8
戦争が終わった。
ファンがあれほど拘った部隊はあっけなく全員除隊の上、解散が決まった。元より正規の部隊ではないのだから、戦後の大規模な縮軍の中で維持できるはずもない。必然的に「組織」も解散となった。
ひとまず実家に戻ろうと訪れた故郷は、荒れ果てた廃墟と化していた。一時、<同盟>側の占領下にあり、<帝国>軍との攻防に捲き込まれて荒らされたのだという。気候もだいぶ変わり、水源や田畑も汚染されて耕作不能となっていた。
実家の農場にも立ち寄ったが、何者かに略奪され、火をかけられたらしく、月日を経た無残な焼け跡だけが残されていた。
「………………」
変わり果てた故郷の姿を何かに刻み込むように、無言で村内を歩き廻っていたファンは、土地を離れることを拒否して残っていた老人から、村人が移住先として選んだ土地を教えられた。
交通機関などまだろくに復旧していない道を徒歩で三日踏破して辿り着いたその場所は、陽当りの悪い山間の土地だった。水はけも悪く、地味も痩せている。ここで農業をするのは、かなりの努力が必要とされるだろうと思った。
自分の家族は、早々に中原近くの親戚を頼って移住している。この土地を訪ねたのは、ザンの家族に彼の死を伝えるためだった。
とは言え、ザンの一家で生き残っている肉親らしい肉親は、新婚早々で出征することになった妻だけだった。父親は戦闘に捲き込まれて命を落とし、老いた祖母はこの地に移住した最初の年の冬を越せずに亡くなっている。子供はまだいなかったから、彼女だけがザンの唯一の縁者ということになる。
既に軍からの通知でザンの「戦死」は彼女に伝わっているはずだったが、自分の口から伝えるべきだと思ったのだ。
と言って、自分で殺したという話ができるはずもなく、当たり障りのない思い出話をした。さめざめと泣き続ける彼女に、「自分にできることがあれば何でも手伝いますので、声を掛けてください」とだけ告げて、その場を辞した。
翌日、近所の廃屋で荷解きをしているところへ彼女が訪れ、「彼の話を、もう少し聞かせてください」と頼まれた。
それが二日、三日と重なるうちに、彼女が本来求めているものを理解し、ファンは彼女を抱いた。或いは、これまで彼女がこうしたことを求めたのは自分だけではなかったのかもしれない、と何となく思った。だが、こんな辺境の地で女がひとりで生きるということの意味を考えれば、責める気にはなれなかった。ましてや、彼女が本来最初に庇護を求めるべき夫のザンを殺したのは自分自身だ。
いくばくかの罪悪感は残ったが、辺境では生きることが最優先とされる。
ファンは彼女と一緒に暮らすことにし、痩せた土地を借りて畑を耕し始めた。
だが、ろくに肥料も農機具もない状況で、出来ることは限られている。収穫期に得られそうな出来高がほぼ見えてきたところで、大人ふたりが暮らすにはだいぶ無理がある現実が見えてきた。
途方に暮れかけていたそこに届いたのが、ヴーからの「手を貸してほしい」と書かれた手紙だった。
元々、ドゥックルンの裏社会の出身だったヴーは、除隊後、そのまま元の鞘に戻った。
ただ、戦後のドゥックルンには、戦地で除隊となった兵隊崩れの青年たちが大量に流入し、地下社会でも問題となっていた。裏社会の既存秩序を一顧だにしない連中で、力づくでどうにかしようにも彼らの方が暴力沙汰には慣れている。
そこでこうした連中を束ねられる人間を呼んで、既存の裏社会に組み入れてしまおうというのが、ヴーの提案だった。
勿論、ヴーがそれだけのために自分を呼んだとは思ってない。恐らくはいずれ街を牛耳る老人たちに対抗し得る勢力にするつもりくらいの肚であろうことは、想像に難くない。
迷いがないわけでなかったが、このまま辺境でくすぶっていても展望が開けるわけでもない。結局、ヴーの誘いに乗ることにした。
荒事になることは予想できたので、先行してひとりでドゥックルンを訪れたファンは、ヴーが既に呼び寄せていたかつての仲間たちと合流した。いずれも除隊後に苦労を重ねていた連中だ。
なじみの仲間たちと「一家」を構えたファンは、さっそく跳ね上がりの兵隊崩れの若者たちに、戦場仕込みの苛烈な「挨拶」を叩き込むことから始めた。
衝撃と恐怖──相手の想定を超える打撃を加えることで、思考を停止させ、こちらの支配下に置く。そのための技術。
殺人や拷問を一切躊躇わず、抵抗するものは容赦なく掃討した。
規律と統制の取れた戦闘集団としてドゥックルンに表れたファン一家は、ほんの数ヶ月で他の兵隊崩れの若者たちを殲滅するか傘下に収めてみせた。
ドゥックルン裏社会のボスたちはこの結果を喜び、ファン一家に利権の一部を分け与えた──これからも番犬として忠勤に励め、と。
ファンは妻をドゥックルンに呼び寄せた。
ドゥックルンの裏社会の生態系に組み入れられた。安心して使える武闘派として。闇の利権の守護者として。暴力を日常の生業として、生きる者として。
そんな日々が何年も続いたある日、屍者の訪問を受けることとなる。
最初は奇妙な目撃情報からだった。
事務所の周辺で最近よく見かける男の姿が、ザンに似ているというのだ。
「まさか」
「髪が真っ白だったんで最初誰だか判らなかったが、今日も来てたんで確認した。間違いない、ザン分隊長だ」
「………………」
一家の中核を担う部隊の元隊員たちは、分隊長だったザンの顔をよく見知っている。間違える可能性は低い。
「生きてたのか……?」
「そんな馬鹿な。あの時、弾薬庫の周りは俺たちで固めていた。爆発前に外に出た形跡はない」
「だが、屍体を確認した奴もいない」
「そりゃあ、あれだけの爆発で、しかも現場はすぐに憲兵隊に封鎖されたんだ。確認の仕様がなかった」
「ならば、そいつは誰だ?」
ファンの問いに、答えられる者はいなかった。
「まぁ、いい。俺に用事があるんなら、その内、俺の前に顔を出すだろう」
「警護の人員を増やそう」
「あいつが俺に会いにくるのに、か?」
「忘れたのか?」ヴーは指摘した。
「お前が、あいつを殺したんだぞ」
「……好きにしろ」
ドゥックルンの繁華街の中心部、市内でも最高級に属するホテルのロビーで、その再会は果たされた。
「ザン…………これは、お前がやったのか?」
「………………」
悲しげな表情で佇むザンの足下には、ファンの配下の者たちが横たわっている。いや、足下だけではない。パニックを起こした一般客達が潮が引くように逃げ出した広いロビーのそこここに、正装の屍体が転がっている。おそらく、すべてファンの部下だ。拳銃を手に握ったままの者も少なくない。全滅したのなら、ここにいた十名以上ということになる。
獲物は何だ? 手に持ってるナイフか?
ナイフというには肉厚の刃と、ナックルガード──あるいは短刀と呼ぶべきか。
だが、どうやって……?
この日、上部組織からの要請で、中原からの客人との会合の警護任務を請け負っていた。
堅気の衆にまぎれて、拳銃で武装した男たち二〇人近くをホテル内に送り込み、ホテルの外部も十重二十重に取り囲む。別に抗争中というわけでもなし、多少大げさに過ぎるとは思ったものの、客人に対するハッタリも兼ねるとのクライアントからの注文には従わざる得なかった。
そのホテルのロビーにザンが現れたとの報告があり、接触するとの部下の声を聴いたのがほんの二~三分前。慌てて駆けつけてみれば、ロビーは既に血の海と化していた。
一段高い位置にあるエレベーターホールから、ファンはロビーに立つザンを見下ろす。もう一度、ロビーを見廻したが、他に生きている部下はいない。佇むザンの姿から視線を逸らさず、左肩にかけたホルスターから拳銃を抜き、銃口を向ける。
「ザン、お前……何しに来た?」
と、ファンの背後でエレベーターが到着するチャイムが鳴った。
「ファン・フィン! お客人がお帰りだ。車を正面に──」
背筋を氷柱で貫かれる。ロビーの状況が伝わってないのか? 会合を終えた組織幹部と客人が、エレベーターで下りてきたのだ。
「そのままドアを閉めて! すぐにこのフロアから──」
振り返って叫びかけるも、エレベータのドア前には長身のザンが既に立っていた。
いつの間に移動した……? 瞬間移動──いや、まさか、そんな……!?
ザンはエレベーターの中に踏み込み、無造作にショートソードを振るい始める。
「やめろ!」
ファンは自動拳銃の弾倉内の銃弾すべてを一気にザンの背中に叩き込む。
が、着弾の衝撃で僅かに身体が揺れるばかりで、惨劇を阻止できない。
何がどうなってるんだ? 空になった弾倉を床に落とし、新しい弾倉を装填する。だが、至近距離からの銃撃を平然と受け留めるこの相手に、それが何の意味を持つのか……。
ザンが何事もなかったかのように、ふらりとエレベーターから出る。背後からは何も動く気配がない──くそ。皆殺しか。
理解できない。何もかもが理解できない。
だが、肚の底で本能が泣き叫ぶように恐怖を撒き散らすのを捩じ伏せ、裂ぱくの気迫とともにファンは叫んだ。
「ザン、今さら何の用だ!」
返事は訊かない。代わりに引き金を引き、全弾速射──だがその瞬間、ザンの姿は掻き消え、銃弾はエレベーターの壁に吸い込まれた。
「消えた……?」
背後のロビーでガラスの割れる音。ロビーの窓ガラスを割って、そこから逃げ出したのか。強固な防弾ガラスをどうやって割ったのかまでは、考える気力が湧かない。
ただ、助かったという思いで、緊張が抜ける。大きく息を吐いて、床に膝を突く。
「どういうことだ?」ファンは呻くように問うた。
「何故、俺を殺さない……ザン?」
「全員に召集を掛けろ。市内を隈なく探せ。奴はまだこの街から出ていないはずだ」
「写真が現像できました!」
ファンは部下から手渡された写真を確認する。雑踏の中を駆ける白髪のザンの横顔。
「すぐに焼き増しして、全員に持たせろ。それと無線機もだ。発見しても手は出すな。接触を継続して、居場所を確保しておけ」
事務所に戻ったファンは、矢継ぎ早に指示を下した。
「上層部の方は大騒ぎだぞ」上部組織とファン一家の連絡要員として事務所にいるヴーが告げる。
「まぁ、当然だがな。あのホテルであんたらが警護についてて手も足も出ないんじゃ、この街で安全な場所はない」
「年寄連中は放っておけ。それより、ザンだ」
「本当に奴なのか?」
「間近で顔を見た。間違いない」
「あんたを殺しに来た……?」
「見ての通り、俺は五体満足だよ。部下も客人もみんなぶっ殺されたがな」
「客人が狙いで、あんたはついでか。殺し屋にでもなったのかね?」
「俺がヤクザをやってるくらいだから、生きてりゃ、どんな仕事に就いてても不思議じゃない。だが、そういう次元の問題じゃなさそうだ」
ファンはホテルでのザンの様子を詳しく語った。それを聞いて、しばらく無言で考え込んでいたヴーがやがて口を開く。
「……機神というのを聞いたことがあるか?」
「話くらいはな。だがそれが?」
「今のザンの様子と、その機神の話がいろいろ重なる」
「だとして、何で奴がそんな化物になって戻ってこなきゃならん?」
「そこまでは知らん。だが、仮にそうだとすると、我々の戦力では手に余るぞ……」
「お前、どこか俺の知らない隠しポケットに、機械化師団でも詰め込んでるのか? そうでなきゃ、どこまでいっても、手持ちの札で勝負するしかあるまいよ」
「しかし──」
「奴の居場所が判りました!」室内に駆け込んできた部下が叫んだ。
「ボスの邸宅に現れて、警護の者と戦闘を始めているそうです!」
「………………」
ファンとヴーは顔を見合わせた。
ファンが現地についた時点で、既に屋敷の一部に火が廻っていた。
正面玄関周辺には、武装した部下たちの屍体が散乱している。ピックアップトラックの後部に機銃を載せた武装車輌さえも、きれいに真っ二つに切断されて横転していた。妻子の状況を確認したかったが、生きて動いている者さえ見当たらない。
邸内から銃声が聴こえてくる。まだ生きている者がいる。
「ついてこい!」
自動小銃を抱え、部下たちの先頭に立って邸内に突入する。
邸内は至る所に、屍体が転がっていた。武装した部下も、そうでない家政婦や家人も、区別なく殺戮されている。屍体を確認すると、どれも刃物で急所を一突きされていた。あのショートソードか。銃を持つ者も、ほとんど発砲の痕跡がない。引き金を引く余裕すら与えられなかったのだろう。
再度、屋敷の奥から発砲音。炎も本格的に屋敷全体へ廻り始めた。
焦燥を抑えつつ大声で妻の名を呼びながら邸内の各部屋を検索する。
夫婦の寝室のドアを開いた瞬間、散弾銃の銃口を突き付けられた。
「あなた……?」
そんなものを買い与えた覚えはなかったが、年代物の長銃身のショットガンを堂に入った手捌きで振り廻し、ファンの頭部から銃口を外す。
「その銃はどうした?」
「母の形見よ。こっちに引っ越してきた時に、念のために荷物に入れておいたの」
こいつもやはり辺境の女か。小さな嘆息を洩らしつつも、状況を確認する。
襲撃が始まった直後に、ファンの部下たちからここに隠れるように指示されたのだという。
「ここを出るぞ」
「子供たちがまだ奥の部屋に──」
「それは俺が探す。お前は先に──」
「奴が来ました!」
部屋の外から、部下の叫びが聞こえる。
反射的に外へ出ると、通路の向こうからザンがゆっくりとこちらに向かって歩いてくる。ファンの部下たち、十数人の男たちが向ける拳銃、短機関銃、自動小銃、ショットガンなどの銃口にもまったく怯む様子はない。
ファンは躊躇うことなく命じた。
「撃て」
轟然と銃声が鳴り響き、硝煙と銃火で前が見えなくなる。銃声。空薬莢が排莢口から弾き出される金属音。銃弾が肉を打つ着弾音──それらが混然一体となった戦場音楽。
「………………」
全身で銃弾を受け留め、狂ったような死の舞踏を演じるかつての親友の姿を、ファンは無言で凝視し続けた。
「撃ち方やめ!」
銃弾を撃ち尽くす頃を見計らって、ファンは発砲を停止させる。部下たちは何も命じなくとも空になった弾倉を手早く交換する。
ファンは通路に漂う濃い硝煙の向こうにあるはずの、ザンの姿に目を凝らす。
殺ったのか? 否、殺れたのか……?
やがて硝煙が薄らぐそこに、無傷のまま幽鬼のように立つザンの姿を認めたファンは、即座に発砲の再開を命じようとする。
が、遅かった。
ファンが声を発するより先に、部下たちの築く銃陣へ突っ込んだザンは、無造作にショートソードを振るい始めた。
絶叫。怒声。至近距離からの発砲。後頭部を拳銃で撃たれたザンが、何事もなかったかのように振り返り、撃った本人の首をひと薙ぎで刎ねる。……。
その有様をファンは呆然と眺めていた。恐怖の感情さえ、湧いてこない。まったくの空白。見知った部下たちを、無表情のまま、黙々と解体してゆくかつての親友。何だこれは? 何なんだ、これは……?
悪夢、というのもおこがましい、目の前で繰り広げられる惨劇を前に、ファンはただ圧倒され、立ち尽くす。
そして最後のひとりを手にした自動小銃ごと袈裟がけに斬り捨てたザンが、ゆっくりとこちらを向いた。
殺される。いや、俺がこいつを殺したのだから、こいつに殺されるのは当然だ。すべてはあの日から約束されていたこと。人生の帳尻が、ここでつく。それだけのこと。
だが、ザン。お前は……お前は、本当にザンなのか……?
背後から銃声。ザンの身体がぐらりと揺れる。
「その人に近づかないで!」
その声で、撃ったのが妻だということに気付いた。駄目だ。やめろ。判っているのか? お前が今撃ったのは、お前の──
一端、身体を崩したザンが、ゆらりと身を起こす。と、そのショートソードを持つ右手が一瞬、見えなくなる。
「!?」
背後から妻の短い悲鳴。振り返ると、その豊かな胸元に刀身が深々と突き刺さっていた。
「……あ、あなた。子供たちを──」
銃を取り落した妻が壁に背をもたれて、ずるずると力なく床に崩れてゆく。
「……あ、ああ……ああああああああああああああ!」
獣のような咆哮が、肚の底から湧き起こる。
殺してやる。殺してやる。殺してやる。
戦争中に敵にさえ抱くことのなかった真っ黒な殺意が、一瞬にして全身を支配する。
「ザーンっ!」
ファンは自動小銃の銃口を、眼前のザンに向ける。
「!?」
だが、そこには既にザンの姿はなかった。
どこに行った? 後ろか? それとも──?
不意に後背から身体を抑えつけられた。あまりに強い力で、身動きが取れない。
──何だ!?
パニックに陥りかけるファンの耳元で、懐かしいザンの声が聴こえた。
「大丈夫だよ」
それはあの日、家を訪ねてきたザンが、自分の二度目の徴兵に付きあうと屈託なく告げた、あの穏やかな口調そのままだった。
「あそこで──カバラス峠で待ってる」
「待て。お前、何を──!?」
次の瞬間、激しい衝撃とともに、ファンの意識は途絶した。
「………………」
目が覚めると、自分の屋敷が業火の中に崩れ落ちようとしていた。
「目が覚めたか?」
「……ヴーか?」軽い頭痛に眉を顰めながら、ファンは訊ねた。
「ザンは?」
「判らん。俺たちが着いた時、あんただけがここに寝かされていた。奥さんと子供たちは……?」
「たぶん、あの中だ……」
「………………」
しばし絶句した後、ヴーは意を決するように告げた。
「組織の最高評議会の決定を伝える。客人が殺された件で、犯人の首をお前が持ってくるか、お前の首を中原の客人の所属組織に差し出すか、どちらかふたつにひとつだそうだ」
「……面倒だな。先に年寄連中の方を殺っちまうか」
「おい!」
「冗談だよ」ファンは力なく笑い、訊ねた。
「今、声を掛けて何人ついてくると思う?」
「せいぜい一五~六人だな。俺を勘定に入れて。他は全部、今度の一件で死んだか、逃げ出してるだろう」
たぶん残ったのは部隊の生き残りの連中、か。
戦後に自分が苦労して積み上げてきたものは、今夜ですべて喪ってしまった。仕事も。家族も。社会的信用も。
だが、それでもこの戦友たちが残ってるなら、何、さほど絶望的というわけでもない。
「カバラス峠」
「何だ?」
「カバラス峠で待つ、とさ」
「ザンがそう言ったのか?」
ファンは頷いた。
「あいつは何を考えてるんだ……?」
「さあな。行って訊くさ、本人に」
ファンは立ち上がった。これだけの最悪の状況に叩き込まれながら、気分は思ったほど悪くない。少なくとも、自分が向かうべき場所だけは判っている。それでいいじゃないか、という思いがある。
ファンは告げた。
「行くぞ。カバラス峠に」
回想編完結編……と言いつつ、次回もグエンの過去話ですが。
それはそれとして、前からヤクザものもやってみたかったんですよね。
ノリ的には東映ヤクザものというより香港ノワールですけど。
その内、長編で本格的にやりたいですね。
次回はグエンの過去話。それだけでは短いので、ザンとの戦端が開かれるまでの2話をお届けします。
更新は来週11月6日(日)の予定です。
ではまた。