汚いキモチ
手を繋ぎたい。抱きしめたい。キスをしたい。交わりたい。誰にも触れさせたくない。
欲がどんどん大きくなる。
綺麗な彼女を汚してはいけないと思うのに、たまらなく汚したくなる。
『こんな……醜い感情があるだなんて』
知りたくない。知られたくない。
「雫、こんな所で寝ると風邪をひくぞ」
炬燵でうたた寝する彼女を静かに揺り動かす。
少し眉根を寄せて不快そうな顔をするも起きる気配は全くなかった。
まるで眠り姫だ。ため息をついてどうしたものかと思案する。
童話なら眠り続ける姫を起こすのは……。
『王子の、口づけ』
そっと顔を近づける。彼女の長いまつげが震えるのが見て取れた。
唇が、近づく。あと数ミリで重なり合う。
【ダレガ王子様ダ?】
ハッとして彼女から顔を引き剥がす。
『こんな……醜い感情を持った俺が雫の王子様なんて』
「烏滸がましい」
ポツリと零した言葉が聞こえたのかどうか。彼女が小さく身じろぎして目を覚ます。
「ん……あれ、私寝て……?」
「ああ……炬燵で寝ると風邪をひくから布団で寝なさい」
「すみません。そうしますね」
おやすみなさいとはにかむ彼女。
俺は上手く笑えている?
「……っ!しず、くっ。雫……雫……。はっ」
脳内で彼女の香りを、仕草を、手触りを、声を再構築する。
どろりと汚れた右手。
『一体いくつの精子が死んだのだろう』
ああ、こんなにも醜い。
『それでも……それでも俺は』
彼女を愛する。