろ。視覚情報だけである程度の効果があるとわかった。尻を楽しむには聴覚はあまり必要はないから、あとは触覚と嗅覚、それと味覚だ。味覚と触覚は感染の危険があるので、俺としてもお勧めはしない。で、あれば、で、あればこそ、今履いているパンツのニオイをかぐことで、嗅覚を刺激することで、なにか変化があるかもしれない。
みっつ
俺を殺せ。とはいえ、恐らく、完治は難しいだろう。それこそ特効薬のようなものが作られて、この病気が治せるようになるまで、俺は生きられまい。ならば、苦しまずに、そしてお前に危害を、いや、その尻を傷つけることなくこの世を去りたい。何簡単だ。俺の頭にパンティーをかぶせて、顔を隠し、あとは押入れにしまってあるゴルフバックからアイアンを取り出して俺の頭を大きなゴルフボールを打つ要領でナイスショットをぶちかますだけでいい。これだけ大きなボールだ。はずすことはないだろう。
女は黙って俺の話を聞いた。聞いて、聞き終えて、それから女が取った行動についてはもう語るまい。
俺は至極の瞬間を向かえ、そしてそのまま意識を失った。
嗚呼、いいニオイだ。
だが、本音を言えば、欲を言えば、尻に敷かれたかった。
おわりだ・・・たぶん




