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身体中が痛い。全身がバラバラになりそうだった。
それでも、無理やり身体を起こす。
男の撃った銃弾は、すべて動脈は避けられたようだった。特に体内に弾が残った様子もない。それでも、このまま放置しておくわけにもいかない。パイロットスーツに入れっぱなしの救命キットがあったはずだ。それを使って止血をする。
後は杖でもあれば万々歳だが、辺りを見廻してもそうそう都合のいい木の枝などは見当たらない。まあいい。それは道々、どこかで落ちてるだろう。
手近の岩に手をついて立ち上がる。
あの男の言うとおりだ。水もない、食料もない、おまけにこのコンディション。加えて土地勘もないと来ては、峠からの脱出はほぼ自殺行為だ。
だが、やるしかない。そこへ向けて進んでゆけば、どこかに突破口はあるだろう。無責任な楽観論だが、絶望してここでへたり込むよりはよほどましだ。
一歩づつ。一歩づつ。
足を踏み出す度に激痛が走る。すべてを放り出してしまいそうになる。
それでも、俺はここで死ぬわけにはいかない。
あいつらのことを覚えているのは、もう俺だけだ。
あいつらがどんな想いを抱えて、どう生きて、死んだのかを知るのは俺だけだ。
それを誰かに語らなければならない。物語らねばならない。
さもなければ、あの男の言うように、男たちの生も死も何の価値もない無意味なものだったということになる。
そんなことは、絶対にさせない。
そのためにも、俺は、生きて還るのだ。
不意に、眩い光が周囲を包み始めた。峠の渓谷に朝日が差し始めているのだ。
グエンはその眩しさに目を細めながら、歩き始めた。
〈Fin〉
まずは、最後まで読了ありがとうございました。
本エピソードはここで終わりです。
この後、グエンが無事、峠を抜けられたかどうか……は、あえて筆者の口からは語らないこととします。この物語で語らねばならないことは、彼が生きることを諦めなかったことまでですから。
そこから先を語らないのが、作家としてのある種の礼節であろうと思います。
もしかすると、今後、語られるエピソードで、本作に登場したキャラたちがチョイ役で顔を出すこともあろうかと思いますが、本作のことを思い出してニヤリとしていただければ幸いです。
で、まぁ、今回のお話は、限られた準備期間の間に急作りでプロットを組んで、一気に書き上げた作品です。なので、あまり余計なことには気を廻さず、純粋に「今書きたいこと」だけで組み上げられています。
その結果、「そうか、本当は別にヒロインとかいらないのか」とか「やりたいことって、全滅エンドか」とか、いろいろ我ながら驚きがなくはなかったんですがw、小説を書く楽しみってこういう発見をすることでもあるので、とても楽しんでかけた一作でした。
読んでいただけた皆様にも、楽しんでいただければ幸いです。
次回作は『邀撃走査線』の続き──ですが、ここでの連載は引き続き『棺のクロエ』の外伝作品をお送りします。
……まぁ、ブログでは既に公開済みの作品ですけどね。
それでは、次回作でお会いいたしましょう。
では、また。